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67 作戦決行

お待たせいたしました。伯爵を懲らしめるための作戦は無事に進むのでしょうか・・・・・・

 シェンブルグの街はミュヘンブルグから馬車で3時間の距離にある。この街も表面上は紛争に関わっているようには見えなくて、多くの人々や荷物を満載した馬車が通りを行き交っている。


「ここも割と平和みたいね」


 馬車を操縦しながら圭子がつぶやく。彼女にとって平和とは目に見える範囲で直接戦いが行われていない状態の事を指しており、その内部に隠れている思惑や葛藤に対して一切考慮してない。


 そして彼女は『祭りと喧嘩は参加してなんぼ!』という信念によって、目の前の戦いには確実に首を突っ込む。その首を突っ込める事が無い状態が彼女の言う『平和』に当たる。


 ミュヘンブルグでは、紛争で儲かってさらにこの状態が続くことを歓迎する人と、物資の供給が減って物の値段が上がり早く紛争が終わる事を望む人に分かれていた。


 そしてここシェンブルグからは大くの人間が徴発されて戦いに駆り出されている。中には命を落とした者や怪我を負った者もおり、当人やその家族の間に怨嗟の声が高まっていた。




 宿を取ってからタクミたちは早速『おしおきだべ大作戦』の下調べを開始する。街を歩きながら彼らの計画に適した場所を探し同時に伯爵をそこまで連れ出す経路の確認などを行う予定だ。


「やっぱりあそこしかないようですね」


 春名が指差す方向には教会が立っている。この世界の宗教がどのようなものかタクミたちは全く知らないが、その教会は地球で言えばケルン大聖堂を小さくしたような建物で、立派な塔がいくつも立っている。


 早速一行はその教会に出向いて交渉を開始する。


「司祭様はおいでですか」


 こういう交渉事は春名の出番だ。彼女の『令嬢』の力が作用して、誰からも丁重な扱いを受ける。


「こちらへどうぞ」


 あっけないほど彼らはこの教会の最高責任者に会うことが出来た。『令嬢』の力は伊達ではない。


 応接室に通されてタクミたちの元に穏やかな笑みを浮かべた司祭がやってくる。彼はその人格と信仰に対する熱心さでこの街の誰もが尊敬している人物だ。


「お待たせいたしました。シェンブルク聖堂の司祭フリーデルガーです。本日はどのような御用でしょうか」


 丁寧な物腰で尋ねる司祭。


「はじめまして司祭様。私は春名と申します。まずはこれをお受け取りください」


 彼女は収納から取り出した金貨が300枚が詰まった袋を司祭に渡す。これは予め打ち合わせしていた通りだ。寄付をすれば話は円滑に進むし、金貨については後から国王に経費として請求することになっている。


「このような多額のご寄付を・・・・・・神に代わって感謝いたします」


 司祭は顔を綻ばせてその袋を受け取る。これは賄賂ではなく教会が行う慈善事業への寄付だ。司祭は孤児たちの受け入れが増やせると大変喜んでいる。


「実は私の知り合いがこのたびの戦いを心から嘆いておりまして、神に自らの信仰心を聞き届けてもらうためにこの教会の塔を使わせてもらいたいと申しているのですが、ご許可願えますでしょうか」


『戦いを終わらせるために塔の上で神に祈る』というニュアンスで春名は塔の使用許可を求め、対する司祭はあっさりとこれを認める。


「そのような信仰に厚い方がいらっしゃるのですか、神もきっとお喜びになるでしょう。ぜひお使いください」


 平和を祈ると言われて断れないだろうとは思っていたが、これほどあっさりと認められてタクミたちは全員が心の中でガッツポーズをしている。


 春名だけは完璧な微笑で穏やかに司祭を見つめて丁重な礼を述べる。『令嬢』の効力はどうやら本人にも大きな影響を与えるようで、普段のヘタレっぷりとは全く別人になりきっている。ここまでの彼女の演技は完璧だ。


