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36 旅の出来事

このお話から新展開です。


今回は春名が頑張ります。どう頑張るかって? それは・・・・・・

 猫人族の村までは2週間街道を進むが、その途中には4つの街がある。


 馬車は最初の街デルートを目指している。タクミ達一行は馬車を御せる者がいないので、村人が代わりに手綱を握る。その隣には圭子が座って、周囲を警戒しながら手綱の扱いを伝授してもらう。


 ここまで何事も無くのんびりとした旅が続いたが、だからといってこのまま何事も無く旅を続けられる保証は無い。


 街道を行く分には魔物に遭遇する事は少ないが全くゼロではない。そしてこの日一行の前に、この旅初めてゴブリンが現れた。全く戦いに向いていない猫人族でもゴブリン程度なら何とか倒せるが、街道の脇から急に3匹出てきたので馬が驚いて暴れだす。


 圭子は御者に操縦を任せてまだ動いている馬車から飛び降りる。そして見事なバランス感覚で着地を決めるとゴブリンに襲い掛かった。ゴブリン達は若い女が一人でやって来たと舌なめずりしていたがそれは一瞬の事に過ぎない。


 いつものように解き放たれた野獣が拳だけで3匹を片付ける。御者が『一人では危険だ』と止める間もない出来事だった。


「お嬢ちゃんずいぶん強いな!」


 村人は尊敬の眼差しで圭子を見ている。


「このくらい軽いわよ、それよりも手綱の扱いの続きお願いね」


 圭子にとってはゴブリンごときで馬車の操縦法の練習を邪魔されたくなかった。一般の人間とは魔物に対する認識がズレている事に圭子は全く気がついていない。





 夜は馬車を1ヵ所に集めて空がシールドを張るので、見張りを立てる必要も無く皆が馬車の中でぐっすりと眠れた。


 タクミ達は各自のシェルターに寝泊りしており、今日はタクミと春名が一緒に過ごしている。


「さあタクミ君、約束を果たしてもらう日がやってきましたよ!」


 言われた方のタクミは一体何の約束だったか思い出せない。


「何だったっけ?」


 タクミが覚えていない事にプンスカしながら春名は答える。


「一緒にお風呂に入る約束ですよ! 宿のお風呂は男女別だったのでここまで我慢しましたが今日は絶対一緒ですよ!」


 『そういえばそんな約束もしたなあ』とようやく思い出したタクミ。


「よし、じゃあ入るか!」


 風呂といってもシェルターなのでシャワーしかないが、春名は一緒に入れる事がうれしそうだ。


「私がタクミ君の背中を流しますからね、タクミ君も私の背中をお願いしますね」


 鼻歌を歌いながら洗面所でスッポンポンになる春名、彼女にはタクミに裸を見られる抵抗が無い。


 彼女にとっては12歳のあの頃のままの気持ちなのだ。純粋といえば聞こえはいいが、精神的な成長が無いとも言える。


 二人でお湯を掛け合って春名が先にタクミの背中を流しだす。


「タクミ君の背中ってこんなに大きかったのかな?」


 小さい頃の記憶と違って成長したタクミの体に驚いている。


「俺だっていつまでも子供じゃないぞ! それに春名だって少しは成長しているだろう」


 タクミは後ろに手を回して春名の胸を指先で突っつく。


「タクミ君、動かないでください。私が成長したのがうれしい気持ちはわかりますが、洗いにくいです!」


 『春名の胸が大きくなってうれしい』と勝手に認定されたことにいまひとつ納得がいかないタクミだが、ここは大人の対応をしようと心に決めた。


「タクミ君、今度は腕を伸ばしてくださいね」


 タクミは春名にこの調子で全身を洗われた。あの部分は自分でやろうとしたが、春名が譲らずに結局全てお任せになった。



「じゃあ今度は俺の番だな」


 春名からスポンジを受け取ると、ボディーソープを多めに使ってしっかり泡立ててから彼女の背中を力を入れないように擦る。


「はぁー・・・・・・タクミ君、極楽ですよ!」


 どこのご長寿さんだと突っ込みたくなるような春名。背中に続いて腕を終わらせると、タクミは後ろから手を前に伸ばして彼女の胸に……






           ピーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


   『只今PNIシステムが原因不明の不調により断絶しています。しばらくお待ちください』






 


 翌朝、ツヤツヤした顔の春名を見た圭子は全てを察したが、もう追及する気も起きない。だが彼女の想像とは違って最後の一線は越えていない。まだ春名の決心がついていないためだ。


 朝食は昨日獲ったウサギの肉を調理したものが出た。これは猫人族の男性が獲った物で、彼らは小動物の狩には長けていた。


 タクミ達はもっぱら大物を狙ってイノシシやバッファローなどを狩って皆で分かち合っている。 二人の狩りの成果でタクミや圭子は彼らの間で尊敬を集めることになった。


 また、食事時は猫人族の者たちが次々にシロのところに食べ物を持ってくる。 彼らにとっては神様にお供えをするつもりなのだろうが、以前より体が大きくなたとはいえまだ子犬のシロに食べられる量ではない。残すともったいないので丁重にお断りすることにしたが、彼らは非常に残念そうにしていた。





 あと一日で街に着く、そんな日の夕暮れ近くに、街道の両脇から圭子の勘に触れる気配が伝わる。


「止めて!」


 御者に気配がある事を伝えてから、圭子は後方の馬車に身振りで襲撃を伝える。


 その様子を見た御者達は馬車を密集した形に停めて、素早く車内に退避する。


 指示通りに固く扉を閉じた馬車を確認してから進行方向を見つめてつぶやく。


「さあ、やってやりますか!」


 指をポキポキと鳴らして、全くの自然体で立って襲撃者を待ち構える圭子だった。


 

  


 

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