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3 交換条件

続けて第3話を投稿いたします。よろしくお願いします。

 ベンチに座ってのんびりとお茶を飲みながら、タクミ達の様子を眺める春名。


(ちょっと日差しが強いですね)


 どうやら季節は夏が近いようだ。


 彼女はポケットからMCS端末を取り出して周囲の紫外線をカットする。


 彼女が持っている端末はタクミの物とは仕様が異なり民間人が携帯する物だ。その機能はタクミの物に比べれば大幅に制限されている。


(あれ、タクミ君がケイちゃんから遅れだしました。ケイちゃんすごいですね!)


 彼らが走っている様子を楽しそうに眺めている。


(それにしても令嬢って一体何をするのでしょう? あまり何もしないとさすがに退屈になっちゃうかもしれないです)


 そんなことを考えていた時に、彼女の元に一人の紳士が訪れた。


「おくつろぎの所を失礼いたします。私は王太子様の侍従を勤めておりますバルダインと申します。殿下が皆様の世界のお話を聞きたいと申しておりまして・・・いかがでしょうか、私めとご同行いただけませんでしょうか」


 そう言って丁寧な物腰で頭を下げる。その姿はいかにも高貴な身分に仕える物腰だった。


(そうです! こういう事がきっと令嬢の役割のはずです!)


「分かりました、私でよろしかったらご一緒します」


 そう言うと彼女は誰にも告げずに侍従と一緒に城の方に歩いていった。







「こちらでございます」


 彼に案内されて城の中の奥まった部屋に通されると、室内には20歳過ぎの体格のよい男性が待っていた。


「わざわざお越し願ってありがとうございます。せっかく皆さんをこの城にお招きしたので、ぜひ異なる世界の話を聞かせてください」


 王太子はそう言うと春名をソファーに招く。その瞳の奥には暗い影が宿っているのを春名はまったく見抜けなかった。


 彼が顎で合図をすると部屋に居た者はみな退出して行く。お付の者たちのその行動からすると、どうやら過去にこのような遣り取りを繰り返してきた様子が伺えた。


 それを見届けてから王太子は春名に切り出す。


「こんな所では興が乗らない、話はベッドの上でしようではないか」


 その言葉の意味がわからずに春名はポカンとしている。


「鈍い女だな、王太子の私がお前を抱いてやると言っているのだ。もっと喜んでしかるべきであろう」


 今度はいくら鈍い春名にもその意味が分かって、その顔が恐怖に青ざめている。


「異なる世界の者がやってきたと聞いた時からその女を抱いてみたかったのだ。俺の女になれば贅沢に暮らせる上に王妃になることも夢ではないぞ」


 王太子にそこまで言われても、春名は固まったままで何の反応もできない。


「ええい、そのような所にいても事が始められんであろう。こちらに参れ!」


 春名の腕を掴んで強引にベッドまで連れて行くと、乱暴に彼女をその上に押し倒した。


「きゃーーーーーーーーーー!!!!」


 その悲鳴とともに端末の緊急避難装置が発動して、春名の周囲をシールドが覆う。


「何だこれは! お前一体どんな魔法を使った!!」


 王太子はシールドを破ろうと手近にある物を叩き付けたり蹴飛ばしたりしているが、その程度ではびくともしない。


 しかし、中にいる春名は叩き付けられる『ガンガン』という物音でいつシールドが破られるかという恐怖に怯えていた。


 




「こっちだ!」


 端末に表示される春名の位置情報を元に、城の中に突入するタクミ達。


 猛スピードで突き進んでいるために、彼らの進入を咎める声が置き去りにされている。


「5階だ!」


 警備をしている兵士を蹴散らして階段を一気に駆け上がる。


 五階のフロアーまでやってくるとそこには異変を察知した兵士が廊下を埋めていた。


「やむを得ないな」


 タクミは四次元収納からデイザーガンを取り出す。この銃は銃口から弱い電撃を照射して敵を鎮圧する目的で作られていて、エネルギーパックひとつでおよそ100人を無力化できる。


 彼はその銃を兵士たちに向けてためらうことなく照射した。照射された兵士達は次々に倒れていく。


「タクミ! それ一体なに?!」


 彼の後ろにいる圭子が驚愕した様子で聞いてくるが、タクミは返事することなく目の前の敵に集中している。


 彼は廊下にいる兵士たちを全て片付けてから、初めて圭子の方を振り返った。


「こっちだ!」


 次々に現れる兵士を鎮圧しながら奥に進むと豪華な扉の部屋の前に行き当たる。


「ここだな」

 

