273 ドレナンの大乱 5
日本代表のワールドカップ、終戦のお知らせが届きました・・・・・・ とっても残念です! リードしたところで投入できる強力な守備的な控え選手が居ないという層の薄さが敗戦に繋がりました。誠に残念です。
ともあれこれでようやく作者は小説に集中できるようになりました。何とか予定通りに投稿できるように頑張ります。とは言え、現状は抜け殻のようになっておりますが・・・・・・
お話はマギカクラッシュのピンチに颯爽と現れたタクミたちの活躍からスタートします。元々同じクラスの生徒同士の戦いはどのように推移するのでしょうか・・・・・・
「ここはあなたたちが来る場所ではないわ! 私たちに任せてすぐに逃げなさい!」
今までギリギリでこの場の戦線を維持していたマギカクラッシュのリーダー、愛美の叫び声が辺りに響く。魔人たちの猛攻に体中に傷を受けながらも、魔法少女としての意地が彼女にそう言わせたのだ。
「はいはい、ご苦労さんでした、そんなボロボロにヤラれて何を寝言を言っているんだか! もうあなたたちの出番はおしまいよ! 今の紀ちゃんの力を見てもまだそんな口が利けるんだったら、あなたたちの目は相当な節穴だからね!」
対してこの場を仕切りに掛かっている圭子は、世紀末覇者ではなくて普通の口調でかつ、あくまでも上から目線で返答した。これは圭子の素の性格が元々横柄なせいなので諦めてもらう他ない。
「私たちは魔を滅する専門家よ! 同じクラスのあなたたちには黙っていただけで、日本に居た頃から闇に蠢く魔を倒してきたわ! 今更こんなところで引くわけにはいかない!」
「これはまたずいぶん香ばしい口を叩いてくれるわね! おやおや、投げ飛ばされたバカたちが戻ってきたみたいよ! 紀ちゃん、適当に蹴散らしてあげなさい!」
圭子の声にパワードスーツ姿の紀絵は右手をグッと突き出してサムアップで応える。その表情は全く外からわからないが、味方からするとなんとも頼もしい。
(そういえばこいつらは同じパーティーを組まされていた時にずいぶん酷い目にあったわ! この際あの時のお礼を込めて死ぬような目に遭ってもらいましょう!)
大好きなタクミや愉快なパーティーメンバーに囲まれて紀絵の心の傷はすっかり癒えてはいるものの、せっかくやって来た仕返しの機会を黙って見過ごすほど彼女は甘い性格ではなかった。再び目の前に姿を現しつつある和田文也たちを見つめて、念入りにパワードスーツの動きを確認している。
「いいか、あの化け物みたいなロボットにもう一度襲い掛かるんだ! 俺たちは魔王様のおかげで大きな力を得ている。さっきは油断したが、絶対に負けはしない!」
軽く100メートル投げ飛ばされて体のあちこちの骨が折れてズタボロになったが、全く何事もなかったように復活した彼らは紀絵を取り囲むように集結して、自分たちの力を信じて再び襲い掛かろうと身構えている。立ちはだかるこの純白の紀絵が載る機体こそが最大の敵で、もう魔法少女たちに構っている場合ではないとデキの悪い頭で彼らはそれなりに理解していた。
「一斉に斬り掛かれ!」
文也の号令に合わせて5人が斬り掛かるが、紀絵はその動きを避けようともしないで全く無視をしている。そしてまずは自分の攻撃が届く範囲に接近してきた手近な1人を右手を軽く横に振って薙ぎ払った。
「ゴワー-!」
パワードスーツの右手が魔人を放り捨てる。力を加減して30メートルほど飛ばしたその行き先は偶然にも勇造たちの目の前だった。
「なんだこいつは? ・・・・・・おお、よく見たらお前は吉岡じゃないか! なんだかわからんがこの世界に来ても性根が捻じ曲がっているみたいだな! よし、その根性を叩き直してやるぞ!」
勇造を中心にしてラグビー部員2人と賢治が彼を取り囲んで拳とシールドバッシュと鞘付の剣でボコボコに殴り付けていく。
「ギャーー! 止めてくれーー! 誰か助けてーーー!」
この4人に取り囲まれた吉岡卓夫は堪ったものではなかった。殴られて体が吹っ飛んだと持ったら、再び反対側から強烈な一撃が見舞われる。そのせいで別方向に飛んだと思ったら、またそこでも死を予感させる攻撃を食らっている。キャッチボールをするように攻撃を加えていく勇造たちは全く容赦がない。それは周囲に散乱する瓦礫と住民の亡骸をみれば、手加減する理由など思い付かないと言った方が正解だった。
一方の卓夫はいくら体が再生するとは言っても、これだけボコボコにされると精神が先に悲鳴をあげる。
「もう止めて・・・・・・ 助けて!」
