274 ドレナンの大乱 6
お待たせいたしました、274話の投稿です。前回春名によって吹き飛ばされた魔王の居る場所に向かうタクミたち、今回はいよいよ両者の激突なるか・・・・・・ の前にお馴染みの茶番劇が入る模様です。
それからお知らせです。昨年末に完結した【最強の兄と妹たちの異世界転移】が、通算1600ポイントを達成しました。
完結を迎えた現在も外伝を書いていまして、一度日本に戻ってきた主人公が異世界に再び転移するという中々面白い展開を見せています。大魔王様がその力を早速存分に振るって、悪人を薙ぎ倒している模様が報告されています。
すでに目を通された方もいらしゃるでしょうが、もしまだご覧になっていない方はこの機会にどうぞ読んでみてください。下記のURLか作品タイトルで検索していただければ、すぐに出ます。また、上部にある作者名をクリックすると作者のページに飛びます。そこからもすぐに作品が選べるようななっています。どうぞご利用ください。
タイトル 【最強の兄と妹達の異世界転移~与えられた使命は『勇者を始末すること!】
URL https://ncode.syosetu.com/n2600dj/
Nコード N2600DJ
「春名ちゃん、魔王を相手に一体何を遣っていたんですか?」
「タレちゃん、何のお話ですか? 私は皆さんが戦っている様子を画像に収めていただけですよ!」
突き飛ばした相手が魔王だとも気づかずに、春名はあっけらかんとした表情で答える。横で聞いているタクミは『ダメだこりゃー!』という表情をパワードスーツで隠しているのだった。
「だから、春名ちゃんは思いっ切り体重を掛けて魔王を突き飛ばしていたじゃありませんか!」
「あ゛あ゛! 私の体重がどうかしましたか!」
『体重』は一番気にしているワードなのでついつい口調が強くなってしまう春名だった。岬は地雷を踏み抜いたと自覚しながらも、なおも粘り強く春名に問い掛ける。
「だからそこで春名ちゃんと押し相撲を繰り広げた末に、あっちに吹き飛んで行ったのが魔王なんですよ!」
「あ゛あ゛! 誰が相撲取りみたいな体型ですか!」
どうやら2発目の地雷がそこに埋まっていたようだ。ここまで『体重』だの『相撲』といったフレーズに過敏に反応する春名だというのに、なぜ食欲を抑える方向に彼女の意志が働かないのか、岬としては残念でならない。というよりも春名の性格が残念過ぎる。
「だから春名ちゃんがドスコイと押し出したのが魔王なんです!」
「あ゛あ゛! タレちゃんは私に完全にケンカを売っていますね! 誰がドスコイだって言うんですか!」
またもや3発目の地雷を踏み抜いた岬だった。実はわざと春名をからかっているのかもしれない。3連発で地雷に触れられた春名は『失礼です!』と1人でプンスカしている。
「春名ちゃん、アメ食べますか?」
「いただきます!」
だが岬が差し出したアメを春名は素直に受け取って、着ぐるみでモコモコの手を器用に動かしてアメを口に運んでいる。その甘い味わいが口に広がると急にニコニコする春名だった。本当にわかりやすい性格をしている。
「チャンコ・・・・・・ じゃなくて」
「あ゛あ゛! なんですって!」
「ちゃんと説明しますと、そこで春名ちゃんが突き飛ばした人が魔王だったんですよ」
「魔王? タレちゃん、だからそれは一体何の話ですか? 私は撮影の邪魔をする変な人に場所を空けてもらっただけですよ。魔王なんて知りません」
「だから何度も言っている通り、その変な人が魔王なんですよ!」
「そんなはずはありませんよ! 大して力が無かったですし、それに私に向かって『バカ!』なんて失礼な発言をするんですよ! 頭にきちゃって『それは圭子ちゃんに言ってください!』って言い返しておきました!」
「あ゛あ゛! 誰がバカだって言うのよ!」
今度は別の方向からキレ掛かった声が飛んでくる。せっかく世紀末覇者モードになった圭子は素に戻って抗議の声を上げている。まさかこんなところからとばっちりが飛んでくるとは思ってもいなかった。余計なお世話とはまさにこれだろう。
「春名ちゃんは自分の力を自覚してください! 職業のレベルが上昇してすごい力がある上に、パワードスーツで何十倍にも増幅されているんですからね。おまけにその体重を乗せると、本物のドスコイパワーなんですよ」
「あ゛あ゛! やっぱりタレちゃんは私にケンカを売るつもりなんですね! アメ程度では誤魔化されませんよ!」
いや、つい今し方まで完全に誤魔化されていたように誰の目にも映っているはずだ。一体どの口が『誤魔化されませんよ!』などと言えるのだろうか? それにしても今日の岬は春名の地雷を連続で踏み抜き続けている。春名と違って、岬はメイドの職務上空気を読むのに長けているはずだ。
