281 ルノリアの奮戦
お待たせいたしました、281話の投稿です。3日前から信じられないようなアクセス数や多数のブックマークが押し寄せて、相変わらず当惑している作者です。日刊ランキングにも載って、なんだかひとつの目標がクリアできたような気持ちです。読者の皆様、本当にありがとうございます。
今は一頃よりもアクセス数が落ち着いていますが、それでも以前の10倍近いアクセスが続いています。どうかこの勢いを持続するために、皆さんの更なるご協力をお願いいたします。面白いと思った方は評価をいっぱいしていただけると、作者としては本当に嬉しいです。
そのお礼というわけではないですが、急遽執筆を前倒しして、今日と明日1話ずつ投稿します。今回は久しぶりにルノリア嬢が活躍するお話です。どうぞお楽しみください!
「しばらくここで休憩を取ろう。お前たちは先に行け!」
タクミはオタクパーティーを追い出すように階層ボスの部屋から叩き出す。どうもルノリアに向ける彼らの視線が気に入らなかったためだ。オタクたちは最後の一瞥をルノリアに向けてから、小さなドアをくぐってボス部屋から出て行くほかなかった。
「さて、この先の組み合わせはどうしようか?」
「タクミ様、一体何の組み合わせですか?」
迷宮初チャレンジのルノリアはこの先の転移魔法陣には2人しか入れないのを知らないので、タクミが説明する。
「私は絶対にタクミ様とご一緒します!」
「「「「「どうせそう言うと思っていたわ!」」」」」
ルノリアが堂々と宣言すると、はなっからこうなるだろうと予想していた女子たちは一斉に声を上げる。今回はルノリアが攻略の主役なので、彼女の意向が最優先される決まりがあったのだ。
「それじゃあ、俺とルノリアが一番先に行くとしよう。あとは各自が相談して決めてくれ」
その結果今回は、春名と岬、圭子と美智香、空と紀絵という組み合わせになる。シロとファフニールは春名たちに、ケルベロスは圭子たちに同行することになった。
タクミとルノリアが転移の魔法陣に入って、光に包まれて別の場所に転送されていく。ルノリアはタクミの腕をしっかりと掴んだまま、不安げに彼に体を寄せている。
「ルノリア、もう着いたぞ。ここからしばらくは通路を進むんだ」
ルノリアは転移の瞬間目を閉じていたので、いつの間にか別の場所に飛ばされたのはタクミから声を掛けられるまで気付かなかった。そしてそこは、またしてもあの不思議な通路が延々続いている場所だった。
「さあ、行こうか」
「はい」
相変わらずルノリアはタクミと手を繋いで手摺が無い不安定な通路を一歩一歩確かめるようにして歩いている。そして通路にある様々なトラップを突破して、現在体育館くらいあるフロアーに2人が立っている。
「タクミ様、ここはもしかしたらまたボス部屋なんでしょうか?」
「うーん、ある意味そうかもしれないが、魔物とは違ったものが出てくるはずだ」
2人がそのまま無言でその場で待っていると、魔法陣が浮かび上がってその中から春名が出てくる。着ぐるみ姿でモコモコの体がタクミたちに向かって歩き出す。
「春名さん!」
ルノリアはその姿を見掛けて駆け寄ろうとしたが、タクミが彼女の手を引いて引き止める。前に進もうとしていたルノリアの小さな体は、タクミに引かれて元の位置に戻っている。
「ルノリア、あれはこの迷宮が作り出した幻だ。迂闊に近付くんじゃない」
「ええ! でも春名さんにそっくりですよ!」
寸分違わずそこに居る春名とそっくりなその姿に、ルノリアは目をまん丸にして驚いている。
タクミが警戒しながら偽者の春名の様子を注目していると、それはタクミたちの前で立ち止まり、どこからともなくちゃぶ台を取り出す。そしてそのちゃぶ台の上に食事を用意してからパクパク食べ始める。全部食べ終わると、後片付けもしないでゴロッと寝転んで昼寝を開始する。
「偽者はこの迷宮での行動パターンを読み取ってこちらに攻撃してくる。どうやら今のが迷宮に入ってからの春名の行動パターンのようだな」
「つまり春名さんはここに入ってから食べるのと寝ることしかしていないという訳ですか?」
「実に由々しき問題だな。このままでは好き放題に太りそうだ」
「私もなんだか不安を感じてきました。できるだけ春名さんの運動に協力したいと思います」
10歳の幼女に不安がられている春名の立場が悲し過ぎる。それにしても迷宮に入ってから食っちゃ寝しかしていない春名も、ある意味凄いと云わざるを得ないだろう。
「タクミ様、この春名さんをどうしますか?」
「放置でいいだろう。そのうち消えるはずだ」
タクミの言葉通りに寝込んだ春名の姿は幻のように消え去った。まるっきり攻撃手段が無いモコモコの着ぐるみを、そこに置いておくのは時間の無駄だと迷宮の管理者も気が付いたのかもしれない。
