291 それぞれの変身風景
大変お待たせしました、291話の投稿です。
今週は前半に台風と木曜日には北海道の地震で災害続きでした。被災した皆さんやまだ避難所に居る方々には心からお見舞い申し上げます。
さて、作者の本業は物流が滞ると大きな影響を受けます。今週は近畿地方に続いて北海道の物流が止まってその対策で駈けずり回る羽目となりました。本当はこの291話を水曜日に投稿する予定でしたが、全く自由に時間が取れずに週末までズレ込んでしまったことをお詫びします。
さて今回のお話は再びマッタリとしたものになりました。前回地下都市で鹵獲したパワードスーツにクラスメートたちが乗り込んでみるかという内容です。お馴染みのドタバタが繰り返されるような気が・・・・・・
それから、お知らせがあります。前回の投稿でお知らせした新たに連載を開始した小説【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】が、8月26日のローファンタジーランキングで70位になりました! ランキングに入るのはこの小説に続いて作者としては2作目になります。
おかげさまで中々評判も良くって、まだ17話しか書き進めていないにも拘らず、かなりの数の閲覧数を記録しています。満点評価もすでに3件いただきました。
世界規模の戦争にに巻き込まれた日本がどう戦っていくかという、現代を舞台にした異能力バトルものです。各国にも存在する異世界からの帰還者たちと主人公が果てしない戦いを繰り広げてくストーリーになる予定です。現在の社会情勢ネタなどもふんだんに取り入れていますので、ニュースで耳にした話が戦争に繋がる流れなどもなるべく克明に描写していくつもりです。
すでに17話まで投稿を終えて、主人公を取り巻く世界の動きなどが詳しく解説されています。興味がある方は下記のURLか作者のページにアクセスして作品を検索してください。
URL https://ncode.syosetu.com/n1241ex/
Nコード N1241EX
「プシューー」
エアロック区画のような頑丈なドアがスライドして、そこから圭子が出てくる。
「いやいや、10Gの負荷はいい汗かけるわね! これくらいの負荷だと快適に筋トレができるわ!」
手にするタオルで汗を拭きながら『遣り切ったぜ!』という爽快な表情だ。一体どんな体の作りをしているのだろう?
「圭子、ちょっと長過ぎるぞ! 俺たちはここで2時間も待っていたんだからな」
「全くこの美晴様を待たせるとは良い度胸をしている。速く場所を替わるんだ!」
部屋の外にあるベンチに腰を降ろして待っていたのは勇造たちと美晴だ。暇なのでダンベルを使った腕の筋肉強化やバーベルを担いでスクワットをしながら部屋が空くのを待っていた。この一角は脳筋ルームからいつの間にか脳筋エリアに範囲が拡大しているのだった。
「悪い悪い、ついトレーニングに熱が入っちゃって時間を忘れてた」
「10Gで3時間もトレーニングしている化け物が! 俺たちでさえまだ2Gなんだぞ!」
「褒め言葉だと受け取っておくわ。それじゃあね!」
こうして圭子は立ち去って行く。残ったメンバーは我先にと室内に入って、重力トレーニングに精を出すのだった。
「全員揃ったか?」
昼食後にタクミが武器製作工房の横にある機能評価室に全員を集めている。この一角はいまだに工房と呼ばれているが、拡張に次ぐ拡張によって工作ロボットが行き交う大規模な工場となっている。機能評価室は要するにパワードスーツや武器の性能が要求した水準に達しているかを試す場所だ。シールドで覆われた体育館の2倍はある室内で、的に目掛けて思う存分武器の試射を行える。
まだ何も知らされていないクラスメートたちはタクミの急な呼び出しを受けて怪訝な表情で集まってきている。午後の重力トレーニングを中止してやってきた脳筋たちは大いに不満そうな顔をしている。彼らは午前午後と毎日2回重力トレーニングを日課にしているのだ。体を鍛えることにかけては一切の妥協を許さない筋肉大好きな集団だ。
「ようやくこの前鹵獲したパワードスーツの修復と改造が完了した。今日はこの場に居る希望者に搭乗してもらいたいと考えている」
タクミたちがグラン・エル・サランドの地下都市に赴いてから3週間が経過していた。その間にスケルトンが操っていたパワードスーツを工房に運んで、突貫で魔改造が行われていた。24時間休みなしで働かされた工作ロボットたちは小型のAI知能で口々に『どんなブラック企業だ!』とか『待遇の改善を要求する!』などと不満を口にしながら作業に当たっていた。
ジョンが人間らしい擬似的な感情をプログラムに仕込んでいるように、ロボットたちもとっても人間臭い連中だった。作業の進捗を見にタクミが工房に姿を見せる度に『これ以上は勘弁してくれ!』とか『もう働けない。過労死する!』などと訴え掛ける姿があった。