「ケンカを売っているつもりはありませんよ。でも、無理やりステージに立たせた仕返しです!」
「タレちゃんはおかしいです! あんな楽しいステージに立てただけでも幸せですよ!」
岬は隣国の王都で大観衆を目の前にしてステージに立ったあの件をいまだに根に持っていた。タクミに励まされて振り切れたとはいっても、一番の張本人の春名に何か仕返しをしておきたかったのだ。だが岬の心情を全く推し量れない春名には、何が不満なのか全くわからなかった。本当に空気が読めない手が掛かる令嬢だ。
「ほら2人とも、もう目の前に魔王が居るぞ」
おしゃべりに夢中だったせいで、春名と岬は歩いて魔王の居る場所に向かっているのをすっかり忘れていた。タクミの言葉に我に帰ると、そこには立ち上がった魔王が憤怒の形相でこちらを睨んでいる。
「タレちゃん、あの変な人はやっぱり魔王なんかではありませんよ! あの髪の毛や目の色に服装は、私の睨んだ所ですと重症の厨2病患者です! 私の目に狂いはありません、断言します!」
「さすがは春名ちゃんです! 美智香ちゃんがいつも言っているように『春名ちゃんの反対に賭ける!』というのは賭け事の必勝法です!」
「そんなに褒めないでください」
「いえ、別に褒めているわけではないですが・・・・・・」
無敵の春名さんだ! さすがに岬もお手上げ状態になっている。ギリギリでクリンチして何とか判定に持ち込もうと必死で足掻いているダウン寸前のボクサーのような姿になっている。あまりにも春名のカウンターが鋭過ぎて、最早対応が不可能だった。
「お前は本村修平だな。大人しく鉱山でノタレ死んでいればいいのに、何をしにこんな場所にやって来た?」
パワードスーツ姿のタクミから合成音の問い掛ける声が響くと、修平は唇を歪めてニヤリと笑いながら答える。
「決まっているだろうが! 俺をあんな目に遭わせた全ての連中に復讐するためだ! お前たちはその中でもナンバーワンの憎い仇だからな! 念入りに甚振ってから殺してやるぜ!」
ギラギラした瞳でタクミたちを睨み付ける修平、その目には復讐の真っ暗な炎が宿っているのだった。
「そうか、大方魔王の魂を受け入れて、力を得て自信満々なんだろうな。下らない過信は命取りだぞ! さて、誰から行くんだ?」
「私にやられせろ! 面白そうな相手じゃないか!」
真っ先に名乗りを上げたのはアルネだった。黄金の鎧に身を包んでズイッと前に出る。いつも真っ先に突っ込んでいく圭子は、両腕を組んだままでその成り行きを面白そうに眺めている。さすがは世紀末覇者様だ! 余裕たっぷりにデンと構えているのだった。
「そうか、頑張ってくれ」
修平と一番前で対峙していたタクミはすっと体を横にそらして道を空けると、待ってましたとばかりに勇んだ様子でアルネが槍を手にして前方に進み出た。
「強敵と聞くと手合わせせずにはいられない性分なんだ。すまないがこの槍の餌食になってくれ」
「下らないゴミが! 死ね!」
修平はマギカクラッシュのエミが放った矢を吹き飛ばした時のように、軽く右手を前に突き出した。アルネは咄嗟に全身に気を込めてその突風のような衝撃に何とか耐えている。
「うわーーー!」
だが、アルネの援護に駆けつけようとした比佐斗はモロにその衝撃を体に受けて、後方に吹き飛ばされていった。パワードスーツに身を固めているタクミたちはもちろん何事も無かったかのようにそこに立っている。彼らが衝撃を受け止めたおかげで、その後ろに居た勇造たちや勇者パーティーのメンバーも何とか無事に済んだ。
「「比佐斗! 大丈夫かー!」」
利治と芳樹がポーションを持ってその場に駆けつけると、比佐斗がちょうど起き上がるところだった。彼は首を振りながら駆け寄ってきた2人に大丈夫だという仕草を見せる。派手に転がされたが、鎧のおかげで何とかダメージは回避した模様だ。
「多少は力が上がったようだな。おい、お前たちは攻撃の余波を受けないように、もっと後ろに下がっていろ!」
タクミは振り返って勇造たちに退避を勧告する。仕方なしにその勧告に従って、タクミたち以外は大きく後ろに下がるのだった。
「タクミ。今の攻撃力をどう見る?」
「そうだな、以前よりもかなり上昇しているだろうな。あれが全力とは限らないから、まだこの段階では何とも言えない所だ」
タクミの隣にやって来た圭子がさも愉快そうな表情でタクミに尋ねている。アルネ同様に目の前に強い相手が居るだけで、その心に秘める闘争心が荒ぶるのだ。いや、圭子の場合は全く心に秘めていなくて、常に剥き出しの状態だが・・・・・・
