39 デルートの街
ちょっとのんびりとしたお話です。短めのお話ですので、予定よりも早く投稿します。
魔族を撃退して馬車は隊列を組んで進みだす。
猫人族の村人達は魔族が現れた事に驚いていたが、見事に撃退したタクミ達を手放しで絶賛していた。彼らにとっても魔族は恐ろしい敵のようだ。
アミーは両親と離れて現在タクミ達の馬車に乗り込んでいる。岬の横にちょこんと座って先程の魔族の話をして欲しいとしきりにねだった。
見かねた岬が物語のように彼女に話して聞かせると、特に圭子の活躍場面で大喜びをする。小さなアミーにとってはアニメを楽しむような感覚しか感じていないのかもしれない。
だが、その方が子供らしくていいとタクミは考えた。奴隷狩りの男達にさらわれた恐怖を克服して明るく生きていく方が彼女のためだ。
そういえば最初の頃は体が大きな男性を怖がっていたアミーだが、この頃はタクミの膝の上にも乗っかるようになっていた。元々人懐っこい性格で、女子達がしきりに世話を焼いているうちにいつの間にかタクミもその中に入れられてしまった。アミーの他にも小さな男の子がいるが、その子はタクミの腕にぶら下がって遊んだりしている。それを見ているうちにアミーも大丈夫だとわかったようだ。
「お兄ちゃんもお話して!」
アミーにねだられてタクミは他の惑星で経験した冒険の話をする。もちろんアミーがわかるようにこの世界に合わせた話に作り変えているが、それでも眼を丸くして聞いていた。
しばらくすると眠くなったのか、シロと一緒にシートの上に横になってすやすやと寝息を立てはじめる。
「かわいい寝顔だな」
そんな光景を見ていると誰もが優しい気持ちになる。
「私とタクミ君が仲良くなった頃みたいです」
正確に言えば今のアミーの方が少し大きいが、春名は昔を懐かしんでいる表情をしている。
「二人はそんな小さな頃から仲良しだったんですか?」
岬はそういえばタクミと春名がいつ知り合ったのか聞いていなかったことを思い出した。彼女はいつか聞こうと思っていたことだ。
「私達は3歳の時からずっと一緒だったんですよ」
春名の口から語られることはタクミにしてみたら子供の頃の恥ずかしい話のオンパレードだったが、春名は大切な思い出のひとつひとつを無邪気に話し出した。
「そうだったんですか! そんなに小さな頃から一緒なんて羨ましいです」
岬は心から春名が羨ましい様子だが、こればかりはどうすることも出来ない。時空を超えることが出来る空でさえ自分の子供の頃に戻ることは不可能だ。
この後は何事もなく最初の街デルートが近づいてきた。
この街は北に向かう街道と東に向かう街道が分岐する交通の要所だ。門の前には荷物を積んだ馬車がたくさん並んで入門待ちをしている。
結構な人数がいるので活気があって、その客を目当てに屋台がたくさん並んでいる。
その光景を見たアミーは眼を輝かせていた。彼女の両親に断ってほかの子供達も引き連れて、タクミ達は屋台巡りを開始する。
「ご飯が入らなくなるから程々にしろよ!」
タクミの注意も聞く耳を持たない元気な子供達、迷子になると困るので女子が手を引く。ただし、最も迷子になりそうな春名はタクミが手を引いた。
「このお店はなに?」
アミーが圭子に尋ねる。何しろ彼女は今まで村から出たことが無かったので、眼にする物が初めての物ばかりで興味津々な様子だ。
「これはお肉を串焼きにしているみたいね、おいしそうだから食べてみようか」
「うん!」
圭子の言葉に元気一杯に頷くアミー、二人はすっかり仲良しコンビになっている。
1本丸々は食べきれないアミーと半分にして『おいしいね!』と屋台巡りを満喫している。
「次はあっちに行く!」
