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33 アミー

ついにこの小説が10万文字を超えました。皆さんの応援のおかげと感謝しています。


評価とブックマークありがとうございました。作者は誉められると伸びる子です。これからも応援よろしくお願いします。

 宿に戻った頃には夕暮れが迫っていた。


 子供は岬が抱えて女子一同で風呂に連れて行く。シロは部屋で留守番だったので、犬神様と離れることに不安を抱いた様子だったが『お風呂が終わったらすぐ戻るから』と言われて素直に頷いた。


 風呂では散々に女子達のおもちゃになって体の隅々まで洗われた子供は、汚れてくすんでいた毛艶がピカピカに戻っていた。


 食事の時間になると食堂の椅子では高さが合わないので、圭子の膝の上に乗っかって二人で料理を分かち合っている。


 名前を聞くとアミーで猫人族の5歳の女の子だった。


 彼女は先程見た圭子の強さが気に入ったらしくて、彼女が大好きな様子だ。獣人は強い者に惹かれる習性があるというのはどうやら本当の事らしい。


 食事を終えて部屋に戻ろうとする時にアミーが寂しそうな表情をした。


「お父さんとお母さんにも食べさせてあげたい」


 ポツリと洩らした彼女の言葉に、その一家が置かれた過酷な状況が嫌でも伝わってくる。


 それでも風呂と食事が楽しかったようで、女子達にずいぶんと心を開いたアミー。


 その様子に大丈夫だろうと判断して、部屋に戻ってようやくアミーから事情を聞いた。


「お父さんとお母さんに会いたい!」


 最初に彼女が発した言葉だ。


 いろいろ聞いていくうちにわかったのは、彼女は馬車で何日も行った森の中の小さな村で両親と暮らしていたらしい。


 そこに奴隷狩りの男達が現れて、多くの村人とともにアミーの一家を連れ去った。元々猫人族は戦闘に不向きな種族で、ひとたまりも無く捕まってしまったそうだ。 そのままこの街に連れてこられたが、両親達が隙を見て何とか彼女を逃がしたらしい。だが首に嵌められていた隷属の首輪のせいで、体中が痛くて気を失ったそうだ。


 そこを一行が発見したという事になる。


「で、どうするの!」


 圭子の表情には『助ける気が満々』と書いてある。他の女子も同様だ。


 この中で反対意見を述べるのはかなりの勇気が必要な状況だ。


 だがここでタクミはあえて慎重な意見を述べた。


「この子の両親を助けることは俺も賛成だ。だが、大義名分が必要だろう。相手が真っ当な奴隷商人の場合、そこに乗り込んで力ずくで奪い返してもそれはこの世界では犯罪行為になりかねない」


 タクミの言葉で今すぐにも乗り込むくらいに意気が上がっていた女子達も冷静に考えることが出来るようになった。


 何かいい手はないかとみんなが考え込んでいる時に春名が手を挙げる。


「ギルドに依頼するのはどうでしょうか?」


 攫われてきた子供の両親を探す依頼を出して、それをタクミ達パーティーが引き受ける形にする。多少非合法な手段を用いたとしても、ギルドマスターの力で握りつぶしてもらう。あとは強引な方法を使ってでも証拠を押さえればこちらの勝ちだ。なんだったら関係者一同を闇から闇に・・・・・・ という、きわめて自分達に都合の良いシナリオを描いた。


「アミー、安心していいよ。明日にはお父さんもお母さんも村の人たちもみんな助けてあげるから、今日はゆっくり休みなさい」


 タクミは圭子の意外な面を見た。彼女がこれほど優しい言葉を口にしたことは無かった。おそらく子供には優しい性格なんだろうなと少し彼女の見方を変えたタクミだった。


 


 翌朝、朝食をとってからタクミは岬と一緒にギルドに向かう。岬はアミーをしっかりと抱えてタクミの後を付いていった。


「ギルドマスターを頼む」


 受付カウンターで一言彼がそう言うだけで。受付嬢は2階にすっ飛んでいった。


「どうぞ2階へ」


 彼女の案内でいつもの部屋に向かうタクミと岬、彼女に抱かれているアミーはどこに連れて行かれるのか不安そうにしている。


「安心してね、お父さんとお母さんを助ける話し合いをするから、アミーも聞かれた事にしっかりと答えてね」


 岬の優しい説明に小さな声で『はい』と答える。まだ5歳だというのに物分りの良い賢い子だなとタクミは感心していた。


「買取の件はもう少し時間が掛かると言っておいたはずだが」


 タクミ達の姿を見てトーマスは不思議そうな顔をして、ソファーをすすめた。


「今日は全く別の件だ。この子の両親を探す依頼を出したい。そしてその依頼は俺達が引き受ける」


 一体どういった事か合点がいかないトーマスに、タクミがなおも説明を続ける。


「この子は奴隷商人に両親とともに攫われてきた。そこから逃げ出したところを俺達が保護した。これから奴隷商人のところに押しかけて攫ってきた人を解放するように丁寧に頼むつもりだ」