「タレちゃん、今なんだか強い風が吹きましたね。一体何だったのでしょうか?」
「春名ちゃん、心配ありませんよ。春名ちゃんの体重なら吹き飛ばされる心配・・・・・・ おっと誰か来たようです!」
「あ゛あ゛! 誰も来ていないじゃないですか! それよりも心配がどうしたんですか?」
「なんだかちょっと前の記憶が曖昧です」
どうやら今回の岬は春名をイジる役に徹するつもりらしい。本人の体重が200キロオーバーというのはヒタ隠しにしている。
そんな遣り取りをしている間にアルネが槍を構えて修平に突っ込んでいく。裂帛の気合と全身の力をこの一撃に込めて槍を思いっ切り突き出す。だがその切っ先は修平の手の平で簡単に受け止められた。まるで圭子との対戦を再現するかのような姿だ。
「なんだ・と・・・・・・」
圭子に続いて自分の槍がこうも簡単に押し止められる様子にアルネは困惑を隠せない表情をしている。修平は手の平に魔王特製の障壁を展開してアルネの槍を受け止めていたのだ。
「この程度か、もう用は無いから死ね!」
修平は槍を受け止めた手とは反対の手をアルネに向けて突き出した。体に触れている訳ではないのに、その一撃でアルネは木の葉のように彼方に吹き飛ばされていく。それは比佐斗が居る場所をはるかに越えて、瓦礫が散乱する一帯まで飛ばされていた。
「クソー! なんて威力なんだ!」
口から一筋の血を流しながら槍を杖代わりに何とかアルネは立ち上がる。どうやら致命傷となるダメージは辛うじて回避した模様だ。
「ゴミに相応しい口ほどにも無いヤツばかりだな。次は誰なんだ?」
「クソ虫が! 少々口が過ぎるぞ! 正しい言葉遣いができないヤツにはペナルティーだ!」
自分たちを見下した修平の発言にカチンと来たタクミは、左肘の魔力砲の砲口を開くと警告なしに都合20発程魔力弾を立て続けに放つ。
「ドカドカドカドカドカドカドカドカーーーン!」
魔力砲はレールキャノンの6割程度とは言っても、これだけ無慈悲な砲撃を受けたら、街の1つくらいは廃墟になる威力だった。だがもうもうとした煙が晴れると『魔王』修平はその場にまだ立っている。
「テメー! 危ねーじゃないか! 今の攻撃のせいで障壁が何枚無駄になったと思っていやがるんだ!」
「ほう、よく無事だったな。その健闘を褒めてやろうじゃないか!」
吼えるような叫び声を上げる修平に対して、タクミは表面からはわからないが余裕の表情で拍手を送っている。その小憎らしいばかりの態度は、体力が100万を超える修平に対して全く負けるなどとは考えていないようだ。
「さて、お仕置きが終わったし、次は誰の番だ?」
「この拳王の前にひれ伏させてくれようぞ!」
再び世紀末覇者に戻った圭子が大迫力でズ、ズ、ズイッと前に出る。今まで我慢してじっと出番を待っていた圭子だったが、さすがに痺れを切らして自ら名乗り出たのだ。その双眸は我慢を重ねた分だけ獰猛な光を宿して、見る者にそれだけで恐怖を振り撒いている。
「ついに来やがったな! この化け物が!」
対する修平は圭子の姿を見るなり歯の根がガチガチと音を立てるくらいに鳴っている。空高く蹴り上げられた魔王の記憶が修平に本能的な恐怖を与えているのだった。
「我を下らない前座と一緒に考えぬ方が良いぞ! 希望があらば再び空の彼方に蹴り出してくれるわ!」
拳王の威厳を全開にして迫る圭子に修平の背筋は凍りつく思いだ。だがそれを感付かれる訳にはいかない。こちらも魔王の威厳を全開にして、精一杯の虚勢を張る。
「先日の借りを返す番だ! 今度は貴様の心臓を抉り出してやる!」
「拳王の前に立つ者には死あるのみ! 屍と成ってから我が運命の不甲斐なさを嘆くが良いぞ!」
どうやら身にまとうオーラの勝負では圭子がはるかに上回っているようで、修平は圭子の弩迫力に飲まれ気味だった。これは決して今の彼が弱い訳ではない。圭子の迫力がまるでそこに本物のラ○ウが立っているが如くに、あまりに強烈過ぎるのだった。
「いつでも掛かってくるが良い! それがうぬの死ぬ時だ!」
「絶対に殺してやる!」
両者の睨み合いは一触即発、開始のゴングが鳴らされるのを待つだけ、その時は刻一刻と近付いて来るのだった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回はいよいよ圭子さんと魔王の激突ですね。どのような結末になるのかどうぞお楽しみに! 投稿はたぶん水曜日になると思います。
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