289 地下都市の新開発地区
投稿間隔が丸々1週間開いて大変お待たせいたしました。どうやらお盆明けの仕事の忙しさも一段落の兆候が見えてきました。来週は2話投稿できそうです。投稿がない期間もたくさんのアクセスとブックマークをいただきましたありがとうございました。読者の皆さんにこうして応援していただくと、頑張ってできるだけ多く投稿していこうというモチベーションに繋がります。これからもどうぞ応援してやってくださいませ!
さて、お話はパワードスーツが残されている地下都市が今回の舞台になります。たぶんそう簡単に手に入らないような気がしますがどうなるでしょうか・・・・・・
それから、お知らせがあります。前回の投稿でお知らせした新たに連載を開始した小説【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】が、8月26日のローファンタジーランキングで70位になりました! ランキングに入るのはこの小説に続いて作者としては2作目になります。
おかげさまで中々評判も良くって、まだ12話しか書き進めていないにも拘らず、かなりの数の閲覧数を記録しています。満点評価もすでに3件いただきました。
世界規模の戦争にに巻き込まれた日本がどう戦っていくかという、現代を舞台にした異能力バトルものです。各国にも存在する異世界からの帰還者たちと主人公が果てしない戦いを繰り広げてくストーリーになる予定です。現在の社会情勢ネタなどもふんだんに取り入れていますので、ニュースで耳にした話が戦争に繋がる流れなどもなるべく克明に描写していくつもりです。
すでに12話まで投稿を終えて、主人公を取り巻く世界の動きなどが詳しく解説されています。興味がある方は下記のURLか作者のページにアクセスして作品を検索してください。
URL https://ncode.syosetu.com/n1241ex/
Nコード N1241EX
飛行艇は順調なフライトを終えて、ガルデレンの郊外に着陸する。ちょうどその辺りはかつて岬とアルネが死闘を繰り広げた海岸近くの場所だった。
「各種機器正常、着陸地点異常なし。搭乗口オープン!」
正常な着陸を確認したタクミがエンジンを停止すると、コックピットから外に出ようとする。副操縦士の美智香も彼に続こうとするが、航行士の空はその場から動こうとしない。
「私はここで留守番をしている。圭子のせいで筋肉痛が治っていない。動くのが億劫」
空は例の重力トレーニングルームの騒動の時に、その華奢な体に最大6Gの重力による負荷を受けていた。瞬間的なものだったので生命に影響を及ぼすような大きなダメージこそなかったが、体中の筋肉が過大な重力に耐えかねて悲鳴を上げた影響で、3日経ってもまだその後遺症に悩まされている。
これが普通の人間の当たり前の姿で、そんな6Gという苛酷な環境でトレーニングを開始する圭子の方が絶対に間違っているのだ。
「そうか、仕方がないな。機内の空調と照明はオンにしておくから、ここでゆっくり待っていてくれ」
「うん、ラウンジで酸素カプセルに入って休んでいる」
怪我や筋肉の故障の時は体に多くの酸素を取り込んで細胞を活性化すると治りが早くなる。現在も一部のスポーツ選手が使用しているが、空が持っているのはそれを更に進化させた3000年後の科学技術による製品だ。
客室に向かってそこに待機している残りの3人と合流すると、搭乗口からタラップを降りて地上に出る。
「そうなんですか、空ちゃんはずいぶん酷い目に遭いましたね」
「タレちゃん、その通りです! 私も圭子ちゃんの重力トレーニングに巻き込まれて、最初のうちは筋肉痛で大変でした!」
「春名は色々な意味でもっと鍛えた方がいい!」
「美智香ちゃん、私は戦闘に不向きな令嬢ですから、あんまり鍛える必要はないはずです!」
「いや、その脇腹の脂肪とか」
いつものような和やかな会話が弾みながら、地下都市に繋がる教会の総本山を目指して歩いていく。
「どうやら国王の統治がこの街でも順調に進んでいるようだな」
街の門の警備や治安の維持は一時冒険者ギルドが自主的に務めていたのだが、現在は国王直属の騎士団が街に置かれて、犯罪の取り締まりや教会の残党の摘発に目を光らせている。あの若い国王がタクミたちの後からこの街に直々に乗り込んで、色々と手を回したのだろう。
「教会の入り口が騎士団たちの手で封鎖されているな。どうやって中に入るんだ?」
「方法はあるだろう。まずは街の統治を行っている場所に向かおう」
アルネはタクミたちとアルストラ王国の関わりを全く知らなかったので、どうやら荒っぽい手段を頭に思い描いているようだ。こんな場所で騒ぎを起こしたくはないので、タクミは穏便に内部に入る方法があると説明を加えておく。
「俺たちはアイゼルの英雄にして、この国の教会を滅ぼした一行だ。教会の総本山に入る許可を得たい」
