298 魔王城の存在する場所
お待たせしました、298話の投稿です。タイトルどおりに魔王城の場所が判明します。果たしてどこに・・・・・・
やがて魔法陣の解析作業を終えた美智香が他のメンバーが待っている場所に戻ってくる。
「ようやく解析を終えた。確信はないが魔王城が存在している場所の見当が付いた」
「そうか、ご苦労だったな。それで肝心な魔王城はどこにあるんだ?」
「タクミ、そう焦る必要はない。ここには用がなくなったから外に出てから説明をしよう」
「そうか、全員外に出るぞ!」
タクミの号令に従ってメンバーたちはその場を撤収して来た通路を引き返していく。建物の外に出て仮設の梯子を登ると外はすっかり夜の帳が下りている。気温は昼間に比べてぐっと下がっているが、風が治まっているのでひょっとしたら過ごし易いかもしれない。
所々に雲がある空を見上げてじっと動かない美智香の元にメンバーたちが集まってくる。全員が果たして魔王城はどこにあるのかと気になって仕方がない様子だ。特に早く暴れたくてウズウズしている圭子が痺れを切らしている。
「魔王城の正確な所在地の記載は魔法陣にはなかった。したがって陣に記されている転移の距離がおそらくは唯一の手掛かりだと考えられる」
「距離ってどのくらい離れているの?」
「約55万キロ、この星の円周の14倍」
「それってつまりどういうことよ?」
「圭ちゃんは自分の頭でもっと考えるべき。この地上にはどこにもないと考えてほしい」
「ええ! ここにはないってどういうことよ?!」
全く自分の頭で考えようとしない圭子は無視して美智香は夜空にポッカリと浮かぶ月を指差す。そこには地球から見えるよりも2回り程大きな月が夜空に煌々と浮かび上がっている。
「もしここから55万キロ離れているとしたら、考えられる場所はあそこしかない」
「魔王城が月にあるってこと?」
「ああ、それで美智香ちゃんは私に月から見た地球がどのように目に映るか尋ねたんですね」
「タレちゃんが言うとおり。魔王が月からこの星を見て果たして手に入れたくなるかどうかを考えていた」
美智香は圭子の問い掛けはまるっと無視をして岬の質問に答える。脳筋頭の質問に一々答えるのが面倒になってきたようだ。
「あの巨大な魔法陣は星間転移を行うための物。四方に配置されたピラミッドのような構造物が大量の魔力を集めて、中央の転移魔法陣に魔力を供給する仕組み。星間転移には途方もない魔力が必要になると考えられる」
「そうか、魔族たちはここでこの地上に出現して自らの転移魔法で各地に散っていたんだな」
「タクミ、おそらくそのとおり。魔族が常にグループで行動していたのは魔力を集めて転移魔法を発動するためと考えられる。だからエルフの森にもラフィーヌのダンジョンにも集団で現れた」
「そうだろうな。さて、ここからはるばる月にある魔王城まで足を伸ばす方法だが、ここにある魔法陣を利用するのとは全く別の手段がある」
「タクミ、もったいぶらないで早く言いなさいよ!」
「圭ちゃん、少しは落ち着く」
「そうですよ、圭子ちゃんはさっきも1人で突っ走って無駄な仕事を増やしましたからね」
「それは怠け者の春名らしい意見」
女子たちの騒ぎが収まるのをタクミは待っている。1つ何かのきっかけで話し出すと途端にあーでもない、こうでもないと止まらなくなるのだ。
「そろそろいいか? 実はあの宇宙船の船内倉庫で星間連絡用のシャトルを入手していたんだ。ジョンに預けてあるからたぶん整備はとっくに終わっていると思う」
「タクミはなんでそれを早く言わないのよ!」
「全部圭ちゃんのせいだと思う。それはどうでもいいとして、魔法陣で転移するよりは星間シャトルで飛んでいく方が安全確実」
「なんで私がどうでもいいのよ!」
「圭子ちゃん、今は少しだけ落ち着いてくださいね」
やかましい圭子だが岬がニッコリして言い聞かせるようにすると途端に大人しくなる。最強メイドに生活全般を頼っている以上はいくら圭子でも逆らえないのだった。
「それじゃあ一度迷宮に戻ってからシャトルで飛び立つという予定で良いな。そうと決まればこんな寒い場所には用はないから出発しよう。美智香、すまないが魔法で氷原を平らにしてくれるか」
