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63 作戦会議

王都に付いたタクミたち、王子との話はどのように進んでいくのでしょうか・・・・・・

 王都サンセーロに到着したのは昼過ぎの事だった。賊たちは王宮まで連行して引き続き取調べを行う事になっている。


 王子とタクミたちの馬車は2台連なって、門を警護している騎士たちの護衛も付いて王宮に入る。もちろん王子とその傍付きの騎士たちが一緒なので誰に咎められる事も無くタクミたちはスムーズに王宮内に入る事を認められる。


「こちらの王宮の方が歴史を感じますね」


 周囲に並ぶ建物を車窓から眺めながら春名がもらした感想だ。その言葉通り彼らが召喚された国よりもこのアルシュバイン王国の方がはるかに歴史が長く、建国以来すでに800年以上が経過している。そのため王権による支配のたがが緩んで各地で戦乱が起こっているとも言えるのだが。


 馬車は国王が居住するメインの建物を通り過ぎて、裏手にある王子宮に向かう。こじんまりとした造りの王子宮だが、それでも部屋数は20を超えてタクミたちが全員滞在してもなお有り余る部屋がある。


「ご案内いたします、こちらへどうぞ」


 馬車を係りの者に預けてその玄関に立ったタクミたちをメイド服姿のやや年配の女性が出迎える。彼女は王子付きのメイドの母親だそうで、親子で王子に仕えているそうだ。


 すでに王子が健康を取り戻した事は早馬で王宮全体に知らされており、特に王子が生活するこの館の中では元気な姿で戻ってきた王子を目にして従者たちに心からの喜びが溢れている。

 

 そんな彼らは恩人であるタクミたち一行を上にも置かぬ歓迎振りで出迎える。さすがに口々に礼を述べる彼らへの対応に疲れた一行は、各自に割り当てられた部屋でしばらく旅の疲れを癒す。


 王子はすぐに王の元に出向いて、健康になった事を報告するそうだ。1時間ほどすれば戻ってくるらしいのでそれまでは特にする事が無い皆がタクミの部屋に集まってくる。彼の部屋が少し広い造りになっているのと、早速タクミに甘えようと春名や岬が押しかけてきて、いつの間にかこのような状態になっている。


「それでこの後どうするの?」


 床の上で腹筋運動を開始した圭子が尋ねる。暇さえあれば体を鍛えるのは彼女の趣味だ。そんな事は自分の部屋でやればいいだろうと思うタクミだったが、口が裂けてもそれは言えない。


「なるべく早く火山に向かいたいが、あれだけ熱心に俺たちを誘う王子を無碍には出来ないだろう。2,3日付き合ってから出発をしよう。彼にアイデアを提供する時間の余裕くらいはあるだろう」


 タクミの言葉に一同が頷く。その後、王子が戻ってくるまではそれぞれが好きに過ごす事になる。


 タクミの周囲には春名、岬、紀絵が集まりその背中に代わる代わる体を預け始め、空は『バリタチの宴』というタイトルの本を開き、美智香は端末を操作しだす。そして圭子の腹筋は早くも200回を越えていた。これ以上腹筋が割れるのは女子高生として如何な物かと少々不安を覚える。



「お待たせしました!」


 そんなまったりとした空気の中、部屋のドアをノックして王子が入ってくる。


 空が本を収納にしまいこむ速度はこの時マッハを超えていた。彼女も青少年に見せてはいけない物という分別はある。そしてタクミに甘えていた女子たちも全く何事も無かったかのように、適当な位置に散らばっていく。この辺のチームワークはすでに彼女たちは完璧に身に付けている。まったく女というのは恐ろしい・・・・・・



「お疲れのところ早速で申し訳ありません。先日皆さんにお話しました絵本の作成について意見をお聞きしたいと思います。父上にはすでに承諾を得てきました」


 夢に向けて精力的に動き出すミハイル王子、彼がこれだけ元気にあちこちに顔を出す様子を見て従者たちはうれしさの反面本当に大丈夫かと心配もする。何しろわずか3日前には死の淵をさ迷っていたのだ。まだ完全に体力が回復していないのではないかと不安になる方が当然だ。