「ほう、パワードスーツか! 力が強くなるんだろう! 前から興味があったからぜひとも乗ってみたいぜ!」
「ちぃっ、この美晴様には無縁の武器だな。こんな用件だったら重力トレーニングをしている方が良かったぜ!」
勇造は早速の食い付きを見せているのに対して、魔法少女の美晴は全く興味を示さない。彼女は以前ジョンに武装の強化を申し出た時に自分たちはパワードスーツには搭乗できないと伝えられていたせいだ。
「なかなか良い出来栄えだから、お前たちは楽しみにしておけ!」
「アルネさん、そんなに凄い物なんですか?」
「とんでもない武装だ。反則級の力を簡単に行使できるぞ」
アルネの機体は地下都市に行く前にすでに魔改造済みだった。スケルトンとの戦闘ではぶっつけ本番で使用したが、戻ってきてから習熟訓練を終えて大幅な性能アップに満足している。もう圭子に無様に吹き飛ばされる心配がなくなって、それからというもの彼女はひたすらパワードスーツに乗り込んで、自らの感覚と機体の性能の調整に励んでいた。比佐斗はすでに改造済みのパワードスーツに搭乗しているアルネの回答に表情を輝かせている。
「まあ色々と事情がある機体だけど、たぶん大丈夫だろう」
「剣崎君、なんだか気になる言い方だけど『事情』って何よ?」
奥歯に物が挟まった言い方をするタクミに恵が食い付く。『つい3週間前までスケルトンが操っていました』とは答え難いタクミはどうしたものかと隣に居る空を見る。
「安心していい! 私が神聖魔法で内部をキッチリと浄化してある。呪いに掛かる心配はない」
「浄化とか呪いとかって、どう考えてもいわく因縁がある怪しげな響きにしか聞こえないんだけど、ちゃんと説明してもらえるかしら」
空のブッコミに対して寺の娘で『呪術王』の紗枝が疑いの眼差しを向ける。それはそうだろう、霊感が強い紗枝だけでなくてこの場に居る全員が同じように感じているのだから。
「ひとまずは実機を見てもらおうか。取り敢えず完成しているのは20機だ」
タクミが収納からパワードスーツを取り出してズラッと並べる。鉛色の無骨な機体が勢揃いしている様子は壮観なものがある。クラスメートの口からは『ほー』という感嘆の声が上がっている。
「それでは私から説明しよう。このパワードスーツは地下都市で搭乗員を中に残したまま千年間放置されていた。内部の搭乗者はその場にある魔力を吸収してスケルトンになっていた。でももう安心! パーツは全て分解クリーニングをしてから私が神聖魔法を掛けてある」
「「「「「「全然安心できないだろうが!!」」」」」
納得できないクラスメートの意見に空は『まったく遺憾だ』という表情をしている。聖女の自分の力を信じてもらえなくて不満な様子だ。その間に岬は背中にあるスイッチで搭乗口を開放している。
「野村、すまないが中を見てくれ。何か怪しげな気配がするかどうか確かめてほしい」
「わかったわ」
紗枝が霊感を持っているというのはクラスメートの間では周知の事実だ。彼女は一機ずつパワードスーツの内部を覗き込んで確認をしている。
「ざっと見たところでは何も感じないわね。空ちゃんの神聖魔法で思念や怨念まできれいに浄化されているみたいよ」
「そうそう、私の力を信じなさい!」
紗枝がもたらした鑑定結果に空がエッヘンと小さな胸を反らして偉そうな態度をとっている。人間性にはちょっと問題があるが、聖女の力は素晴らしいものがあるのだった。
「そうか、紗枝が保証してくれるんだったら大丈夫だろう! どれ、俺が最初に乗り込んでみるか」
紗枝の霊感を一番信用している勇造が真っ先に搭乗を申し出る。元々彼は紗枝を信じてはいるものの幽霊の類を全く恐れてはいなかった。『そんなものが現れたらぶっ飛ばしてやる!』程度にしか考えていない脳筋頭の持ち主だったのが幸いしている。
「中に入ったら音声ガイドに従ってください。最終段階を選択して、自分に最も相応しい姿をイメージしてください」
「おう、わかったぜ!」
メイド服姿の岬から説明を受けて勇造は意気揚々とパワードスーツに乗り込んでいく。彼が内部で機器を操作してその姿が光に包まれると・・・・・・
そこには迷彩柄のズボンに上半身には空手着をまとった姿の勇造が現れた。両手にはヘラクレスの篭手を嵌めている。これが勇造の戦闘形態だ。
「なんだか不思議だな。あんなゴツイ機械が空手着に変わったぞ! それにしても体が軽く感じるな。なんだか自在に動かせる気がする」
「シンクロ率354パーセント」
近くに居る分析ロボットが勇造とパワードスーツのシンクロ具合を報告する。さすがは脳筋四天王の一角だけあって、圭子に次ぐ数値を叩き出している。これだけの数値があれば最初から問題なく機体を操作できる。どこかの令嬢のようにシンクロ率3パーセントとは訳が違うのだ。
「気に入ったぜ! これがあれば圭子とも互角に戦えるな!」
「ふふふ、笑止! 世紀末覇者を越えようなどと無駄な考えは捨てるがよい!」
勇造の挑戦を圭子は笑って聞き流している。当然彼女は最強の座を譲る気などサラサラないのだった。
