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37 メイド乱舞

アルデナントの森を目指してここまでは順調な旅を続ける一行ですが、彼らの前に現れたのははたして・・・・・

「気配はあるのに、なかなか襲ってこないわねえ?」


 圭子は隣ですでにウィンドウを開いて、いつでも攻撃可能な状態でスタンバイしている美智香に話しかける。


 美智香も周囲を警戒しているものの、彼女は圭子ほど気配に敏感ではないので、一体どんな敵が迫っているのか見当がつかない。


「タクミ! 後ろは任せたよ!!」


 最後尾の馬車に乗っていたタクミは挟み撃ちを警戒して後方の気配を探るが、まだこれといった異常はなかった。


「わかった、こっちは特に何もなさそうだ」


 タクミの言葉が終わった直後に彼の30メートル先で空間が歪んだ。はじめは目の錯覚かと思ったが、どう見ても陽炎のように揺らいで見える。 


「圭子、こっちの方が早いみたいだ。どうやら何かが転移してくる!」


 タクミ達の世界では物体や生物を転移させることをテクノロジーで可能にしている。彼や春名もこの方法で地球に来た。


 空のように時空を越えることは出来ないが、彼は転移の仕組みについて理解している。だが今ここで行われている転移は、彼が知っているものとどうも理論や仕組みが違うようだ。


「こちらも空間が揺らいでいる。どうやら魔法を使った転移のよう」


 前方でも同じ現象が確認されており、美智香はすでに目の前で起こっている事象の解析を始めている。この辺は彼女に任せておけば、すぐに解明されるだろう。


「揺らいでいる空間に迂闊に触れると危険だからな。距離をとっておけよ!」


 タクミの注意が飛ぶがその頃には空間の歪みは収まりつつあり、そこには人影のようなものが現れ始めた。


「誰かが出てくる! 美智香、敵だったら強力なやつをぶっ放してよ!」


 すでに迫雷撃のパネルに手をかけている美智香は頷く。


 その時、馬車の中から岬と紀絵が出てきた。


「私達もお手伝いします」


 岬はタクミの横に並ぶ。


「岬はまだ剣の練習中だろう、危険だから馬車に戻っていろ!」


 だが彼女はニッコリとして、収納から何かを取り出した。岬の右手には銀色の筒状の物が握られている。彼女はその後ろの方にカセットコンロ用のガスカートリッジを押し込んだ。


 その筒状の物に付いているスイッチを押し込むと、先端から勢いよく炎が飛び出す。


「これは雑草を焼くためのバーナーです。ガーデニングの時に重宝するんですよ」


 さらに左手には充電式の草刈機を握り締めている。取っ手の先についている円盤状のノコギリ歯が回転して、大きなモーター音を響かせる。


 どちらも行きつけのホームセンターで購入したもので、彼女はいつでも使用できるように収納にしまっていた。だが、こんなもの一体どこで使うつもりだったんだろう?


「俺のバール以上に凶悪な武器だな。でも危険な真似はするなよ!」


「大丈夫です、取り扱いに離れていますので」


 再びニッコリと微笑みながら、両手のガーデニング業界最強の武器の動きを確認している。


 どうやら彼女は守ってもらうだけの存在では物足りなくなってきたようだ。この前から始めた剣の練習といい、以前から戦力として役立ちたかったらしい。


 反対側では紀絵が圭子に身体強化の魔法をかけている。紀絵は攻撃魔法は使えないが、こういった補助魔法は得意だ。


「ノンちゃんありがとう、体がすごく軽いよ!」


 圭子はほとんど魔力がないので、身体強化を自分でかけられない。紀絵の加入は圭子にとって大変大きなプラスとなった。


 


 空間の揺らぎが収まるとそこには人間に見えなくもないが、明らかに人間ではない者が立っていた。


「我らの出現を感知して戦う準備を終えているとは、ずいぶん感心なことだな」


 タクミ達を見下ろしたような話し方をする存在が、圭子たちの側に二人とタクミ達の側に一人姿を現した。


 この世界に来て人族の他にはついこの間出会った猫人族しか知らないタクミ達だが、秋葉系脳筋少女の圭子には心当たりがあった。


「あんた達、ひょっとして魔族ってやつ?」


 隣にいる美智香もどうやら同じ意見のようだ。その尖った耳や青黒い皮膚、頭から生えた角など、小説に出てくる魔族そのものだった。


「貴様ら、我々が魔族と知って恐れないとはなかなかいい度胸をしているな」


 どうやらこの世界では、魔族というのは恐れられている存在らしい。だが、タクミ達にとって初めて出会った彼らがどういう存在なのか全く知識がない以上、恐ろしいも何もあるはずがなかった。


