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252 張り巡らされた陰謀

お待たせいたしました、第252話の投稿です。前回の後書きで予告した通りに、今回タクミたちの登場は前半のほんのちょっとで、以降は別のクラスメートたちにお話が移ります。誰が話題の中心かはこのお話の中身で確認してくださいませ。

 デルートの街を出発する日がやって来た。タクミたちは馬車に乗って街の東門に集まっている。相変わらず朝に弱い春名は馬車の中でグースカ寝ている。


「タレちゃん、朝ごはんはまだですか?」


 寝言でご飯を要求する春名。多分もう少しすればお腹が限界を迎えて目を覚ますだろう。寝る時も彼女は着ぐるみ姿なので、そのまま岬が抱えて馬車に押し込んできた。それにしてもこれだけ馬車で揺られても寝続けられる神経は尋常ではない。


 他のパーティーもすでに馬車に乗って集まっているので、出発の合図を待つだけだった。この街で受けた依頼のために結構な時間を取られたのでなるべく先を急ごうと誰もが考えているが、肝心の圭子が全く出発の合図を出さなかった。


 その理由はこの場に獣人たちの商隊が居合わせているためだった。彼らもこの日デルートを発って森に戻るので、門の前に5台の馬車を連ねて出発を待っている。



「お姉ちゃん、また会えるよね!」


 アミーは御者台の圭子を見つけると、チョコチョコと駆け寄って来てそのまま彼女に抱きついている。その光景を微笑ましく見ている勇者たちや勇造たちのパーティーの姿がある。


 だがその一角で懲りない連中が居るのだった。


「おい、獣人だぞ!」


「ケモミミキターーー!!」


「しかも幼女だ!」


「あの尻尾をモフリたいぜ!」


「何とか仲良くなれないか? 誰かいいアイデアは無いのか?」


 殆どコミュ障と言っても差し支えないこのオタクたちは、アミーを見て声のトーンが制御できないくらいにテンションが上がっていた。当然その声やしゃべっている内容が圭子の耳に届いてくる。


「アミー、良い子だからちょっとここで目を閉じて待っていて! お姉ちゃんからプレゼントがあるからね!」


 圭子はそのままアミーを御者台に置いてオタクたちに近付いていく。


「成敗!」


 そして鮮やかな手付きで5人の鳩尾に狙い済ました拳を入れていくのだった。


 オタクたちは声を上げる暇も無く門外の広場に転がされている。彼らをそのまま放置すると圭子は車内に居る岬に声を掛けて、彼女から木の皮に包まれた何かを受け取った。


「アミー、もう目を開けてもいいわよ! はい、これはアミーにお土産! 森に帰る道中で食べなさい」


 圭子から受け取った包みの端っこを少し開いてアミーが覗くと、その中には岬手作りのクッキーがギッシリと詰まっていた。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


 アミーは飛び切りの笑顔を圭子に向けている。圭子が作ったわけではないが、成り行きでドヤ顔しながら彼女はアミーの頭を撫でている。意識を失っているオタクたちがこの光景を目にしたら、血の涙を流しながら悔しがるだろう。


 そのオタクたちには空と紀絵がおっとりとした様子で近付いて、適当に回復魔法を掛けている。このままでは全体の出発が遅れるので止むを得ない処置だった。本心ではこのまま放置していきたいくらいだ。




 獣人たちはシロとファフニールを囲んでお別れの挨拶と道中の無事を祈っている。その祈りが終わると、圭子がアミーに自分の馬車に戻るように促す。


「お姉ちゃん、またね!」


 手を振りながらシロとファフニールに挨拶をしてアミーは自分の馬車に戻っていく。父親が操縦する御者台にチョコンと座って、圭子に向かって盛んに手を振っている。



「さあ、出発するよ!」


 アミーに見送られながら、5台の馬車が動き出した。このままこの先の街道の分岐点を北に向かって進むのだ。真っ直ぐに東に向かう獣人たちとはここでお別れだ。ケルベロスが引っ張る馬車は土煙を上げながら、アミーの視界の彼方に消えていった。




「お姉ちゃん、また会えるよね」


 そう呟くアミーが乗る馬車も動き出して、東に向けて街を離れていくのだった。












 場所は移って、こちらはアルストラ王国にやって来たバカ5人組だ。彼らはノアルド伯爵に仕えるフィルレオーネという男に唆されて、現在この国の鉱山で奴隷として働かされている本村修平を救い出すためにこの地にやって来たのだ。


「それにしてもここは小さな街しかない田舎だな」


 和田文也たち5人は山のふもとにある小さな街の宿屋で時間を潰すだけの生活を送っていた。彼らは修平を救い出そうと意気揚々とここまで来ては見たものの、犯罪奴隷が数多く働かされている鉱山の警備が厳重で、入り込む隙を見つけられずにこうして無為な日々を送っていた。


