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270 ドレナンの大乱 2

お待たせいたしました、前日に続いての投稿になります。ドレナンの街に侵攻を開始した魔王たち、それを阻もうとする魔法少女、そして動き出したタクミたちは一体・・・・・・ 3者が入り乱れた争いが繰り広げられる・・・・・・ かもしれません。

「魔王様、この街を打ち滅ぼす先陣はどうかこのランデスベルに賜りますよう、伏して願いまする」


「そうか、いいだろう。こんなちんけな街は手早く片付けろよ」


「ははっ!」


 先陣の栄誉を受けたランデスベルは魔王に先駆けてドレナンの街の門前に到着する。そしてそこでいきなり大魔法を放った。



「崩れ去るがよい! 極大破壊弾ベギラゴン!」


「ドーーン! ドカーーン! ガラガラバリバリ!」


 その両手から撃ち出された魔法弾は城門の上の壁に着弾して大きな火柱を上げながら大爆発をする。一瞬で門の周囲の城壁は崩壊した。



「うわー!」


「助けてくれー!」


 爆発に巻き込まれて吹き飛ばされたり、崩れた門の下敷きになって大勢の人々がたったの一撃で死傷している。さすがは魔公爵を名乗るだけあって、その魔法の威力は恐るべきものがある。



「あれは・・・・・・ もしや魔族か!」


 幸運にも城壁の崩壊に巻き込まれなかった警備兵たちが集まって視線を向ける先にランデスベルは配下の魔族を率いて立っている。



「下賎な人間の分際で我の前に立つでない。間もなくこの場に魔王様がお立ちになる! 下賎な人間どもよ、等しく滅びの時を迎えるがよいぞ!」


「ま、魔王だと・・・・・・」


 警備の兵たちの顔色が真っ青になっている。それはこのような極めて威力の高い大魔法を見せ付けられた上に、この場に魔王がやって来ると聞かされたせいだ。



「退避ー! 街の人間を退避させろーーー!」


 隊長の判断は極めて賢明だった。イタズラに立ち向かうのではなくて、1人でも多くの人命を救うために住民たちの避難を優先させた。



「魔王だーー! 魔王がやって来るぞーー! 北門に逃げろーー! 早く逃げるんだーー!」


 何人かの兵士がその場を離脱して街の各所に散りながら大声で避難を呼び掛けていく。その声を聞きつけた住民たちは慌てて取るものも取り合えずに通りを北へ北へと次々に逃げ出し始めた。



「まことに愚かな人間どもである! この場を逃れたとしても、すでにこの国は魔王様の思し召しによって全て滅ぼされるものと決定しているのだ! 今更どこにも逃げ場はないぞ!」


 数人の決死の形相で槍を構える警備兵の存在などまるっきり無視してランデスベルは避難する住民で溢れる通りに向かって再び魔法を放つ。



極大破壊弾ベギラゴン!」


 そしてその大魔法は慌てて通りを進む住民たちの背中に向けて放出されて、何百人もの人々を吹き飛ばしながら火柱を上げた。辺り一面は血と呻き声とすでに物を言わなくなった死体で埋め尽くされた。



「貴様! なんという非道な!」


「おのれ! 許さぬ!」


 槍を構える兵士たち10人足らずが一斉にランデスベルに突進する。彼らは自分の力で魔族を倒せるとは指の先程も考えていなかった。ただその頭にあるのは『ほんの一瞬でもいいから住民たちを逃がすために時間を稼ぎたい』という思いで、槍を手に突っ込んでいく。自ら死兵となって街を守ろうとする天晴れな根性だった。



「有象無象など我が相手にするも馬鹿馬鹿しいわ! その方たち、始末せよ!」


 ランデスベルの命令で彼の背後に控えていた配下が剣を手にして前に出る。そして兵士たちを剣の一振りで確実に斬り捨てた。



「これより街に侵攻して蹂躙を開始する!」


 邪魔する警備兵の姿がなくなったのを見届けたランデスベルは配下の魔族に前進を命じた。彼らは瓦礫となった城門を踏み越えて、街の内側に侵入する。その場はすでに人の姿はなく、通りにはランデスベルの魔法で倒れた人々の焼け焦げた亡骸が点々としているだけだった。だがそんな無人と思われた通りに人の声が響く。



