55 門前のトラブル
すみません、1日遅れました。街を出ようとするタクミたちにまたまたトラブルが・・・・・・
タクミたちは当初の予定通りにこの街で2泊して、この日の朝出発の時を迎えている。
「それじゃあ行くよー!」
圭子の掛け声とともに馬車は動き出す。次の街に向かうために北門に向けて馬車は進んでいく。
石畳の道を門の手前まで進むと、警備する兵士が5人こちらを向いて立っている。
「止まれ」
そのうちの一人の兵士から制止を受たので、圭子は素直に指示に従った。
「この街から出ていく者は間諜の疑いがある。馬車の中を改めさせてもらうぞ」
高圧的な態度で一行に命令をする兵士。タクミが馬車から降りてギルドカードを提示する。
「俺たちは冒険者だ。ギルドのカードもこの通り提示しているし、これでどこの街も出入り自由のはずだが」
圭子だとすぐに喧嘩腰になってしまうのでまずはタクミが大人の対応するが、兵士は聞く耳を持たない。
「黙れ、これはこの街の規則だ! 従えないというなら全員間諜と看做してこの場で捕らえる!」
あまりにも一方的な兵士の言い草にタクミの隣でそのやり取りを聞いていた圭子がいきなり切れた。
「なめるなこの穀潰しが! お前らの規則なんてこっちは知った事じゃないんだよ!」
彼女のあまりの沸点の低さに呆れるタクミ、だがこのままにしておくとこの場で血の雨が降る事になりかねない。
「貴様、やはり何か隠しているな! 全員この者たちを捕まえろ!」
兵士の声を聞きつけて詰め所に待機している部隊が続々と外に出てくる。その数は軽く50人を超える。
「おやおや、まるで待ち構えていたかのように大勢出てきたな」
タクミの言葉通り、彼らは侯爵の指示で門を出ようとするタクミたちを捕縛するために待ち構えていた。ただし、Aランクの冒険者を相手にするには随分と中途半端な人数だ。
圭子はすでに飛び掛るタイミングを覗っている。アイコンタクトで何度もタクミにゴーサインを求めている。
「命までは取るなよ」
そのタクミの一言で野獣は待ってましたとばかりに解き放たれた。自分の近くにいる兵士をその拳で次々に血祭りに上げていく。
圭子ばかりにやらせるのも気が引けるので、タクミもバールを持ち出してかなり優しく頭を小突く。とは言ってもこの世界のどの金属よりも硬いバールなので、たとえ金属製の鎧と兜でその体を覆っていても一撃を受けた兵士は相次いで昏倒する。
その様子を馬車の中から見ている女子5人、美智香と岬が応援に出ようとするのを空が引き止める。
「どうやらタクミたちは相手を殺さないようにしているみたい。攻撃力の高い二人が行くと折角のタクミたちの気遣いが無駄になる」
美智香はともかく岬には加減というものがまったく効かないので、彼女が一旦その力を振るうと大惨事に成りかねない。外に出ようとした二人は空の提言に頷いてこの場は自重した。
「圭子ちゃんのパンチが全く見えないんですが、一体どうなっているのでしょうか?」
窓から外の様子を窺っている春名が不思議そうな顔をしている。
「私は眼がいいのである程度わかりますよ。今のは距離を詰めてのショートフックで完全に顎先を狙っていましたね」
岬が圭子の動きの解説を始める。圭子は兵士の剣を完全に見切って、大地の篭手を装着した拳の一撃で仕留めている。
「すごいですね、まるでイリオモテヤマネコのようです」
確かにしなやかな圭子の動きは、トラやライオンのような大型の肉食動物よりももっと敏捷な動きをする野生動物のようだが。
「何でそこで天然記念物!」(美智香)
「しかも絶滅危惧種」(岬)
「生態もよくわかっていないのに」(紀絵)
「どちらかというとツシマヤマネコに近い」(空)
「その違いがわからない!」(女子一同)
最後に必ずボケる空に全員の突込みが入るいつもの調子で、馬車の中ではのんびりとした会話が交わされていた。
そして馬車から援軍を呼ぶ間もないうちに、一方的な虐殺(殺してはいいないが)は終了する。
タクミはその中の一人を引きずり起こして尋問を開始した。
「何が目的だ?」
初めはとてもソフトに『何か隠し事は無いですかー?』という雰囲気を大事にしてタクミ自身はお話を聞いているつもりだ。世間ではこのような行為を『脅し』とか『脅迫』とか『ゲロを吐かせる』などと呼んでいるらしいが、そのような事に一々構ってはいられない。
「タクミ君が事情を聞きだそうとしていますね」
再び馬車の中で春名がその様子に注目している。
「あれは事情聴取とは言えない気がする」(美智香)
「かなり乱暴な方法ですね」(紀絵)
「あのくらいがこの世界基準」(空)
「ご主人様素敵です」(岬)
馬車の外ではタクミの説得(本人はそう思っている)で兵士は簡単に事情を話し出す。
彼らは侯爵にタクミたちを捕まえて屋敷に連れてくるように命じられていたそうだ。
「やはりそうか」
昨日侯爵騎士団の副団長を名乗る男がタクミを尋ねてきた事から、ある程度のことは予測していた。もっとも尋ねてきたメッサーはすでに侯爵の元を離れていることをタクミは知らない。
このまま放っておいても構わないのだが後々面倒になる可能性を考えると、ここはお灸を据えた方がよいとタクミは考えた。
「圭子、こいつらの親玉の所に乗り込もうかと思うがどうだ?」
「もちろん行くに決まっているでしょう」
即答だ。当たり前のことを聞くんじゃないという顔をされている。
「ちょっと寄り道をするよ!」
御者席に座った圭子から馬車の中に向けて、これから突撃を敢行する旨が伝えられる。
「悪代官の征伐ですか?」
時代劇の愛好家である春名は、これから起こる事に胸が高鳴っている。他の女子たちもほぼ同じ様子だ。
彼女たちはどうもこの世界に来てから好戦的になり過ぎだとタクミは頭を抱えている。
北門に向かっていた馬車は一旦引き返して、町の中心から少し東にある領主の館を目指す。中心部が近づくにつれて人通りが増えてくるが、それをぬうように圭子の巧みな操縦でメルゲンシュタット侯爵邸に到着する。
「ここで待っていてくれ」
門の手前でタクミが降りて門番のところに向かう。門番は近づいてきたタクミを見て何事かと身構えている。
「侯爵が俺たちのことを呼んでいるらしいから、わざわざこうして来てやった。早く取り次げ」
完全に上から目線で門番に告げるタクミ、もう彼の中では敵として認定しているので礼儀などに構っていない。
「少し待っていろ」
慌てて屋敷の中に駆け込む門番を見送ってタクミは圭子の元に歩み寄った。
「ここでもなるべく殺さないようにしろよ」
タクミの注意にニヤリと笑みを浮かべる圭子。
「そうね、なるべくそうありたいものだわ」
彼女の中ではもうすでに侯爵の首を取ることが決定しているかのようだ。
やがて館内からわらわらと100人以上の兵士が門に向かって出てくる。全員完全に武装しているその姿からして、話し合いの余地はなさそうだ。
「さーて、始めますか」
圭子は指をポキポキと鳴らして御者席から降り立った。
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