261 魔法少女たちの苦難(物理的に)
『読もう』のサーバーが不安定で投稿が遅くなりました。こんな時間ですみませんです!
さて、お話はタイトル通りに魔法少女パーティーに話題が移ります。彼女たちはなにやら苦難に遭っているようですが、それは一体どのような苦難なのでしょうか? どこかのお気楽なご令嬢はどうも魔法少女に憧れているようですが、現実は・・・・・・
前回の投稿で評価を2件も一度にいただきました。心からありがとうございます。アクセス数もどんどん増えてきまして、読者の裾野がちょっとずつ広がっているような気がいたします。皆様、本当に応援ありがとうございます。
そういえばこの小説がいつの間にか100万字を超えていました。1年半以上という結構長い期間連載を続けられているのは、ひとえに読者の皆様が居てくださっているおかげと、改めて深く感謝いたします。
「ハルハル! あとちょっとで昼の休憩だから、最後まで走り切るんだよ!」
「お昼ごはんが懸かっていれば頑張りますよー!」
あれから数日が経過して、2人は重力トレーニングに徐々に体を慣らして、春名は1.5Gの負荷を掛けながらランニングに汗を流している。だがそれよりも恐るべきは圭子の方だった。彼女はタクミでも長時間は耐えられない3Gの加重に平然とした顔で快調なペースで走っている。
「タクミ、明日からはもっと重力を掛けてよ!」
「普通の人間はとっくに限界を迎えているはずなのに、圭子の体の仕組みはどうなっているんだ?」
「決まっているじゃない! スーパーサ○ヤ人レベルよ! 100Gまで楽勝だからね!」
ついこの間まで『世紀末覇者』だったのが、いつの間にかモデルチェンジしている。もういつ人間を辞めてもいいだろう。
昼食後、春名には面倒くさそうな美智香が付きっ切りで、魔法の練習の時間が始まる。
「美智香ちゃん、一体いつになったら私は魔法少女に変身できるんでしょうか?」
「それは誰にもわからない。そもそもこれは魔法の練習で、魔法少女になる訓練ではない」
相変わらずデキの悪い春名を相手にして根気良く魔力の循環を教えている美智香の姿があった。
そもそも春名が夢見ている『魔法少女』とは、マジカルステッキの一振りで人々に夢や希望を与えるアニメの主人公だ。いくら異世界でもそんな都合の良い存在が実現するかどうかは全くの未知数だった。
場所は変わってここはラフィーヌから西に向かう街道、そこを歩くのは本物の魔法少女5人組だった。
彼女たちは春名が憧れているテレビアニメの魔法少女とはだいぶその実態が違っている。普段はごく普通の女子高生として過ごしているのだが、『魔を宿すモノ』と対峙する時には魔力で魔法少女に変身して戦う。
その戦い方は、魔法で召喚した武器と桁外れの身体能力で相手を倒すという方法だった。魔法少女というよりも、現実には変身ヒーローと表現した方がイメージが湧き易いかもしれない。
岬や圭子(一応春名も)はパワードスーツを用いて変身するが、その変身の過程には魔力が干渉しているという事実がジョンの手によって解明されている。彼女たち魔法少女はパワードスーツなしで、直接魔力を用いてその肉体を変化させていると考えればいいだろう。
したがって春名は全然気が付いていないが、魔法少女に近い存在にすでに成っているのだった。ただしその姿は彼女のイメージとは程遠いイヌの着ぐるみ姿ではあるが・・・・・・
街道を歩く5人は『マギカクラッシュ』というパーティー名で冒険者ギルドに登録して、一番下のFランクの冒険者として活動を始めたばかりだった。
一応彼女たちの名前と能力や使用武器をまとめておく。
・相川 愛美
パーティーリーダー、5人の中にあっては比較的温厚で、クラスでは岬に次ぐ巨乳。我の強いメンバーを纏め上げる指揮能力が付与されている。武器は魔法銃で威力や連射速度は自在に設定可能。ただし魔力自体を打ち出すので、弾数には制限があり。
・蛯名 ほのか
前衛兼斥候役、探査能力が付与されていて、魔の気配を敏感に感じ取れる。さっぱりした気性だが、以外とちょっとした失敗で落ち込みやすい。武器は魔法の剣で2刀流も可能な上、投擲にも用いる。
・津原 美晴
前衛、ボーイッシュといえば聞こえはいいが圭子に匹敵する脳筋で、猪突猛進する傾向が強い。その分突破力はパーティー最強。武器は戦闘鎚で馬力に任せて巨大ハンマーを振り回す。じゃんけんは最弱の存在。
