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41 モンテンサの街

次の街にやってまいりました。ここではどのような出来事が待っているのでしょう・・・・・・

 デルートを出た馬車は分岐した街道を東に進んで4日目にモンテンサの街に到着した。この街はローランド王国(タクミ達が召喚された国)東部では最大の街で、王都に次ぐ人口を誇っている。


 この街を治めるモンテンサ公爵は3代前の国王の血を引いており、王国一の名家と呼ばれている。


 現在の公爵の妻も王家から嫁いでおり、万一国王直系の血筋が途絶えた時には公爵家から跡継ぎを迎えるしきたりとなっている。


 先代のモンテンサ公爵メルロート=フォン=モンテンサは名領主として名声が高く、年齢を理由に息子に公爵の地位を明け渡してからは悠々自適の生活を楽しんでいた。


 彼の趣味は供も連れずに一人で領内を歩き回って領民の生活を知ることで、それは引退した今も変わらない。


 今日も彼はモンテンサの街を歩いて、時には商店を覘いたり、道行く人の話に耳を傾けたりしながら現在は街の中心広場のベンチに腰を下ろして屋台が並んで賑わう風景を眺めていた。


 屋台の呼び込みの声や値段の交渉をするやり取りで賑わうこの広場は、彼が最も愛する場所だ。


 そこに猫人族の子供の手を引いて屋台を見て回る少女達の姿が目に飛び込んできた。


「ほおー・・・・・・猫人族か、この街で見るのは珍しいな」


 一人そんな事をつぶやいてその様子を眺めている。


 元々獣人は人族に対する警戒心が強くて、特に子供が人に懐いているのは珍しい光景だった。


 猫人族の子供は少女から棒についた飴を受け取っておいしそうになめている。


 その姿は大変微笑ましく子供の楽しそうな表情に心が和む。


 そのうちに子供が少女の手を離れて何かを見つけたのか走り出した。


 慌ててそのあとを追いかける少女、だが子供はちょうど彼の目の前で転んでしまった。


 怪我は無いようだったが、地面に落ちたアメを見つめて悲しそうな表情をしている。


 立ち上がった子供の前に彼は近づいて、手に何も無いところを見せてから握った手を開くとそこには真新しいアメがあった。


 彼はにっこりと微笑んでそのアメを子供に手渡す。彼のもうひとつの趣味である手品だった。


 手から急にアメが出てきて驚いているその頭を撫でると、子供はペコリと頭を下げる。


「おじいちゃん、どうもありがとう」


 アミーはにっこりと微笑んでお礼を言った。


「どうもありがとうございます」


 ようやくアミーに追いついた圭子も頭を下げる。


「いいんじゃよ、子供の笑顔はワシにとって宝物じゃ。かわいい子じゃのう」


 もう一度頭を撫でて彼はその場を立去った。


「優しいおじいちゃんだったね」


 無邪気に話すアミーだが、アメを落として泣きそうになっていた事などすっかり忘れている。


「アミー、また転ぶから一人で走ったらだめよ」


 お姉さん役として言うべきことはしっかりと言う圭子だった。


 


