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260 重力トレーニング

前日に続いての投稿です。何とかお約束通りに完成に漕ぎ着けました。とはいっても今回のお話は閑話に近いような日常の話題です。タイトルにあるように、重力トレーニングに挑むメンバーたちです。当然1番張り切ってるのはあの人物に違いありません。どのような成り行きになるかはお話をご覧ください。





それからお知らせです! 2月から投稿を開始しました【魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強を目指す!】が現在46話まで投稿を終えています。ちょっと特別な力を持ったこの小説に登場する元哉の子孫を巡る学園物でかなりコミカルな路線の物語です。興味がある方は下記のURLにアクセスしてください。


URL    https://ncode.syosetu.com/n4271eo/


Nコード   N4271EO 


タイトル   魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強を目指す!

「皆さん、またぜひこの国にお出でください! またあのステージを街中のみんなが楽しみにしていますからね!」


 ミハイル王子に散々引き止められた結果、タクミたちは王都に2週間も滞在する羽目となった。そしてこの日、ようやく5台の馬車を連ねて出発を迎えている。



「またあのステージに出られるのでしたら、新しい曲を用意してきますよ!」


「春名さん、本当は街の人よりも僕自身が一番楽しみにしていますから、絶対に早く来てくださいね!」


 ミハイル王子(5歳)、今回のステージでチャッカリ大儲けしていたりする。工房で作成した絵本やマンガがバカ売れな他に、屋台の売り上げやこっそりと作成していたグッズ類もプレミアムが付くほどの人気なのだ。


 そして王子は今回の儲けを元手に魔石を使った舞台照明や音響装置の開発を考えている。あの華やかなステージを是非自分の手で再現したいという新たな野望に燃えている。さすがは元日本人だけあって、その発想はこの世界の人たちでは考えが至らない斬新なアイディアだった。





 こうして5台の馬車はサンセーロの街を後にして、北上する街道を進みだす。途中にあるフォッセンの街で西に分岐する街道を進んで、そのまま沿岸の港町フォンデールを目指す予定だ。



「色々ありましたけど、とっても楽しい経験ができましたね!」


「春名はお気楽過ぎる! 圭ちゃんは『今日からキッチンユニットを背負って走らせる!』と言っていた」


「ひーー! 美智香ちゃん、それはいくらなんでも無理です!」


「ハルハル、無理かどうかは今から試してみればわかるよ!」


 御者台から圭子の無情な声が車内に響くと、抵抗空しく春名は馬車の外に放り出された。そこに岬がヒョイと自分の収納からキッチンユニットを取り出して春名に手渡す。縦横2メートル、重さは140キロはある物体を春名は前屈みで背負って呆然と立っている。いくらなんでも遣り過ぎだろうと思うが、体力が上昇した結果このくらいの負荷を掛けないとまともにカロリーを消費する運動にならないのだった。



「春名ちゃん、落として壊すと食事の準備ができなくなりますから気をつけてくださいね」


 岬の宣告は春名に重たい現実を突き付けた。『食事の準備ができない=食欲が満たせない危機』という式が春名の脳裏に浮かぶ。



「絶対に落としませんよー! 意地でもこのキッチンユニットは守り切ってみます!」


 ジャージ姿でキッチンユニットを抱えながら馬車の後を追う春名の姿に、後続の馬車は『何事か?』という表情を向けている。自分の体の3倍以上の大きさの物体を背負って走る姿は、どこからどう見ても弁解の余地がないくらいに異様だ。


 プロの引越し業者でも『勘弁してくれ!』と音を上げるような重量物を、これまた最近重量物に成り果てている春名が抱えて走っているのだから、『どれだけ体力が余っているんだ!』と突っ込みの1つも入りそうなくらいに・・・・・・



 その姿を車窓から眺めているタクミは、思わず『あっ!』と声を上げた。このところ色々と立て込んでいてすっかり忘れていたが、彼の端末はトレーニングのために重力を調節する機能が装備されていた。



「圭子、ちょっと馬車を止めてくれ」


「どうしたの? まあいいか! ケル、ちょっと止まって!」


 圭子の指示でケルベロスがゆっくりと減速して馬車を停止させる。相変わらず圭子には忠実な頼りになる存在だ。



「ピー!」


「キャン!」


 馬車が停止して外に出たがりの2体の霊獣が出入り口にスタンバイしている。入り口が開くとファフニールは羽ばたいて、シロは駆け出して外に飛び出して、そのまま街道のあちこちを遊んで回っている。