・藤沢 凪沙
前衛、パーティーの突っ込み役で、脱線しかかるメンバーをリーダーとともに軌道修正する常識派。特に敵陣に突っ込んでいきがちな美晴の監視役も務める。武器はロンギヌスの槍(レプリカ版)で、複製品とはいえ万物を貫く威力を誇る。
・新井 エミ
後衛、普段はおっとりした性格だが、キレると一番怖い。愛美とともに後方から支援攻撃や遠距離攻撃を担当する。武器は魔法の弓で命中精度が高い上に、動き回る標的を自動追尾も可能。
「それにしてもFランクの冒険者って言うのは稼ぎが少ないな」
「美晴、贅沢は言ってられないでしょう! 依頼にあるのは薬草取りかゴブリンの討伐なんだからしばらくは貧乏生活よ」
「はー、愛美の言う通りだけどさすがに保存食の連続ってのはキツいな」
「ほのか、魔法少女が食べ物で泣き言を言っていられないわ! だからちょっと間違ったフリをして、報酬が高そうな魔物を狩っていきましょう!」
「凪沙ちゃん、グッドアイデアですよ! さあさあ美晴ちゃん、お腹がいっぱいになりそうな魔物を探してください!」
「エミは相変わらず考えなしに無茶を言うな! そんな簡単に居れば苦労は・・・・・・ 何か居るぞ!」
王宮の監視から逃れたのはいいが、『マギカクラッシュ』は貧困に喘いでいた。毎日ご馳走を3食腹いっぱい食べている春名の姿を見たら、血の涙を流して悔しがるだろう。そして貧困から抜け出せるかもしれない第1歩をほのかの探査能力が感知した。
「街道の左側の森から魔物の気配がしているわね。ゴブリンとかじゃない、かなり大きな気配が伝わってくる」
「ほのかが言うなら間違いないぞ! ここは私がチャッチャと狩ってくるぜ!」
「美晴、待った! あなたの得物じゃ原形を留めなくなるでしょう! ほのかと私でひとまず様子を見てくるから、残りのメンバーはゆっくり後ろを付いてきて! 念のためにすぐに変身する準備をしておくのよ!」
さすがはリーダーらしく愛美が作戦を決定する。引き止められた美晴は不服そうだが、彼女が全力で振り降ろす巨大ハンマーでは、商品価値がゼロになるほどの破壊をもたらすので、ここは美味しいご飯のために一歩引くしかなかった。
「ほのか、先行して!」
気配を目指してほのかが左側の森に足を踏み入れる。それに続いてすでに変身を終えている愛美が魔法銃を構えて続くのだった。
「あと50メートル先、どうやらこちらの気配に気が付いた! 私も準備に入るから時間を稼いで!」
ほのかは魔力を集めて変身を開始する。光が彼女を包んだと思ったら両手に剣を構えたほのかが現れた。
「それほど向かってくる速度は速くないわね。足音が響いているから相当大型の魔物みたいだけど、まだ姿は確認できないわ」
「了解了解! 準備完了だから私から行くよ! 援護してね!」
ほのかが前進を開始して、その後方10メートルを愛美が付いていく。魔物の足音はさっきよりもかなり大きくなって聞こえてくる。
「発見! なんだかずいぶんデッカイ羊だよ! 愛美、1発頭に入れちゃって!」
「オーケー! 行くわよ!」
ほのかが横に退避して真正面を向いている魔物に愛美が照準を合わせる。
「羊さん、私たちのご飯と今夜の宿のために犠牲になってね」
優しげな言葉を掛けた割りに愛美は躊躇いなく引き金を引く。
「シュポッ!」
気が抜けたような音を立てて魔法銃から魔力の弾丸が飛び出した。そして狙い通りに額のど真ん中を目掛けて飛んでいく。
「ドーーン!」
「ズシーーン!」
魔法弾が命中して額にぶつかり炸裂すると、魔物は声を上げる間もなく地響きを立てて地面に倒れた。
「やったね! これでしばらくは食いつなげる!」
「割と簡単に片付いたわ。それにしてもこんな大きな魔物を誰か仕舞えるかしら?」
「確かに、私の収納じゃちょっと無理かもしれないかな」
倒れているのはワゴン車サイズのホーンシープだった。大体Dランクの冒険者ならばそれほど危険を冒さずに倒せる魔物なのだが、問題はその大きな体を街まで運ぶ方法だった。変身後の魔法少女は各種武器を収納する小さな収納機能が与えられている。今回倒したのはその限界ギリギリの大きさの魔物だったのだ。
「仕方がないからみんなを呼ぶか。おーい、みんなー! ちょっとこっちに来て!」
ほのかの呼び掛けで後方に待機していた残りの3人がその場に集まってくる。
