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279 転移魔法陣

お待たせいたしました、279話の投稿です。迷宮に入り込んだタクミたちは通路を通ってダンジョンエリアに向かう魔法陣に向かいます。今回のお話は、タクミたちよりも他のパーティーが中心です。



それから、前回の投稿から閲覧数が跳ね上がりました。学生の皆さんは夏休みに入って、時間の余裕があるのでしょうか? この夏はぜひこの小説を読み倒してください!

 捻じ曲がった手摺の無い橋のような構造物を用心を重ねながら進むタクミたち、高所から若干下に向かうような感覚で進んではいるが、果たしてそれが正しいのかもわからない程に、そこは次元そのものが歪んでいる場所だった。おそらくこの場所を通ることによって、別の次元に入り込んでいるのだろう。



 そして、その通路が終わる先には魔法陣が出現する。この魔法陣で転送されると、ダンジョンのようなフロアーに降り立って、例の手強いゴブリンが現れるのだった。



「やっと到着したか。ここからは別行動だ。先に進みたい者から魔法陣に入ってくれ」


 タクミの言葉に一番乗りを目指そうと3人が声を上げる。



「一番乗りは絶対に逃せないな」


「俺たちが一番乗りだ!」


「早く手強い魔物と戦いたいぜ! 私たちが一番だ!」


 声を上げたのはアルネ、勇造、美晴の3人だった。こいつらはどこに出しても恥ずかしくない脳筋共だ。逸る心を抑え切れなくて、自ら立候補している。様子見など無用! そこに魔物が居るのだったら遮二無二突っ込んでいく! そういう思想の連中だった。ここに圭子を加えれば脳筋四天王の完成だ。



「面倒だからジャンケンでもしてくれ」


 順番くらいで揉め事を起こしたくないタクミがジャンケンをさせる。



「おい、ジャンケンって何だ? 殴り合いの一種か?」


「アルネさん、俺が代わりにやるからここで待っていてくれ」


 ジャンケンを知らないアルネに代わって、勇者パーティーを代表して比佐斗が出てくる。



「おい、俺はジャンケンは苦手だから紗枝がやってくれ!」


「私に丸投げなの! 負けても知らないわよ」


 勇造たちからは紗枝が代表で出てくる。



「私に任せろ! 今日は勝てそうな予感がしているんだ!」


「他の人が出て行って負けたら負けたで美晴がうるさいから、自分でやってきて!」


 うるさい美晴を納得させようと、マギカクラッシュのリーダー愛美は全部彼女に押し付ける意向だ。



 こうして3人によるジャンケンが始まる。



「「「ジャーンケーン・ポン!」」」


 グーが2人とチョキが1人、当然チョキは美晴だった。ジャンケン最弱の存在は伊達ではない。




「おかしいな、今日は勝てそうな気がしたのに・・・・・・」


「美晴のその自信がどこから出てくるのか不思議でしょうがないわ! これで納得したでしょう、私たちは3番目よ!」


「いや、次こそは絶対に勝つ!」


「美晴ちゃん、ジャンケンに関してはもう諦めた方が良いです! 普通は3回に1回は勝てるのに、美晴ちゃんのジャンケンの弱さは確率論を根本的に覆しています!」


 まるで負けが込んでいるギャンブラーが『次の勝負は絶対に当たる!』と言っているのと同じだった。エミの同情にも似た諦め声にも、美晴は屈した様子が全く無い。ともかくこれでマギカクラッシュの敗退が決定した。残るは紗枝と比佐斗だ。



「「ジャーンケーン・ポン!」」


 紗枝がパーで比佐斗はグーだった。勝敗はあっという間に決した。



「紗枝、でかした! これで俺たちが一番乗りだ!」


 勇造は嬉しそうな顔で紗枝の頭をポンポンしている。期待に応えられた彼女も嬉しそうな表情で勇造を見上げている。



「ふん、負け犬め!」


 一方の比佐斗はアルネから蔑まれたような視線を浴びている。彼女は一番乗りを逃したのをよほど腹に据えかねているらしい。比佐斗は申し訳なさそうに彼女の前でペコペコ謝っている。こんな勇者はなんだか見たくない。



 こうして順番が決定したので、パーティーごとに魔法陣に入っていく。勇造たちのパーティーには恵たちも同行すると決まっていたので、2つのパーティーが一緒に魔法陣に入ろうとする。だが、その足を止める人物が現れた。



「ちょっと待ってほしい! これを持って行くのをお勧めする」


 空が紙袋に入った薄い物を紗枝に手渡している。



「空ちゃん、これは何ですか?」


「役立つアイテム! 困った時に使用すると良い。 私の使用済み…ゲフンゲフン、見飽きた物だからそのまま差し上げる」


 聖女様が差し出した物を受け取った紗枝は中身も確認しないでマジックバッグにしまいこむ。他のメンバーもそれ程不思議に思っていないようで、空の親切に対してお礼を述べている。