力なく地面に跪いて勇造たちに泣きながら命乞いをしている。その姿はついさっきまで魔人としてマギカクラッシュを甚振っていたのとはまるっきり別人のようだ。
「圭子、こいつはどうする?」
「まだお仕置きが足りないわね! もうちょっと可愛がってやりなさい!」
勇造はこの辺で良いかと考えていたのだが、拳王様からの指令で再び痛めつけていく。いくら叩きのめしても体の傷は直ぐに治るので、手心は一切加えない暴力の嵐が卓夫に加えられた。
「まあそのくらいで良いだろう。それよりもちょっと場所を空けてくれ」
タクミは地面に仰向けになって倒れている卓夫に近づいていく。卓夫はすでに抵抗する気持ちも失ったかのように虚ろな瞳で空を見つめて、その口からはヨダレが垂れ流しになっている哀れな姿だった。
「この鎧の欠片がこいつを操っていたんだろうな」
右腕に卓夫が装着している魔王が封じ込められていた鎧に、パワードスーツに搭乗しているタクミは両手を掛けて腕が千切れるかのような勢いで一気に引き剥がした。
「ギャーーー!」
力なく地面に横たわるだけの卓夫の口から耳を劈くような悲鳴が響き渡る。そしてその悲鳴が已むと、卓夫は元の姿に戻って意識を失っていた。
「こいつは美智香に処分方法を考えてもらおう」
卓夫から引き剥がした鎧の腕の部分をタクミは収納にしまいこむと、再び魔人を甚振っている紀絵の方に視線を向けるのだった。
「あのロボットは一体何者なの? 私たちよりも圧倒的に強いじゃないの!」
「王都に現れた魔王を剣崎君たちが追い払ったとは聞いていたけど、あれが遣ったというの?」
「剣崎君の姿は見えないけど、あっちに桑原さんや江原さんが立っているから、そういうことになるわね」
「美晴ちゃん、大丈夫ですか?」
「少々油断しちまったな、内蔵をやられたが、しばらく大人しくしていれば元に戻るだろう」
マギカクラッシュのメンバーはひと塊になって困惑した表情を浮かべている。いきなり現れた圧倒的な戦闘力を持つ紀絵のパワードスーツに、言葉を失っているといった方が正確かもしれない。そしてそのパワードスーツは魔人たちを相手にして相変わらず猛威を振るっているのだった。
その様子を苦々しい目で見つめているのは『魔王』になった修平だった。
「全く使えない連中だな! もうちょっと何とかなると思ったが、あれじゃあ犬のクソくらいにしか役立たないぞ!」
「魔王様、いかがいたしましょうか?」
「ランデスベル、もう少し様子を見る。やつらが使い物にならなくなったら、俺が直々に手を下してやる!」
「魔王様のお力を拝見できるとは光栄でございます! 楽しみにしておりますぞ!」
そのまま2人は残った魔人たちの戦いの様子をじっと眺めているのだった。
「中々良い画像がいっぱい撮れました! あとは全体の画が1枚ほしいですが、どこから撮るのが良いでしょうか?」
瓦礫の転がる戦場をイヌの着ぐるみ姿でウロチョロしているのは春名だった。着ぐるみとはいっても無敵の防御力を誇るパワードスーツなので安全だろうと考えて、彼女は放し飼い状態にされている。端末を手にして、魔人と紀絵の戦闘場面を先程から盛んに画像に収めているのだった。
「そうですね・・・・・・ あっ! あそこからなら光の加減がちょうど良さそうですし、いい感じに全体が収められそうです!」
着ぐるみ姿のままチョコチョコと駆け出して一番適した場所に向かっていく。春名が目指している場所、そこは南門の外に当たる場所だった。
「ここが良いですか・・・・・・ うーん、もうちょっと右側のアングルがほしいですね」
春名はズンズン門の外に向かって進んでいく。そしてその場所こそ、魔王である修平が立っている場所だった。空気の読めなさでは定評がある春名は、そこに居るのが魔王とも知らずに修平に近づいていった。
「魔王様、怪しげな姿をした者が近づいてまいります」
「放っておけ! どこの魔王がイヌの着ぐるみを相手にしなければならないんだ!」
修平は春名の姿には気が付いても、敢えてその存在を無視すると決めているようだ。それはそうだろう、何が悲しくて魔王がイヌの着ぐるみを相手にしなければならないのかと考えるのは当然だ。
「ちょっとそこの人! 撮影にちょうどいい場所なのでそこを空けてください!」
さすがは春名だ! 魔王をロケの邪魔になる一般人扱いしている。元々かなり厚かましい性格なので、この程度は春名にとっては当たり前の行動だった。
「こいつは何を言っているんだ?」
「魔王様を恐れぬとは不遜な者であります」
「良いから早くそこを退いてください! シャッターチャンスを逃してしまいます!」
「こいつはバカなのか?」
「それは圭子ちゃんに言ってください! 私はバカではありません!」