 だがその心配をミハイルは『大丈夫!』の一言で片付ける。彼の目には最早自分の夢の事しか映っていなかった。


「絵本といってもこの世界に印刷技術はあるの?」


 美智香が実現のための問題点を提示する。彼女がこの世界で目にした魔法書は全て手書きだった。絵本をいちいち手書きで作製していては効率が悪すぎる。


「そこがもっとも大きな問題点です。何とかクリアする事が出来ないか僕も考えているのですが、いい方法がまだ見つかりません」


 ミハイルは日本にいた頃は病弱だったために同じ年頃の少年に比べてその経験や知識が圧倒的に不足していた。本は知っているがその製版方法に全く心当たりがない。


「例えば江戸時代の浮世絵は全て版画で作られているけど、木版ならこの世界でも可能ではないの?」


 実は美智香はこの問題に対する解決方法まで用意した上での問題提示をしていた。この世界でも木を削って版を作る事ぐらいは可能だろうと考えて。


「さすがムーちゃんですね! クラスで1番の才女だけの事はあります!」


 春名が感心している。ちなみに女子の学力ビリは春名と圭子が常に争っている。その争いは定期テストのたびに熾烈を極めている。主に追試をどうにか回避できそうだというレベルでの争いだ。


「すごい! それならきっと可能なはずです! 色々な所に手配して木彫り職人を集めればその件は何とかなりそうですね。製本は専門の職人がいる事はもう調べてあります!」


 王子の声が弾む。一つ目の関門をクリア出来たのだからうれしく無いはずが無い。


「絵や文字を印刷する時には、一人が一工程を受け持って流れ作業でやっていった方が効率がいい」


 空は産業革命の頃の地球の姿を検索しながら、その過程を説明する。オートメーションという言葉が無いこの時代は人を集めて効率よく動かす事が生産性の向上に繋がる。これは生産の自動化が進んだ社会が当たり前のタクミたちにとっても盲点だった。もちろん王子もこの提案に大賛成する。


 ついでに彼女は生産において規格を統一する重要性も説く。規格がバラバラだと後からこれを直していくのは大きな労力が必要になるので初めから統一しておいた方が遥かに効率的な事を教える。


 ミハイルは日本でも聞く機会がなかったこれらの話に、タクミたちと出会って本当に良かったと心から感謝している。この話を聞かないで自力で事を進めていたら、大変な回り道になっていたはずだ。


 美智香と空を中心に様々な意見を集約した結果、おぼろげながらその全体像とこれから必要になってくる資材や人員が明らかとなった。もちろんこの先実際に作業を始めると更に色々必要な物が出てくるはずだが、これで最低限の事は出来る。


「皆さんのおかげで、色々目途が立ちました。本当にありがとうございます。それで、もうひとつお願いがあるのですが・・・・・・このお話の主人公のかぐや姫はぜひ岬さんをモデルにしたいんです。どうかお願いします」


 王子が90度に頭を下げる。頼まれた岬はどうしてよいのかわからないのでオロオロするばかりだ。


「モデルは何をすればいいんだ?」


 ここでタクミが助け舟を出す。岬の表情が誰が見ても明らかにホッとする。


「はい、明日絵師を連れてきますので絵のモデルになってもらえれば結構です」


 王子の言葉を聞いてタクミは『どうする?』といった目で岬を見つめる。


「そのくらいでしたらお役に立ちたいと思います」


 ここまであまり役に立っていなかったという自覚がある岬は、少しためらいながらも引き受ける約束をした。


「ありがとうございます。今日のお話はここまでにしましょう。夕食はぜひ一緒にとってくださいね」


 王子はそう言い残して部屋を出て行った。すっかり彼のペースに巻き込まれた彼らは顔を見合わせる。


 その頃一人で黙々と腹筋を行っていた圭子は、すでに300回の5セット目に突入していた。

 

次回も王都での話しになる予定です。投稿は月曜日を予定しています。感想、評価、ブックマークお待ちしています。

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