「でも鉱山っていうのは定期的に魔物が湧き出すんだろう」


「話によるとそうらしい。ちょうど1年前に魔物が大量発生した時は警備する騎士の手に負えなくて、多くの冒険者を雇って鉱内に送り込んだと聞いている」


「その時を待つしかねえな」


 安宿に宿泊しながら流れてきた冒険者という触れ込みで、たまにギルドの簡単な依頼を受けながら5人は過ごしている。『全く何もしないのは逆に周囲から怪しまれるだろう』という案内役のノアルド伯爵に仕える男の提言に従っているのだった。



「お邪魔しますよ」


 そこに彼らをここまで引率してきたその男が入ってくる。彼はアドラーと名乗る魔法使いだった。


「アドラーさん、鉱山の様子に変化はないですか?」


 文也がこのところ彼の顔を見るたびに繰り返している質問を口にする。決まってその答えは『何の変化もない』だったのだが、この日は全く違っていた。


「ここ最近、鉱山から運び出される鉱石の量が減っている。さらに今朝、新たな騎士団50人が周辺の街からここに到着した。いよいよ待っていた機会が訪れた可能性が高いな」


「本当か!」


「ああそうだ、まだギルドには応援の冒険者の依頼は出されていないが、ちょくちょく顔を出して鉱山内の魔物退治の募集がないかを確認するんだ」


「よーし、ついに修平を救い出す時がやって来たな! 待っていろよ!」


 5人が腕捲りをして仲間の救出を誓っている。元々頭の弱い彼らにとっては、日本でもこの世界でも法律がどうのこうのといったのは最初からどうでもいい話だった。本来素質はあったが、依頼で魔物を倒していくうちに力をつけた彼らは今やマンガで『ヒャッハー!』しているモヒカンと変わらない立派なDQNに成長していた。


 とは言ってもタクミや圭子から見れば、踏み潰されるだけのほんの下っ端に過ぎないが。いや、訓練をサボっている分だけ、ルノリアにも敵わないかもしれない。ただその性格だけが荒事を好み、粗野で粗暴という残念過ぎる姿に成り下がっているのだった。









 本村修平は鉱山の入り口近くに立てられた粗末な小屋にその身を横たえている。日々の過酷な労働と粗末な食事でその体は痩せ衰えているが、その眼光だけが自分をこんな立場に追い込んだタクミに対する復讐心でギラギラとした光を湛えている。


「チクショウ、絶対にここを出てやつらを地獄の底に叩き落してやる!」


 とは言っても具体的な方策が浮かぶわけではなかった。背中に大きく刻まれた奴隷の紋章によって、彼の力は10分の1に制限されているので、反抗しようとしても容易く警備の騎士に取り押さえられてしまう。それよりも騎士たちが首から提げている笛を吹かれただけで、紋章に刻まれた術式が発動して体中に激痛が走るのだ。そのあまりの激痛に抵抗どころではなくなってしまう。


「とにかく今は機会を待つしかねえ! それまではなんとしても生き抜いてやる!」


 そう言いながら彼は力が入らない体を少しでも休めるために目を閉じるのだった。



 現在鉱内には鉱石を好んで食べるメタルリザードや暗闇を好む吸血コウモリといった魔物が増え始めて、採掘が一旦休止されている。その間は犯罪奴隷たちも束の間の休息を得られるのだった。


 犯罪奴隷とはいえ、鉱石を掘り出す貴重な労働力だ。それをわざわざ魔物の餌にくれてやるのはもったいない。ちなみに魔物に襲われて怪我をした奴隷は手当てなどしないでそのまま放置される。次の犯罪奴隷を送り込めばいつでも補充が利く。とはいっても、鉱山の生産性を考えると作業に慣れた奴隷は重宝するので、魔物が姿を消すまではこうして待機が命じられるのだった。



 魔物たちは鉱石を掘り尽くして廃棄された古い坑道で発生するとわかっている。その区画は厳重に鉄の扉で封鎖しているのだが、メタルリザードが鉱石を求めて壁に穴を横開けると、それが偶然現在の坑道と繋がってしまうケースがある。人間も魔物もお互いに鉱石を求めているので、その行き着く先が一致してしまうのだ。それが定期的に鉱内に魔物が溢れる理由だった。



