287 魔法少女の正体
お待たせしました287話の投稿です。お盆も終盤に差し掛かり、帰省していた皆さんもそろそろ戻ってくる頃でしょうか? またいつもの毎日が戻ってきますね。暑さに負けずに頑張っていきましょう!
お話は前半と後半で全く別の内容になります。タイトルにある魔法少女の正体とは一体・・・・・・
それからお知らせです! 前回にもお知らせした通り新しい作品の投稿を開始しました。今度の作品は近未来の日本が舞台で、世界各地に続々と現れた異世界からの帰還者たちが国家の命運を掛けて戦う世界戦争を描く作品です。異能を持った存在同士が命を懸けて争う、アクション中心の作品になりました。自分で言うのもなんですが、面白いと断言できる自信作です!
すでに9話まで投稿しています。まだ戦争自体は始まっていませんが、次第にその流れに巻き込まれていく主人公たちの様子が伝わる内容になっています。敵対する政府や各国の動きなども、中々目が離せないように丁寧に描いている(?)つもりです。
興味のある方はぜひ下記のURLを検索するか、この小説の上部にある作者名をクリックして作者のページからアクセスしてみてください。
作品名 【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】
URL https://ncode.syosetu.com/n1241ex/
Nコード N1241EX
フライトシュミレーターでの訓練を終えて、タクミ、美智香、空の3人が飛行艇に乗り込んで、これから試験飛行に出る準備をしている。
「液酸液水燃料フルタンク、エンジン異常なし、各種センサーオールクリアー、天候は晴れで付近に低気圧等は観測されない」
コックピット後方に座る航行管制士の空がモニターを見ながら異常がないと伝えてくる。日頃の腐女子の顔は封印して、真剣な表情でモニターを見ている。
「了解、風速微風、3分後に離陸する」
メインパイロットはタクミで、隣に副操縦士の美智香が座って操縦桿の具合を確かめている。コックピットの中にはエンジンが奏でる高音が一段と大きく響いてくる。
「自動離陸スイッチオン! エンジン出力を80パーセントに保て!」
「了解」
タクミが離陸スイッチを入れて、操縦桿をゆっくりと前方に傾けると、ノズルが下向きになっているエンジンから『ゴーー!』という強力な噴射が開始されて機体に大きな浮力がかかる。
「離陸!」
体がシートに押し付けられるような感覚と共に、機体は上昇を開始してあっという間に高度2000メートルまで達する。
「このまま8000メートルまで上昇してから水平飛行に移る」
「了解」
「付近を航行する飛行体は無し」
異世界だから空を飛んでいるとしたらドラゴンかワイバーンくらいだろうが、その姿はレーダーには映っていない。あっという間に雲を抜けて飛行艇はマッハ0.9を維持して水平飛行に移る。
「エンジン、機体共に異常なし。外気0.2気圧、気温マイナス18度」
「了解、天候が安定しているから揺れも少ないな」
「自動で離陸できるとは言え、タクミは中々の腕利きパイロット」
「いや、さすがにまだ緊張している。パワードスーツとは勝手が違うからな」
副操縦席から美智香が珍しくタクミを褒めている。2人ともシュミレーターを使って200時間くらい訓練していたが、実機を操縦するのはこの日が初めてだった。
「よし、機体は安定しているから自動航行にするぞ」
「了解」
「レーダーには何も映っていない。現在位置ラドルクの北80キロ」
ドレナンの街の外を離陸して約30分でローランド王国との国境の街ラドルク付近まで来ている。馬車で旅すると1週間は掛かる道のりだ。
飛行艇はあらかじめ入力しておいたフライトスケジュール通りに、一旦南に向かってから徐々に旋回して大きく弧を描くようにラドルクに戻ってくる予定だ。
「美智香、すまないが客室や貨物室の様子を見てきたいから、しばらく操縦を任せるぞ」
「了解」
タクミはコックピットの扉を開いて後方の客室の様子を確かめに出て行く。今日は試験飛行なので操縦席以外に誰も搭乗していないが、フライト中に何か異常はないか点検を開始する。
客室には窓際に左右1列ずつゆったりとしたシートが50席並んでいる。どの席もファーストクラス並みのスペースが確保してあって、そのままベッドにもなる。
空調や照明の不具合はないか確かめながら、客席スペースを抜けてさらに後ろのラウンジに向かう。ここは食事や歓談ができるように向かい合わせにソファーが置かれて、真ん中にはテーブルが設置されている。調理は無理だが、電磁式のコンロもあるのでお茶の準備ができるようになっている。もちろん冷蔵庫やレンジ、スチームオーブンなども置かれているので、冷たい物も暖かい物も希望に沿って飲食できる。
