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240 ストームブリンガー

えー・・・・・・ 結論から申し上げると、今回もラフィーヌの街を出発できませんでした。こうなると毎度のお約束のようなものですね。もう作者自身は諦めています。何でちょっとした話題で済ませればいいものを長々と書き綴ってしまうのか。寛大な読者の皆さん、どうか呆れないでお付き合いください。




またまた宣伝です! 2月から投稿を開始しました【帝国魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強に・・・あれっ、もうなっていた!!】が現在27話まで投稿を終えています。ちょっと特別な力を持った異世界人の子孫を巡る学園物でかなりコミカルな路線の物語です。興味がある方は下記のURLにアクセスしてください。


URL    https://ncode.syosetu.com/n4271eo/


Nコード   N4271EO 


タイトル   帝国魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強に・・・あれっ、もうなっていた!!

 圭子隊長率いる混成パーティーは辻馬車を拾って伯爵邸に戻っている。ここでドロップアイテムの分配を相談するつもりだ。彼女らの無事な帰還を知った『蒼き稲妻(仮)』や『ストロベリージャム』のメンバーたちも全員が顔を揃えている。


 まるでオークション会場のようになった離れのリビングには伯爵も当然のような顔をして姿を見せている。ミスターに怒られないように、この日のために仕事を前倒しで終えていたらしい。仕事嫌いな彼には有り得ない勤勉な出来事だった。


 空が進行役で、鑑定スキルを持っている池園マミがアシスタントになって、ドロップアイテムの鑑定会が始まる。



 今回ダンジョンボス攻略で得たアイテムは前回同様『消費する魔力を10分の1にする魔法のペンダント』が3つと、遣い手によっては嵐すら引き起こせる魔法剣『ストームブリンガー』だった。


 3つの魔力のペンダントは美智香、ルノリア、紗枝の手にそれぞれ渡ることですんなり決着した。


「私にとっては飾りのような物」


 美智香は今まで魔力の残量を気にしながら魔法を放った記憶が殆どなかった。『深遠なる術者』の地位に上り詰めた彼女は現在の魔力量が10000を越えており、一撃必殺の魔王から盗み取った魔法ですら20発程度なら遠慮なく発動できる。それほど魔力に余裕がある彼女は『無いよりは役に立つだろう』という表情でペンダントを見ている。


「本当に私がもらっていいのでしょうか?」


 美智香と違って、ルノリアにとってはそのペンダントは値千金の価値を持っている。これで美智香同様に魔力の残量を気にせずに思いっきり魔法を撃てるのだ。美智香の弟子としては大きく彼女に近付いたように感じている。


「ルノリアちゃんも頑張ったんだからそのご褒美よ! ありがたくもらっておきましょう!」


 紗枝はダンジョンに滞在した期間でルノリアとすっかり仲良くなっていた。彼女にとって精霊を呼ぶ時や護符を使用する時の魔力の節約に繋がるのは大変ありがたいという表情をしている。




 そして大問題は『ストームブリンガー』を誰が所有するかだった。こんな優れた剣をまさか売りに出すわけにもいかない。


 今回『ストロベリージャム』から参加した五十嵐良助と笹川春夫の2人は上級剣士ではあるものの、この魔法剣を使いこなすには腕があと2段階足りなかった。何よりも魔法剣は魔力の使用が前提で、手にするだけで魔力がガンガン吸い取られていくので、長時間手にすることすら間々ならない有様だ。


「仕方ない、私が一時的に預かるから、この剣を持つのに相応しい腕になった2人の内のどちらかに譲るとしよう」


 現状『ストームブリンガー』をまともに扱えるのはどう見ても美智香一人だった。だが剣技を発揮する時には『ライトサーベル』を所持しているので、魔法剣などわざわざ手にするする必要が無かった。そもそも魔法の第一人者なので魔法剣など手にせずとも、嵐くらいならば当たり前のように魔法で引き起こせる。


 『このまま収納にしまいこんでおくしかなさそうだ』と彼女が剣を手にした時にルノリアが申し訳なさそうに声を掛ける。


「あのー、一度私にも握らせてもらえますか?」


 この魔法剣はかなり大振りな剣なので『体格的にルノリアには無理だろう』とその場に居る全員が考えていた。大柄な男性が振るうのにちょうど良いサイズなのだ。


「結構重量がある、気をつけて持つように」


「はい、身体強化を掛ければ大丈夫です」


 140センチ少々の子供がその背の高さに近い大剣を手にして2,3回素振りをする。『マルチタレント』のレベルが上昇して、体力がダンジョン踏破の前と比べて2倍になったルノリアは軽々と『ストームブリンガー』を振り回している。