「わかった」
美智香が氷魔法で滑走路のように氷原を平らに均すと、タクミは収納から飛行艇を取り出して全員が乗り込んでいく。夜の離陸は少々危険だが、一旦天候が崩れると風雪が吹きすさぶこの地を一刻も早く発ちたかったためだ。
「空、エンジンに着氷がないか念入りにチェックしてくれ」
「了解、左右エンジンに異常なし。出力30パーセントで安定」
「よし、通常離陸するぞ。視界は悪いがこのまま真っ直ぐに進めば問題はないはずだ」
飛行艇は氷原を整備された滑走路のように進んでいく。その機体が十分な浮力を得るとふわりと宙に浮かび上がって、迷宮を目指して帰路に着くのだった。
こちらはタクミたちの帰りを待つクラスメートたちがいる迷宮の内部・・・・・・
タクミたちがこの場所を目指して飛び立ったちょうど同じ頃、マギカクラッシュの5人がジョンの元を訪ねている。
「遅い時間に呼び出してすまなかったね。君たちから依頼されたジェネレーターがようやく完成したんだよ。なるべく早く知らせようと思ってね」
「そうなのか! 待っていたぜ、これで相手が魔王でも容赦なくぶっ飛ばしてやるぜ!」
「美晴、お礼が先でしょう! 本当に礼儀がなっていなくてすみません。それから色々とお骨折りいただいてありがとうございます」
「愛美、誰が骨を折ったんだ?」
「美晴ちゃんが口を挟むと面倒なので黙っていてください」
エミの一喝で美晴は強制的にお口にチャックをされている。普段は穏やかなのだが怒ると一番怖いのがエミなのだ。
「ハハハ、君たちは本当に元気が良いね。見ていて楽しいよ」
AI知能が本当に楽しいと感じるのかは不明だが、ジョンはにこやかな笑みを浮かべている。魔法少女たちに好感を持っているのはどうやら間違いなさそうだ。
「それで例のジェネレーターはどんな感じに仕上がったんですか?」
「そうだね、まずは実物を見てもらうとしようか」
工作ロボットがトレーに載せたスマホサイズの大きさの金属製の物体を運んでくる。それを見たマギカクラッシュたちの目はキラキラに輝いている。
「このサイズにするのにかなり苦労したよ。動きに支障が出るようじゃ実用的ではないからね」
「こんなに小さくなっているとは思いませんでした」
「重さは700グラムだよ。ベルトで素肌に密着させて使用するとこの装置が自動的に宙を漂う魔力を取り込んでくれる。君たちの体内に入りきれない魔力は体を覆うシールドに使われるから、無駄なく魔力を消費できるね。ああ、シールドの強度は私が手掛けたパワードスーツと同じレベルを維持しているよ」
「凄い性能ですね! これなら魔王にも負けません」
「それよりも武器の方はどうなっているんだ? 楽しみで夜も寝られなかったんだぞ!」
「美晴は毎晩ぐっすりと寝ていた気がするけど、あれは気のせいかな?」
「うん、口を空けてグースカ寝ていたよね」
ほのかと凪沙の意見が一致しているからきっとそうなんだろう。圭子と同等の図太い神経を持っている美晴がその程度の理由で眠れないなんてあるはずがない。
「武装も同様に強化をしておいたよ。より小型のジェネレーターを取り付けて、常に大量の魔力をまとう仕様になっているからね。君たちのそれぞれの属性によって色々な効果を発揮するだろうね」
「よーし、これで武器と防御はバッチリだぜ! あとは体を鍛えまくってより強くなればこの美晴様が最強になれるな!」
「美晴は重力トレーニングをし過ぎよ! 少しは体を休めなさい」
「馬鹿なことを言うなよ! まだまだ鍛え足りないくらいだぜ!」
「もう放って置きましょう。それよりも明日からしっかり訓練を開始して新しくなった武器と自分たちの動きに慣れていきましょう」
「そうね、ジョンさん、どうもありがとうございました」
「お安い御用だよ。もし不具合が合ったらいつでも来てほしいね。君たちならいつでも歓迎するよ」
「本当にお世話になりました。それではおやすみなさい」
「良き夢を」
こうして迷宮での一夜は過ぎていくのだった。
翌朝・・・・・・
「ただいま、ようやく戻ってきたぞ」