「では明日から3日間午後の時間は私たちと知人が塔に入りますのでどうぞよろしくお願いいたします。それから出来るだけ多くの方に見ていただきたいので、塔の周囲に大勢の人を集める件についてもどうぞよろしくお願いします」


 最後に頭を下げて退出する一同、その姿を神に感謝しながら司祭は笑顔で見送る。





「うまくいきましたね」


 無事に交渉を終えた春名はつものヘタレ状態に戻っているが、その表情は心なしかしっかりとしている。令嬢としての経験値が上がったのかもしれない。


 メンバーたちは口々に春名の演技を褒めている。あまり役に立つ事が少ない春名はようやく自分が役に立ったことがうれしいようで、タクミに後ろから抱き着いて甘えている。


「春名、ご苦労さん。おかげでうまくいきそうだ」


 彼女はタクミからの言葉が何よりもうれしいようで、仔犬のように彼にまとわり付いてしばらく離れなかった。


 タクミたちは塔の中に入り込みその造りを確かめてから、今度は伯爵の屋敷に向かう。


 伯爵邸は教会から歩いて10分ほどの距離にあった。これならば伯爵を拉致して教会に連れて行く事はそれ程難しくはない。


「よし、下調べはこれくらいでいいだろう」


 タクミの言葉で宿に戻る一同、部屋ではかなり綿密に明日の決行に向けての細かい打ち合わせが行われた。


 


 翌朝、それぞれが手筈通りに準備を進めていく。


 圭子と美智香は大量のお菓子を持って広場に出向いてそこで子供たちを集める。


「みんな! 今からこのお菓子を配るよー!」


 圭子が手にしたお菓子を見て子供たちは大喜びだ。中には本当に貧しい暮らしをしているのが見て取れる子供もいる。


「その代わり今日のお昼から教会の塔の前ですごく楽しい催しをやるから、友達や家族の人に集まるように伝えるんだよ!」


『はーい!』という元気な声で返事をしてお菓子を受け取る子供たち。圭子は子供に甘くて、お腹を空かせていそうな子には特別に多めに手渡している。


「まだお菓子はいっぱいあるから、もっと大勢友達を連れてきて!」


 圭子の声で一斉に仲間を呼びに散る子供たち、その姿を見送る彼女はほんの少しでも彼らが幸せになれるように祈っていた。



 冒険者ギルドに春名と空が来ている。


「すいません、依頼があるんですが」


 カウンターの受付嬢に向かって声をかける春名。


「はい。どのようなご依頼でしょう」


 営業スマイルで受付嬢が応対する。


「えーと、今日の昼から教会の塔の前で催しをするので、その宣伝をしてもらいたいんです」


 春名の依頼は無事に受け付けが済み、50人のランクが低い冒険者たちが街中で塔の前で面白い事があると触れて回ることになった。



 早めに教会の塔にやって来ているのは岬と紀絵だ。彼女たちは空が手配した物品を塔の最上階にある鐘を鳴らす場所まで運び込んでいる。


 物品の搬入といっても岬の収納にしまっているので大した手間はかからない。二人は分担が早く終わってしまったので、お茶を飲みながらのんびりと街を見渡せる景色を楽しんでいる。


 当然二人の会話は例の話題だ。岬は頬を赤くしながら紀絵に様々な事をレクチャーしていた。




 女性陣とは離れてタクミは伯爵邸の近くに待機している。


 彼は単独で襲撃を行い伯爵を拉致する役割だ。圭子も一緒に来たがったが、死人を出さずに襲撃を実行するにはタクミ単独の方が良いという結論に至った。圭子だけは心から残念そうな顔をしていたが・・・・・・


 すでに昨日の内から伯爵の動向は掴んでいる。今日も屋敷の中にいることは確認済みだ。


「15分後に襲撃を開始する」


 短い通信を行ってから気配を消してタイミングを待つタクミだった。

 

読んでいただきありがとうございました。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は火曜日の予定で、いよいよ作戦の全貌が明らかになります。

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