26 新たな仲間
先程の話の続きです。中途半端なところで切れたので、臨時で投稿します。
ようやく意識がはっきりしてきた紀絵は、『ここはどこなのか』と考える。
確かセーフティーゾーンで男達に襲いかかられて、その時誰かに助けてもらったような気がする。
『一体誰が助けてくれたのだろう?』・・・・・・彼女の記憶は襲われたショックで曖昧なままだ。
不意に自分が誰かにおんぶされてダンジョンの通路を移動している事に気が付く。
『もしかしてこの人が私を助けてくれたの・・・・・・?』
同じパーティーだった男達からは感じなかった優しさと安心感がその背中から伝わってくる。この背中に体を預けていれば、先程の絶望感が嘘のように消えていく。
よく知っている人のようでもあるが、全く触れた事のない背中だった。
「気が付いたか? もう少しで外に出るからしばらくこのままで我慢してくれ」
自分を背負って歩いている男が振り返る。その横顔を見たとき紀絵は固まった。
絶望の中で最後に助けを求めた存在が目の前にあった。
紀絵は動転した。さっき男達に襲われたとき以上にこの状況に動転した。
彼女の人生の中でこれ以上気持ちが大きく揺さぶられた事はなかった。
体を動かして離れようとするが、逞しい腕にがっしりと押さえられて体が動かせない。いや、そもそも体に力が入らない。
『どうしよう、絶対に嫌われる』
会いたくてやまなかった人との再会がまさかあんな形になるとは・・・・・・『これ以上ない最悪な形での再会だ』と彼女は思った。
あんな場面を見られた恥ずかしさに、この場から逃げ出したい気持ちが彼女を包み込んで声も出せない。
不意に紀絵の瞳から涙がこぼれた。我慢など出来ない、大粒の涙が次々に流れ出してくる。自分の背中でしゃくりあげる紀絵を心配してタクミは振り返りながら声を掛けた。
「もう大丈夫だから安心しろ、やつらは圭子が叩きのめした」
自分を安心させようと掛けられた言葉にも拘らず、紀絵にはそれが自分を責めているように聞こえた。
ますます心の中が絶望で染まる。その絶望感が彼女を駆り立てた。
「だって(グスン)タクミ君・・・・・・私のこと(グスングスン)嫌いで(グスン)・・・・・・」
泣きながら訴える紀絵の言葉にタクミは首を捻る。
「好きも嫌いも、お前誰だっけ?」
「「えっ?!」」
タクミの言葉に紀絵だけでなく、彼の前を歩いていた春名までが驚いて声を上げた。
「タクミ君、その子は紀絵ちゃんですよ!」
あまりのタクミのデリカシーの無さに呆然としている紀絵に代わって春名が答える。
「紀絵????? もっとポチャリしてなかったか?」
タクミの中の彼女のイメージは城を出た時のまま固定されていて、それが彼女が誰だかわからない理由だった。
「女の子はいつでも変身出来るんです!」
自信タップリに言い切る春名の言葉に、そうなのかと思って振り返って彼女の顔を見てみると、確かにその顔に見覚えがある。
「すまん、確かに紀絵だった。可愛くなっていて見違えた」
呆然としていた紀絵の耳に『可愛くなっていて見違えた』という言葉が響く。
『えっ? タクミ君は今なんて言ったの?? 誰が可愛い?? 私?? そんな、まさか・・・・・・』
彼女の心の中が再び揺れ動く。
確かに幼い頃は痩せていて周囲から『可愛い』と言われた事はあったかもしれない。でも小学校の高学年から太りだして、その頃からあまり仲のいい友達がいなくなり、それが今に至っている。
物心がついてから初めて言われた言葉・・・・・・それも大好きな人の口から出た・・・・・・
それでもまだ信じられない紀絵はタクミに聞こえるように声を絞り出した。
「冗談はやめてください」
背中から聞こえた言葉に不本意そうな表情でタクミが答える。
「俺はあまり冗談が言える人間ではないんだが」
厳密に言うと異星人だが、ここは言葉を濁しておく。
「そうですよ、タクミ君は冗談が言える人ではない事を付き合いの長いこの私が保証します!」
春名がそれなりにある胸を張って答える。
春名の答えを聞いた紀絵は以前から思っていた事を思い切って切り出した。
「付き合いが長いって・・・・・・十六夜さんはタクミ君と付き合っているんですか?」
春名の顔が急に赤くなる。
「タ、タクミ君とは、け、結婚の約束をしています」
照れながら答える春名の言葉に紀絵は『やっぱりそうなのか・・・・・・』と再び絶望する。
「でも、タレちゃんと空ちゃんもタクミ君のお嫁さんになる予定です!」
いつの間にか自分の知らないところで、嫁が増えている事実にタクミの背筋が凍りつく。
紀絵の方は話がわからなくて、頭の中が大混乱のようだ。
「このお話は後でちゃんと説明しますので、ノンちゃんも希望があればお嫁さんになれますよ」
『こんな所で嫁の勧誘をするな!』タクミとしては盛大に突っ込みたいが、話がややこしくなるので無言を貫いた。
「それよりノンちゃんは、私達のパーティーに入ってくださいね。元に戻すわけには行かないですからね!」
春名の強引な勧誘に頷くしかない紀絵だった。
ダンジョンの入り口で待機していた騎士達に紀絵を引き取る事とバカ5人が下でのびている事を伝えて、一行はダンジョンを出た。
「結構長く入っていた気がする。やっぱり太陽の下はいいよね!」
圭子は大きく伸びをして解放感に浸たる。その姿に春名と美智香が続いた。
時刻は昼過ぎ、昼食をとる事にする。
紀絵はまだ食欲が無かったので飲み物だけを頼んだが、他のメンバーはダンジョン攻略を祝って盛大に食べまくっていた。
店を出る頃にはようやく歩けるようになった紀絵も一緒に宿に入る。
メンバーが増えたので二部屋に分かれる事となって、希望者によるくじ引きで今日はタクミと空が同室で残りの女子は5人部屋となった。
彼らの事情を知らない紀絵はその様子に驚いていたが、当たりくじを引いてガッツポーズをしている空の表情があまりにもうれしそうな事になんとなく事情を察したようだった。
宿に入るなりダンジョンの疲れを癒そうと、女子一同が風呂に直行する。
賑やかな女子トークの中でタクミを廻る事情の説明があって、紀絵もなんとなく理解した様子だった。
ただし、異星人の件はまだ伏せている。
風呂から上がって髪を乾かし終えた紀絵を春名が鏡の前に連れて行く。
『そういえばこの世界に来て鏡なんて見た事無かったな・・・』と思いながら鏡の前に立つ紀絵はそこに移る自分の姿に思わず息を呑んだ。
確かに最近体が軽くなったとは感じていたが、まさかここまで痩せていたとは思わなかった。
「ねえ! ノンちゃんきれいになったでしょう!!」
春名の声に戸惑う紀絵、その姿が自分とは到底思えなかった。
「これが私・・・・・・」
彼女の目に再び涙がにじむ。
「ノンちゃんはこんなにきれいなんだから、もっと自信を持って! 泣いたりしたら美人が台無しだよ!」
その言葉に我慢が出来ずに、春名の胸に抱きついて声を上げて泣く。
「春名ちゃん、ありがとう。これからお世話になります」
彼女が本当にこのパーティーの一員になった瞬間だった。
今日はこれで終わりです。今度こそ本当に次回の投稿は水曜日です。