「それじゃあ、行ってくるぜ!」


 その一言を残して勇造たちは魔法陣の中に入る。すぐに彼らは光に包まれて、その場から姿を消した。魔法陣自体は30分くらいすると再びその場所に浮かび上がってくる。


 

「順に入ってくれ」


 今度は勇者パーティーが魔法陣に入っていく。空はアルネを見て『まあ大丈夫だろう』と言う表情で特に何もアクションを起こさない。



 同様に3番目にマギカクラッシュが魔法陣に入る際にも、空は彼女たちを黙って見送るだけだった。



 勇造たちが魔法陣に入ってからすでに1時間が経過している。魔法陣が復活するまで待機時間が必要なので、これは仕方が無いだろう。春名はちゃっかり食事を取って、現在は大の字になって着ぐるみ姿で昼寝の真っ最中だ。このだらしない姿を見ても愛想を尽かさないタクミの忍耐強さを褒めてあげたい。



 4番目にオタクたちが魔法陣に消えていく。空は同情を瞳に湛えてその姿を見送るのだった。何も知らないオタクたちは意気揚々と魔法陣に入っていく。



「どうやら犠牲が出そう。私もそれなりの準備が必要」


 小声で空が呟いているが、それは誰にも聞こえなかった。





「さて、俺たちの順番が来たな。行こうか」


「タクミ様、この先はどうなっているんですか?」


「ルノリア、それは転移してからのお楽しみだ。タネが明かされては面白くないだろう」


「はいっ! それではタクミ様が言う通りに楽しみにしています」


 タクミはルノリアの手を引いて魔法陣の中に入っていく。まだ昼寝を継続中の春名は着ぐるみごと岬が抱え上げて魔法陣に放り込んだ。文也たち5人も圭子に手荒に扱われながら、中に押し込められる。彼らに抵抗する術は全く無かった。



 目映い光が彼らを包んで転移が完了する。そこは以前足を踏み込んだ時と同様に、ダンジョンの内部のような場所だった。



「タクミ様、ラフィーヌのダンジョンとよく似ていますね」


「見た感じはそうかもしれないな。ただし出てくる魔物は桁違いに強いから気をつけるんだ」


「はい、わかりました!」


 元気がいい返事を返してくるルノリアの頭をタクミはポンポンする。ここからが彼女の試練の開始なのだ。




「さて、そこの5人とはここでお別れだ。もしこの迷宮から無事に出られたら、お前たちは無罪放免だ。どこでも勝手に生きればいい」


 タクミは文也たちに無機質な視線を向ける。彼らはどこに連れて来られたのかもわからずに、怯えるばかりだった。ひと塊になって体を寄せ合って、ガタガタと震えている。



「頼む! 俺たちも一緒に連れて行ってくれ!」


「そうねぇ、サンドバッグ代わりなら連れて行っても構わないけど。その代わり手加減はしないから半日くらいしか持たないでしょうね」


 圭子の宣告で文也たちはすっかり観念した。圭子の恐ろしさは骨身に染みている。もしあの手加減無しの攻撃を食らったら、半日と言わずに一撃で死が目の前にちらつくはずだ。


 

「諦めろ、迷宮を抜け出すこと自体がお前たちに科せられた刑罰だ。生きていたければ戦え! お前たちが使用していた武器は返してやる。食料は3日分くれてやるから、あとは自力で何とかしろ」


 3日分の食料を渡されて、剣や槍だけでこの迷宮を脱出しろというタクミの過酷な命令だった。彼の計算によると文也たちが迷宮から出てこられる確率は0.0001パーセント以下、そもそもこの先にいるゴブリンですら今の文也たちでは勝てるかどうか怪しいものだった。



「美智香、こいつらを魔法で眠らせてくれ」


「わかった。眠りの風よ!」


 5人は美智香の魔法であっという間に眠りについた。



「空、この場に半日保つシールドを張ってくれ」


「うん」


 空のシールドが5人を包み込む。これで半日は彼らの安全を確保できる。目が覚めたらそこから先は自己責任だ。残酷だがこの場で命を取らないだけでもまだマシだろう。ほんの僅かでも可能性は残されているのだから。



「いい気味ね。死ぬか生き残れるかは自分たち次第だから精々頑張ってね」


 圭子はゴキブリに向けるような目を眠りこけている5人に向けてから、視線を前方に戻して一切振り返らなかった。



「よし、出発だ!」


 タクミの号令で全員が進みだす。だが5分くらいしてその場に岬が戻ってきた。文也たちとはちょっと離れた場所に、まだ春名が寝ているのをすっかり忘れていたのだ。



「よいしょっと」


 岬は掛け声とともにモコモコの春名の体を以前ホームセンターで購入した大型の台車に乗せる。そのまま春名は岬の手によって眠ったまま運ばれていくのだった。







 



