35 アルデナントの森
そろそろラフィーヌの街もおしまいが近づいてきました。ここから新しい展開が始まります。
評価とブックマークありがとうございました。作者は誉められて伸びる子なので、今回のお話も一気に書き上げる事が出来ました。引き続き応援よろしくお願いいたします。
「なんと君達は勇者と一緒に違う世界から来た者達だったのか!」
アラドス=フォン=ラフィーヌ伯爵、この町の領主にしてこの前大商人オルシス邸で大暴れをした人物がタクミの話を聞いて驚いている。
今日、彼らはダンジョンの話をする約束で伯爵邸に来ている。
女子達はアミーに会いたかったので大喜びで付いてきた。彼女達は猫人族が収容されている離れでアミーに会っていて、この応接室にはタクミが一人で伯爵と話をしている。
「そうか、俺も40階層までは降りていったのだが、そこで仲間を失って仕方なく引き返したんだよ。だが違う世界から来た者は特別な力を持つと聞いている。だから君達がダンジョンを攻略した事は不思議でもなんでもないな」
あの暴れっぷりからも想像はついていたが、やはり伯爵はかなりの腕を持った冒険者だった。
「俺達が違う世界から来た事はほとんど知られていない。出来れば内密にしてもらいたいんだが」
タクミがわざわざ伯爵に自分達の正体を打ち明けた背景には、ある程度権力側にいる者の味方が欲しかったからだ。
王太子をボコボコにして王都から逃げてきたようなものなので、本来あまりこの国の貴族からのウケは良くないだろうが、この伯爵は他の貴族連中とは違う匂いをタクミは感じ取っていた。
「君達がそう望むんだったら俺は口外しないよ。それに違う世界の知り合いなんて中々得られないからな。今後とも是非友好的にしてもらいたい」
彼はタクミの求めに応じた。貴族としてのしがらみよりもタクミ達と仲良くしていけば今後とも面白い事になりそうだという元冒険者の勘が働いた。
その後しばらくダンジョンの話を続けて、伯爵は『あの先はそうなっていたのか! これは引き返して正解だった』などと感想を述べていた。
話が一段落してタクミは先日の件について尋ねる。
「結局あの悪徳商人はどうなったんだ?」
彼らがアミーを路地裏で発見した事に端を発した今回の事件の顛末を知っておきたかった。
「あれから館の中を捜索したら不正の証拠が出るわ出るわで依然取調べ中だ。だがあれだけ悪事を働いたんだから、死罪は免れないな。もちろん財産は全て没収だよ、やつの財産だけでこの町の税収の5年分あるからこの街は向こう3年は一切の税金を免除するつもりさ」
悪徳商人の現状と今後の見通しをタクミに教えるアドラス。
「税金免除とはずいぶん太っ腹な話だな」
タクミが感心する。普通の貴族は商人を取り潰したらその財産を独り占めしそうなものだが、この領主は欲が無いのか?