 彼がそこまで話してようやくトーマスはタクミ達が何をしでかそうとしているかを理解した。


「待て、攫ってきたという証拠がない限りは正当な奴隷扱いで、もしそれを力ずくで取り返そうとした場合はお前達が犯罪者になるぞ」


 彼はタクミが危惧した通りの言葉を発した。


 やはりそうかとタクミは考える。


「俺達はなるべくこの国の法律は守るつもりだが、生憎この国で生まれた者ではないので法律がどうなっているのか良く知らない。それに俺達が不合理だと思う法律は守るつもりも無い」


 堂々と『今から法律を破ります!』宣言をする。


「いいか、落ち着け! 冷静に話し合おう」


 トーマスは額に冷や汗を浮かべている。仮に彼らが犯罪を犯して処罰にために誰かが捕縛に向かうとする。もしその処罰に彼らが納得しないで抵抗したら、一体どうなるか?


 ヒュドラを倒してダンジョンを攻略する力を持った冒険者に誰がどうやって罰を与えられるのか? その気になれば一国の軍を相手に出来る力を持っている彼らに逆らえる者はもはや居ないのではないか?


 下手なことをするとこの国自体に大きな危機が訪れる、彼はここまで考えるに至りどちらの味方をすればよいか結論を出した。


「わかった、君達の力になろう。だが俺の一存では決められない、領主の許可を得ないとならないから一日待ってくれ」


 大量の汗を浮かべてタクミに頼み込むトーマス。


「時間が惜しい、今から一緒に領主の所まで行こうか。さもないと仲間が痺れを切らして殴りこみに行くとも限らない」


 もはやトーマスに逆らえる術はなかった。午前中の仕事を全てキャンセルしたトーマスとともに、馬車に乗り込んで領主の館に乗り込むタクミ達。


 アミーは岬の膝の上で大人しくしている。


 


 目的地に到着して、トーマスは馬車から降りて門番に『至急の用件だ』と伝えると馬車は入門を許可された。


 『ギルドマスターというのは結構権力があるんだな』などとタクミが感心している間に馬車は玄関に横付けされる。



 馬車から降りたトーマスが迎えに出た執事に用件を伝えると、彼らは応接室に通される。


「こちらでしばらくお待ちください」


 執事は案内し終えるとすぐに出て行き、代わってメイドがティーセットをワゴンに載せて入ってきた。


 メイドはメイド服姿の岬がソファ-に座っているのを見て少し驚いているが、特に何かを言うことも無く紅茶を配膳すると『失礼します』といって出て行った。


 岬はその様子を見て『私は立っていた方がよろしいでしょうか?』と聞いてくるが、アミーを膝の上に座らせている事もあってそのままでいた。


 しばらくすると部屋に壮年の男性が入ってくる。トーマスが立ち上がって出迎える様子を見て、タクミと岬は立ち上がった。


「久しぶりだな、トーマス! 急用とは一体どうしたんだ?」


 ずいぶん親しい仲のようで、ガッチリと握手をする二人。だがトーマスの表情は冴えない。


「忙しい所を済まない。実はこの二人はダンジョン攻略者なんだが、俺の手に余る案件を持ち込んでくれたんで伯爵に相談に来た次第だ」


 気まずそうに話すトーマス、だが言葉遣いはそれほど丁寧ではない。馬車の中で領主のラフィーヌ伯爵は冒険者から貴族に上り詰めたことを聞かされたいた事をタクミは思い出した。


「ほー、君達が噂の攻略者か! 実は会うのが楽しみだったんだよ!! 俺はアドラス、元冒険者だ。よろしく頼む」


 そういって気さくに手を差し伸べる。タクミはその手を握って自分達を紹介した。


「それで、君達が持ち込んだ案件とは?」


 早速本題に入っていく。貴族特有の煩わしい礼儀だの挨拶だのがなくて、タクミは好感を持った。


 アドラスにこれまでのアミーに関する経過を報告すると、彼は大声で笑い出した。


「こんな面白いことがあるか! いや、これは攫われた家族にとっては不謹慎だったな。いいだろう俺もついていく。俺の領内でそのような犯罪を犯す輩はこの手で直々に処罰してやる」


 そう言って着替えのために部屋を後にする伯爵、意外な展開に残された面々は顔を見合わせている。


「元冒険者と言っていたがずいぶん腰が軽い人だな」


 タクミが感想を洩らす。


「いいや、おそらく書類仕事に飽き飽きしていたんだと思う」


 トーマスが自分の立場に合わせて考えたその推測は実は正解だった。


 ともかく伯爵が自ら成敗に乗り出す以上、ギルドマスターが黙って見ているわけにもいかなくなった。


 トーマスも装備を整えるために一旦ギルドに戻らなくてはならない。


 伯爵にはギルドマスターの部屋で待ち合わせることを伝言してもらって、急いで馬車でギルドにとって返す。


 タクミも痺れを切らして待っている仲間(特に圭子)を呼びに宿に戻った。


「よーし、これで心置きなく暴れられる! みんな、いくぞー!!」


「おおー!!!」


 圭子の掛け声に合わせて、意気揚々とギルドに向かう一行だった。

読んでいただきありがとうございました。次回の投稿は金曜日の予定です。

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