「いや、バカだろう!」
「もううるさいですね! どうしても退かないようでしたら、実力でこの場所を勝ち取るのみです!」
「バカも休み休み言え! 俺を誰だと思っているんだ!」
「誰でもいいですから、そこを空けてください!」
春名は片手で修平を退かしに掛かる。言っておくが魔王は体力が百万を超えている。それを彼女は片手でグイグイ押しているのだった。
「なんだこいつは! やたらと馬鹿力だぞ!」
修平は驚愕に顔を歪めながらも春名に負けないように力を込める。
「むう、退かないつもりですね! 私もシャッターチャンスを逃すわけにはいきません! どっちがこの場所を勝ち取るのか勝負です!」
こうして春名と修平によるバカみたいな押し合いが開始された。この様子に気が付いた圭子は腹を抱えて大笑いしている。
「ちょ、ちょっと! なにあれ! ギャハハハハハハ! ハルハルと変なヤツが押しくらまんじゅうをやってる!」
ちょうどそこにタクミが戻ってくる。彼は圭子が指差す方向に視線を向けると、厨2病姿の修平と春名が互いの体を押してそこから退かそうとしている最中だった。
「あれは外見こそ違っているが本村だろう。その後ろに魔公爵が控えているところを見ると、ヤツが魔王になったのか?」
「なにそれ? ハルハルは今魔王と押しくらまんじゅうをしているって訳?」
「ご主人様、春名ちゃんが危険ではありませんか?」
圭子は面白がって、岬は心配そうな声を上げるが、パワードスーツの中のタクミの表情は不明なままだ。きっと苦虫を噛み潰しているに違いない。
「さあ、さっさとそこを退くのです!」
「貴様、俺が誰かわかっているのか!」
「誰でも構いません! こうなったら本気を出しますよー! えいっ!」
春名は両手で思いっ切り修平の体を押した。というよりも、全力で両手を突き出した。それは体調万全の白鵬の突き出しよりもはるかに威力が上で、しかも増加中の体重が十分に乗っかった一撃だった。
「うわーー!」
「魔王様ー!」
修平の体は彼自身は初の、魔王の魂はその生涯2度目の空中散歩に旅立った。前回は圭子によって上空に打ち出されたが、今回は水平方向に100メートルすっ飛んでいく。
「ヤレヤレです! これでこの場所は誰にも邪魔されずに私の独占です! 思いっ切りいい画を撮りますよー!」
だがその頃には魔人たちはすっかり紀絵によって叩き伏せられていた。彼女の周囲に転がされて、誰1人起き上がってくる者はいない。この場の戦闘終結のお知らせが春名に舞い込んでいる。
「無念ですー! 戦いが終わってしまいましたーー!」
自分が魔王を吹き飛ばしていたことに気づかずに、春名はシャッターチャンスを逃してしまったのを心から悔やむのだった。この空気の読めなさこそが、アホ令嬢ならではのクオリティーだ。ともあれ、行司の軍配は春名に上がるだろう。
「紀ちゃんは引き続きこの場の監視で残って! タクミとタレちゃんは春名に吹き飛ばされた厨2病がどうなったか見に行くわよ!」
「待ってくれ! 俺たちも付いていく!」
世紀末覇者様が2人を従えて門の外に出ようとすると、比佐斗が同行を求めてきた。彼のパーティーとアルネも一緒に居る。
「ふふん、まあいいでしょう。付いてきなさい!」
圭子は勇者パーティーと当たり前の顔をして付いてくる勇造たちを従えて、瓦礫を踏み越えて門の外に出て行った。当然そこで待っている春名も一緒になって、ゾロゾロと魔王となった修平がどうなったかを見に出掛ける。
そして一行の視線の先には倒れている修平を助け起こそうとするランデスベルの姿が飛び込んできた。どうやらここから見る限りでは、修平にはそれ程のダメージはなさそうだ。
「本村修平! うぬが新たな魔王となったか! この拳王の前にひれ伏す運命を受け入れるがよい!」
面倒だから一時休止していた世紀末覇者モードを再会する圭子、その体から発する強者のオーラを感じ取った修平は全身に鳥肌を立てている。彼自身もかつて圭子に何回もボコられたのだが、それ以上に魔王の魂が圭子の恐ろしさに震え上がっているのだった。
「俺は決して負けはしねえ! お前たちに散々遣られたお返しをする番だぜ!」
手を貸そうとするランデスベルを退けて、『今度こそ仇を討つ』と恐怖を抱く自分を励ましながら自らの足で立ち上がる修平だった。
最後までお付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は週末を予定しています。魔王との激闘は次回かその次で終わると思います。どのような決着になるか、次回の投稿をお楽しみに!