251 待っていたのは・・・・・・
遅くなってすみませんでした。連休中にいっぱい書き上げて投稿するつもりでしたが、何故かこういう時に限って『そろそろ夏物の服と入れ替えないと』『ああそうだ! 布団も夏物に替えないと』『実家のエアコンの掃除だと!』と休みの時にしかできない用事が山ほど重なりました。(言い訳)
でも今日からの4連休はたぶん何もないはず・・・・・・ そう思いたいです。たくさん書き上げて、でき次第投稿していきます。
ひとまずは251話ですが、ちょっとマッタリとした内容です。圭子さんが大ハッスルしますが、その原因は・・・・・・
それからお知らせです! 2月から投稿を開始しました【帝国魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強に・・・あれっ、もうなっていた!!】がタイトルを若干変更して現在38話まで投稿を終えています。ちょっと特別な力を持った異世界人の子孫を巡る学園物でかなりコミカルな路線の物語です。興味がある方は下記のURLにアクセスしてください。
URL https://ncode.syosetu.com/n4271eo/
Nコード N4271EO
新タイトル 魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強を目指す!
デルートの街は東と北に向かう街道が分岐する場所だ。タクミたちは以前この街から東に向かって猫人族を村まで送り届けてから、エルフの森に出向いてPNIシステムを作動させた。
その旅を終えて一旦ラフィーヌに戻ると、再びこの街を経由してマルコルヌヌの火山を目指して北上していった。
往復で合計4回もこの街を訪れているので、当然冒険者ギルドには『大地の嵐』のようにタクミたちの存在を知っている冒険者が何人かは居る。ましてあんなに目立つケルベロスが引っ張る馬車に乗っているのだから、その存在は当然街中の噂になっていた。
「どうやら相当な腕を持った冒険者の一行らしいぞ!」
「もしかしたら王都に招かれた勇者様一行じゃないか?」
「でも聞くところによると、その勇者様たちを試合で破った聖女様のパーティーというのも居るらしいぞ」
「何でも小さなドラゴンも連れているらしい。これは本物に違いない!」
街の噂はどちらも正解だった。勇者も聖女もひとまとめになって、迷宮を目指してここから北上する予定だった。そんな飛び切り豪勢な一行だが、彼らの存在を知っているのはほんの一握りの口の堅い冒険者ギルドの関係者たちばかりなので、誰もその正体を知る機会はなかった。それが余計に噂に尾ひれが付いて、人々は『彼らが何者なのか?』と街の至る所で人が集まるともっぱらその話題が話し合われるのだった。
宇宙船の探索を終えた翌日、タクミは一人でギルドにやって来ている。これから北上する北街道の情報を収集するためだった。隣国のアルシュバイン王国の戦乱が収まって、北街道は以前のような賑わいを取り戻している。街道沿いにある街は隣国まで往復する間に1泊して通過するだけだったので、殆ど詳しい状況がわからないに等しかった。殊に隣国の戦乱が収まった最近の様子をがどうなっているのかを確認したかった。
重たいドアを開いて中に足を踏み入れた瞬間、タクミに向かって声が掛かる。
「やっぱりアンタだったな! ここに居れば会えるんじゃないかと思って待っていたんだ」
タクミがその声の方に顔を向けると、そこには狼人族の青年が立っている。どこかで見た顔だなと思ってタクミが記憶を手繰ると、彼はエルフの森と川を挟んだ手前まで案内してくれた青年だった。
「森を案内してくれた、えーと確か名前は・・・・・・」
「カリムだ!」
「そうだった、久しぶりだな」
タクミはカリムに右手を差し出すと、彼もガッシリとした手で握ってくる。一見無愛想なタクミだが、過去に世話になった人間に対してはこうして気軽に自分から握手を求めるのだ。
「こんな場所で出会うとは奇遇だな。冒険者にでもなったのか?」
「あんたたちに憧れて冒険者に登録したんだよ! 今はまだEランクの駆け出しで大きなことは言えないけどな。今は森を出発した商隊を護衛してこの街に来ている。良かったらみんなの所に顔を出してくれないか?」
「ああ、構わないぞ。ちょっとこの先の北街道の情報を聞き込んでからで構わないか?」
「ああ、東街道だったら詳しいが、北街道はまだ何度も通っていないから、この場で情報を集めてくれ」
その言葉に甘えてタクミはギルドマスターの部屋に出向いて一通り話を聞いてから階段を降りてきた。