 騎士たちが一団になって坑道を進んでいく。速やかに討伐しないと鉱石の産出が止まってしまうから、彼らも必死の思いだった。


「予想外に魔物の数が多いぞ!」


「吸血コウモリがいる! 噛み付かれないように注意しろ!」


「リザードは集団で取り囲め!」


 周辺の街から協力を仰いで奴隷の監視役の50人を残して、騎士たちは総勢100人規模で鉱内に入り込んでいるが、奥から次々に魔物がやって来る状況にお手上げだった。


「ダメだ! この人数ではとても手が足りない! 一旦退却して、王都に連絡しろ!」


 メタルリザードはウロコが硬くて何度も剣で斬り付けないと致命傷を負わせられなかった。むしろこの魔物に対する場合は斧使いや戦鎚を手にして撲殺するのが効果的だ。圭子や岬レベルだったらヒョイヒョイ仕留められるのだが、そんな遣い手は騎士団には存在しない。その上リザードに注意をとられていると、いつの間にか頭上に吸血コウモリが忍び寄っている。暗闇を味方にする忍者のようにして襲い掛かってくるので、騎士団は手を焼いている。已む無く隊長は撤退を命じるしかなかった。





 数日後、この街だけではなくて周辺の一帯の冒険者ギルドに『鉱山での魔物退治の依頼』の張り紙が国王名で掲示された。


「ついにチャンスが来たぜ!」


「俺たちも乗り込むぞ!」


 文也たち5人はすぐに受付で依頼を受注する手続きを取って、鉱山に向かっていった。











 ノアルド家に仕えているフィルレオーネは伯爵に『5人の面倒を見るためにしばらく王都を離れる』と許可を取って現在王都から見て東の森にその姿を現している。


「気配からするとこの辺りだが・・・・・・」


 彼は森の中を気配を頼りに何かを探しながら歩いている。文也たちが居るのは王都から見てはるか北西の方向の隣国で、それとは全く反対方向にやって来て彼は真剣な目で気配を追っている。



「どうやらここだな」


 彼は1本の大木の前に立っている。その根元には大きな洞があって誰かが潜むには最適な場所だった。



「魔王様、ランデスベルでございます! お姿をお見せくだされ!」


 彼はその大木の洞に呼び掛けると、その内部からいらえがある。


「なんだと! ランデスベルだと!」


 うっそりと中から出てきたのは圭子に蹴り上げられて、地上100メートルからヒモなしバンジーを経験した例の魔王だった。ボロボロになった体の傷をここで癒して回復を図っていた。


「魔王様、お久しゅうございます」


 ランデスベルと名乗った彼は魔王の前に跪いて頭を垂れている。その瞳は主君にまみえた喜びに輝いている。


「お前は死んだと聞かされていたが、無事だったのだな!」


 魔王は自分の右腕だった忠臣が生きていたのが信じられない様子で、驚いた表情を浮かべている。もっともこのところ、美智香、岬、タクミ、圭子の順番で恐怖と驚愕と苦痛に満ちた体験をしているので、それに比べるとささやかな驚きに過ぎないが・・・・・・



「にっくき神の手先に無念の死を遂げたのは私の影武者でございます。私はこの通りに魔王様が鎧に封印されてから常にお近くで真の復活を遂げる機会を待っておりました」


 魔公爵ランデスベルは人の姿に扮して2000年の間、魔王が封印されていた鎧を見守り続けていた。ただひたすら自らの主人を復活させるためだけに、長い年月を耐え忍んで過ごしていたのだった。


「そうか、そなたにも苦労を掛けたな。その忠誠を我は確かに受け取ったぞ」


「魔王様、もったいなきお言葉です」


 両者の間には2000年の時を超えた主従関係が当時と全く変わらない形で成立している。


「魔王様、私はついに魔王様がその魂を宿すに足りる真の器を発見いたしました。その者は間もなく配下が確保いたしますので、どうか魔王様は一旦鎧の中にお戻りいただいて、新たな体を手に入れるまでしばらくの間お休みください」


「なんと! 我に相応しい器だと! それは朗報なり! このポンコツな体のおかげで我がどれだけ酷い目に遭ったか筆舌に尽くし難し! わかったぞ、すべてそなたに任せよう」


「御意」


 その言葉を残して魔王は鎧の中に再びその魂を戻していく。魂を失った廃太子の体は支えを失ってドウッと音を立てて大地倒れこんだ。ランデスベルはその体から鎧を取り外す。廃太子の体は20代の男性とは思えない程やつれ果ててまるで老人のようになっていた。


 ランデスベルはその体には一切見向きもしないで、まだ所々修復が終わっていないその鎧を元の形にきれいに直して収納魔法で大切に仕舞い込む。


「魔王様、もうしばらくのご辛抱です。新たな体を手に入れて、現在『魔王』を僭称する不遜な輩を打ち倒し、魔王城を取り戻しましょう」


 こうしてランデスベルは何処ともなく消えていくのだった。

 



 



 

タクミたちの周辺ではなんだか事態が大きく動いているようです。次回の投稿は多分このお話の続きになりそうです。果たして修平やそれを取り巻く文也たちが今後この物語にどのように関わるか、どうぞお楽しみに!


早ければ明日、遅くても月曜日の夜には投稿します。まだ殆ど出来ていないけど、多分大丈夫です。この原因不明の自信がどこから湧き出るのか自分でも本当に不思議です。

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