 広場を見学している女子達とは別れて、タクミはギルドに来ている。


 この街に来る途中で討伐した大蛇を買い取ってもらうためにカウンターに並ぶ。


「買取かい?」


 受付の男が陽気に話しかけてくるが、タクミは周囲に聞かれないように小声で話しかけた。


「ここでは出せないような大物なんだが・・・・・・」


 タクミの話しぶりを察した男はすぐに彼を裏の解体場に案内する。


「ここなら大丈夫かな」


 タクミはテニスコートくらいの広さの解体場の真ん中に立って、収納から大蛇を出した。


「なんだこりゃーーー!!!」


 30メートルはあるその大蛇の雄大な姿に顎が外れるほど驚いている係員。


 ようやく立ち直ったと思ったら彼は『ちょっと待ってろ』といってどこかに消えた。


 しばらくすると、もう一人男性を連れて戻ってくる。


 その男性も解体場にでんと横たわる大蛇を見て驚いていたが、すぐに立ち直ってタクミに話しかける。


「俺はこの町のギルドマスターのハンセスだ。君の名前は?」


 係員と違って落ち着いた声で話しかける。だがそれは表面だけで、彼も目の前にある超大物を見てかなり動揺していた。


「タクミだ、Cランクの冒険者だ」


 何でこの程度で驚くのか理由がわからないタクミはすました声で答える。


「お前、もしかして攻略者か?」


 どうやらギルドマスターには攻略者の個人名が伝わっているらしい。


「あまり公にしたくは無いが、その通りだ」


 聞かれた事を渋々認める。


「どおりでな、こいつはジャイアントアナコンダ、それもおそらくは特殊固体だぞ! よくこんなものを仕留めたな!!」


 ハンセスは攻略者の実力を思い知った。目の前に立っている若い男はCランクと言っていたが、その実力はAランクをはるかに凌駕しているに違いない。


「それでこいつを買い取ってもらえるのか?」


 タクミは普通の冒険者が夢にまで見るような大物を仕留めたにもかかわらず、その事に全く興味が無い様子だ。


「もちろん買い取るとも、この支部の総力を挙げて買い取ってやるよ。それからダンジョンの品はもう持っていないのか?」


 さすが王都に次ぐ大きな街だけあって資金は豊富にあるらしい。それだけに攻略者が持っている物は魅力に溢れている。


「まだかなり残っているが見るか?」


 すでにラフィーヌのギルドでかなり買い取ってもらっているが、それでもまだ最深層付近のドロップアイテムが相当残っている。


 ギルドマスターの部屋で残った品のリストを見せて買い取れそうなアイテムを選択してもらったが、すぐに決められるものではないので明日また相談する約束をして1階に降りた。


 タクミが外に出ようとすると一人の若い女性が血相を変えて入り口から飛び込んでくる。


「どなたか回復魔法を使える方はいませんか!」


 ホールにいる者に聞こえるような大きな声で呼びかけるが誰も反応しなかった。この世界で回復魔法が使える者は、ほんの一握りしかいないのでこれは仕方のないことだ。


 それでも彼女は諦めずに今度は一人ずつ声をかけて回っている。よほど切羽詰る事情があるのだろう。


 そして彼女はタクミの所にやってきた。


「どなたか回復魔法を使える方をご存じないですか?」


 すがる思いで尋ねてくる彼女の熱意に負けてタクミは答えた。


「俺の仲間に使える者がいる、今ここで返事は出来ないが宿で詳しい事情を聞かせてほしい」


 その言葉に彼女はホッとした表情になる。


 宿に戻ったタクミは彼女をホールの椅子に座らせてから、部屋に戻って空を呼んできた。


「待たせたな、どんな事情か話してほしい」


 空と二人で彼女の対面に腰を下ろして、話が切り出されるのを待った。


「今朝、私の母が口から血を吐いて倒れました。薬草を飲ませて今は落ち着いていますが、母を何とか助けてください、お願いします」


 テーブルに額をこすり付ける勢いで頭を下げる女性、彼女はメルローゼと名乗った。


 空が頷いたので3人でメルローゼの家に向かう。彼女の家は商業地区の裏手にある小さな家でここで親子二人で慎ましく暮らしている。


「待って!」


 メルローゼが玄関のドアを開けて中に入ろうとした時に空が止めた。


「タクミはここで待っていたほうがいい」


 空は彼を置き去りにして収納から何かを取り出して家の中に入っていった。


「母はこちらの奥の部屋にいます」


 メルローゼが案内しようとするのを空が押しとどめる。


「その前にコップと水を用意してほしい」


 一体何をするのかわからないが、言われた通りにお盆の上にコップを3つと水差しを用意する。


 空はコップに収納から取り出したビンの液体を少量入れてから、それを水で薄めて自分で飲んでからメルローゼにも飲むように指示した。


「えっ、病気なのは私ではなくて母ですよ?」


 彼女は空のやっている事の意味がわからずにそう尋ねる。


「あなたのお母さんの病気はおそらく伝染する。この薬を飲めばそれが防げる」


 空の説明に納得した彼女は一気にコップの中身を飲みほしたが、途端にその苦さに顔をしかめる。


「薬だから苦いのは仕方ない、我慢してほしい」


 空はそれだけ告げると女性の母親がいる部屋に向かう。彼女が収納から出したビンの液体は、今から1200年後に完成した万能型伝染病予防薬だった。未来の生物化学技術の結晶だ。


 奥の部屋のドアを開けると長く患って、やつれきった女性が青白い顔でベッドに寝ている。


「大丈夫だから安心していい」


 メルローゼに向かってそう言い切った空は軽く腕を捲ってから病人の様子を診はじめた。  


 


 


 

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この話の続きは午前10時頃に投稿します。

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