50 古代機械
節目の50話です。ここまで来れたのは読者の皆様の応援のおかげと深く感謝します。
お話はエルフの村に戻ります。
魔族たちの死体を回収してから、ついでに岬がなぎ倒した木々も手分けして収納に放り込んでいく。そのままにしておくと、新たな木が成長する邪魔になるためだ。
こう見えてもタクミたちは自然に優しい。特に惑星調査員であるタクミはその星の自然環境をなるべく保全する義務を負っている。
ぶっちゃけて言えば。そこに住んでいる人間よりも場合によっては自然環境の方が重要なのだ。これはある意味侵略側の目線とも言うが、以前と違って銀河連邦の統治が銀河の広範囲に及んだ結果、他の惑星を侵略する行為はここ2千年間発生していない。
銀河連邦としてはその自然環境を研究してそこから連邦の発展に役立つその惑星独自の産出品の方に興味があるのだ。
侵略して統治するよりも、友好的に対価を支払って交易をした方が安上がりで手間もかからない。
そのために惑星調査員が存在している。
サラナはタクミ達の手によって魔族が一掃されたことに改めて頭を下げて礼を述べた。これで村の平和が脅かされることは無くなったと安心している。
タクミ達から見ればまだ安心するのは早いのだが、サラナはまだ若く先を見通すほどの経験がないため、目の前の危険に対応するのが精一杯なのだ。
ただこれは何もサラナに限ったことではなく、この星の住人のほとんどは種族に関係なくその日を生きていくのが精一杯だった。
これはこの惑星のおかれている苛酷な環境が原因となっている。魔物が大量に発生するので人々が活動出来る領域が限られ、交易も簡単には行えない。そのため社会の発展が遅れ、生活や文化、人々のものの考え方など全てが地球の中世レベルに止まっている。
銀河には科学技術が発展した惑星から、いまだに原始生活を送っている未開拓惑星まで、数限りない発達段階の惑星があるが、ここもその中のひとつに過ぎない。
魔族の討伐を終えて一行はサラナの案内で村の戻る。
入り口ではまだ多くのエルフたちが結界の修復に当たっていたが、どうやら1週間くらいかかるようだ。だが、タクミたちが魔族を倒したことを告げると焦って修復に当たっていたエルフたちに少しだけ余裕が出てきた。
彼らは口々に感謝の言葉をタクミたちに投げかけて、作業に戻っていく。
サラナの案内で彼らは長老の家に向かう。長老は外に出て村人にあれこれ指示を出していたが、タクミたちを見かけると家の中に案内した。
「それで魔族はどうなった?」
長老としては最大の懸案事項なのだろう。村を守る務めがある彼がタクミたちの討伐の結果に並々ならぬ関心を寄せているのはもっともな事だ。
「安心していい、この地にいたやつらは全滅した」
タクミの言葉に大きく胸を撫で下ろす長老、朝の戦闘ではエルフの勇敢な戦士をもってしても全く歯が立たなかっただけに、その安堵感は大きい。
「そうか、君たちには感謝する。これで当面この村は救われたようだ」
深々と頭を下げる長老、彼は今後は魔族の攻撃を想定してより強力な結界を築くつもりだとも洩らした。
「だが、結界だけに頼っていても魔族の襲撃から村を守れないだろう」
タクミは冷静に事実だけを告げる。ここに装置がある限り狙われることは間違いない。
「うむ、その事だが・・・・・・わしの一存で君たちに古代機械を預けようと思っておる。あれはもはや秘宝ではなくて災いしかもたらさぬようになってしまった。ならば我らは手放したほうがよいと思う。村の者たちも反対はせんだろう」
そう語る長老の瞳はわずかではあるが寂しそうだった。先祖が守ってきたものを手放さなければならない事に責任を感じているのかもしれない。
だが村の安全には代えられないことも長老は理解している。おそらくは彼の中でも苦渋の決断だったのだろう。
「そうか、そうしてもらえれば助かる」
タクミは頭を下げた。長老の心中を察してそれ以上は何も言わない。
「明日の夜明けに古代機械の所に案内する。今夜はゆっくりと休んでほしい」
寂しそうに語る長老を残してタクミたちは長老宅を辞した。
翌朝、朝日が昇る前にタクミ達は長老の家の前に集まっている。寝坊すけの春名はまだ目を覚ましていないのでタクミが背負っている。全くどこまでも手の掛かる令嬢だ。
タクミの背中の上で気持ちよさそうにしている春名、時折その口から「タクミ君・・・・・・ムニャムニャ・・・・・・』と寝言が聞こえてくるが、本人はきっと覚えていないだろう。
「では、私に付いてきなされ」
長老に連れられて向かった先は村の北の端にある大木だった。幹の周りは大人が10人手を広げても届かない。
長老がその前で祈りを捧げると、その根元のほうにポッカリと大きな洞が現れる。普段はエルフの魔法によってこの洞は姿を隠されている。
洞の中は大人がようやく歩ける程度の狭いものだったが、緩やかな下り坂でそれほど歩きにくくはない。
その通路を50メートルほど進んだ先に、ラフィーヌのダンジョンで見かけた金属の扉があった。
「この前と同じようだな」
タクミが端末に打ち込んである数字の羅列を扉の脇にあるテンキーに打ち込むと、音も立てずに金属の扉がスライドした。
「おお! 古代機械の中はこのようになっておったのか!!」
一緒に中に入った長老は様々な装置とパネルが並ぶその光景に圧倒されている。
「空、出来そうか?」
空は無言で頷いて、ラフィーヌの時と同じ要領で装置を作動させていく。彼女が最終確認をしてから起動ボタンはタクミが押す。こうする事で彼がこの装置の起動責任者に登録されるのだ。
ラフィーヌでは空が責任者になったが、リスクは分散したほうがいいというタクミの考えだった。
「これで俺がこの装置の起動責任者になった。誰もこの装置に手を出すことは出来ない」
タクミは正常に作動していることを確認してから、その結果を長老に告げる。
「ではこれで村は狙われることは無くなったという事か?」
長老の言葉に黙って頷くタクミ、彼としては村を救うというよりも自分の都合を優先した結果なので、あまり感謝されたくない気持ちが強い。
「そうか、だがその分君達が狙われることになるのでは?」
確かにその通りだが。タクミにとってはそんなリスクは百も承知のこと。
「気にするな、元々そのつもりだった」
タクミの言葉に頭を下げる長老、彼らはこの村に及ぶ危険を一手に引き受けると言っている。長老としては感謝するしかない。
元来た道を引き返して村に戻る一行、結局春名は一度も目を覚まさなかった。
「これだったらシェルターにおいといてもよかったんじゃないの?」
圭子の言葉はもっともだ。それにしても子供だっておんぶされてあちこち動き回っているうちに時には目を覚ます。
「まあ体力が半分になっているんだから、疲れるのも仕方ないさ。それに一人で置いておくと目を覚ました時に絶対に俺たちを探し回ってその辺をうろつくぞ」
完全に5歳の子供扱いされている春名だった。
「タクミ君・・・・・・朝ごはんはまだですか?・・・・・・」
タクミの背中で再び春名が寝言を言っている。彼女の温もりを感じつつその寝顔に優しく微笑みかけてシェルターに戻るタクミだった。
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次の投稿は土曜日の予定ですが、もしかしたら明日の遅い時間になるかもしれません。