「岬、あのキッチンユニットを回収してくれ。春名には別の方法で負荷を掛ける」


「はい、ご主人様」


 2人は外に出ると汗だくの春名に駆け寄った。体力が1万を越えている春名にも、さすがにこのトレーニングは過酷だったらしい。



「はあはあ・・・・・・ タレちゃん、何とかキッチンユニットは守り切りましたよ! もう腕が上がりません!」


 岬にキッチンユニットを手渡した春名は、そのまま街道沿いの草むらに倒れこむ。シロがすかさず駆け寄って、その頬をペロペロと舐めている。とっても微笑ましいペットと飼い主の心温まる日常風景だ。



「春名ちゃん、まずは水を飲みましょう」


「タレちゃん、ありがとうございます」


 岬から手渡されたコップの水を春名は一気に空けた。よほど喉が渇いているらしい。



「もう一杯飲みますか?」


「ください!」


 水を2杯飲み干してようやく春名の息が整ってきた。それにともなって春名が苦情を申し立てている。



「圭子ちゃんは酷過ぎです! 冷蔵庫までは何とか我慢できましたけど、あのキッチンユニットは1人で運ぶ代物ではありません! まったく私のことを何だと思っているんでしょうか?! これは厳重に抗議します!」


(いやいや、冷蔵庫の段階で気付こうよ!)


 春名の抗議にタクミは心の中で突っ込んでいる。それもクスクスと笑いを堪えながら。よく見ると岬も笑いを堪える表情になっている。



「なんだ、ハルハルはもうギブアップしたんだ! これはダイエットの道は程遠いね!」


「圭子ちゃん、私はダイエットしようという気持ちはありますが、方法をもっと真面目に考えてください。本当に死ぬかと思いました!」


「うーん、これ以上どうやって負荷を掛けようか?」


「圭子、すっかり忘れていたが、俺の端末で重力をコントロールできるんだ。これなら何も持たなくても負荷を掛け放題だぞ」


「ええーー! 何で今まで黙っていたのよ! 高重力下での修行! なんて心をくすぐるフレーズなんでしょう!」


「そっちかい!」


 アニメに出てくるお約束の重力負荷による修行場面を思い描いている圭子にタクミが思いっきり突っ込んでいる。世紀末覇者がこんな修行に手を出したら、ちょっとその辺を走り回っただけで周囲の環境に著しい悪影響を及ぼしかねない。



「まずは春名に段階的に高い重力に慣れてもらおうと思う。今日のところは最高で1.5倍くらいでどうだろう?」


「えー! そこはいきなり50倍とか100倍とかじゃないの?」


「圭子ちゃんはマンガの見過ぎです。そんな重力では押し潰されて即死します!」


「春名の言う通りだ。徐々に高い重力に慣れていかないと呼吸すらまともにできないからな」


「なんだ、マンガとはずいぶん違うのね」


 圭子は当然自分も体験しようと待ち構えている。春名1人にオイシイ場面を与えるつもりはないようだ。



「うーんと・・・・・・ 1.5倍だったらハルハルはちょうど100キロだね!」


「圭子ちゃん! いくらなんでも失礼が過ぎます! まだ2ケタ台です!」


 春名本人は具体的な数字を濁しているが、どうやら1.5倍すると限りなく100キロに近づくらしい。だがこの会話を聞きながらまったく話に参加しようとしない人物が1人居る。実際の体重が200キロを超えている岬だ。 



「それでは今から重力を段階的に1.5倍にするぞ。用意はいいか?」


「紀ちゃん、馬車の手綱はしばらく任せる! 私もちょっと走ってみるから!」


「わ、私は車内に戻ります」


 岬はいそいそと馬車に乗り込んでいく。圭子の脳筋ぶりに付き合されて重力トレーニングに巻き込まれないように避難を決め込んでいる。




「いいか、重力負荷を掛けると体内の血液や水分が足の方に下がっていく。目眩や貧血のような症状が起き易くなるから注意しろよ。何か異常を感じたらすぐに申し出てくれ」


「なんだかドキドキします」


「重力負荷か! どうせならもっと一気にやっても構わないわよ!」


 春名も圭子もタクミの説明を一切聞いていない。大事なことなので彼はもう一度説明を繰り返した。



「おお! なんだか急に体が重たくなった感じがします!」


「まだ1Gのままだぞ」


「ハルハルは元々の体が重たいからね!」 


「あ゛あ゛! 圭子ちゃん、一度ゆっくり話し合いましょうか?」


「少し黙ってくれ、開始する」


 体に掛かる重力が1.1Gからスタートして、徐々に上昇していく。



「なるほど、こんな感じで体がズーンと重たくなっていく訳ね。これは燃えてくるわ!」


「圭子ちゃん、なんだか頭がボーっとしてきました。どうなっているんですか?」


 2人の心臓が血液を送り出す力によって、差が出ている模様だ。ずっと体を鍛えまくってきた圭子の心臓は1.1Gくらいではビクともしないのに対して、春名の方は脳に血が流れにくくなってボーっとした感じを訴えている。



「しばらくこのままで慣れていくぞ。圭子は焦るんじゃない!」


「まあ私の場合は最低でも5Gくらい無いと物足りないわね」


 初体験の重力トレーニングにも拘らず、圭子のこの余裕は一体なんだろう? やはり先祖が地球人ではないだけあって、何か特殊な体の作りになっているのだろうか? 