「これは驚いたな! 子供だからといってバカにできないぞ!」


「ほほう、ルノリア嬢は剣士としても本当に良い筋を持っているな!」


 勇造と伯爵が驚いた声を上げるくらいにルノリアの剣捌きは堂に入っていた。この分なら岬と直接剣を交えることも可能なくらいに、迫力のある風切り音を立てながら続け様に剣を振るっている。いや、その剣の性質から言えば『風を味方に友として纏う』かのようだった。


「それじゃあこの剣の持ち主はルノリアに決定!」


「えっ!」


 拳王様の鶴の一声で全てが決定した。『誰にも文句は言わせない』というお約束の表情だ。逆に圭子から指名されたルノリアの方がびっくりしている。ほんのお試しで手にしてみただけなのに、『この剣を使え!』と言われたのだから、それは驚くだろう。


「うん、ルノリアなら使いこなせそう」


 美智香まで賛同する。


「ルノリアなら大丈夫!」


 紀絵も太鼓判を押している。こうなった以上ルノリアは師匠たちには逆らえない。


「ありがとうございます! この剣の持ち主として相応しい腕を身につけます!」


「そうそう、その意気よ! これから鍛錬はもっと厳しくするからね!」


「それはちょっと・・・・・・」


 圭子の最後の励ましだけは喜んで受け取れないルノリアだった。


 


 このままでは良助と春夫があまりに気の毒なので、彼らにはタクミの収納に収められている良さげな剣を一振りと『獲得したアイテムの中からほしい物を好きなだけ取って良し!』という許可が圭子から出た。


 これだけでも相当に太っ腹な計らいだ。彼らは自分のレベルに合った数本の剣と防具を受け取ることで満足していた。特に宝箱から出てきた鎧一式は『回復の鎧』というそうで、戦闘中に受けたダメージや疲労を徐々に癒すという特殊効果を持つ優れた物だった。



「圭子ちゃん、うちの2人の面倒を見てもらってありがとう。質の良い装備が手に入ったうえにレベルが上がったし、パーティーとしては万々歳よ」


「大したことはしていないわ。怒鳴りつけただけだし」


 圭子の発言はまったくの事実だ。ついでに付け加えれば、無言のプレッシャーも存分に男子2人に掛けていた。前に進んで命懸けで魔物に剣で斬り付けるか、後ろに下がって圭子から殴られるかというギリギリのせめぎ合いの中で彼らは生き残ったのだった。彼らの中では『圭子に殴られるよりは魔物と対峙した方が生き残る確率が高い』という生物としての本能的な判断が働いたのは言うまでもない。



「圭子ちゃん、お世話になったわね。ダンジョンで戦う目処が付いたし、私的には言うことないわ」


「おう! 圭子、ありがとな! 俺もこの前よりはずいぶん魔物相手に手応えがある戦いができたぜ! それじゃあな!」


 紗枝と勇造は彼らのパーティーを率いて自分たちの拠点に戻っていった。彼らにつられるようにして、恵たちのパーティーも戻っていく。





「伯爵様、そろそろお時間です」


 ミスターの出迎えで、伯爵は無念の表情で離れを去っていった。残っているのはタクミたちのパーティーメンバーのみだ。


「圭子、美智香、紀絵、ルノリア、お疲れさんだったな。ルノリアはずいぶんレベルが上がったみたいだし、頑張ったな」


 タクミはいつものようの彼に隣にちょこんと座っているルノリアの頭をポンポンしながら話し掛ける。ルノリアは久しぶりにタクミに会えた嬉しさでいっぱいの表情をしている。


「タクミ様、ルノリアは少しだけ強くなれましたが、皆さんに比べればまだまだです! これからもっと努力します!」


 客人が居なくなって遠慮がなくなったルノリアは思いっきりタクミの胸に顔を埋めて甘えている。10日近く会えなかった寂しさを埋め合わせるように甘えまくるつもりのようだ。


「ルノリアさん、今からそんなにご主人様に甘えると夜のお楽しみがなくなりますよ。今夜はご褒美にご主人様とご一緒して構いませんから、それまでは我慢しましょう」


「岬さん、いいんですか?」


 タクミの胸に埋められていたルノリアの顔がパッと上がった。岬から掛けられた一言は想像以上に効果があったようだ。ルノリアにとってこれ以上はないダンジョン踏破のご褒美だった。