「ずいぶん派手にやってくれたわね! ここからは私たちが相手よ!」


「何だと! 貴様ら一体どこから現れたのだ!」


 配下が前進しようとする行く手を遮るようにしてマギカクラッシュの5人がいつの間にか建物の屋根の上に立っている。彼女たちは一刻も早くこの場に駆け付けるために、変身して家々の屋根を飛び越えながらやって来ていた。



「へへへ、なんだか手応えがありそうな敵じゃないか! この美晴様のハンマーでペシャンコにしてやるぜ!」


「美晴! 油断しないで! こいつも結構強い気配を持っているけど、より強い気配がこちらに迫っているわ!」


「だったらこいつらを叩き潰してから、そいつを仕留めればいい! さあ、いくぞ!」


 勢いよく屋根から飛び降りてそのままダッシュした美晴は、巨大ハンマーを思いっきり振りかぶって一切躊躇いなく先頭に居る魔族に向かって襲い掛かる。



「馬鹿め! 人間風情の攻撃など我らに効果など・・・・・・ ブヒャーー!」


 その魔族は盛大に顔を引き攣らせながら石造りの建物の壁に突っ込んでいった。そして壁を破壊しながらなおも突き進み、一旦外に出たと思ったら今度は2軒目の壁にぶち当たったところでようやく止まった。建物と建物の間で体を痙攣させて、すでに虫の息の模様だ。



「なんと! 一撃で我ら魔族を葬るとは・・・・・・ 貴様らは何者だ?!」


「良くぞ聞いてくれました! 私たちは闇に潜む魔を滅ぼす者! その名も、せーの!」


「「「「「魔法少女、マギカクラッシュ!」」」」」


「・・・・・・」


 5人がビシッとお約束のポーズを取っているが、魔族たちの反応は限りなく薄かった。しらーっとした空気がその場に流れている。



「初耳だな、その方たちは聞いているか?」


 ランデスベルが配下に問い掛けるが、彼らは首を横にブルンブルン振っている。その一方でマギカクラッシュの5人はといえば・・・・・・



「スベッた、完全にスベッた・・・・・・」


 全員が地面に両手をついて深く項垂れている。格好いい登場のポーズを決めようと事前に何度も練習重ねていただけに、彼女たちには精神的に大きなダメージとなった模様だ。



 周囲は大勢の血が流れた惨状にも拘らず、双方になんだか微妙な空気が流れる。だがそのなんともいえない空気感を打ち破ったのは美晴だった。



「恥ずかしい真似をさせるんじゃねー!」


 そう言いながらハンマーを振りかぶってまた1人魔族を吹き飛ばしていく。



『いや、俺たちは何もしていないのに、自分たちで勝手にやったんだろう!』


 吹き飛ばされた魔族はいかにもそう言いたげな目をしながら建物の壁に突っ込んでいった。まったく八つ当たりにも程があるだろう! スベッてしまった自分たちの芸風を暴力で誤魔化そうとする道を選ぶとは、さすがは圭子並みの脳筋具合だ。



「美晴、気持ちはわかるけどちょっと落ち着きなさい!」


「悪い悪い、でも何のリアクションも取らないあいつらが悪いんだぜ!」


「あれだけスベッたのを人のせいにしない! 私たちの知名度不足を反省するべき!」


「もっと有名だったら、あそこは大喝采が巻き起こる場面のはずでしたのに残念ですー!」


 ほのかの突っ込みとエミの無念な反省の弁が述べられている。本当にこの場は命のやり取りをする戦場なのだろうか? マギカクラッシュの5人はあまりにマイペース過ぎないだろうかという疑問が沸き起こっても不思議ではない。



「おのれ、貴様ら! 下らない茶番のどさくさに紛れて我の配下を亡き者にするとは許しがたし! 者どもよ、下がるがよい! 我が直々に相手をしてくれる!」


 ランデスベルが一歩前に出ようとしたその時に、一帯に圧倒的な迫力がこもった声が響き渡った。マギカクラッシュの5人は警戒心を露にしている。



「ランデスベル、一旦下がれ! これはずいぶんと面白い相手にかち合ったな! おい、相手はお前たちと同じ5人だ! 魔人としての力を見せてみろ!」


 門だった瓦礫の向こう側に2頭のケルベロスよりもやや小型の魔犬が引く馬車が乗り付けられて、そこから魔王が降りてきた。そして彼は付き従う和田文也以下の5人の魔人に命令を下す。



