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6 メイドの嗜み

 ギルドに到着すると早速依頼が張ってある掲示板を見る。


 空だけは相変わらず筋骨隆々の男性冒険者をガン見していた。そこまで集中して見ていると、逆に見られている方もその視線に気が付く。だが空の姿は男たちからは完全に子供に見えたため『子供が初めて見た冒険者に興味を示しているのだろう』くらいの感覚でスルーされた。


 タクミは先にカウンターに並んで順番取りをしている。どうせこのパーティーの主導権は彼女達が握っていて、タクミの意向が通るケースは少ない。


 順番が来たので先にパーティー登録の手続きを行う。全員のカードを提出して登録は出来たのだが『パーティー名はどうします』と聞かれて彼は考え込んだ。


 ここで彼女達の意向を無視して自分が勝手に決めたら後から何を言われるかわかったものではない。


「おーい圭子! パーティー名はどうするんだ?」


 掲示板の方を振り返ってそう尋ねるタクミに、圭子の声が飛んできた。


「エイリアンで!」


 タクミはカウンター嬢に向き直って返事をする。


「すみません、エイリアンでお願いします」


 こうしてタクミ達のパーティー『エイリアン』が正式に発足した。


 タクミが掲示板に戻って各自にギルドカードを返しながら『エイリアン』が発足したことを伝えると、彼女たちのヤル気は否が上でも盛り上がる。


「この依頼にしようかと思うけどどう?」


 圭子が手に持っているのはBランク相当のオーガ討伐だ。いきなり怖いもの知らずにも程がある。それに規則でそんな高いランクの依頼は受けられない。


「圭子、俺達はやっとEランクになったばかりだぞ。俺とお前だけなら構わないが、戦闘に役立たない二人を守りながらの戦いだから最初はもっと慎重にいった方がいいだろう」


 タクミの指摘がもっともな事なので、圭子は渋々紙を掲示板に戻す。


「これがいいと思う」


 美智香が手にしているのはホーンラビット討伐の依頼だ。


「場所も近くだし、それに草原でテストしたい事がある」


 彼女の提案に全員が賛成した。


「それでは出発するぞー!」


「おおー!」


 タクミだけはこのノリにいつもついていけない。




 手続きを済ませてギルドを出発した一行は、街の門をくぐり初めて外に出た。


 門の外には王都への入場を待つ人達の行列が続いている。


 その様子を横目で見ながら彼らはギルドで渡された地図を頼りに街道を進む。


「そろそろこの辺から草原に入っていくようだ。ここからは油断しないで行くぞ」


 タクミの指示に従って街道を逸れて草原を進むと、すぐに小さな気配が伝わってきた。膝丈の草の間を白い生き物がピョンピョンと跳ねているのがはっきりとわかる。


「うさちゃーーん!!」


 だがその姿を見かけた春名が何も考えずにその方向に駆け出していった。彼女はホーンラビットを可愛い縫ぐるみの類とまったく同じに考えていた。


「春名危ない!」


 圭子が引き止めようと手を伸ばしたが、春名はその手をすり抜けてホーンラビットの方に向かって走っていく。


 冒険初心者向きのホーンラビットといえども魔物だ。近くに敵がいれば攻撃してくる。現に初級冒険者が油断から毎年10人以上命を落としているのだ。 


 そんな魔物に無用心に近付いていく春名、魔物の方はすでに戦闘体制に入っている。


 そしてその魔物が近づいてくる春名に飛びかかろうとした瞬間・・・・・・


『バシュッ』


 ドサッと音を立ててホーンラビットは草の上に倒れた。


 タクミがデーザーガンで撃ったのだ。人間ならば失神する程度の電流だが、体が小さいホーンラビットには致死性の攻撃だった。


「うそ・・・・・・」


 春名は倒れている魔物を見て呆然としている。


 そこに圭子が駆け寄る。


「何やっているの! このバカ春名!!」


 いつになく厳しい表情だ。


「だって私・・・うさちゃんがいたから・・・・・・」


 うつむいて答える春名。


「だからバカだって言っているの! こいつはこの角で春名を突き刺そうとしていたのよ!!」


 そう言ってホーンラビットの頭についている角を指差す。


「地球の犬だって相手が敵だと思えば噛み付いてくる。ましてここは魔物がいる世界、さっきギルドで注意されたばかりでしょう」


 春名は圭子の言うことで大分反省しているようだ。


「春名にもしもの事があったら、ここにいる全員が悲しい思いをするんだからね」


 圭子の声はすでに涙声になっている。


「ケイちゃんごめんなさい」


 タクミは自分が言うべきことを圭子がすべて言ってくれたことに感謝した。彼は何も言わないで収納からテーブルセットを取り出して二人に声をかける。


「春名、圭子こっちに座れ」


 圭子に手を引かれて春名が戻ってきた。


 岬が素早く自分の収納からティーセットを取り出してお茶の準備を始める。本当に家庭的で有能なメイドだ。


「そんなものいつも持っているのか?」

 

 タクミが驚いて岬に聞く。


「メイドのたしなみです」


 タクミに声をかけられて顔を赤らめながらも、黙々とお茶の用意をする岬。


「どうぞ」


 二人の前に丁寧に入れた紅茶を差し出した。お茶を飲んで落ち着いてくださいという思いが込められている。


「皆さんの分も用意しますからお待ちください」


 そう言って引き続きお茶の用意に戻る。




 岬の配慮のおかげで和やかな雰囲気が戻ってきた。春名もだいぶ落ち着いてきたようで、しきりにみんなに『ごめんなさい』と謝っている。



「さて、もう一度気を引き締めていこう。圭子、運動が足りていないんじゃないか?」


「よくご存知で、さあここから本気を出しますよ!」


 そう言い残して彼女は飛び出していった。


 

 

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