「なんだこりゃ! ずいぶん馬鹿デカイな!」
「誰かこれを仕舞える?」
「うーん、ハンマーを出せば何とか押し込められるかな」
「美晴ちゃん、今日のご飯と宿のためにお願いします!」
「しょがねーな! ハンマーは結構重たいんだぞ!」
「その割にはいつも軽々と振り回しているよね!」
仕方がないので美晴が変身して収納からハンマーを取り出して、魔物をどうにか仕舞いこんだ。
「なんだかズッシリした感じが伝わってくるんだけど」
「美晴ちゃん、そんなの気のせいです! このまま街まで頑張ってください!」
「ごめんなさいね、エミが言う通り頑張って!」
リーダーの愛美が申し訳なさそうに頼んでいる。こうなるともう断れない。
「仕方がないな、このまま街に行くぞ!」
重たいハンマーを肩に担いで美晴は街を目指して歩き出すのだった。
「この先に次の街があるはずよ!」
ギルドでもらった地図を見ながら愛美が指差す彼方には薄っすらと街を取り囲む城壁が浮かんでいる。ホーンシープを倒してから、かれこれ街道を2時間歩き続けているのだった。
「やっと見えてきたか。体が疲れているわけじゃないけど、単調な街道を歩き続けるのは精神的に応えるな」
ハンマーを担いでいる美晴の言葉にパーティーメンバーが『うんうん』と優しい眼差しで頷いている。みんな同じ魔法少女なので仲間意識が高いのだった。
「街に着いたら真っ先にギルドに行って、あのデッカイ魔物を買い取ってもらうわよ! そのお金で今夜はどこの宿に泊まるか決めましょう」
「そうだね、いつになったらこの貧乏生活から抜け出せるんだろう?」
「ちょ、ちょっとだけ贅沢して美味しいご飯を食べたいな・・・・・・」
「それはどれだけ買い取り代金が手に入るか次第」
ひとまずは街に入るのが先だ、5人はちょっとペースを上げて彼方に見える街を目指す。
「ご苦労さんだったね。登録して間もないFランクのパーティーが良く頑張ったもんだ。ホーンシープの買取代金は毛と皮と肉と角で〆て金貨4枚と銀貨が6枚だ。それにしても女の子たちでよくこんなデカイ魔物を街まで運べたな」
「そこはちょっと色々方法がありまして・・・・・・」
「まあそうだな、冒険者の手の内は明かさないのがルールだ。これからも頑張れよ!」
「ありがとうございました」
買い取りカウンターで代金を受け取った『マギカクラッシュ』は早速その場でパーティー会議を開き始める。
「結構な金額が手に入ったけど、明日以降のために少しは残しておかないといけないから、今夜の宿と食事の予算は金貨1枚と銀貨6枚ね」
「あーあ、それじゃあ風呂は諦めるしかないか」
「ご飯を節約して、せめてシャワーがある宿にしましょう。この際お湯じゃなくても我慢します」
「そうだね、埃っぽい街道をずっと歩いたからちょっとはサッパリしたいよね」
5人の意見がまとまってシャワー付きの安宿に宿泊が決定した。食事はその辺の屋台で安く上げて、とにかくベッドにもぐりこんで疲れを取るのを優先した結果だった。
その後何軒か回ってようやく予算に見合う宿を発見した5人は、シャワーを浴びた髪も乾かないうちに泥のように眠るのだった。
一方その頃・・・・・・
「はー、今日もお腹いっぱい食べました! なんてご飯が美味しいんでしょう!」
「ハルハル、また明日のトレーニングはビシビシ行くからね!」
「圭子ちゃん、私は今魔法少女になれるかどうかの大事な時なんですから、ちょっとくらいトレーニングをサボってもいいでしょう!」
「まったく、ハルハルはどうしてこうも危機感がないんだろうね。きっと魔法少女だって人が見ていない所で色々苦労しているはずだよ!」
「そんなことないですよ! 魔法少女はみんなの夢と希望を叶えるんですから、いつも幸せに囲まれているんです!」
「春名、魔法少女の訓練じゃなくて、魔法の練習をしていると何度言えばわかる?」
「美智香ちゃん、どっちも似たようなものですから、細かいことはいいんですよ!」
本物の魔法少女は安宿に泊まって満足な食べ物も口にせずに苦労しているなど、春名が知る由もなかった。
次回もたぶん不憫な魔法少女たちのお話になると思います。そして次にクラスメートたちが再会を果たすのは・・・・・・
次回の投稿は金曜日か土曜日の予定です。また週末に2話投稿できるように頑張ります!