 端末で位置を確認してからタクミがそのドアを蹴破った。室内にはベッドの上でシールドに包まれて泣いている春名とシールドを壊そうとしている王太子がいた。


「この野郎ーー!!」


 タクミよりも早く圭子が飛び掛る。まるで野生のヒョウが獲物に飛び掛るようなしなやかで全く無駄のない動きだ。何よりもその表情が大事な友人に手を出した相手を絶対に許さない決意を物語っている。


 振り返った王太子が言葉を発する暇も与えずに、床に引きずり倒してマウントを取り顔面に拳を叩き込む。敵に対して容赦のない圭子の本性が発揮されている。


「タクミ、ハルハルを慰める役はお前に譲ってやる! 今回だけだからね!!」


 獲物を殴りながら男前の発言をする圭子。すでに下になっている王太子の顔は誰なのか判別が付かなくなっている。


 タクミは自らの端末を操作してシールドを解除した。


「だぐびぐん、ごばがっだよう(たくみくん、こわかったよう)」


 ボロボロ涙を流してタクミに抱きついてくる春名。よほど怖かったのかその顔は青ざめて体の震えが収まらない。


「安心しろ、お前が危険な時はちゃんと助けに来る」


 その言葉で少し安心したのか『うん』と返事はしたが、春名は彼に抱きついている手を放す様子がなかった。むしろずっとこのまま幸せを味わっていたかった。



「あのー、そろそろ私の嫁を返して貰えますかね」


 タクミの背後から圭子の声が聞こえてきて、春名は初めて彼女も一緒に自分を助けにきてくれたことに気が付く。


「ケイちゃんもありがとう」


 タクミから手を離して今度は圭子に抱きつく春名。


 ようやく春名から解放されたタクミは部屋の入り口の警戒を開始した。


「よしよし、それでこそ私の嫁! ずっと甘えていていいんだよ!!」


 こんな圭子の態度が春名をますますダメにしていくような気がするが、タクミはこの場で口を出すことは控えた。


「さて、この落とし前をどうつけようか」


 タクミが切り出すとすかさず圭子が反応する。相変わらずの男前振りを発揮して春名を慰めている手を止めてタクミに向き直る。


「決まってるでしょう! こいつを生んだ責任者に直談判よ!!」


 なんとも勇ましい限りだ。これだから脳筋は話が早い。


「まあ、それで行くしかないか。春名、もう大丈夫か?」


 頷く春名を見て、タクミはそこに寝転がっている物体を雑に蹴飛ばす。


「おい、いい加減目を覚ませ! 覚ましたら立ち上がれ!!」


 王太子に向かって完全に命令口調だ。彼自身はこれでも犯罪者に対してかなり優しく対応しているつもりだった。


 『ヒイッー』という情けない声を上げて立ち上がる王太子。その顔は圭子に散々殴られたせいで腫れ上がっている。


「王の所まで案内しろ、逃げ出したり抵抗した場合は死んでもらう」


 収納からブラスターガンを取り出して一発壁に向かって発砲する。この銃は弾丸の種類を変えて目的に応じた破壊力を使い分けることが出来る。今回は通常の火薬入りの弾丸が石造りの壁に放たれた。


『ドカン!』


 小規模の爆発とともに石造りの壁が簡単に崩れて、それを見た王太子の唯でさえボコボコの顔が恐怖で歪んだ。


「ねえタクミ、その銃日本で売ってるの?」


 圭子は見たこともない銃にまたもや興味を示している。脳筋だが好奇心は強いのだ。


「日本では銃の販売も所持も禁止されているはずだが」


「ええー、上野とか歌舞伎町に行ってしかるべき手順を踏めば手に入るんじゃないの?」


 圭子さん、そんな危ないことを言ってはいけません。


「この事に関してはあとから説明するから今はこいつの事を先に片付けよう」


 タクミが説明してくれるということなので、それで彼女は納得した。それよりも彼女の思考はこの先の大暴れに期待している。 


 王太子を先頭に歩かせてその後を3人が付いていく。兵士達が彼を救おうとする動きもあったが、王太子の『やめろ、抵抗するな』という言葉で全員が下がる外なかった。『いつでもかかって来なさい!』という態度の圭子はあっさりと引いた兵士たちの様子にガッカリしている。


