284 迷宮のラスボス1
お待たせいたしました、284話の投稿です。
いよいよ迷宮のラスボスの前に進んだクラスメートたち、彼らが無事に攻略できるかはこの最後の一戦に懸かっています。果たして彼らの力が通用するのか・・・・・・
それからお知らせです! またまた新しい作品に手を出して投稿を開始しました。今度の作品は現代日本が舞台で、世界各地に続々と現れた異世界からの帰還者たちが国家の命運を掛けて戦う世界戦争を描く作品です。異能を持った存在同士が命を懸けて争う、アクション中心の作品になりました。自分で言うのもなんですが、面白いと断言できる自信作です!
すでに冒頭の5話を投稿しています。まだ戦争自体は始まっていませんが、次第にその流れに巻き込まれていく主人公たちの様子が伝わる内容になっています。
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作品名 【異世界から帰ったら帰還者同士の世界戦争が始まりました】
URL https://ncode.syosetu.com/n1241ex/
Nコード N1241EX
「タクミ君、ここを出たらその先はどうするつもりですか?」
「うーん、春名の質問の答えがまだ見つかっていないんだ。本当ならそのまま魔王城に向かいたいと考えていたが、肝心の所在地の手掛かりが無くなったのが痛いな」
例の魔王を泳がせて位置情報発信機で魔王城の場所を突き止める作戦が、ドレナンでの魔王との戦いで全部パーになっていた。食後のお茶を口にしながらタクミは次の手を考える。
「ご主人様、それでも多くの人を魔王の手から救えたのですから」
「岬、そんなにフォローしないでくれ。美智香の指摘通りになって街に大きな被害が出た点は、最初からあの作戦の懸念材料だった。あれだけの人命が失われた責任を俺なりに感じているんだ」
「でも魔王は首を切っても復活してしまうんだから、最終的に滅ぼす方法が無いんじゃないの?」
「そうだな、圭子が言う通りで、どれだけ体にダメージを負っても再生してしまう存在は厄介だろうな。それでも、絶対にこの世界に戻れない場所に封印する方法ならあるさ。ヤツは岬の一撃で燃え尽きた灰になったが、それでも復活するようだったら今度は俺の手で何とかする」
「魔王城の位置を特定するヒントならすでに存在する。まずはこの大陸ではない場所にあるのは確実」
美智香の仮説にタクミは目を閉じて考え込む。確かに自分たちはこの大陸の殆どを踏破しているが、どこにも魔王城の存在の噂すらなかった。魔族たちは常に転移してこの大陸に現れる点からしても、美智香の仮説が正しいように感じる。
「別の大陸か・・・・・・ そういえば宇宙船を探査した時に飛行艇を発見したんだ。今は諸々の改造でジョンに預けてあるから、あれでこの世界を上空から見てみるのもいいかもしれないな」
「船で旅をするよりも効率が良い」(空)
「空船長はもうお役ご免ですか?」(紀絵)
船旅終了という残念なお知らせに紀絵は肩を落としている。その理由は言うまでも無く、趣味の釣りができないせいだ。
「飛行艇は離着陸を水面で行うから、留守番をしていれば釣り三昧」
「美智香ちゃん、本当ですか! 私は留守番を希望します!」
「紀ちゃんが言い切っているよ! どれだけ釣りが好きなのよ!」
「たぶん圭子が体を鍛えるのと同じくらいか、空が変な本を好きなのと同じレベル」
「「なるほど、それはわかり易い例えだ」」
美智香の解説に圭子と空が大きく頷いて納得しているが、紀絵はその不名誉な例えに若干気分を害している。いくらなんでも圭子が体を鍛えるのはすでに呼吸と同じレベルの習慣だし、空が怪しげな本を鑑賞するのは食事と同じレベルに『必要な行為』だ。紀絵は心の中で『あそこまで重症じゃない!』という抗議の声を上げている。
一方その頃春名はすっかり飛行艇による空の旅を思い描いて、お花畑の住人に変身していた。
「なんだかダイナミックな冒険の旅が始まる予感がします! 今まで行っていない場所にはどんな人たちやきれいな景色が待っているんでしょうか?」
「だから魔王城だってば!」(美智香)
「ハルハルは肝心の目的をいっつも見失うんだから!」(圭子)
「テヘへ! そういえばそうでした! ウッカリしていました」
「春名のウッカリはいつものこととして、ここを出たら飛行艇でこの星の探査に乗り出す方向で良いんだな?」