「あれがほのかが言っていたヤバイ気配のヤツね! でもあの顔にどこか見覚えがあるのは気のせいかしらね?」


「うーん、そう言われてみればどっかで見たような気がするけど、まあどっちみちぶっ飛ばすんだから誰でもいいだろう!」


「美晴の記憶力のなさは相変わらずね! 雰囲気がずいぶん変わっているけど、あの5人は和田文也たちでしょう! あの髪が真っ白のヤツにも見覚えがあるんだけど・・・・・・」


 冷静な凪沙の指摘でようやくその正体に気がついたマギカクラッシュの面々・・・・・・



「和田? それって誰だっけ?」


 違った! 美晴だけはクラスメートの顔などすっかり忘れていた。彼女も圭子や春名と一緒に追試を何度も受けた経験があるのは伊達ではない。





「ランデスベル、こいつらの相手は文也たちに任せて、お前はこのまま街を攻め滅ぼして来い!」


「かしこまりました」


 ランデスベルは配下を率いて街に侵入していく。それを何とか引き止めようとするマギカクラッシュだが、彼女たちの前には魔人となった文也たちが立ちはだかった。



「お前たちの相手は俺たちだぜ! 精々がんばって戦いな! もし生き残っていたら俺たちのオモチャにして使ってやってもいいぜ!」


「お前たちはすでに魔に落ちているのか! その身に魔を宿しているのならクラスメートだからといって容赦はしない!」


 南門の前で5対5で向かい合って睨み合いが続くのだった。







 南門がランデスベルによって破壊された直後、タクミたちが乗っている馬車はドレナンの北門に近づいていた。



「なんだか大勢の人がこっちに向かって逃げ出しているよ!」


「もしや魔王が現れたのか?」


 御者台に座る圭子の声にタクミが反応する。周辺の情報を付き合わせると人々が逃げ出す理由は1つしかなかった。


 だがこちらに向かって逃げ出す人々の足は、馬車を引っ張るケルベロスを見てピタリと止まった。3つの頭とその巨体で外見は恐ろしい魔物に見えるケルベロスの姿は、避難する人々にしたら『ここにも魔族が現れたのか!』という絶望をもたらすには十分過ぎる迫力があった。立ち止まって怯えている人たちの姿を見て御者台の圭子は苦笑いを浮かべている。



「おーい! 魔物じゃないから安心していいよー!」


 圭子が手を振って避難民に呼び掛けると、その姿は若干の安心を彼らにもたらしたようだ。それでもまだ油断はできないと皆が身構えている。



「私たちは冒険者だよ! こんなに大勢で逃げ出して来て、もしかして魔王が出たの?」


 圭子の声に人々がカクカクと首を縦に振っている。その瞳は怯え切っているのが見て取れた。圭子と人々の遣り取りを確認したタクミは馬車の扉を開けて外に出る。情報の確認と避難民がパニックを引き起こさないための彼なりの配慮だった。



「安心しろ、相手が魔王程度なら軽く倒してやる。それに後続の馬車には勇者も乗り込んでいるからな」


 タクミは敢えて『勇者』の部分を殊更に強調して人々に知らせた。そしてそれは彼の思惑通りの効果を発揮する。



「なんという幸運だ! 勇者様がこの地に現れたぞ!」


「これで街は助かる!」


「勇者様、魔王を倒してください!」


 縋る様な瞳を人々はタクミに向けるが、どうやら彼らからはタクミを勇者と思い込んでいる節が伺われた。勇者と取り違えられているなどタクミにしては迷惑千万だ。仕方なしに彼は後ろの馬車に向かって大声を上げる。



「おーい! 勇者殿! ちょっと外に出て来い!」


 なんともぞんざいな呼ばわり方だが、その声が聞こえた比佐斗は白銀の鎧に身を包んで馬車から降り立った。その姿を見ただけで人々の間に歓声が巻き起こる。



「本物の勇者様だ!」


「ありがたや! どうか我々を助けてください!」


 人々は跪いて勇者に祈りを捧げている。その光景を横目にしながらタクミは真っ黒な表情だった。



(人々の不安を取り除くのも勇者の仕事だからな。精々表向きの看板として役立ってくれよ)