「ええ、今夜はご主人様にいっぱい甘えてください。その代わりに人前では今まで通りに自重してくださいね」


 離れの使用人の目がある所では『伯爵令嬢らしく振舞え』という岬の言葉にルノリアは素直に頷いてタクミから体を離した。ちょっと残念そうだが『夜になるまでの我慢!』と自分に言い聞かせている。  








 夕食が終わって風呂も終えたタクミは部屋の明かりを点けたままベッドに横になっている。そこにドアをノックする小さな音が響く。


「タクミ様、お邪魔します」


 そこには白いガウンを着たルノリアが立っていた。タクミが迎え入れると彼女は後についてチョコチョコと部屋に入ってきた。そのままソファーの所でガウンの紐に手を掛けて脱ぎ去ろうとするが、その手が躊躇いがちに止まる。


「タクミ様、そ、その・・・・・・ 今日はルノリアを全部見ていただきたくて・・・・・ あ、あの・・・・・・ はしたないと思わないでください」


 タクミの脳裏に嫌な予感が浮かぶ。確かこの前は空に唆されて薄絹一枚を纏ったあられもない姿でベッドに潜り込んで来たという出来事があった。果たして今回は何を企んでいるのか・・・・・・


「ルノリアの全てはタクミ様の物です。ど、どうぞ、ご覧になってください」


 はらりと脱いだガウンが床に落ちるとそこには・・・・・・ 生まれたままの姿で一糸纏わないルノリアが立っていた。


「えーと、ルノリア・・・・・・ また空に唆されたのか?」


「いいえ、岬さんです! タクミ様との婚約者として認められるためには、裸を見られるのに慣れなければならないと聞きました」


(遣られた!)


 タクミは完全に岬の手の平で転がされていると感じた。何を隠そうタクミのハーレム作りに一番積極的なのは彼女なのだ。今夜はタクミに精神的な致命傷を与えるつもりでルノリアを送り込んできたのだろう。


 どうしたものだろうと考え込んでいるタクミを前にして、ルノリアはまだ恥ずかしさが抜けずにモジモジしながらタクミを上目遣いで見る。そのまだ凹凸のない体全体をくねらせながら、両腕をおへその辺りで組んでモジモジしている。


「そ、その・・・・・・ タクミ様、私の裸では嬉しくないですか?」


 とんでもない質問がルノリアの口から繰り出された。『イエス=幼女の裸が嬉しい』に対して『ノー=ルノリアの裸が嬉しくない』という意味の究極の質問だ。タクミとしてはロリコンを肯定するわけにも行かず、かといってルノリアを否定するわけにも行かない。


「いや、ルノリアはどんな姿でも可愛いぞ」


「タクミ様、嬉しいです!」


 ルノリアは満面の笑みでベッドに腰掛けているタクミに抱き付いて来た。その幼い体全体をタクミに預けて、ブロンドの髪からは仄かなシャンプーの香りがタクミの鼻をくすぐっている。タクミ自身はルノリアを抱き留めながら、彼女が喜んだ上に特に差し障りのない答えを何とか捻り出してホッとしているのだった。


「ルノリア、だいぶ暖かくなったとは言っても、その姿では風邪を引くかもしれない。何か着た方がいいぞ」


「タクミ様が暖めてくださるから大丈夫です!」


(うん、わかった! どうやらルノリアはこのままの姿で寝るつもりだ!) 


 ここまでルノリアが覚悟を決めている以上は、もう止めるのは不可能だとタクミも覚悟を決めるしかなかった。彼はルノリアの裸体をお姫様抱っこでベッドに寝かせると、その隣に身を寄せるように体を滑り込ませる。


 そして彼女が風邪を引かないようにほっそりとした体をギュッと引き寄せて自分の体で暖めるように両腕で抱きかかえた。


「タクミ様、暖かくてとっても幸せです」


 それだけでルノリアはもう夢心地の様子だ。大人のあれこれをまだ知らないその穢れの無い純情さを守るかのようにタクミはそっと彼女に口付けをする。


「ルノリア、お休み」


「タクミ様、お休みなさいませ」


 しばらくウットリした表情だったルノリアの顔から次第に眠そうな様子が伝わってくる。彼女は必死に眠気を我慢してこの幸せな状態を感じていたかったのだが、ついにその目がゆっくりと閉じていく。


 こうしてタクミはルノリアが風邪を引かないように気を遣いながら、一晩中素っ裸の彼女を抱きしめて寝るという、なんとも寝苦しい一夜を明かす羽目になったのだった。



 




次回の投稿は水曜日の予定です。 ブックマークありがとうございました。

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