52 次の目的地
お待たせしました。ラフィーヌに戻ったタクミたちのお話の続きです。
翌日の午前中にタクミたちが宿泊している宿に伯爵の使いがやってきた。
今日の午後に伯爵邸に顔を出して欲しいとの言付けを残して戻っていく。
「やっぱり魔族の件だよね」
圭子は昨日のギルドでの話しを聞いていたので、用件はわかっている。
「そうだろうな、俺一人で大丈夫だからみんなは休んでいてくれ」
タクミは特に全員で行く必要はないと考えていたので皆にそう告げたが、全く予想外の反応が返ってきた。
「タクミ君一人にはしませんよ! 私たちも一緒に行きます」
さっき起きたばかりの春名がやけに張り切っている。体力はないがやる気だけは人一倍あるから困りものだ。
「私も魔族について興味があるから付いていく」
普段あまり自己主張しない美智香までが一緒に行くと言い張る。
「わかったよ、全員で行こう」
タクミは彼女たちの押しに負けて同行を認めた。どうせ彼には初めから決定権はない、彼女たちが『行きたい』と主張すればそれがこのパーティーの方針になる。
食事を済ませてから馬車に乗り込み出発をする。圭子は馬車の操縦にすっかり慣れて街中でも不安がない。
伯爵邸には20分ほどで到着して門番の兵に用件を伝えると、中から執事の男性が出てきた。彼とは面識があるので挨拶を交わして屋敷の中に通される。
応接室に入るとそこにはすでにトーマスがソファーに座っていた。
「わざわざ来てもらってすまない。今回の件は俺の手には余る事だからな。それにしても今日は全員で来たのか」
トーマスは女子たちとは一度顔を合わせただけで、こうして全員がそろって彼に会うのは2度目のことだ。
「今日は大事な話だから全員でやってきた」
ただ単に暇を持て余した女子たちが付いてきたがっただけなのだが物は言い様だ。彼女たちもギルドマスターに改めて挨拶をする。
「せっかく全員いるんだからこの場で話しておくが、お前たちのパーティー『エイリアン』はAランクに昇格したぞ」
トーマスはとんでもないことを平然と言い放った。Aランクのパーティーなどこの国には3組しかいない。そんな冒険者の頂点にタクミたちが立ったということだ。
「俺たちまだ登録して2ヶ月しか経っていないんだけど、Aランクなんてなっていいのか?」
タクミの疑問はもっともだ。そもそもAランクというのは最低でも10年以上の実績と経験を積み重ね、その間に実力と様々な犠牲を積みあげてようやく到達する最高峰だ。
「バカ言っているんじゃない。ヒュドラを倒してダンジョンを攻略したやつらがいつまでもCランクでいる方がおかしいんだよ! 今度全員分のギルドカードを窓口に提出してくれ」
彼らの昇格はすでに決定事項だった、反論は一切認めないらしい。タクミの周囲では『Aランクなんて格好いいですね!』などとお気楽な言葉が飛び交っているが、あまり正体を明かしたくないタクミとしては困ったことだった。
そのような話をしているうちにドアが開いて伯爵が入ってくる。
「よう、久しぶりだな! 今日は全員お揃いか、相変わらず可愛い女の子に囲まれて羨ましい限りだな」
彼女たちが伯爵と会うのは誘拐犯の屋敷に討ち入りして以来だ。その後も何度かアミーたちが過ごしていた離れを訪問したことはあったが、こうして改めて顔を合わせるのは久しぶりのことだった。
「伯爵は相変わらず忙しいようだな。またちょっとした問題を持ち込んでしまって申し訳ない」
立ち上がって挨拶をするタクミ、彼の後ろで『まあ、可愛い女の子だなんて!』と社交辞令を真に受けてデレデレしているお花畑の住人が一人いるが聞こえない振りをする。さすがに周囲の女子たちもアホ令嬢の様子に苦りきった顔をしていた。
「それで魔族って言うのは本当の話なんだな」
伯爵は真顔に戻って本題に入る。彼も令嬢の事はこれ以上突っ込まない方がよいと考えていた。
タクミたちは魔族と遭遇した話を始める。一通りの話が終わったところで伯爵が改めて聞き返した。