「それじゃあ、一旦俺たちが宿泊している宿に行ってから、馬車で出向こうか?」
「ああ、そうしてくれ。ぜひ犬神様には一目でいいから会わせてほしい」
獣人にとってシロは神聖な存在だった。霊獣なのだから当たり前だが、それにしてもこの狼人族のカリムは犬神に対する畏敬の念が尋常ではない。信仰の対象が目の前に実在すれば、もしかしたら誰でもこのような態度になるのかもしれないが・・・・・・
「おーい、お客さんを連れてきたぞー!」
タクミは女子の部屋のドアを開くと、昼食前で彼女たちは思い思いの時間を過ごしている所だった。シロだけは床に寝そべっていたのが目を開いて起き上がろうとしている。
「犬神様!」
カリムはそのシロの姿を目にするなり、一目散に駆け寄ってその前に跪いて祈りを捧げている。
「この人は森を案内してくれた人?」
「そうだ、彼は狼人族のカリムだ。話によると獣人の森から商隊がここにやって来ているらしい」
彼の顔を覚えていた美智香の問いにタクミが答えるが、そこに圭子が思いっきり食い付いてくる。
「もしかしてアミーも来ているの?!」
「どうやらそうらしい」
「よーし、全員外出の準備に取り掛かれー!」
こういう時の圭子の行動は素早い。全員に号令を掛けてから馬小屋にすっ飛んでいって、ケルベロスを引き出してから馬車に繋いでいる。そのまま馬車を正面に回して、全員が出てくるのを『まだかまだか!』とジリジリしながら待っているのだった。
そして圭子がシビレを切らせて宿の中に呼びに行こうとした頃に、ようやく空を先頭にして女子たちが出てくる。
「もう、遅いよ! もっと行動は迅速に!」
「圭ちゃんと違って、普通の女の子は出かける時には準備の時間が必要!」
圭子に対して美智香が反論している。その反論は暗に『圭子は普通の女の子ではない!』と指摘しているのだが、当然圭子にはそのような回りくどい皮肉は伝わらなかった。
「準備なんて気合でどうにでもなるのよ! もっと普段からすぐに外に出られる心構えをしないとダメでしょう!」
圭子さん、そこじゃないです! 着替えたり髪を整えたりする準備であって、戦に駆け付けるための準備ではありません!
「圭子に何を言っても無駄」
空が残念な物を見る目で圭子を見ている。彼女は今日は外出する予定がなかったので、部屋着のままでベッドに転がってシールドを張っていかがわしい本を鑑賞していた。あまり着る物に拘らない空でも、修道着を着込む時間は必要なのだ。
このような遣り取りを横目にしつつ、岬やルノリアは馬車に乗り込んでいく。春名は相変わらず着ぐるみ姿のままだ。サイズが合う服を何着か購入したのだが、この格好が締め付ける箇所がなくて楽なので、今日もそのまま外出するつもりだ。
最後にタクミとカリムが出てくると、カリムはケルベロスの雄大な姿を見て言葉を失っている。シロと同じく霊獣のケルベロスは、狼人族の信仰の対象だった。もっともシロが国宝級の仏像レベルに対して、ケルベロスは道端のお地蔵さんぐらい差がある。それでも街中でこのような立派な姿のケルベロスを見掛けるのは、極めて稀だった。カリムは両手を組んで短い祈りの言葉を呟いている。
「それじゃあ、出発するよ!」
案内役のカリムが圭子の隣に座って、馬車は通りを進んでいく。通行人は相変わらずケルベロスの姿を見てギョッとした表情を浮かべている。これでさぞかし街中に噂の種が広がることだろう。
馬車で10分程進んだタクミたちの宿のある場所からもっと下町に近い所に一軒の古ぼけた宿屋がある。ここに獣人一行は宿泊しているのだった。
「着いたよー!」
圭子の合図で扉が開いて馬車からは次々とパーティーメンバーが降りてくる。
ルノリアは車内で簡単に猫人たちを悪徳商人から救出した出来事を聞かされていた。獣人の森から相当離れた場所に住んでいたので、ルノリアは普段の生活で獣人を目にする機会がなかった。好奇心が強い彼女は獣人たちとの出会いを楽しみにしている。そして・・・・・・
「お姉ちゃん!」
「アミー、元気だった?! ちょっと見ない間に大きくなったんじゃないの?」
宿の入り口から転がり出るようにして、アミーが圭子の胸に飛び込んでくる。彼女は『凄い冒険者がこの街に来ているらしい』という噂を耳にして、圭子が居るのではないかと宿に着いてから一日中窓の外を通る人を眺めて過ごしていた。
そして宿の前に止まった馬車の御者台に圭子の姿を見つけて、居てもたっても居られずにこうして入り口から転がり出てきたのだった。
感動の再会が一段落して圭子が地面にアミーを降ろすと、ファフニールを背中に乗せてシロがゆっくりと近づいてくる。