「1.2Gだ」 


「なんだか立っていられません! これ以上は無理です!」


「わかった、ひとまず春名はここまでにする。圭子は大丈夫なのか?」


「うーん? 確かに腕を上げたりするのはちょっとだけ重たく感じるけど、ほとんど変化なしって感じかな」


「それなら1.3Gに引き上げるぞ」


「どこが変わっているの? って感じしかしないんだけど」 


 重力による負荷すら諸共しない怪物がここに居た! 3割重力が増した状態で圭子は全く不自由なくその辺を歩き回っている。春名が早々にギブアップしたのとは対照的な姿だ。



「間もなく1.4Gだ」


「なんだか刺激が足りないわね。やっぱり5Gとかにしないとダメなのよ!」


 涼しい表情をしている圭子を見てタクミは戦慄を覚えている。彼が初めて重力トレーニングを行った時は1.3Gが限界だった。そこから時間を掛けて2Gまでなら普通に耐えられる肉体を築き上げてきたのだ。



「予定の1.5Gだ」


「ふーん、この程度のものなんだ。これなら50Gとか100Gもこなせそうね」


 バカな頭全開で圭子はとんでもないアホな話を口走っている。



「春名は調子はどうだ?」


「はい、さっきよりもだいぶ体が慣れてきました。これなら何とか走れそうです」


「最低でも2Gは欲しい所ね。まあ今日は初めてだしこの辺で勘弁してやるか」


 相変わらず余裕の圭子だった。そのまま準備運動を開始して走る気満々だ。



「待たせてすまないな。馬車を出発させてくれ」


「ケルちゃん、ゆっくり歩き出して」


 手綱を取る紀絵の合図で馬車はゆっくりと動き出す。ケルベロスはある程度人が話す言葉を理解するので、誰でもこうして御者台で手綱を握れる。主に圭子が御者を務めているのは、ケルベロスが喜ぶという理由だった。



「走り出すぞ! 無理をしないで体に異変があったらすぐに申し出ろよ!」


「タクミ君、わかりました」


「異変なんてどこにも感じていないわ」


 春名は慎重に圭子はいつものようにごく普通に走り始める。だが200メートル程進んだ所で春名が次第に遅れだす。



「春名は元に戻すぞ」


 走りながら徐々に重力を1Gに戻す。これも急激に行うと血圧や脈拍が急上昇して初心者は気を失ってしまうのだ。  



「なんだか急に呼吸が楽になってきました。体も軽くなっています!」


 負荷が減ってくると、春名は徐々にいつものペースで走れるようになってきた。表情も全く苦しそうな様子はない。



「ハルハルはやっぱりあのキッチンユニットを背負う方が良いんじゃないかな?」


「圭子ちゃんは人でなしです! 絶対にあれは無理ですから!」


「そうかな? タレちゃんはさっきあれを軽々と運んでいたけど」


「一緒にしないでください! 私よりもタレちゃんの方がステータスの数値が高いし、元々の馬力が違うんですから!」


「体力が1万を超えたら同じようなものだと思うけど。ああそれよりもタクミ! 全然物足りないから、もっと重力を引き上げてよ!」


「今日はさすがにここまでだ」


「なんだ、つまんないの! もっとこう体にドカーンと覆い被さる様な負荷を期待していたのに」


 重力1.5倍をなんとも感じない体力バカはこの際放って置くに限る。初日からこの負荷に耐えているだけならまだしも、こうして走っているのだからタクミから見れば驚きを通り越している。春名のような反応が普通の人間として当たり前なのだ。



「明日は3Gまで行くわ!」


「それ絶対に無理だから」


 快調なペースで走る圭子にいつもながら呆れているタクミと春名だった。



 

お付き合いいただいてありがとうございました。次回の投稿は水曜日を予定しています。たぶん別のパーティーの話題になると思います。


今週末はかなりの量を書き上げたので、明日は頭を休める意味で小説から離れて普通に仕事に精を出そうと思います。火曜日から話の構想を練るとちょっと時間がきついので、投稿時間は夜になるかもしれません。


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