「空ちゃん、どうやら魔族が登場したみたいですよ! これでこそ異世界ですよね」


 馬車の中では窓を小さく開けて外の様子を覗っている春名と空が話をしている。


「うん、魔族の筋肉には興味がある」


 空は全くの平常運転だ。彼女は馬車をシールドで包む大事な役割を担っているが、それに対して春名は何もしていない。強いて言えば魔族の存在を嗅ぎ付けたシロが馬車から飛び出さないように、ひざの上に抱き抱える役だ。


 割とマッタリとしたムードが流れる馬車の中とは違って、外は緊迫した空気に包まれている。


「その魔族が俺たちに何か用か?」


 出来れば話し合いで済ませたいがどうやらそうはいかないだろうなと考えつつ、タクミは情報を引き出そうとする。


「特に貴様らに用があるわけではない! 我々は封印を解除するための生贄を集めに来ただけだ。大人しく捕まれば楽に死なせてやるぞ!」


 嫌な笑いを浮かべてそう言い放つ魔族、これはもう話し合いでは済みそうもない。だがタクミは封印の解除というフレーズが気になった。


「一体何の封印を解除するつもりだ?」


 ダメで元々というつもりで少しでも情報を引き出そうとするが、相手はこれ以上何も話す気はないようだ。


「貴様達が知っても無駄なことだ! 大人しく観念しろ!!」


 それだけ言うと、タクミに向かって襲い掛かってくる。


 剣を引き抜いてタクミに切りかかろうとした魔族、その動きを見てタクミは手にしたバールで受け止めようとした。


 だがその前に岬の手が伸びる。彼女は手にした雑草焼きバーナーのスイッチを押しながら、その先端を魔族の顔に向ける。


 バーナーからは22000キロカロリー、1300度の炎が『ゴオオーーー』という音を上げて噴出した。


「ウギャァーーーー!!!」


 熱風に顔を焼かれて後ずさる魔族、咄嗟の反応で炎の直撃は避けたが顔に大火傷を負っている。


「まあ、運のいい方ですね。ご主人様、ここは私にお任せください」


 岬がすっとタクミの前に出た。大きな胸を張って魔族を睨み付けているが、若干タレ気味の目なので優しく見つめているように見える。


 タクミは果たして任せて良いものか迷っていたが、危なくなったらフォローしようと考えを切り替えてデーザーガンを用意した。


「貴様、なんと言う恐ろしい魔道具だ! 詠唱も無しに炎が噴出すなど有り得ん!!」


 魔族は火傷を負った顔面を押さえながら、驚きの声を上げている。


 恐ろしい魔道具と言われても、ホームセンターで1万円でお釣りがくる商品なのだが・・・・・・


「これだけではありませんよ!」


 岬はバーナーを構えて前進する。炎で牽制しながら隙を伺って、スッと左手に持った雑草刈り機を魔族の膝の辺りに伸ばした。


 スイッチを入れて足に押し当てると血飛沫が飛び散る。


「ぎゃああああああーーーーーー!!!!」


 先ほどの比ではない叫び声が上がる。魔族の足はきれいに刈り取られていた。恐るべしガーデニング用品!


「止めはこれで!」


 岬は物騒な2つの品を収納にしまうと、今度はドワーフに直してもらった大剣を取り出す。


 刃渡り2メートルを超える剣を軽々と一振りすると魔族の首は地面に落ちていた。


 ドサッと音を立てて首の無い体が倒れる。


 タクミは岬の戦い振りに唖然としていた。その強さは普段の優しくて気が利く彼女からは全く想像がつかない。ただ、その優しい手が血で汚れたことは彼にとって残念だった。


 たとえそれが彼女が望んだものだったとしても、岬の手は食事を用意したりお茶を入れたりすることだけに使ってほしかった。


 タクミはそれが自分のワガママだと知っている。この世界はそんな甘いものではない。


 同時に岬の『戦いの時にタクミ達の負担を減らしたい』という気持ちもうれしかった。


 影に日向に自分のために尽くしてくれる岬をこれからもっと大事にしないとばちが当たるなと思い直すタクミ。


「ご主人様、うまく仕留める事が出来ました!」


 うれしそうに報告する岬の頭を撫でて『よくやった』と声をかけると彼女ははにかみながら微笑む、その笑顔を見た瞬間・・・・・・タクミは岬の事が心から好きに思えるようになった。 

読んでいただいてありがとうございました。今回は岬回でしたが、次回は圭子達の活躍になる予定です。

感想、評価、ブックマークお待ちしています。


次の投稿は土曜日の予定です。

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