勇造のチャレンジを見て次に手を上げたのは片岡賢治だった。彼は薩摩示現流の使い手、幕末の薩摩藩士をイメージしてスイッチを押す。そして・・・・・・
確かに幕末の士族の姿で腰に大小を差した賢治が現れる。だが、なんだかおかしい・・・・・・ 額には八金を巻いて背中には『誠』という大きな文字が描かれている。
「新撰組の格好じゃないか! 何で敵方になるんだ!」
倒幕を目指す薩摩藩にとっては天敵の新撰組の姿になってしまった賢治が盛大なツッコミを入れている。ケンシロウをイメージした圭子がラオウになってしまったように、このパワードスーツの変身具合は微妙にズレるのがお約束だ。圭子は『ザマー見ろ!』という表情で賢治を見ている。
その次にラグビー部員が搭乗する。当然彼らの正装であるラグビージャージをイメージしたのだが、光の中から現れた彼らはアメフトスタイルだった。確かにこっちの方がヘルメットや防具が装着済みなので見掛けの防御力は高そうだが、彼らにとっては余計なお世話だった。
大吾は普通に魔法使いの姿をイメージするが、上に羽織っているローブがサッカーボールの柄になっていて、あまりの趣味の悪さに愕然としている。そして『蒼き稲妻(仮)』パーティーの最後に紗枝がパワードスーツに搭乗する。
『やっぱり精霊王にして呪術王だから、ここは行者スタイルでビシッと決めたいわね』
寺の娘としては父親同様に野山を駆け巡って厳しい修行に耐える山伏や行者の姿が一番しっくり来る。彼女はその姿をイメージしてスイッチを押した。その結果・・・・・・
一重に緋袴の巫女さんが現れた。
「何で私が巫女さんになるのよ! 寺の娘なんですからね!」
大いに憤慨している様子だが、紗枝は実は心の中でちょっぴり喜んでいる。日本に居たら絶対にできない格好だったので、秘かに憧れていた姿だった。
「ふむふむ、巫女さん姿も中々可愛いですね! これは私のなりたい姿リストの第2位にメモしておきましょう!」
春名は羨ましげに紗枝の姿を眺めつつ、いつかやって来るかもしれない変身の機会に備えてモコモコの手でメモを取っている。イヌの着ぐるみが一番お似合いなのに・・・・・・
勇造たちが無事にパワードスーツに搭乗している様子を見て、恵たちは顔を突き合わせて相談を開始する。
「ねえねえ、私たちはどんな姿がいいかな?」
「やっぱり女の子らしく可愛い格好がいいわよね」
「蘭が言う通りね! なんかこう体中から可愛らしさが滲み出るような姿に変身したいわね」
「恵は何かいい考えはあるの?」
「今考えているんだけど、色々と迷っちゃうわね。マミは決まっているの?」
「そうね、魔法少女だとマギカクラッシュと被っちゃうし、何がいいかな?」
「とにかく可愛い格好でお任せにするのはどうかな?」
「それでいこうか」
こうしてストロベリージャムの3人はパワードスーツに乗り込んでいく。彼女たちはパーティー名も可愛らしいものに拘ったように『カワイイは正義!』と信じているのだった。
そして3人が操作を終えて最終スイッチを押して現れた姿は・・・・・・
ランドセルを背負っている小学生姿だった。
「ぎゃははははは! 副会長が小学生になっている!」
「あれだったらまだ着ぐるみの方がマシですね」
指を差して大声で笑う圭子と、自分と比較してホッとしている春名が居る。さすがに彼女たちの目から見ても、いい年をして小学生の姿は相当痛いものに映っている。
「いくらなんでもカワイイの基準が違い過ぎよ!」
「こんな姿で戦えっていうの!」
「ムリ、絶対にムリだから!」
3人が屈辱に肩を震わせている。17歳の女子としてあまりにも有り得なかった。
「皆さん落ち着いてください。リセットといえば最初から操作のやり直しができますから」
岬のアドバイスを聞いた3人は速攻でリセットをすると機体は元の無骨な姿に戻る。一旦3人は外に出てから再び相談を再開する。
「もうあんな恥ずかしいのはご免よ! もっといい案はないの?」
「面倒だから制服はどうかな?」
「ああ、それにしよう。着慣れているし」
こうして3人は再び搭乗して操作を1から始める。あんなヘマは繰り返さないと誓って気合をこめてスイッチを押すと・・・・・・
恵はナース姿、蘭はキャビンアテンダント、マミはチアガールだった。
「これって、確かに制服だけど・・・・・・」
「学校の制服で良かったのに!」
「チアガールって何よ! 確かにユニフォームを日本語にすると制服かもしれないけど!」
オタクパーティーの露骨な視線に晒されながら思うように行かない変身に頭を抱える3人だった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿こそは水曜日にできるように頑張ります。たぶん魔王城を目指して出発する展開になると思います。
そういえばついにこの小説の総合ポイントが2000を超えました。本当にありがとうございます。これからも応援をよろしくお願いします。