「移動隊形を変更する! 先頭は勇者の馬車が務めてくれ! 勇者殿は御者台に立って街の人たちを安心させながら進むんだ!」


 勇者のネームバリューを有効活用しながらタクミたちは北門に向けて進む。避難民たちは勇者の姿を見るとようやく落ち着いて、大きな歓声を上げながら道を譲るのだった。



「このまま門を通過して、広場に入ったら全員パワードスーツを展開してくれ。まずは迷宮周辺の安全を確保する。それから魔王の位置を確認して討伐に乗り出そう。街に被害が出ている以上はやむを得ないから魔王は殺しても構わない。街の安全を優先する」


 再び馬車に戻ったタクミの指示に車内の全員が頷く。中でもすでに着ぐるみをまとっている春名はやる気に満ちた目をしている。春名のやる気はいつでも周囲に迷惑と笑いの種を振りまくので、タクミは一抹の不安を抱いているのだった。




 やがて5台の馬車は北門に到着する。まだ続々と避難しようという住民が外に逃げ出しているので、開け放たれたままの北門からは人々が溢れ出てきている。だが彼らは街を守るためにやって来た勇者の姿を見掛けると、門の周囲の場所を空けて両手を組んで祈るような姿でその勇姿を見守っている。



 5台の馬車は人々の流れを掻き分けるようにしてなんとか中央広場に到着した。まだ広場の周辺も逃げ出そうとする人々でごった返している。だが避難民の間からは勇者の登場によって先程までの悲壮感が薄れて、心なしか安心感が漂っている。



「空は馬車全体をシールドで覆ってくれ。ルノリアは馬車に待機しろ。美智香は馬車の操縦を頼む」


「わかった」


「タクミ様、気をつけてください」


「圭子、岬、紀絵、行くぞ!」


「タクミ君! 私を忘れていますよ!」


「春名は外に出ると碌な目に遭わないぞ!」


「大丈夫です! 今回は撮影係りに徹しますから!」


 端末を取り出して春名は撮影する気満々だった。着ぐるみ姿で『ドスコイ』と掛け声がかかる勢いで馬車の外に出てくる。



「各自はパワードスーツに搭乗してくれ」


 タクミの指示に従って白銀と純白の2機のパワードスーツと世紀末覇者とミニスカート姿の岬が現れた。



「さーて、魔王がたわけた口を利いたら、生まれてきたのを後悔させてやるわよ!」


 圭子はボキボキと指を鳴らしながら大地の篭手を両手に嵌めている。見る者全てをひれ伏せさせずにはおかない大迫力だ。アルネと対戦した時よりも体力が2倍になって今やラ○ウ様が凄い事になっているのだ。その横には岬が内股になってモジモジしながら立っている。この衣装で頑張ると決意したものの、やはり膝上20センチのミニスカートは彼女に耐え難い羞恥心を与えている。


 紀絵は機体に乗り込んで準備完了の合図を出す。海の上とは違っていつもの冷静な彼女だった。着ぐるみの令嬢はいつでもオーケーの様子だ。満面の笑みで撮影用の端末を構えている。



「ひとまずは迷宮に向かって進むぞ! 馬車は俺たちの後ろを付いてきてくれ!」


 パワードスーツに乗り込んだタクミたちを先頭にして5台の馬車は広場から迷宮に向かって進んでいくのだった。


 



最後までお付き合いいただいてありがとうございました。本当は明日も投稿したかったのですが、ワールドカップ観戦で無理な模様です。何しろ日本代表の試合ですから、執筆していてもうわの空で全く集中できません。しばらくはご容赦ください。


ちなみに日曜日のセネガルとの試合の予想は【日本2-1セネガル】です。ポーランド戦で圧倒的な速さを見せたセネガルですが、あれはポーランドの選手があまりに出足が遅いせいで余計に速く見えただけです。確かにセネガルにはスピードがあるのは事実ですが、30メートルまでのダッシュなら日本も決して引けを取らないと思います。後はお馴染みの日本のディフェンスとキーパーのポカさえなければ、十分勝負になるという予想です。


ワールドカップのお話が長くなりましたが、次回の投稿は水曜日を予定しています。これも試合の行方次第ではどうなるかわからないので、ご了承ください。

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