53 アルシュバイン王国
お待たせしました。タクミたちは新たな国に入国します。果たしてどんな国か・・・・・・
タクミたちはラフィーヌの町を出発して街道を馬車で移動している。街でマルコルヌスの火山に向かうために必用な情報と物資の準備を終えてから彼らはすぐに旅立った。
猫人族を村まで送ったときに通った最初の街のデルートを目指し、そこから今度は分岐した街道を北に向かう。
デルートを出て3つ目の街が国境の街ダルネスだ。この街を抜けるとお隣のアルシュバイン王国に入る。
通称『北街道』と呼ばれるこの街道は国境をまたいで行きかう商人たちで以前は賑わいを見せていたのだが、ここ最近はアルシュバイン王国の政情が安定しないため人通りが極端に少ない。
もともとアルシュバイン王国は貴族の連合国家で、国王といえども貴族の領内の統治に口を出すことができない。そのため権力を拡大しようとする一部の貴族が周辺の貴族と領地をめぐる争いを繰り返しており、言ってみれば日本の戦国時代のような戦乱が繰り返されている。
国王にはこの争いを止める力はなく、すでにその威光は名ばかりのものに成り果てていた。
マルコルヌスの火山はそのアルシュバイン王国の北の果てにあって、タクミたちは戦乱の国を縦断することになる。
この点については伯爵とギルドマスターから繰り返し注意を受けたが、タクミたちの意志は固くその制止を振り切って今国境の街を抜けようとしている。
「くれぐれも気をつけろよ。まあお前たちみたいなAランクの冒険者ならば心配は要らないとは思うが」
ダルネスの街を出る時に門番の兵がタクミたちに改めて注意を促した。近頃はこの国境を越える者はほとんどいないそうだ。
逆に戦乱を逃れて多くの人々がアルシュバイン王国からこの街に流れ込んできている。彼らは町のはずれに粗末なバラックを建てて住み着き、さながら難民キャンプンのようになっていた。
「いよいよ次の国ね」
圭子は戦乱の国に入ることで気を引き締めているが、その他のメンバーはまるで警戒などする様子もない。
「もしかしてモヒカンの人とかいるんでしょうか?」
春名はどこかの漫画で『ヒャッハーー!』している人が本当にいるなら見てみたいようだ。
だが待ってほしい・・・・・・彼女は忘れていることがある。
それはガーデニング用品に名を借りた火炎放射器や凶悪回転ノコギリにチェーンソー・・・果ては聖剣まで持ち出して魔族相手に『ヒャッハーー』した怪力メイドが目の前にいることだ。
「たぶんそんな人はいないと思うけど、春名は気をつけたほうがいい」
美智香は冷静に答えるが、戦闘力のない春名のことは心配しているようだ。
「まあ、いざとなったら俺が何とかする」
タクミが収納にしまいこんでいる装備は、地球で言えば米軍とロシア軍と人民解放軍を同時に相手にして3年半は持ち堪えるだけの戦力がある。惑星調査員はそれだけ過酷な任務にも耐えられるのだ。
ダルネスの街を抜けて1日でアルシュバイン王国の最初の街メルゲンシュタットに到着した。
街に入るときに門番にギルドカードを提示すると、彼はそのカードに記載されている『Aランク』の表示を見て目を丸くしていた。
「お前たち、もし傭兵になりたいんだったら紹介するぞ」
珍しく入国をした冒険者が即戦力になると判断して勧誘するがタクミたちは即座に断る。
「傭兵になりたいわけではない。俺たちは別の用でこの国に来ただけだ」
タクミににべも無く断られた門番は諦め切れない表情をしているが、無理やり連れて行くわけにもいかず彼らを見送ることしかできない。いくらなんでもAランクに喧嘩を売るわけにはいかなかった。
街に入ったタクミたちは早速ギルドに向かう。街中まで戦乱の影響を直接受けているわけではないが、どこと無く雰囲気が暗く活気が乏しいように感じられる。
ギルドの中もそれほど冒険者がいるわけではなく比較的閑散としていてる。
「すまないがこの国の情報がほしい」
タクミがカウンター嬢にカードを提示すると、何気なく受け取った彼女はそれを見て大慌てで席を立った。Aランクのカードというものはどこのギルドでも効力は抜群だ。
