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275 ドレナンの大乱 7

お待たせいたしました、275話の投稿です。西日本では大雨で大きな被害が出ているというニュースが頻繫に流れています。被災された皆様が一日も早く元通りの生活を取り戻せるようにお祈り申し上げます。仕事の関係でも大きな影響を自分自身が受けているので、中々身につまされる問題です。ともかく1日も早い復興を願うしかないです。


関東地方は逆に暑い日が続いていますね。お住まいの方は熱中症には注意してください。油断していると本当に危ないですから。こまめな水分補給が大切です。作者は暑い場所では大量の汗をかいてしまうので、絶対にペットボトルを手放せません。まさに命綱です! 皆さんもどうぞお気をつけください。


さてお話は魔王との戦いが依然として続いています。この戦いの行方は小説の進行に大きく関わる部分なので、気を抜かずに書き上げなければと、自分に気合を入れています。ということで、第275話をお楽しみください!

 一帯が瓦礫だらけで足場の悪い場所に吹き飛ばされて、ようやく起き上がったアルネの元に、恐る恐るマギカクラッシュのエミが近づいていく。



「あ、あの・・・・・・ 物凄い勢いでこっちに飛んできましたが、大丈夫なんですか?」


 地響きと土煙を上げてその場所に着地したアルネが、槍を支えにして立ち上がった様子に彼女は驚いているのだった。あんな飛ばされ方をしたらいくら魔法少女でも、良くて戦闘不能、最悪の場合は死の可能性すらあった。魔王に立ち向かった時に、美晴も同じように吹き飛ばされていたのだが、それは魔王が自分に向かってくる魔力の矢を退けようとした余波を食らったもので、威力ははるかに低かった。



「ああ、無様な姿を晒したものだな。いい気になってこの程度で最強を名乗っていた自分が馬鹿馬鹿しく映る。ツキがなくなってきたのか、どうもこのところこんな姿ばかりだな」


 槍を支えにして辛うじて立っているだけのアルネは、話し掛けて来たエミに対して警戒する素振りも見せないで自嘲気味なセリフを漏らす。だがその表情には自分に対する怒りと悔しさが滲んでいた。



「あの人たちは大丈夫なんでしょうか? 相手は恐ろしい力を持つ『魔を宿す』存在です」


「心配しなくてもいいだろう。あそこに居るのは少なくとも私以上の化け物揃いだ。あの仰々しいマントを着込んだヤツに同じように吹き飛ばされたが、受けたダメージはあいつの方が圧倒的に上だったぞ」


 アルネは伯爵邸で対戦した圭子の名前を覚えていなかった。もちろん圭子もアルネの名前を覚えていない。脳筋同士、互いによく似ているのだった。そしてアルネの証言によると、驚くことに圭子の攻撃の方が威力が勝っているらしい。世紀末覇者様だからもしかしたらこの程度は当たり前なのかもしれないが・・・・・・



「そ、それじゃあ、あの『魔を宿す者』を倒せるんですね?!」


「さあ、それはどうだろうな。勝敗は決してからでないと何とも言えないからな。今の私にできるのは、ここからあいつらの戦いぶりを見届けるだけのようだ」


「そうですか・・・・・・ わかりました、私も一緒に見届けます!」



 アルネとエミがこんな会話をしているうちに、退避して来た勇造や比佐斗のパーティーメンバーが近くにやって来た。茜と風子がアルネの様子を心配して駆けつけて来る。



「アルネさん、大丈夫ですか?」


「ああ、なんとかな」


「ポーションがありますけど、飲みますか?」


「いや、必要ない。少し休めば元通りになるから、心配するな」


 ダメージを心配する茜と風子にアルネは強気な発言をするが、実際は体中が軋むような痛みを感じていた。それを顔に出さないのは、銀河最強種族のプライドだった。



「しばらく動かないでじっとしていてください」


 そこに5人の魔人の見張り役でこの場に留まっていた紀絵がパワードスーツ姿のままで近づいてくる。その姿を間近で見たエミは目をまん丸にして驚いた表情だが、彼女以外は何度も見せ付けられた光景なので平常運転だった。



「回復魔法を掛けます。少しは楽になるでしょう」


「回復魔法か、以前掛けてもらったが、どうやら私の体は効果が現れ難い特殊な作りになっているらしい。あまり期待はできないぞ」


「いいから黙って動かないでください」


 紀絵が搭乗するパワードスーツから合成された音声が響いて、強がりを口にするアルネに向けて左手を持ち上げる。その手から放たれたパワードスーツによって何倍にも増幅された回復魔法がアルネの体に降り注いだ。



「なんだ! 急に痛みが引いていくぞ! これは驚いたな」


 アルネは回復魔法が効き難いのであって、全く効果がない訳ではない。ガルデレンの街の冒険者ギルドの女性職員が掛けてくれた時よりも何十倍もの魔力が込められた回復魔法は傷付いたアルネの体を急速に癒していく。