「俺が独り占めするよりもみんなに配った方がこの街が栄えるだろう。そうすれば廻り回って俺が潤うからいいんだよ」
経済学などもちろん無いこの世界で、自らの経験で社会全体が豊かになる方法をわかっているこの人物は大した者だとタクミは感心した。
悪事を働いていた商人がいなくなるだけでも正当な競争原理が働いて街にとっては大きなプラスの上に、税金を免除すればそれだけ可処分所得が増える。
さらに大商人が潰れた分は税金免除に釣られた新規の商人の流入で賄う事が出来る。この伯爵は脳筋のようで考えている所は考えている。
「全ては君達が俺の所に来てくれたおかげだよ。今回の件は俺としても満足のいく結果に終わった。君達の働きに感謝する」
タクミ達はアミーを保護したまでで、そこから先は暴○ん坊将軍が全部片付けたような気がするが、感謝してもらう事に悪い気はしないのでありがたく受け取っておく。
ただ、報酬の件は悪徳商人に被害を受けた人たちの救済に回して欲しいと伝えた。伯爵一人にいい格好はさせないタクミだった。
ちなみに残りの税収2年分は悪徳商人に被害を受けた者の救済と公共事業に使うそうだ。
伯爵はまだ話を続けたかったようだが、執事が『お仕事が溜まっております』と呼びに来た事で、タクミは応接室を辞して離れに向かった。
離れとはいっても使用人達がきちんと管理をしており、毎日掃除をしていて清潔が保たれている。
ここに来た頃は苛酷な環境でやせ細っていた猫人族の村人は、清潔な部屋と行き届いた食事で健康を取り戻していた。
タクミが館内に入るととすれ違う人全員が丁寧にお礼を述べる。彼らはあと一歩で奴隷としての生活に転落していたところを救出されて感謝の気持ちもひとしおだった。
タクミは村人の一人に聞いて、女性陣がいるアミー一家の部屋に向かう。
ドアをノックすると彼女の母親が出迎えて部屋に通された。部屋は10人いても余裕のある造りで、ベッドや家具も整えられている。
怪我をして横たわるだけだった両親はすっかり元気になり、提供された衣服に身を包んでいる。アミーも可愛らしいピンクのワンピースを着て、今は圭子の膝に乗っかりダンジョンの話を聞いて目を丸くしていた。
両親と離れ離れになっていた時には見せなかった満面の笑顔も見せているので、怖い思いをした心の傷もだいぶ癒えているようだ。
タクミは両親と挨拶をして彼らの心からのお礼の言葉を受け取ってから、元々住んでいる村の話を聞いた。
彼らはここから馬車で2週間街道を進んで、そこから森の馬車がようやく通れる細い道を3日進んだ本当に小さな集落に住んでいたそうだ。
周囲は森しかなくて贅沢は出来ないが、豊かな森の恵みで食べるには困らない生活を送っていた。彼らの森に対する愛着はとても深く、もう少ししたらここを出て森の自分達が住む村に帰るつもりだと言っている。
「そういえば『アルデナントの森』って知っていますか?」
タクミはだめで元々と思って聞いてみた。例のダンジョンの最下層にあったPNIシステムのモニターにあった場所だ。
「ええ、知っていますよ。あそこは私達の森からもう少し進んだエルフが住む森ですね」
あっさりと答えが見つかった事にタクミの方が驚いている。それから一緒に遊んでいるアミーに謝ってメンバーで緊急会議を開催する。その結果、村に帰る人達と一緒にタクミ達もアルデナントの森を目指そうという事で意見が一致した。
タクミは再び伯爵に会いに彼の執務室に向かう。
部屋に通されて事情を話すと二つ返事で了承された。
「いやー30人もの人を無事に村に帰すのに護衛の冒険者を雇おうと思っていたんだが、君達が引き受けてくれれば助かるよ」
この件については伯爵の方から指名依頼という事でギルドに話を持っていくそうだ。
それから1週間後に村人達とラフィーヌを出発することで話がまとまった。
彼らも顔見知りの冒険者が護衛についてくれる事と、犬神様が自分達の村まで来てくれる事に大喜びをしている。
1週間後、村人達は7台の馬車に分かれて乗っている。馬車は全て商人から没収した物だ。
馬車には人だけではなくて、旅の間や村についてからの当面の食料の他、街でしか手に入らない衣類や日用品、調味料などさまざまな物で満載状態だ。
これは伯爵の心尽くしで、少しでも彼らの生活に役に立てばと持たせた物だった。もっとも出所は例の悪徳商人の店で伯爵の懐が痛んだわけではない。
そんな事情を知らない村人達はしきりに伯爵に感謝をしていた。『こういう所の人心掌握術がうまいな』とタクミにとっても何かと勉強になる人物だ。
タクミ達のパーティーは2つに分かれて、先頭の馬車に圭子と美智香と紀絵、最後尾のにタクミと春名と空と岬が乗った。
「さあ、出発するわよ!」
圭子の掛け声とともに伯爵邸の使用人たちに見送られて、森を目指す一団だった。
読んでいただいてありがとうございました。次回は森を目指す旅のお話です。
次の投稿は火曜日の予定です。