しばらくすると2階から壮年の男性が降りてくる。
「待たせてすまない、メルゲンシュタットのギルドマスターのシュミットだ。Aランクのパーティーがどんな用件か、とりあえず俺の部屋で聞かせてほしい」
彼はタクミを2階に案内する、女子たちはいつものように飲食コーナーに向かった。春名だけはタクミと一緒に居たかったようで手を伸ばしかけたが、ほかの女子にドナドナされていく。
「ようこそメルゲンシュタットへ! と言いたい所だが生憎この街を含めて戦乱の真っ只中だ。出来るだけ早くこの国を出ることを勧めるぞ」
挨拶代わりに退避勧告をするシュミット、来て早々に者に対してこのような言葉を発しなければならないほどこの国の状況は悪いらしい。
「俺たちはマルコルヌスの火山を目指している。そこまでどうやって行けばいいのか教えてほしい」
タクミが簡潔に用件を伝えると、シュミットの目が変わった。
「マルコルヌスの火山だと! お前正気か!!」
目的地を聞いて正気を疑われるとは、一体どんな場所なのかタクミは興味がわく。
「正気である事は間違いないが、一体どんな所なんだ?」
全く何も知らない様子のタクミに対して、シュミットはやれやれと首を振って答える。
「いいか、マルコルヌスの火山とは魔の山と呼ばれている、伝説の火龍が住み着いている山だ。今まで多くの冒険者が火龍の討伐に向かったが誰一人帰って来た者はいない」
タクミの脳裏に一抹の不安がよぎった。火龍に対してではなく『ドラゴンが見たい!』と騒ぎ出すに決まっているあの女子一同に対して。
「そうか、その火龍というやつがどんなものなのか知らないが、ヒュドラ程度のものだろう」
タクミが恐れることも無くあっさりと答えた事に今度は違う驚きを隠せないシュミット。
「ヒュドラってなあ、何を簡単に言っているんだ! そんなものどうやって討伐するっていうんだ?」
シュミットの反応からしてどうやらこの国まではタクミたちの情報が伝わっていないらしい。早く情報がほしいタクミはあえて彼にラフィーヌの事を教える。
「ラフィーヌのダンジョンの最下層にいたヒュドラ程度ならすでに倒しているということだ」
事も無げに言うタクミに対して口をポカンと開けたまま何の反応も出来ないシュミット、完全に思考が停止している。
「・・・・・・それでAランクなのか?」
ようやくそれだけの言葉を搾り出した彼はタクミのことを改めて凝視する。今目の前にいるこの男がダンジョンの攻略者・・・・・・彼はようやくその事に気がついた。
「俺たちは攻略者だ。これ以上何か言う必要があるか?」
首を横に振ったシュミットは机から地図を取り出してテーブルに広げる。
彼の説明によると、ここから北に向けて3週間で王都に着く。そこからさらに北を目指して山岳地帯に入り、10日ほどでマルコルヌスの火山に辿り着くそうだ。
常に噴煙を上げているから遠くからもよくわかるそうで、その煙を目指して進めば火山に到着する。
「だが気をつけろよ。山岳地帯に行くまでに何ヶ所も戦場を抜けなければならない。その上山岳地帯は魔物が多いからな」
彼はそれだけ言うと地図をタクミに手渡した。どうやらもう止める気は無いらしい。
「助かった、無事に用件を終えたらまたここに戻ってくる」
タクミはそれだけ言い残すと部屋を出る。
残されたシュミットは『どうかあの者たちが無事に戻ってくるように』と神に祈っていた。
「おーい、わかったぞ!」
タクミは一階で待っている女子たちの元に戻る。
「ドラゴンですって!」
案の定彼女たちの目にいくつもの星がキラキラと輝きを放っている。
「やっぱり異世界といえばドラゴンですよね!」
春名をはじめとして動物園にパンダでも見に行くような完全な物見由山のような雰囲気になっている。
そしてお約束の圭子の掛け声が響く。
「よーし! ドラゴンを見に行くぞー!!」
「おおー!」
危惧通りにテンションマックスになっている女子たちを死んだ魚のような目で見つめる事しか出来ないタクミだった。
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