「お前たちは何でそんなにトラブルに巻き込まれるんだ?」
確かに王城での事件に始まり成り行きでダンジョンを攻略して、誘拐犯を見つけてその被害者の帰還の護衛中に魔族に襲われる・・・・・・トラブルの連続だ。
「詳しくは言えないが、俺たちが探しているものが魔族と関係がある」
タクミは自分たちの目的と魔族の目的が一緒だということを伯爵に明かした。そしてもしそれが魔族の手に渡るような事になると世界が大変なことになることも。
「お前たちが別の世界から来た事は聞いているが、その事と関係があるのか? まさかお前たちも勇者というわけではないよな?」
伯爵はタクミたちが異世界から召喚された事を聞いているので、彼らもまた魔王を倒す勇者なのではと疑っている。
「俺たちは勇者の称号は持っていない。それに勇者だったらここのダンジョンにもぐっているだろう」
確かにタクミの言う通り、王城からの連絡で勇者がここラフィーヌのダンジョンに来ている事は伯爵ももちろん把握している。彼らは現在22階層まで進んでいるそうだ。
「ではお前たちはいったい何者なんだ?」
伯爵の質問はタクミにとっては非常に答え難いものだった。そもそもどう説明してよいかわからない。
「私たちは勇者とはまた別の世界から来た者」
ここで空が助け舟を出す。彼女は今日も修道服を着ているのでその言葉に重みがある。
「聖女殿、それは真か」
彼女に向かって伯爵は聞き返す。中身が腐っていようと聖女の存在はそれだけで信用されるものらしい。
「本当の事、だから私たちは私たちにしか出来ない事をする」
空はそれ以上のことを語るつもりはないようだった。それを察した伯爵もこれ以上の詮索をやめる。
「俺たちの最終目的地は魔王城だ」
だがここでタクミが爆弾を投げ込んだ。自ら魔王城に乗り込むことを宣言したも同じだ。
「魔王城・・・・・・本気で言っているのか?」
伯爵の額に汗が浮かんでいる。彼の長い冒険者生活で魔族に遭遇したことも一度や二度ではない。そのたびに決死の覚悟で何とか倒してきた。
その功績によって彼は貴族に取り立てられた。魔族というのはそれほど恐るべき敵なのだ、それをタクミたちはその本拠地に乗り込むと言っている。
それがどれだけ無謀なことか・・・・・・だがそれとは別に伯爵は考える。こいつらならばやるのではないかと。ダンジョンをわずか2週間で攻略して、魔公爵まで簡単に倒してしまったこいつらなら・・・・・・
「そうか、わかった。俺は止めやしない。やれるところまでやってみろ!」
今自分に言えるのはこれだけだと伯爵はわかっている。その代わり出来るだけ彼らの力になろうと心に誓った。
「そう言ってもらえると助かる。魔王城に向かうまでにはあと何ヶ所か行かなくてはならないから、この街を拠点にして情報を集めたい」
タクミは取り敢えず『マルコルヌスの火山』を初めとする残りの装置の在り処についての情報を伯爵に求めた。
伯爵とギルドマスターはかなりの情報を持っており、魔王城以外の残り3ヶ所についてはその所在地に繋がる手掛かりが判明した。
エルフの森でも聞いた通りここから最も近いのはやはり隣国にある『マルコルヌスの火山』で、あとは全く別方向のため一度この街に戻る必要がある。
「助かった、感謝する」
タクミは次の目的地が判明した事に感謝の意を表す。暇を持て余していた女子たちも次の冒険の旅が始まることに期待している。
その後はギルドに戻って魔族の遺体を検分してもらうことになった。これらは証拠の品として王都に送られるそうだ。
タクミたちはもちろん魔族討伐の報酬としてかなりの額を受け取った。同時に魔族を見つけ次第に討伐して欲しいという依頼も受ける。
「よーし、準備が整い次第隣の国に行くわよ!」
「おおー!」
ギルドを出てからやる気満々の女子たちの勢いに押されっぱなしのタクミだった。
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