この国の騎士なら誰でも知っている白銀のパワードスーツに身を包んだタクミが現れると、騎士団の本部がある建物の入り口で番をしていた衛士は慌てて内部に駆け込んでいく。
「おお! そのお姿は正しく我が国を救ってくださった皆様に間違いございません! 総本山に入りたいとは、何か御用がございますか?」
「大した用ではない。忘れ物を取りに来ただけだ」
「そうですか、それでは案内の者を付けますので、内部をごゆっくり探索してください」
「感謝する」
タクミはパワードス-ツから降りて機体は収納にしまいこむ。その様子を目撃したこの街の騎士団を率いる団長はビックリ仰天の表情だ。どのような仕組みになっているのかテンで理解できない。
だがタクミたちにとってはそんな話はどうでもよくて、総本山に入る許可を得たのが重要だった。この街に駐屯している騎士団は、あのマールン平原の戦いに参加した者ばかりで構成されているので、教会騎士団を薙ぎ倒していったタクミのパワードスーツの活躍を誰もが鮮明に覚えていたのが幸いした。
「それでは総本山に向かうとしようか」
タクミたちは案内役の騎士の後について総本山に向かう。門の横の通用口から入り込むと、そこから先の案内は断って敷地の奥にどんどん進んでいく。一度入っているので、どちらの方向に向かえばよいのかわかっている。
「ここだったな」
例の教皇の居城の裏手にある小さな小屋の前に立つと、収納から鍵束を取り出して入り口を開く。小屋の内部はタクミたちが以前入り込んだ時のままになっている。
「ここから先の案内は頼む」
「ああ、私に任せろ」
アルネが先導して階段を地下に降りていく。その先にある昇降装置を何回か乗り継ぐと、タクミたちの目の前には地下都市の大空間が広がる。
「ここには戻ってくるつもりはなかったが、こうしてまたやって来たな」
アルネがぼそりと呟く。その呟きに秘められている感情の正体が何なのかは、タクミたちが知る由もない。それは感傷なのか後悔なのかは、アルネ自身にしかわからなかった。
近代的だが全く人の気配がない静まり返った空間に一行の足音だけが響く。長らく放置されていたので、通路にはホコリが積もっている。
「私たちの同胞が何でここを廃棄したかわかるか?」
「広過ぎると言っていたな」
「その通りだが、詳しく話すとこの施設を維持するだけで最低でも1万人の人手が掛かるんだ。この地下に生き残った千人ポッチじゃとても手が回りきらなかった。だからこの施設は全て自動運転に切り替えて、私たちは自分たちの人口規模に合わせた新たな場所を建設していたんだ。それが新開発地区だ」
「自動運転だから1000年経ってもこうしてまだ施設が維持されているんですね」
「春名、まだ考えが甘い! これだけの施設を完全に自動で維持するのは至難の業。どこかが必ず経年劣化で壊れていく」
「美智香とかいったな。お前が言う通りだ。補修の手が回りきらないから、最低限必要な動力炉を動かして、その他の機能は殆ど止まっていると言った方が正確だな。ここはすでに死んでいる都市なんだ。そう遠くないうちに動力炉も停止して、ここは地下に埋もれた誰も知らない廃墟になっていくだろう」
最強種族としてかつて銀河中に名をはせたガルバスタ人の一部が移り住んだ幻の地下都市『グラン・エル・サランド』の悲しい歴史を物語る近代都市の面影が、かえって故郷を失った種族の悲哀を訴え掛けているように感じてくる。
見た目はそこら中の通りに人の姿があってもおかしくないように感じる分だけ、余計に物悲しい滅びの姿が目に付いてしまうのだった。
「さて、ここから先が新開発地区だ。内部はどうなっているのか私にもわからない。ロックを外してもいいか?」
「念のために全員パワードスーツを着用しろ。美智香はシールド展開」
「ご主人様、承知いたしました」
「私のパワードスーツはジョンが改造して出来上がったばかりだ。まだ一度も性能試験をしていないが、この際止むを得ないだろう」
「タクミ君、私はずっと着ぐるみ姿なんですが」
タクミはチラリと春名の姿を見ると、そこにはモコモコのイヌの着ぐるみが立っている。最近では寝るとき以外春名は殆どこの姿で過ごしているのだ。
「あ、ああ、春名はそのままでいいんじゃないか」
「そうですよね! やっぱり着ぐるみ姿こそ至高ですよね!」
「そ、そうだな! 春名にはよく似合っているからいいだろう」
どう見ても苦し紛れのタクミの返答だが、単純な春名は『よく似合っている』と言われてニッコリしている。今やこの着ぐるみは春名の体の一部になっているのかもしれない。
「全員準備はいいな。アルネ、ロックを解除してくれ」
「わかった、開くぞ」
ひと際厳重に閉じられている金属製の大きな扉がアルネが手を触れただけで左右に開いていく。そしてその内部がタクミたちが居る側からに光で照らされると・・・・・・・