「タクミ君まで私をウッカリ扱いですか! 失礼じゃないですか!」
結局和やかなティータイムは、春名がウッカリ者という結論に落ち着くのだった。
翌朝、食事を済ませたタクミたちが出発の準備を整える。これから迷宮のラスボス『タイタン』が待ち受ける場所に向かうためだ。
他のパーティーにはタイタンの部屋の前で待機しているように伝えてある。彼らがどこまで強くなっているか別行動を開始した時点ではわからなかったので、一旦そこで待たせておいたのだ。それだけあの石でできた怪物には手を焼くだろうというタクミの予想だった。
ここまで来る際に通り過ぎたメデューサの部屋で、5人揃って石になっていたオタクたちの回収も済ませてある。サキュパス同様にメデューサの色香に目が眩んだオタクたちは、オブジェとして部屋に飾られていた。仕方なしにメデューサを倒してからその血を掛けて、5人を元に戻しておいたのだ。
タクミたちによって救い出されたオタクたちは、すでに迷宮落伍者の烙印を押されて、エイリアンの後方をトボトボと進んでいる。
現在の彼らのテンションはどん底にある。ルノリアに格好良い所を見せようとしたが、結果的にサキュパスには干からびたミイラのようにされて、メデューサには石に変えられた。
最初から相手にもされていられないとは知らずに、オタクたちの心情は『ルノリアに格好悪い所を見られた!』で一致している。どこまで行っても彼らの空気の読めなさは救い難かった。
そんなオタクたちの様子に、春名が1人だけ嬉しそうな表情をしている。石になったのは自分だけではなかったのが、ちょっとだけ嬉しかった。言ってみれば落第仲間が増えたようなもので、決して自分の立ち位置が変わったわけではないが、同じ立場の者が現れたのは安心材料なのだ。
「全員揃っているか?」
「よう、タクミ! やっと来たか! 待っていたぜ」
迷宮の最深部に到着したタクミの前に、パーティーごとにまとまって過ごしているクラスメートたちの姿が飛び込んでくる。タクミたちの姿をいち早く目にした勇造が立ち上がって、右手を差し出して出迎える。
「何だ、やっと来たのか! いい加減待ちくたびれたぞ!」
2人の様子を目にしたアルネが同じように声を掛けてくる。勇造たちは3日、アルネたちは2日間ここでタクミたちの到着を待っていた。気が短いアルネはいい加減待ちくたびれて、1人で何度もラスボスが待ち構える部屋に飛び込もうとして、比佐斗たちが体を張って何とかそれを押し留めていたのだ。
「待たせてすまなかったな。ここまで全員無事に到着できたのは何よりだ。さて、準備はできているか?」
「「「「もちろんだ!」」」」
タクミの問い掛けに『蒼き稲妻(仮)』の脳筋たちが一斉に立ち上がって、ビシッとサムアップする。紗枝だけはこの動きについていけずに、まだ座ったままで野郎共の一糸乱れぬ統率された行動を呆れて見上げている。彼女はちょっと離れた場所に居る恵たちとおしゃべりの最中で完全に出遅れた。
「紗枝ちゃんも苦労が絶えないわね」
恵は慈悲に満ちた瞳で紗枝を見つめて、そっと彼女の肩に手を置く。紗枝は黙って軽く頷くだけだ。それ以上は彼女たちの間に無駄な遣り取りは不要だった。
「よ-し! 腕が鳴るぜ! チャチャッと片付けてやる!」
恵たちの反対側では、巨大ハンマーを豪快に振り回しながら美晴が立ち上がっている。その周囲の魔法少女たちは『また始まった!』という表情で俯いている。どこのパーティーでも、脳筋の存在はそれだけで十分周囲を引っ掻き回している証に違いない。
「それでは中に入る順番はまたジャンケンで・・・・・・」
「ちょっと待ったー! ク、クジ引きにしてくれー!」
タクミの提案に美晴が涙目で訴えている。ジャンケン最弱の存在のせいでつい先日痛い目に遭ったのが、相当に応えているようだ。それでも春名のように余計な職業が加わらなかっただけまだマシだろう。
「冗談だ、まあ言ってみればここまでは予選のようなものだ。この内部のラスボスこそが、この迷宮の本当の怖さをお前たちにわからせてくれるだろう。全員で中に踏み込むぞ。俺たちが危険だと感じたら、その場で迷宮の攻略はおしまいだ。その覚悟で行け!」
タクミが真剣な表情で宣告すると、ここまでの経験上決して嘘ではないとわかっているクラスメートたちが、一斉に息を呑む。例外は脳筋たちだけだ。ヤツらは決して恐れを感じない。敵がそこに居るなら問答無用で突っ込んでいくだけ、それこそが脳筋のあるべき姿だ。