タクミはラウンジを点検すると一番奥にある階段を降りていく。階下は貨物スペースになっているが、ここがケルベロスや馬車を引く馬たちが過ごす場所になるので環境がどうなっているのか確かめに来たのだ。
「気温、気圧とも地上と同様の数値に管理されているな」
生き物を運ばなければならないので環境は重要だった。スペースは大柄なケルベロスと馬が20頭入っても十分な広さがある。さすがに運動はできないが・・・・・・ 飛行中はじっと我慢してもらうしかない。
一通り見て回ったタクミが再び操縦席に戻ってくる。
「客席、貨物スペースとも異常はなかった。これなら全員を一気に運んでも問題はないだろう」
「了解した、今のところフライトには異常なし」
「了解、このまま着陸まで美智香に任せるぞ」
「了解」
飛行艇はこのまま美智香の操縦で無事にドレナンの街の外に作られた仮設飛行場に着陸して、試験飛行を終える。
「ご主人様、美智香ちゃん、空ちゃん、お帰りなさいませ」
いちいちピラミッドに入って5階層からジョンが待っている場所に転移するのは面倒なので、仮設飛行場の脇にジョンの協力で転移魔法陣が設置されている。そこから試験飛行を終えたタクミたち3人が戻ってくると、メイド服姿の岬が笑顔で出迎える。
「ただいま、試験飛行は順調だったぞ」
「それは良かったです。食事の準備ができていますからこちらへどうぞ」
約2時間のフライトを終えて戻ると、ちょうど昼食の時間帯だった。パーティーごとにテーブルに着いて給仕ロボットが運んでくる料理を各自が口にしている。迷宮の攻略を終えてすでに2週間が経過しているので、最初は口が開きっぱなしでそこにある物を見て驚いていたクラスメートたちもずいぶん慣れた様子だ。
「食事中すまないが話を聞いてくれ! 飛行艇の試験飛行が無事に終わった。点検と整備を行って3日後にガルデレンに出発する。今回は少人数で行ってくるので、その間は各自自由に過ごしてほしい」
「剣崎君、自由にって言われてもここで何をすればいいのか全く見当が付かないんだけど?」
恵が質問を投げ掛ける。この場の環境には慣れたといっても、クラスメートたちは何をして良いのやらと考えている最中だった。恵はタクミから何か参考になる提案を望んでいる。
「そうだな、施設を借りてトレーニングをしてもいいし、ジョンと武装の強化の相談をするのもいいだろう。特にジョンは話し相手を求めているから、気軽に相談に応じてくれるはずだ」
「よーし! その話乗ったぜ!」
立ち上がって大声を上げているのはマギカクラッシュの美晴だ。脳筋の上にせっかちなので、ジッとしているのが一番苦手だった。そこに『武装の強化』というオイシイ話をぶら下げられたら飛びつくのは当たり前だ。
「そうねえ、私たちも力不足を感じていたから、美晴の意見も良いかもしれないわね」
「愛美さん、美晴ちゃんもたまには良いことを言いますね!」
「エミ! 『たまには』っていうのはどういう意味か説明しろ!」
「美晴ちゃん、そのままの意味ですからどうか安心してくださいね」
「1ミリも安心できねーよ! 私に対して失礼だろうが!」
毎度の微笑ましい美晴とエミの遣り取りを周囲は笑い顔で聞いている。美晴のパーティー内での立ち位置がこれでよくわかる。元々彼女は、圭子、春名と並んで追試の常連だった。クラスの3バカの一員として確固たる地位を占めていたのだが、この世界にやって来てもそれは全くブレていないとクラス中が再認識している。
「武器の強化の相談に乗ってくれ!」
「いきなりだね。まずは挨拶だろう。ようこそ、君たちを歓迎するよ」
昼食後にジョンの居る場所を訪れたマギカクラッシュの5人、いきなり美晴が何の説明もないまま乱暴に用件を切り出してジョンに窘められている。AI知能に美晴の知能が屈した瞬間だ。最初から勝負になっていないが・・・・・・
「礼儀がなっていなくてすみません。元々こんな子なんで気を悪くしないでください」
「そうです! 美晴ちゃんはクラスで1,2位を争うバカですから!」
「エミ! あとでゆっくり話し合いをしようじゃないか! 場外乱闘もアリという特別ルールを付けてもいいぞ!」
「美晴! ちょっと大人しくしていなさいね」
「サーセンでした!」
和やかな挨拶が終わってここから本題が始まる。
「さて、武装の強化だったね。君たちはとても特殊な存在という自覚はあるかい?」
「はい、美晴ちゃんを見ていればわかります!」
「エミ! 私が何だって?!」
「それだとちょっと『特殊』の意味が違うようだね」
「どう違うのか説明を求めるぞ!」
ジョンに美晴が食って掛かっている。そんな言動を取るからAI知能にまで『特殊』扱いされるのだという自覚を持ってほしい。
「順を追って説明しようか。君たちは地球外の生命体によって魔法少女と呼ばれる存在になったんだね」
「やはり私たちを勧誘したあいつは宇宙人だったんですね」
「そうだね、この世界以上に魔法技術が極度に発達した惑星の生命体だよ。パワードスーツが科学技術を用いて人体の何倍もの力を発揮するのに対して、君たちは魔法技術で人間には不可能な力を発揮する存在だよ」