「犬神様、竜神様、また会えて嬉しいです」
アミーは2体の霊獣に気が付いて、さっと跪くと祈りを捧げる。シロはアミーの顔をペロペロと舐めてファフニールは彼女の頭の上に飛び移った。2体の霊獣に歓迎されてアミーは幸せいっぱいの表情をしている。
その頃にはようやくタクミたちの到着を知った獣人たちがゾロゾロと入り口から出てきた。彼らはタクミたちに挨拶をしてから、3体の霊獣を取り囲んで祈りを捧げている。
「お姉ちゃん、この大きな犬神様もおねえちゃんの仲間なの?」
「そうよ、ケルはダンジョンの奥で1人で寂しそうにしていたから、私が連れ出したのよ」
「やっぱりお姉ちゃんは凄い人だね! 犬神様をダンジョンから連れ出してくれてありがとうございました」
アミーはケルベロスが仲間になった経緯を聞いて、圭子の強さに驚くとともに心から感謝をしている。以前よりも彼女自身、ずいぶん成長しているようだった。
「アミー、あとでケルの背中に乗って街を一回りしてみようか」
「お姉ちゃん、本当!!」
アミーの表情がパッと輝く。瞳をキッラキラにして圭子を見つめている。圭子はアミーにはとことん甘いのだ。彼女のためならケルベロスに跨って街を練り歩くなどお安い御用だ。ついこの間まで世紀末覇者の『黒王号』の代わりを務めていたかと思えば、今度はアミーのご機嫌取りとケルベロスも中々忙しい。
一通り霊獣たちに祈りを捧げた獣人たちは今度は着ぐるみを着込んだ春名を取り囲んでいる。彼らの目にも春名のイヌの着ぐるみ姿は奇妙に映るようで、『どうしてこのような姿をしているのだろうか?』という興味を引いているのだった。
「これは身を守る鎧のような物ですから気にしないでください」
獣人たちに囲まれてアワアワしている春名に代わって、岬が人混みを掻き分けて春名の隣に立ち塞がる。何故かその手にはダンジョンで手に入れたハルバートが握られているのだった。
「皆さん少し下がってください」
獣人たちは岬の指示に従って彼女たちを遠巻きにして囲むように広がった。
「あのー、タレちゃん! なんだか嫌な予感しかしないんですが、どうするつもりですか?」
「決まっています! こうするんです!」
岬が全長2メートル、重さ80キロ程のハルバートを横殴りに春名の胴体付近に叩き付ける。空気を切り裂くような唸りを上げてハルバートは春名に向かっていく。
「ひいーーー!」
春名が怯えたような声を上げるが、岬が振るったハルバートは着ぐるみ、もとい、パワードスーツの5層に及ぶシールドに遮られて胴体に当たる直前で止まっているのだった。
「ほーー、凄いな!」
「あんな威力で叩きつけてもビクともしないとは、きっと犬神様のご加護があるに違いない!」
岬の説明と実演で獣人たちは彼女の言葉を信じ切っている。岬が突然このような暴挙に及んだのは『春名の姿が獣人たちの姿を真似いると受け取られて、それが彼らを不愉快にするのではないか』という危惧があったからだ。体を守る防具だと実際にこうして見せておけば彼らは簡単に納得して、逆に神様の加護の賜物だと受け取っている。異文化交流は色々と気を遣わなければならないのだった。
「し、死ぬかと思いました・・・・・・」
「そんなに力は込めないで軽く振っただけですよ」
元々の性格がビビリな春名は軽く振ったとはいえ唸りを上げて迫ってくる岬のハルバートを目にして生きた心地がしなかった。何度も耐久試験を兼ねてジョンの工房を出る前に岬の攻撃を受けてそのこと如くを撥ね返しているとは言っても、いまだに怖い物は怖いのだ。
その頃には馬車を馬小屋に仕舞ってきた圭子がケルベロスの背中にアミーを乗せている。このまま街を一回りしてくるつもりのようだ。いつの間にかファフニールもその大きな背中に飛び移っている。
「それじゃあ一回りしてくるよ」
「お姉ちゃんと一緒に霊獣様の背中に乗れるなんて、とっても幸せ!」
手綱を取る圭子の前にチョコンと座って大切そうにファフニールを抱きかかえるアミーは笑顔でいっぱいだった。
そのままちょっと羨ましそうな獣人たちに見送られて、ケルベロスはノシノシと歩き出すのだった。
次回はタクミたちとは別のパーティーに話が移る予定です。どこのパーティーに焦点が移るかはまだ明かせませんが、どうぞお楽しみに!
投稿は土曜日か日曜日を予定しています。なるべく早目に公開できるように頑張ります!
前回の投稿で評価とたくさんのブックマークをお寄せいただきました。本当にありがとうございます。おかげさまで高いモチベーションでこの話を書き上げられました。引き続き皆様の応援をお待ちしています。