相当な覚悟を決めてから、全員が立ち上がって最後の試練に挑もうと大きな扉の前に集結する。扉の高さだけで5メートル以上あるのだから、開けるだけでも大変だろう。
「岬、任せるぞ」
「はい、ご主人様」
すでに戦闘スタイルの岬が前に踏み出て、『本当に開いて構わないのか?』と周囲を一瞥する。反対する声は上がらなかったので、両手を扉に置いてから力をこめる。
「バンッ!」
馬鹿馬鹿しくなる程に巨大な扉は、岬の怪力の前にあっけなく両側に開く。普通のドアのように軽々と押し開けた岬に、ギャラリーはドン引きしているが、彼女は清ました表情で何事も無かったように後ろに下がる。
そして開け放たれた扉の奥に佇む存在がクラスメートたちの目に飛び込んでくる。
「な、な、なによ! あれ?!」
「予想以上だな!」
「あんなのどうやって倒すんだよ?」
500メートル四方、天井の高さが100メートル以上ある大空間には、石でできた巨人『タイタン』がゆっくりとその身を起こし掛けている最中だった。
「これは倒し甲斐がありそうだな!」
「俺の拳を思いっきり試せそうだ!」
「この美晴様のハンマーで粉々にしてやるぜ!」
脳筋たちの反応はどうやらこの敵を見ても別の次元を通り越しているようだ。誰一人怯まずに、石の巨人を睨み付けている。計り知れない根性の持ち主がよくこれだけ勢揃いしたものだ。
そして脳筋四天王の最強を自任する圭子は、自分の出番が回ってくるように祈っている。クラスメートの手に負えない時は、いつでも横から掻っ攫って良いとタクミの許可を得ているのだ。すでに世紀末覇者の扮装で、静かに出番を待っている。
「皆さん、頑張って良い画像を残してください!」
春名は着ぐるみ姿で端末を手にして、撮る気満々の表情をしている。自分たちが攻略した時はタクミのレールキャノンで瞬殺したので、画像に収める機会を逸していた。その分『今回こそは!』と気合を漲らせている。ちょっとした戦場カメラマン気取りだ。その気合いを戦う方向に一切向けようとしないのは、実に春名らしい。
「先鋒は私だ!」
槍をシゴキながらアルネがタイタンの足元に突進していく。完全に起き上がったタイタンは、アルネの姿を見て巨大な右腕を振るってくる。高さが40メートル以上たっぷりあるタイタンの腕の太さだけでも高速道路の支柱くらいある。
「なにっ!」
巨体に見合わない俊敏な動きをするタイタンは、アルネにとって予想外だった。辛うじてバックステップで右腕の軌道から脱出する。だがせっかく逃れても、今度はすぐ反対側から豪腕が襲い掛かってくる。
「くそっ! こんなに動きが早いのか! 一旦下がるぞ!」
アルネの決断は素早かった。自分の体勢が不利だと感じたら、すぐに後退を選択する。彼女が無事に下がって来れるように、魔法使いたちが支援を開始する。
「電撃魔法、最大威力で放出!」
恵の声に合せて、お馴染みの4人が一斉に高威力の電撃を放つ。それはタイタンの動きを一瞬止めたが、石でできた体の一部を焦がしただけで、ダメージを与えるには至っていない。
「電撃がダメなら次は炎よ!」
4人が再びタイミングを合せてファイアーアローを放つが、全く同じ結果しか生まなかった。魔法を受けるとタイタンは一瞬たじろぐ様子を見せるが、やはりダメージにはなっていない。それどころかゆっくりと前進を開始して、こちらに向かって距離を詰めに掛かっている。さっきまでは200メートル以上離れていたのが、現在は150メートルに巨体が迫っている。
腕の動きに比べれば巨体を支えないとならない足の動きはゆっくりなのだが、何しろ歩幅があるので一歩進んだだけでも確実に10メートル以上進んでいる。あと10歩前に進むだけで、恵たちが居る場所がその豪腕に襲われるのだ。
(どうしたらいいの? どこかに弱点は無いの?)
魔法を放つ手を止めて、恵は必死にタイタンの体全体を観察する。そしてその額に他の箇所と違う物を発見する。
「狙いは額にある魔法陣! 電撃を放て!」
恵の発見に再び気持ちを強く持った魔法使いが電撃を放っていく。そしてその魔法は・・・・・・
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は水曜日の予定です。