「不思議だ・・・・・・ もう何ともないぞ! 一体どうなっているんだ?」


「高いレベルの回復魔法はどんな人にも効果があります」


「あのー、すいませんが、あっちに私の仲間が怪我をしているので、回復してもらえますか?」


 紀絵の回復魔法にアルネが驚いている傍で、その光景を目撃したエミはチャンスとばかりに仲間の回復を彼女にお願いするのだった。傷付いた仲間をこのまま放って置くのはエミからすると忍びなかった。



「いいですよ」


 紀絵は魔法少女たちが座り込んでいる場所に向かうと、次々に彼女たちに回復魔法を掛けていく。特にダメージが大きかった美晴は元通りに動けるようになって驚きを隠せない様子だった。



「本当に凄いわね! あの魔人たちを軽々と放り出した上に、回復魔法まで使えるなんて! でも本当にありがとうございました。おかげで私たちも助かりました」


「そんな改まったお礼はしないでください。同じクラスの間柄だし」


「えっ! 同じクラス?」


 マギカクラッシュのリーダー、愛美が全員を代表して見ず知らずのロボットのような機体にお礼を述べている。だがそのロボットが合成された音声で『同じクラス』などと言い出すものだから、愛美は思いっ切り面食らっていた。記憶のどこを探しても、今までこんな形状のロボットと出くわしたのは初めてだ。いくら魔法少女でもロボットの知り合いに心当たりはなかった。



「こんな姿ではわかり難いと思いますが、私は山内紀絵です。クラスメートを助けるくらい、お安い御用ですよ」


「「「「「えーーーーー!!」」」」」


 魔人となった和田文也たちを相手に大暴れをして自分たちの危機を救ってくれただけではなくて、体に負った怪我まで治してくれたのが紀絵だと聞いて、マギカクラッシュの面々は素で驚いているのだった。



「もしかして山内さんはロボットに変身できるんですか?」


「まさか、変身なんてできませんよ! このパワードスーツに搭乗しているだけです」


 エミが相当に斜め上の質問を紀絵に投げ掛けている。自分が魔法少女に変身できるからといって、紀絵がロボットに変身できるなどという発想は彼女ならではのものだった。実はエミの天然ぶりは春名と互角に渡り合えるレベルにあるのだ。他のマギカクラッシュのメンバーたちは『またエミのボケが始まった!』と呆れ返っている。



「パワードスーツ?」


「はい、パワードスーツですよ。機体から降りたら全く普通の私です」


「いや、全然普通じゃないだろう!」


「いくら機械の力を借りているとは言っても、あの暴れっぷりはどうなのかしら?」


「怖いくらいに魔人たちを投げ飛ばしていました」


 マルチタレントの職業を持っていて、パワードスーツを乗りこなす存在が普通の範疇に収まるかどうかは疑問の余地が残るが、紀絵は自分を普通の人間だと思っているのだった。確かに圭子や岬から見れば、まだ普通に近いかもしれない。しかしその紀絵の考えはマギカクラッシュのメンバーたちには、残念ながら全く受け入れられていなかった。



「その話はともかくとして、あっちに居るもう一台のロボットは?」


「あれはタクミ君が搭乗しているパワードスーツですよ。この型よりもパワーがあって強力です」


 紀絵の自覚症状がない『普通の人』発言は、どうやら愛美によって無かった事にされた模様だ。パワードスーツの中で紀絵は『そこは重要なのに!』と小声で呟いている。


 魔法少女たちには『パワードスーツ』という聞き慣れないフレーズが理解の限界を突破していたので、ロボットと完全に混同していた。確かにその厳めしい外見は見ようによればロボットに映るかもしれないが、あくまでも人の動作を補助する機体に各種の武装をぶち込んだ、銀河内のロッテルタ政府やかつてランデルク人が作り出した人型汎用兵器だ。しかもジョンの手によって魔改造が施されて、オリジナルとは隔絶した性能を秘めている。


 

「だからといって、あの相手は危険過ぎるわ! あそこで桑原さんが1人で立ち向かっているけど、すぐに止めないと大変なことになるのよ!」


「そうですねー・・・・・・ 確かに危険かもしれませんね。圭子ちゃんの相手をしなければならない魔王の方が」


 愛美は真剣に紀絵に訴え掛けているが、彼女はそれを取り合わないどころか、逆に魔王を心配している。この世界で紀絵ほど圭子の恐ろしさを熟知している人間は居なかった。何しろ『エイリアン』に所属した当初から紀絵は圭子に鍛え捲くられて現在に至っている。あの過酷な訓練を乗り越えた先に、強者と名乗っても差し支えない存在となった紀絵自身が居るのだった。そして現在はその道を目指してルノリアが必死に後を追いかけている。



「あれがこの世界の魔王だっていうの! なるほど、だからこそあんなに強力な力を持っていた訳ね」


「確かにある程度はやれそうですが、果たして圭子ちゃんを相手にしてどこまで持つのやら」


 マギカクラッシュの面々は修平が魔王になっているとも、それが目の前に現れたとも全く知らなかった。強力な『魔を宿す者』が現れたと思って相手が誰かもわからずに戦っていた。それが紀絵の口から『魔王』だと聞いて、自分たちが全く歯が立たなかったことに、なんだか納得したような気分だった。



