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61 ミハイル王子

お待たせしました。空の力で病が癒えた王子を巡って意外な展開が・・・・・・

 夕方も近くなってどうやら王子は意識を取り戻したようで、彼がいる馬車の周囲が目に見えて安心した空気に包まれる。


 騎士の一人がちょうど食事の準備を始めているタクミたちの元に駆け寄り改めて礼を述べてから言付けを伝える。


「皆様にはお忙しいところ申し訳ありませんが、殿下が命の恩人に挨拶をしたいと申されております。短い時間でかまいませんのでどうかお会いになって頂きますようお願いいたします」


 丁重に頭を下げて騎士は申し出を伝える。その表情は王子が意識を取り戻してその健康状態が良好であることが確認出来て喜色満面といった様子だ。


 すでに火を起こしていたタクミたちは岬一人を火の番に残して残りの全員が王子が乗る馬車に向かう。


 彼らの姿を見たメイドが早速その事を伝えたので、馬車の開かれた扉の前に小さな人物が立って騎士にその体を抱きかかえてもらって地面に降り立つ。


「皆さん、おかげで助かりました。僕はこの国の王子のミハイルです。と言っても第4王子で健康に不安があったので何の権力もありませんが・・・・・・それにしても本当にありがとうございました」


 目の前に並ぶタクミたちに向かって、はっきりとした口調で丁寧にお礼を述べるミハイル。まだわずか5歳にしてその礼儀は完璧なものだった。


 さすがは王族の一員だと感心するタクミたち、だが圭子はアミーのような純真な子供を想像していたので、ミハイルの大人びた様子に少し残念そうな顔をしている。


「もうどこか具合の悪いところはない?」


 空は治療を施した当事者としてその容態を確かめる。彼女が常備している薬品ならば完全に病気は治っているはずとわかっていても一応念のためだ。


「はい、おかげさまでこんなに具合がいいのは生まれて初めてです。本当にお世話になりました」


 聖女の姿をしている空が自分を治療してくれたのだと理解したミハイルは健康を取り戻したうれしさとそのために腕を振るった空に感謝の気持ちを伝える。


 タクミが代表してそこに並んでいるメンバーを紹介すると王子の表情が変わった。


「皆さん、立ち話もなんですから、ちょっとだけ僕の馬車に入っていただけませんか」


 そう提案すると手を指し示してタクミたちを馬車に招く。折角なのでとタクミを先頭に馬車に乗り込み、最後に王子が騎士に抱きかかえられて入ってくる。


「僕たちだけで話がしたい」


 そう言って扉を閉めさせると、6人が掛けてもまだ余裕がある馬車のシートにちょこんと座ってミハイルは防音の結界を張り巡らせる。


 まだわずか5歳の子供が高度な魔法を操る様子に、同じ魔法を扱う美智香と紀絵は目を見張っている。


「驚かせてすみません、内密にお話をしたかったものですから防音結界を張らせていただきました」


 その口から出てきた言葉はとても5歳の子供が口にするレベルの話ではなかった。だが当のミハイルは特に気にした様子もなく平然としている。タクミはその様子を見て『ずいぶん肝の据わった子供だな』と感心する。


 そして用意が整ったことを確認してからミハイルは確信を持って切り出す。


「先ほど皆さんを紹介していただいた時に気がつきました。皆さんは全員日本からやって来られた方ですね」


 馬車の中はミハイルが落とした爆弾に静まり返る。誰も日本の事など話していないのになぜ彼はタクミたちの事を日本からやって来たと見破ったのか。


「どうしてそう思ったんだ?」


 すでにバレている事なのでこの際あまり気にすることもないが、一応念のためタクミは聞いてみた。


「それは皆さんのお名前が全て日本人の名前だからですよ。ああ、申し遅れました。僕は5年前まで日本に住んでいて、そこで一度死にました。そして神様の計らいで記憶を保ったままこの世界に転生したんです」


 ミハイルは自分が元日本人である事を明かす。これはこの世界に来てから誰にも明かした事のない彼だけの秘密だった。だが、明らかに日本からやって来たタクミたちを前にして初めてこの秘密を明かそうと決意した。


 それは自分のことを理解してくれる仲間が欲しいという人として当然の欲求から起こった決意だった。そこには当然それを利用される危険も孕むが、ミハイルは自分の命を救ってくれた彼らのその心根に賭けた。


「そう君は転生者だったの」


 時空の専門家の空が特に驚いた様子もなく話を始める。彼女の時代になると転生の仕組みの解明が進み、例は少ないものの『転生者は存在する』という結論が下されている。


 空はミハイルに対して理解を示したが、様々な禁則事項に縛られてそれ以上は話すことはなかった。


 空をはじめとして自分の話がタクミたちに受け入れられた事を確認したミハイルは話を次の段階に進める。


「これから皆さんと僕で協力関係を築きませんか」


 彼はタクミたちを目にして、同じ異世界にやって来た者同士それぞれ立場は違っていても協力していければより良い事が出来るのではないかと考えた。彼にはひとつの夢があるのだが、この段階ではまだそれを口にするのはやや早計だ。


「協力と言っても君が権力を握ることに力を貸すことは出来ないぞ」


 タクミはいくら相手が元日本人であっても釘を刺すのを忘れない。仮にそんな事をしたらタクミ自身が銀河連邦憲章に違反してしまう。ミハイルはタクミたちのことを自身同様日本人だと思い込んでいるが、この中で彼の言う『日本人』の基準に当てはまるのは紀絵しかいない。だがその事はこの場で敢えて口にする事ではなかった。


「僕は権力にはまったく興味がありません。父上を見てつくづくそう思います、あんな面倒なものは犬にくれてやれって! 僕がやりたいのはもっとこの世界の人々に役立つ道具とか、みんなが楽しめる娯楽を紹介することです」


 ミハイルはきっぱりと言い切る。彼は幼いながらも宮中の様々な思惑に翻弄されることにうんざりしていた。もっと現実の暮らしに役に立つ事をしたいというのが彼の夢で、今それを実現するための協力者が目の前にいる。これを逃す手はないと考えての申し出だった。


「そういう事ならいいんじゃない」


 子供に甘い圭子が賛同の意思を見せる。春名をはじめとした女子たちも特に反対する理由がなさそうだ。


「本当ですか!」


 ミハイルの声が弾む。今まで体が弱くて夢に取り組むことが出来なかった。それが一気に前進する可能性が出てきたのだから当然だ。


「ではこれから王都に戻るまでの間にアイデアを考えておきます。皆さんは王都にしばらく滞在するのでしょう。宮殿に部屋を用意しますので、そこで色々な意見を聞かせてください」


 ついさっきまでは死の淵にいたとは思えない程の生き生きとした様子のミハイル、これが本来の彼の姿なのだろう。


「宮殿ですか。素敵な所なんでしょうね」


 春名は召喚された王宮で怖い目にあった事などすっかり忘れて、夢を見る少女顔になっている。ここまでポジティブに物を考えられるのはおめでたいを通り越して頭の中がリオのカーニバル状態だ。だがそのめげない心が春名の長所でもある。


 女子一同はすっかり王宮で世話になる事に決めている様子で、拒否権のないタクミは従わざるを得ない。


 ミハイルの馬車を辞する頃にはすっかり夜の帳が降りている。野営地点に戻った一同を、岬が夕食の準備を終えて暖かく微笑んで出迎えるのだった。


 

 

読んでいただきありがとうございました。この続きは木曜日に投稿します。感想、評価、ブックマークお待ちしています。

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