春名が消え去ると再び魔法陣が現れる。今度は修道着姿の空が現れる。彼女は手にガチホモ本を持って、ルノリアに手渡そうとする。
「成敗!」
男同士が抱き合っている本の表紙を目にしたタクミは、ルノリアの教育上好ましくないと判断して空の偽者を殴り飛ばす。その一撃で春名と同様に空の偽者は消え去っていった。偽者がこのような行動を取ったのは、サキュパスを恐怖に陥れる恐ろしい禁書を所持していると迷宮の管理者が判断したせいだろう。
「ルノリア、おふざけはお仕舞いだ。ここからは気を引き締めるんだ」
「はいっ!」
タクミは万が一に備えてパワードスーツに乗り込んでいる。ここから出てくる相手は素のタクミを大幅に上回る実力者ばかりなのだ。そして魔法陣から紀絵が姿を現す。
「生体反応なし、やはり外見を真似ただけのコピーだな」
パワードスーツの表示画面はそこに現れた紀絵は生物ではないとい情報を示している。どのような方法でこんな精巧なコピーを作っているのかはわからないが、偽者と判明したなら遠慮は要らない。
「ルノリア、相手は紀絵の劣化コピーだ。力は5分の1くらいだから相手をしてみろ」
「はいっ!」
ルノリアは身体強化を掛けて手渡されたストームブリンガーをスラリと引き抜く。150センチそこそこの身長と同じくらいの剣を構えて、真剣な表情で紀絵を見つめる。一方の紀絵は片手にショートソードを構えてルノリアににじり寄って来る。
両者の間合いの探り合いから、先に動き出したのは紀絵だ。素早く踏み込んで剣を後ろに引いて横薙ぎの構えで掛かってくる。だがルノリアの目にはその動きが正確に捉えられている。
「本当の紀絵さんの動きはその程度の生易しいものではありません!」
横薙ぎに振るってくる剣をルノリアは大幅に強化した身体能力を用いて斜めに振り下ろしたストームブリンガーでガシッと受け止める。大剣とショートソードのぶつかり合いならばどちらが有利かはっきりしている。火花を散らしてぶつかった剣はルノリアが勢いで上回って紀絵を押し込んでいる。
「今です!」
チャンスと見たルノリアは押し込んだ剣を引き戻さずに、握りを変えて紀絵の胴体を薙ぐ軌道で全力で振るう。
「ザシュッ!」
ルノリアの目論見通りにストームブリンガーは紀絵の胴体を真っ二つにしている。そのまま偽者は実体がが薄くなって最後には影に溶け込むように消えていった。
「どうやら以前の攻撃パターンもデータとして保管して残っているようだな」
紀絵は今回迷宮に入ってから魔物や階層ボス相手にまだ一度も戦ってはいなかった。それがあのような攻撃を見せるのは、前回の戦闘データを解析してインプットしている証拠だ。ということは、残る3人も同様のことが言える。
「ルノリア、相手は段々強くなっていくから注意しろよ」
「タクミ様、頑張ります!」
ルノリアはやる気になっている。普段は絶対に相手をしてもらえない圭子や岬との対戦が実現するとあって、もう一段気を引き締めているのだった。そして新たな魔法陣から圭子が姿を現す。世紀末覇者モードではなくて、素の状態の彼女だ。それでもルノリアからしたら強敵に違いない。
一歩一歩余裕の態度で圭子はルノリアに近付いてくる。ルノリアはストームブリンガーを正眼に構えてじっとその様子を観察している。
「ルノリア、敵いそうもないと思ったらすぐに止めに入るからな」
「大丈夫です! 本物の圭子さんから感じる闘気の欠片もありません!」
「ほう、闘気を感じられるようななったのか」
タクミはルノリアの成長振りを手放しで賞賛している。才能に恵まれているとはいっても僅か10歳の小柄な少女が圭子の闘気を感じられるのは、目を見張る程の成長といっても過言ではない。
ルノリアは圭子の動きに備えてストームブリンガーの握りをコブシ半分だけ短く持っている。刃渡りが長い剣の威力を重視した特性を生かすのではなくて、取り回しの良さで圭子の動きに対抗しようという思惑だ。そして、圭子は右の拳から1発衝撃波を放って、それを追いかけるようにルノリアに向かってダッシュする。
「威力は本物の圭子さんには程遠い! これなら対抗できる」
そう判断した彼女はストームブリンガーを真横に薙ぐ。ストームブリンガーは、その名の通りに嵐すらも引き起こす魔剣だ。剣が引き起こした烈風は圭子の衝撃波を中和して逆にそのダッシュの勢いまで弱めている。
「今だ!」
圭子の前進する勢いが弱まったと見るや、ルノリアは横に薙いだ剣を後ろに引いたままで、低い姿勢で圭子に向かって突進する。圭子はルノリアを迎え撃とうと左の拳を突き出してくるが、それは想定内だ。ルノリアはもう一段姿勢を低くして、その拳を避ける。本物程ではないにしても、衝撃波を発しながらその拳はルノリアの頭上を通り過ぎていく。