「本当にあれは魔王なんでしょうね。こうもあっさりと私たちが追い込まれるんだからね。なんだか力不足を感じるわ」


「まあそれは訓練次第でどうにでもなりますよ。それよりもあっちの様子は、オーラの勢いは9割方圭子ちゃんが押していますね。いよいよ始まりそうです!」


 紀絵の視線の先には今にもぶつかり合いそうな圭子と修平の姿が映っていた。彼女の言葉に促されて、その近くに居る者が一斉に2人に視線を向けるのだった。








「どうした、早く掛かって来ぬか!」


 全身から七色の闘気オーラを吹き上げながら、両腕を組んだままの圭子がピクリと片足を動かし掛ける。その僅かな動きだけで修平は全身を包むプレッシャーに心臓が押し潰される思いだった。だが彼は覚悟を決めて並外れたプレッシャーを撥ね退けてコブシを構える。



「しゃらくせー! この一撃で決めてやる! 俺がこの世界の魔王だーー!!」


 修平は雄叫びを上げながらコブシを叩き付けようと圭子に一気に襲い掛かる。その動きは彼の体に最も馴染んだ喧嘩スタイルだった。だが以前に比べて、魔王の魂を取り込んで能力が何十倍にもなった修平の動きは見違えるように早く正確だった。衝撃波を引き起こしながら、右のコブシが圭子に迫っていく。



「笑止!」


 だが、圭子は左手を僅かに動かして、修平のコブシを自分の顔の手前で楽々とキャッチした。そして軽くその手に力を込めて、修平のコブシを握り潰す。



「グシャッ! バキバキ!」


「ギャーーー!」


 圭子は更に追い討ちを掛けていく。潰れて勢いを失った修平の右手を離すと、今度は自分の右手を修平の額に伸ばしていく。そしてその手は人差し指一本だけが伸ばされていた。



「バリバリバリバリ!」


 圭子の人差し指は修平が体の周囲に張り巡らしている魔力の障壁を障子紙のように突き破っていく。そして何の力も込めた様子もなく指がその額に軽く当たった。



「ウオーー!」


 そのあまりの衝撃に修平の頭部は後ろ側に仰け反って、そのまま後方に2回転しながら5メートル吹き飛んでいる。地面に転がされて額を押さえてその場で七転八倒しながら痛みに耐えているのだった。これが魔王の姿だと思うとなんだか哀れ過ぎる。



「その程度か! やはりうぬごときにはこの指一本で十分!」


 圭子は軽くポーズをとってキメ顔で人差し指を上方に突き出している。まさにこれこそが世紀末覇者に相応しい姿だ。まるで死ぬ間際の虫けらのようにのた打ち回る修平の姿を見下ろしている。


 魔王となった修平の体力は100万を超えており、攻撃力や防御力も当然それに見合った数値を誇っている。対して素の圭子の攻撃力は約9000で、そのままの激突ではとても勝負にはならなかった。だが圭子は指一本で修平をダウンさせている。これが世紀末覇者となった彼女の恐ろしさだった。通常のパワードスーツは概ね搭乗者のパワーを最大20倍程度に増幅する。だが圭子が搭乗する機体はジョンの魔改造によって最大出力が更に8倍ほど向上している。つまり、元々の圭子の力を最大で160倍まで増幅しているのだった。


 その上彼女が手に嵌めている『大地の篭手』が更に数倍その力を増幅している。ついでにこのところ圭子が熱心に取り組んでいる重力トレーニングで『オーバードライブ・レベル1』というスキルが追加されていた。これはステータスに表示される数値以上の力を発揮できる強力なスキルで、現状の圭子は数値の1.5倍までの力を引き出せる。ここまで来ると攻撃力のハイパーインフレ状態だ。完全に人類の壁を突破している。



「チクショウ! なんだあの化け物は! 俺を指一本で跳ね飛ばしやがって! まあいいか、この魔王の体っていうのは中々使えるもんだな。潰された右手も頭のダメージももう治っているぜ」


 何度もタクミたちに体のあちらこちらを斬り飛ばされたり握り潰されたりしても、その度に復活する不死身の魔王の能力を得ている修平は、圭子に遣られたことで逆に自信を持った。これならどれだけダメージを受けても問題ないのだ。



「ほう、立ち上がってくるとは面白い! ここからが拳王の真の恐ろしさを知ることになるぞ!」


「最後に勝つのは俺だ! 絶対に殺してやる!」


 最初のぶつかり合いは圭子の圧勝だったが、魔王の不死身の能力がある限り修平にも僅かな勝ち目があるかもしれない。次の攻防を前にして再び睨み合う両者だった。



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は今週末を予定しています。土、日、月と3連休なので、その間に2話投稿できればいいなと考えています。どうぞお楽しみに!



それからこの小説に登録していただいているブックマーク数がついに600件を突破しました! 読者の皆さんの応援本当にありがとうございます。これからも目を通していただける価値のある小説にしていきたいと思っていますので、引き続き応援をよろしくお願いいたします。

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