アミーに手を引かれるようにして圭子は隣の屋台を覗き込むと、そこは残念ながらお酒の立ち飲みだった。
「アミー、これはお酒だからだめだよ!」
両親からお酒はおいしくないと教えられているアミーは、すかさず次の屋台を目指す。
「ここはなに?」
どうもおいしそうな匂いが漂ってくる。その匂いに釣られて二人が屋台で見つけたのはクレープだった。
日本にあるクレープのようなおやつではなく、肉や野菜を巻いて食事として食べられている物だ。
「おいしそうなクレープだよ! 食べてみる?」
圭子の言葉にまたもや元気に頷くアミー。
二人でひとつのクレープを食べ終わる頃にはアミーのお腹はすでに一杯になっていた。
「おーい! そろそろ順番が来るぞー!」
遠くの方でアミーの両親が呼んでいる声が聞こえる。仲良く手をつないだ二人は満足して馬車に戻るのだった。
宿は全員が一緒に入れる所が無く分散して泊まることになった。この街はかなり治安がよいので、どこに泊まっても安心できるそうだ。
タクミ達はアミーのたっての願いで一緒に泊まっている。
「どうしてお兄ちゃんと空お姉ちゃんは別の部屋にお泊りするの?」
アミーはみんなで一緒のほうが楽しいのに・・・・・・と不思議な顔をしている。
さすがに詳しい事情を説明出来ないので、部屋が狭くてみんな一緒に入れないとごまかすしかなかった。
アミーは今夜圭子のベッドで一緒に寝るらしい。屋台巡りをしている時に約束をしたそうだ。
早々と風呂を済ませてパジャマに着替えて、圭子の隣に張り付いている。
「お姉ちゃん、またお話聞かせてね」
昼間の話の続きを聞きたいらしい。だが、すでに眠そうな表情なので、話が終わるまで起きていられるか保障は出来ない。
「じゃあ明かりを消すよ」
もう限界に達して船を漕ぎ出しているアミーを寝かせて女子達は眠りについた。
翌朝、全員が無事に集合場所に集まり馬車は出発する。村人達は3日ぶりにベッドでぐっすりと眠れて疲れが取れたようだ。
魔族の事はすでに昨日のうちにタクミがギルドに報告を済ませてある。
この集合場所の広場には朝市が立っていて、新鮮な野菜などがすぐに調達できる。各自が必要な物の購入を済ませて荷物の積み込む。
念のため人数を確認してから皆が馬車に乗り込む、次の街までは4日間の予定だ。
「じゃあ出発するよー!」
圭子の掛け声に合わせて一行が街を出る、門を入る時と違って出る時はスムーズだった。
彼女は馬車の操作を覚えて今日から一人で手綱を握ている。その横にはアミーがちょこんと座って楽しそうに話しかける。馬車の中の方が座り心地がよくて楽なのにそれでも圭子の隣にいたいようだ。
本来は先頭を行く馬車に子供を乗せたくは無いのだが、アミーがどうしても聞かないので止む無く圭子が面倒を見る事になった。
天気がよくて順調に馬車は街道を進む。昼を済ませてかなり時間がたった頃に、突然圭子が馬車を停めた。
「ノンちゃん、アミーをお願い!」
かねてからの手筈通りに紀絵がアミーを馬車の中に保護する。
ここら辺は街道の両側に森が広がり視界が悪い所だ。つまり襲撃にはそれだけ都合がよい場所とも言える。
そして圭子の気配察知に何かが触れた。
この前の魔族の襲撃と同様に迅速に馬車は固まって停まり、空がシールドを展開する。
「また魔族ってわけじゃないよね」
圭子の隣に降り立った美智香が尋ねると圭子は余裕の表情で答える。
「今度は人間みたいだから安心していいよ!」
どうやらお約束の盗賊の出番か?
タクミと岬はすでに後方の警戒についている。
「よーし、パパッと片付けましょう!」
魔族の時同様に待ち構える圭子だった。
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次回の投稿は月曜日の予定です。