「ここです!」
ルノリアは這うような姿勢から後ろに引いた剣を力の限り横に薙ぐ。そしてその剣は圭子の膝のちょっと上を通過していく。
「ズシュッ!」
ストームブリンガーは見事に偽者の圭子の両足を断ち斬っている。体を支えられずに偽者はバッタリと床に倒れ伏して、幻のように実体を失って消えていく。
「ルノリア見事だな! 圭子の踏み込みを止めて、尚且つ自分から突っ込んでいくとは恐れ入った。剣を持たせればもう俺よりも強いかもしれないな」
「そんなことはありません! タクミ様は誰よりも一番強いです! きっと私なんか子ども扱いですよ」
実際にルノリアは子供なので、タクミは子ども扱いを止めるつもりはない。むしろ最近、お姉さんたちに唆されて、年齢に似合わない色香を漂わせてタクミに迫ってくる彼女に手を焼いている。
「さて、次はどちらが出てくるのか。どっちにしてもルノリアにしては対応しにくい相手だな」
残るは岬と美智香だった。剣を手にする岬は技術とパワーにおいてはるかにルノリアを上回る存在、そして美智香は魔法に関するルノリアの師匠だ。その劣化コピーとはいえ、難敵には違いない。
そして魔法陣から現れたのはメイド服に大剣を手にする岬だった。魔法陣から出てきた彼女は大剣を軽々と何回か振りながらルノリアの前に立ちはだかる。軽く振っただけで空気が唸りを上げて切り裂かれる様子は、劣化コピーとはいえ迫力満点だ。
「やっぱり剣を構える岬さんは凄い迫力があります! 私も力負けしないようにしないと」
その光景を目にしたルノリアは身体強化を2回重ね掛けする。それでもまだ岬のコピーと十分対抗できるかは不明だ。
剣を正面に構えて間合いを計る両者、岬の大剣は刃渡り2メートル以上あって遠い間合いだとルノリアには不利だ。如何に岬の剛剣を掻い潜って自分の間合いに飛び込めるかがカギになる。
岬は無言のまま剣を振り上げてルノリアに迫る。ルノリアもその勢いに対抗しようと全力で打ち掛かる。
「キャーー!」
だが、これだけ身体強化を掛けてもまだルノリアの力は岬に全然及ばなかった。剛力から繰り出す剣は小柄なルノリアを後方に吹き飛ばす。だが、ルノリアも伊達に自らの体を鍛えている訳ではない。空中で器用に体を捻ると、岬の方を向いて剣を構えた姿勢でスタッと着地する。その身のこなしは圭子や紀絵から伝授されたものだった。
「更にもう1回!」
ルノリアが自分の限界まで身体強化を掛ける。界王拳10倍くらいのレベルだ。ちょっとでも気を抜くと、自分の体の動きに逆に振り回されてしまう。
「行きます!」
今度は自分から岬に打ち掛かっていく。床を思いっきり踏みつけて前方にダッシュ、同時にストームブリンガーを一閃して烈風を引き起こす。ちょっとでも岬の体勢を崩して隙を作り出そうという作戦だ。だが岬は大剣を正眼に構えたままで微動だにしていない。
「カキーン!」
全力で斬り掛かったルノリアの剣と岬の剣が火花を散らしてぶつかり合う。更に身体強化を重ね掛けしているルノリアは今度は吹き飛ばされはしなかったが、岬には余裕を持って受け止められている。岬は力を込めてルノリアを振り払おうとグッと大剣を押し出す。
だが当然ルノリアもそう出てくるだろうと読んでいた。岬が押し出してくるタイミングにあわせてサッと剣を引いて身を大きく横に移していく。力を込めようとしていた岬は一瞬不意を突かれたように踏鞴を踏んだ。これこそがルノリアが待っていた絶好の機会だ。
「もらいました!」
体のバランスを崩した岬の胴目掛けてルノリアがストームブリンガーを薙ぐ。その剣筋は繰り返してきた素振りで研ぎ澄まされたものだ。
「バシュッ!」
見事に岬の胴体を2分している。偽者は実体を失って宙に解けるように消えていく。
「良くやった! 見事だぞ!」
「タクミ様、まだあと1人残っています!」
表情を崩しているタクミに対して、ルノリアは逆に表情を引き締めている。そして、浮かび上がった魔法陣からは最後の刺客が姿を現す。
「なるほど、大トリに美智香を持ってきたという訳だな。ルノリアにとっては一番やり難い相手だろう」
魔法使いのローブ姿でゆっくりと魔法陣から出てくる美智香の姿を見つめるタクミとルノリアだった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は明日の予定です。今回活躍したルノリア嬢のお話の続きを予定しています。おたのしみに!
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