 王は謁見の間に居ることを確認してそこに向かい、係の者を優しく説得して(圭子の拳付き)大扉を開かせて謁見の間に足を踏み入れるタクミ達。


「貴様ら何者だ! 陛下の御前で不敬である」


 彼らを咎める声と捕らえようとする兵が押し寄せるが、その尽くをタクミのデイザーガンと圭子の無慈悲な暴力で昏倒させた。


「あまり抵抗が激しいと死人が出るぞ!」


 静かな声でタクミが警告をする。ここまで彼は人が死なないように一応配慮してきた。だがこの先更に抵抗が続くと止むを得ずという場面が訪れることも頭の中に入れている。


「静まれー」


 その声で今まで騒いでいた者が皆一斉に姿勢を正す。さすがこの国の最高権力者が持つ威厳だ。


 全体が落ち着いたことを確認して、国王がゆっくりと口を開く。


「そなたたちはこのたび我らが召喚した者に相違ないか」


 問いかけるように話す国王に対してタクミが答える。


「ああ、間違いない。ここに転がっているこいつの親はあんたで間違いはないか?」


 国王に向かってなんとも横柄な口の利き方だ。だが犯罪に対しては相手が国王だろうと毅然とした態度で臨むべきだとタクミは教え込まれている。


「顔かたちが多少変わっているようにも見えるが、王太子に間違いなかろう」


 その言葉に暗に暴力を振るったことを匂わせる意味を込めているあたりはさすがの老獪さだ。


「こいつはここにいる娘を騙して自分の部屋に連れ込んで無理やり犯そうとした。こういう場合はどんな刑に処されるか回答を求める」


 国王は大臣に視線で合図をする。


「私が代わりにお答えいたします。このような場合女性が平民であれば罪は問われません」


 ずいぶん王侯貴族が優遇されている法体系だとタクミは感じた。


「そうか、だがこの娘は本国では王家に連なる家柄だが、その場合はどうなる?」


 タクミが畳み掛ける。タクミはこの国の法体系など知ったことではないが、せっかくの機会なので自分たちに有利に事を運ぼうと考えていた。まだ高校生なのにその腹の中身は真っ黒だ。


「その場合は金銭で解決いたします」


 ずいぶん女性の地位が低い国だとタクミは呆れた。その横では圭子も憤慨している。


「そうか、ではこいつの命をお前たちに売ってやろう。その代わり条件がある。この国に召喚された者全員に選択の機会を与えろ。この城に残るかこの城を出るかだ。そして城を出た者については行動の自由を保障しろ」


 タクミの言葉に広い室内がざわめく。中には王太子に対してあからさまに蔑んだ視線を向ける高官もいる。何しろせっかく苦労して召喚した勇者を手放すか、場合によっては他国の手に渡ってしまうことになるのだ。


 眼を閉じて考えていた国王が、その眼を開く。


「よかろう、そなたの条件を飲もう」


 その言葉にタクミは頷く。もしこの取引を認めない場合は止む無く高官の誰かを順番に手に掛けていくつもりだった。この場に居合わせた者たちは国王の賢明な判断で命拾いをした格好だ。


「ああそれから、城を出るやつらには一人当たり金貨500枚渡すことにしてくれ」


 実はこの部屋に来る前にタクミはこっそり端末でこの世界の貨幣価値を調べていた。金貨一枚がおよそ一万円なので、それだけあれば3年は何とかなるだろうという計算だ。


 


 交渉がまとまり食堂にクラスメート全員が集められた。タクミが経過を報告してから、今日中に各自の意思を決めるように伝える。


 その結果37人の生徒のうち、城に残る方を選んだ生徒がほとんどで、出ることを表明したのは体育会系集団とタクミ達のパーティーそれに女子が一人だった。


 彼女をむさくるしい男集団に入れるのは気の毒なのでタクミ達が引き取ることで話はまとまったが、男達はそろって悲しい顔をしていたことは言うまでもない。


 こうして6人となったタクミ達のパーティーは明日城を出て行くことになり、今日中に荷物をまとめることになった。


「さあ、ここから私たちの冒険が始まるぞーー!!」


 圭子一人だけは退屈な城の暮らしから解放されてやたらとテンションが高かった。

 

読んでいただきありがとうございました。感想、評価、ブックマークをお寄せいただけると幸いです。


第4話の投稿は明日以降になります。

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