「あら、剣崎君お帰りなさい。収穫はあったの?」
「よう、タクミ! ずいぶん時間が掛かったな!」
迷宮に戻ってきたタクミたちを恵と勇造が出迎える。ちょうど朝食の最中で2つのパーティーが全員集合している。
「手掛かりは掴めたが詳しい話は昼食後にしたい。極地から夜通し飛行してきて今は頭が働かないから一眠りさせてくれ」
そう言ってタクミは自分の部屋としてあてがわれている一角に向かっていく。
「タクミ君はご飯も食べずに出て行っちゃいました。ロボットさん、私の分のご飯をお願いします」
「春名ちゃんは眠くないの?」
「眠いといえばいつでも眠いですけど、今は朝ご飯の時間ですから大丈夫ですよ!」
「ハルハルはベッドになっている飛行艇の客席でグースカ寝ていたでしょう!」
「圭子ちゃん、夜は寝るのが当たり前です! そんなことも知らないなんてバカなんですか?」
「誰がバカだって!」
「2人とももう朝食の用意が整いましたから仲良く食べてください」
「「はーい」」
最強メイドの一言で2人とも隣り合って朝食を口にしている。なんだかんだ言ってもこの2人は仲の良いライバルだった。それは追試の科目の数的な意味で・・・・・・
昼食後にタクミは全員をミーティングルームに集めている。
「集まってもらって感謝する。探査の結果魔王城が存在すると考えられる場所が判明した」
「やったな! ついに最終的な目的地が判明したか!」
「それで、その魔王城はどこにあるの?」
勇造と恵が待ちかねたように発言している。クラスメートたちも固唾を呑んでその場所が発表されるのを待っている様子だ。そこさえクリアできれば地球に戻る道筋が見えてくるだけに、期待に満ちた目をタクミに向けている。
「冷静に聞いてほしい。魔王城が存在するのは月面である可能性が高い」
一拍置いてから全員の声が揃う。
「「「「「「「「「「「なんたってーーー!!」」」」」」」」」」
あまりに予想外の場所にクラスメートたちは呆然とした表情をしている。中にはあと一歩まで迫ったチャンスを逃してしまったような気持ちで諦めの表情をしている生徒もいる。地球出身のクラスメートたちにとっては、自分がいる惑星から飛び出すというのは途轍もなくハードルが高い行為なのは言うまでもないだろう。
「そ、そんな・・・・・・ 月なんてどうやって行けばいいんだ」
「ああ、それがな、割と簡単に行けるぞ」
「「「「「「「「「「「それを早く言えーーー!」」」」」」」」」」
タクミに対して総勢20人がユニゾンでツッコンでいる。こうしてみると中々団結力があるクラスだ。
「話すのをすっかり忘れていたが、以前宇宙船を捜索した時に惑星間連絡用のシャトルを入手していたんだ。たぶん3日もかからずに月まで到着できるはずだ」
「こ、今度は宇宙旅行か?」
「そんな大袈裟なもんじゃないぞ。ちょっと隣の星に行くだけだからな」
「それを俺たちは宇宙旅行って呼んでいるんだよ!」
勇造が声を大にしてタクミにツッコンでいる。タクミの常識から言えば『宇宙旅行』とは少なくとも何十光年も離れた星にワープ航行をしながら数ヶ月かけて旅することを指しているので、地球の一般高校生の感覚しか持ち得ない勇造の至極真っ当な意見を理解できなかった。同じ異世界への転移者でも、タクミたちのように宇宙を股に掛けて行動する感覚を持っているのは、やはりなんといっても別格なのだろう。だからこそ彼らのパーティー名『エイリアン』というのが、タクミたちの本質を顕著に物語っているというべきかも知れない。
「そうなのか? 俺にとってはちょこっと隣の国に行くような感覚だけど」
「これだから宇宙の出身者は・・・・・・」
さすがの勇造も呆れてこれ以上は言葉が続かないようだった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は次の週末を予定しています。
投稿間隔が開いてもたくさんのアクセスとブックマークをいただいて、本当に読者の民さんには感謝しています。
間もなく節目の300話を迎えていよいよ佳境に差し掛かってきた感があります。これからもこの小説をどうぞよろしくお願いします。」