 話は少し遡る。こちらは迷宮のダンジョンエリアに一番乗りを果たした勇造たちだ。



「そら、お出でなさったぜ! ここのゴブリンは確かにタクミの言葉通りに手強いから気を付けろよ!」


「なに、宇宙船の付近に居た連中と大差無い。俺の剣で仕留める!」


 先頭を進む勇造の警告に対して賢治が愛剣『繊月せんげつ』を鞘から引き抜いて応戦する。殴り掛かろうとしてくるゴブリンの動きを冷静に見極めて、その胴体を水平に薙ぐと、ゴブリンは血を撒き散らしながら倒れていく。



「それにしても確かにここの魔物はラフィーヌのダンジョンに比べて桁違いだな。ゴブリンがファイアーボールを蹴散らして突進してくるなんて、想像できなかったよ」


「大吾君の言う通りね! このゴブリンを魔法で仕留めようと思ったら3段階は上の威力の魔法を使わないとならないわ」


 恵もその防御力の高さに驚きの声を上げている。だが威力が高ければ通用するとわかったのは収穫だった。この2つの合同パーティーには例の消費魔力を10分の1にしてくれるペンダントがある。おかげで威力が高い魔法でも、魔力の残量を気にしないでドンドン放てるのだ。



「魔物はゴブリンだけじゃないからな! どんな相手が出てきても気合で仕留めるぞ!」


「そこは『気合』じゃなくて、力を合わせてでしょう! 本当に勇造に任せると何でも『気合』で済ませるんだから!」


 勇造が気を引き締めようと声を掛けるが、すかさず紗枝からダメ出しを食らっている。いつもの仲の良い者同士の遣り取りに、他の全員が『ケッ! 遣ってられないぜ!』という目を向ける。



 しばらく進むと今度はコボルトが姿を現す。



「私に任せて! 不動明王火炎呪!」


 紗枝が懐から取り出してコボルトに投げつけた護符はあっという間に燃え広がって魔物を火に包む。手足をバタ付かせてのた打ち回っていたコボルトはあっという間に動かなくなった。紗枝が放った護符は、仏を守護して仏敵を滅する不動明王の加護を受けた上位の術だった。さすがは『呪術王』の称号を持つ身、紗枝の術式は多少魔物が強くなろうとも、関係なく調伏していく。



 順調に次の階層に進んで、途中で休憩も入れながら合同パーティーはついに階層ボスの部屋にやって来る。そこは重々しい大きな扉が一行を待ち受ける場所だった。



「なんだか嫌な予感しかしないわね」


「相当に手強い敵が待っているんだろうな」


 リーダーの恵と勇造が顔を見合わせてどうするか思案している。このまま一気に突っ込むのか、それとももう少し相談をしてから踏み込むのか、どうやら決めかねている様子だ。



「タクミ君たちはボスの情報も一切教えてくれなかったわね。ちょっとぐらいヒントを出してくれても良かったのに」


「そうだな、ラフィーヌのダンジョンの時は攻略情報を教えてくれたのに、今回はずいぶん不親切だ」


「たぶん人を頼りにしないで自分たちで何とかしろということなんだろうけど、不安が尽きないわ」


「ドアの隙間から覗く訳には行かないのか?」


「無理ね、ピッタリと閉じているわ」


 2人はそれぞれのパーティーメンバーの表情を見回す。概ね勇造たち『青い稲妻(仮)』の各自はすぐにでも踏み込みたい様子で、『ストロベリージャム』のメンバーは慎重な態度で成り行きを見守っている。



「そうだ! 空ちゃんが手渡してくれた物があるのよ! 困ったら使ってくれって言っていたわ!」


 紗枝がマジックバッグから紙袋に包まれたうすいっぺらい物体を取り出す。



「何でしょうね? 手に持った感じは本みたいだけど?」


 紗枝はそれが一体何なのかを知らずに、紙袋に手を突っ込んで取り出してしまった。



             





            『朝立ち・昼立ち・夕立ち』



 デカデカとオレンジ色の文字でタイトルが印刷されている表紙には裸の男同士が絡み合っている。紗枝が知らずに取り出したのは、空のコレクションの古いナンバーだった。



「キャーーーーーー!」


 その表紙を見てしまった紗枝の悲鳴が響き渡る。一体何事だと驚いた様子で、勇造は彼女が地面に落としてしまった本を拾い上げる。



「こ、これは・・・・・・ うーん、こいつら中々いい筋肉をしていやがるな!」


「ええ! 勇造ってそっちだったの! 初耳だわ!」


「違う! 純粋に筋肉を評価しているだけだ!」


 横からその本を見た恵が、勇造を疑いの表情でジトーっと見ている。こんな所でクラスメートからとんでもない疑惑を掛けられた勇造は必死で弁明しているが、中々疑いを晴らすには至らない。


 そのまま無駄な時間だけが流れていくのだった。

最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は明日の予定でしたが、スケジュール的にはどうも間に合いそうもありません。楽しみにしていた方々、本当にし訳ありません。来週の水曜日に投稿いたしますので、お許しください。



それから、後書きの下にある『評価する』という欄をポチッとクリックしてみてください。そこに適当な点数を打ち込んでくだされば、作者のモチベ-ションが上昇間違い無しです! 試しに一度やってみて下さい! どうか、騙されたと思って、ぜひ! 

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