「お化け屋敷ですか?」
「酷い荒れ果てようですね」
春名と岬が同時に同じような感想を口にする程、内部は暗くて荒れ果てている。
「すまないがライトを貸してくれ。確かこの辺りに外部の電力を繋ぐスイッチがあったはずだ」
タクミがライトを手渡すと、アルネは新開発地区に内部に入り込んで装置を探している。
「あったぞ! これだな」
中からアルネの声が響くと『ガシャン!』という音と共に重量がある物が降ろされていく。すると天井にある照明のうちいくつか生き残っている物がボウッとした光を周囲に広げていく。
「まだずいぶん薄暗いですね」
元々ビビリな性格の春名は今から本当にお化け屋敷に入るかのような緊張感を漂わせている。着ぐるみ姿で岬の背中にしっかり張り付いているのだった。
「カラン、カラン」
無人のはずの内部から音が聞こえてくる。その音は次第にタクミたちが立っている入り口に近づいてくるように全員の耳に聞こえ始める。
「タ、タレちゃん! 嫌な予感がしますよ! 絶対に何か出てくるはずです!」
「春名ちゃん、もう少し落ち着いてください。大丈夫ですから」
今度は春名が岬にヒシッと後ろから抱きついている。モコモコの毛が岬の頬や首筋に触れて、とってもこそばゆく感じる。
「カラン、カラン」
その音はどうやら入り口から見える1つ目の脇道から聞こえてくるようだった。そしてその音の正体が脇道を抜けて、正面の通りに姿を現す。
「ヒイイーーーー! ガイコツのお化けですーー!」
春名はホラー系が大の苦手だった。ラフィーヌのダンジョンでも大量のアンデットと出くわしたが、あの時は空が神聖魔法で次々と天に帰していったので、それ程の恐怖を感じる暇もなかった。だが今回、その肝心の空は飛行艇で休養中だ。ビビリの春名にとっては大ピンチがやって来た。
「この内部からは地下都市には殆ど無かった大量の魔力を感じる。ここで死んだ人間が魔力によってアンデットに変わった可能性が高い」
「ということは、あのスケルトンは新開発地区の住民の成れの果てという訳だな」
美智香の分析はおそらく正解だろう。タクミの確認に美智香はひとつ頷いて答える。
「参ったな、空が居ないのは誤算だ。こうなったら力尽くで倒すしかないようだな」
「タクミ、ちょっと待って! あのスケルトンはそう簡単に倒せる相手じゃないかもしれない。様子を見ながら効果的な撃退法を探して!」
「美智香が言う通りにしよう。どれ、全員下がってくれ」
1歩1歩進んでくるスケルトンにタクミはパワードスーツ姿で迫っていく。狭い場所なので、両腕に仕込んであるレールキャノンや魔力砲は使用できない。ならば力で捻じ伏せるだけと覚悟を決めて、スケルトンの至近距離に近づく。対してスケルトンは手にする鉄パイプを振り被ってタクミに襲い掛かる。
「ガキーーン!」
大きな金属音が響く。タクミはスケルトンの鉄パイプをお馴染みのバールで受け止めていた。鳴り響いた金属音は双方の武器がぶつかった音だ。
「なんだこいつは?! パワードスーツと互角の力だぞ!」
バールを手にするタクミ自身が驚きを隠せなかった。この世界にやって来て以来、初めてタクミのパワードスーツと互角に討ち合う相手に出くわしたせいだ。それもジョンの手でパワーアップしている機体だからこそ、こうして互角の勝負に持ち込めている。もし従来の性能だったら完全に力負けしていただろう。
両者は互いを跳ね除けようと武器に更に力をこめる。タクミのパワードスーツの背中の部分に取り付けられているジェネレーターが大量の魔力を吸収して、内部システムが電力へと変換していく。
「電力充填80パーセント、そろそろいいだろう」
タクミは更に出力を上げて、空いている右手でスケルトンの鉄パイプを掴むと強引にバールから引き剥がす。そして自由を取り戻したバールを、スケルトンの脳天に叩き込んだ。
「ガシャーーン!」
脳天を直撃したバールは頭蓋骨を粉砕してもまだ勢いが衰えずに、脊椎や肋骨を砕きながら骨盤の辺りでようやく止まった。体幹部を完全に破壊されたスケルトンは体を支えられなくなって地面にと折れ込む。だがそれでも、まだ動かせる両腕をタクミの足元に伸ばそうとする。
「ゆっくり休め」
その両腕の骨を粉々に踏み砕くと、スケルトンはようやく動きを止めた。まさかこれ程の力を持つ魔物が居ようとはタクミにもある種の驚きだったようだ。
「力任せに対峙すると相当苦労するようだ。次は美智香の魔法を試してみよう。それじゃあ内部の探索を開始するぞ」
こうして5人は新開発地区の薄暗い不気味な場所に足を踏み込むのだった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は水曜日を予定しています。地下空間でパワードスーツを手に入れるためのハードな戦いが繰り広げられる予定ですので、どうぞお楽しみに!