「パワードスーツというのは剣崎君が操っていたロボットのような機械ですね」
「厳密にはロボットの定義からは少し外れているが、外見は見分けが付かないかもしれないね。話を元に戻すと、君たちは偶然か必然化はわからないが、魔法少女となってこの世界に召喚された。それはもしかしたら最初からロッテルタ政府と戦う運命だったのかもしれないね」
「私たちはこの前聞いた銀河連邦の戦いと関わりがあったということですか?」
「その通りだよ。君たちを勧誘した者は戦力の増強が目的だったんだろうね。いずれやって来るロッテルタの侵攻に備えるための。つまり魔法少女になった瞬間から君たちは銀河内の勢力争いに組み込まれていたという訳だね」
ジョンの話通りに地球外からやって来た知的生命体は近い将来に予期されるロッテルタの侵略に対抗するための戦力を欲していた。それは何とか自分たちの惑星を守りたいという自衛目的の側面が強い。だがそれが他の惑星の知的生命体を巻き込んで良いのかという話になると、これはこれで議論の余地が残るだろう。
「そうだったのならなお更今の装備では戦えないと思います」
「そうだぞ! ドカーンと敵を吹っ飛ばせる武器がほしいんだよ!」
美晴だけでなくてマギカクラッシュのメンバーは魔王やタイタンとの戦いを通じて戦力不足を痛感していた。特に美晴は圭子のとんでもない威力の一撃が羨ましくてしょうがなかった。意地でも同等以上の力を手に入れてやると心に誓っている。
「君たちは体内にある魔力を使用して武器や装備で戦っているね。そしてその魔力が尽きると戦えなくなる」
「その通りです。魔力が尽きると魔法銃が使えなくなります」
「つまり体内にある魔力が君たちの戦闘能力の限界を示しているんだね。そこで私が魔改造したパワードスーツの仕組みを簡単に説明しようか。最高傑作とも呼べる3体のパワードスーツ、現在は圭子、岬、春名が搭乗しているタイプだよ。その3体は外部から魔力を取り込んで活動時間無制限の上に、魔力を用いてとんでもないパワーを発揮するんだよ」
「春名ちゃんのあの着ぐるみもパワードスーツなんですか?」
愛美は春名がタイタンの巨体を横倒しにしたり、魔王を100メートル以上突き飛ばしている場面を思い起こしている。なぜあんな計り知れない力を発揮できるのか疑問だったが、パワードスーツのおかげだとしたら素直に頷ける。
「そうだね、ヘンテコな外見だけどあれもれっきとしたパワードスーツだよ。だが君たち魔法少女は魔力によってパワードスーツに搭乗している状態を作り出している。したがって君たちはパワードスーツを使用しても効果が上がらないんだ。現在の技術では2重に力を増幅するのは不可能だからね」
「えー! それじゃあこれ以上は強くなれないじゃん!」
「君の名前は?」
「美晴だけど」
「美晴君はせっかちだね。迅速な判断は美徳だけど、拙速な判断は身を滅ぼすよ」
再び美晴がジョンに説教を食らっている。彼女以外の4人は『もっと厳しく言ってくれ!』という表情でその様子を見ているが、当の美晴はジョンの言葉の意味を理解し切れずにキョトンとした表情になっている。せっかく日本語でわかり易く話しているんだから、このくらいの意味は理解してもらいたいものだ。
「それでは何か方法があるんですか?」
「そうだね、パワードスーツに取り付けてある魔力を取り込むジェネレーターを使用すれば君たちのパワーアップに繋がるかもしれないね。すでにデータはたくさん取れているから、安全性は確保されているよ」
「わかった! それで行こうぜ!」
「美晴! ちょっと落ち着きなさい! そのジェネレーターはすぐに使えるんですか?」
「パワードスーツに組み込んである物は少々大型でね、君たちが身に着けて支障が無いくらいに小型化しないといけないな。うまく術式を組み込めば、魔力を使用する傍から新たな魔力が補給されるだろうね。余剰な魔力は体を覆うシールドの構築と武器の強化に回せば無駄にならないよ」
「すごいアイデアですね! それではそのジェネレーターの試作品を作ってもらえないでしょうか? 自分たちで色々と試しながら完成させていきたいんです」
「良い考えだね。君の名前は?」
「愛美です」
「愛美君だね、君には良いリーダーとしての資質を感じるよ。それでは早速試作品を作製してみよう。出来上がったら声を掛けるから2,3日待っていてくれるかな」
「ありがとうございます。相談して良かったです」
「おう! よろしく頼むぜ!」
結局最後まで美晴の態度は改まらなかった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週末の予定です。中々魔王城に殴り込みを掛ける展開に辿り着きませんが、近いうちに何かしらのアクションが起きる予定です。どうぞお楽しみに!