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24 ラフィーヌのダンジョン11

いよいよダンジョンボスとの戦いです。

 最下層へと降りていく階段の前で一旦立ち止まって、装備の最終点検をするタクミ達。


「みんな準備はいいか?」


 タクミの言葉に全員が頷く。


「ラスボスはヒュドラって聞いているけど、どんな相手が出てきても驚かないわ」


 圭子の言う通り、ダンジョンは日々変わっていくものだ。大昔に踏破された時に『最下層にはヒュドラがいた』という記録が残っているだけで、現在生きている人間で自分の目でそれを確かめた者はいない。


 さらに一口にヒュドラといっても、ヘビの姿で頭が多数あるものや、ドラゴンのような姿をしているものなど言い伝えが様々ある。


 どうやって攻略するかは相手を見てから決めるしかなかった。


「いざとなったら、制限を解除して倒すから心配するな。空、シールドは最高レベルで展開してくれ」


 空は『任せろと!』小さな胸を張っている。非戦闘員の皆さんは、最も高性能な空のシールドで安全を確保することになっていた。


「さあ、行くよ!」


「おおー!」


 圭子の掛け声に合わせて、いつものように女子達の右手が上がる。そしていつものようにタクミはこのノリに付いていけなかった。


 タクミを先頭に階段を降りていくと、そこは巨大な神殿を思わせる造りのドーム球場の5倍ぐらいある広大なスペースになっていた。


 オレンジと茶色の中間ぐらいの石造りの壁に囲まれて、一本も柱が見当たらない。建築の常識から考えると不可能な構造をした空間が地下に広がっていた。


 その上50メートル以上ある天井からは、壁の色と同じような光が穏やかに降り注いでいる。一見すると神々しささえ感じる空間が、このダンジョンの最下層だった。


 そしてその最も奥まった場所にいたのは、4つ足で立つ草食恐竜のような体から9つの首が伸びている巨大な怪物だった。


「あれがヒュドラってやつね、それにしてもこれは怪獣映画並みじゃないの!」


 さすがに圭子も呆れている。


「圭子、お前の出番はなさそうだからシールドに入ってくれ」


 タクミの指示に素直に従う圭子だが、表情は悔しそうだ。


「私からいってみる」


 美智香は風属性の上級魔法『ハリケーンカッター』を発動した。


 強力な風の刃が暴風を伴ってヒュドラに襲い掛かる。


 美智香はさらに、土魔法で砂鉄を集めて暴雨風の渦に投入した。


 彼女が込める魔力を少しずつ増やしていくと渦の回転速度が上がっていく。その最も外側の風速はすでに音速に近づいていた。


 強烈な加速が加わった砂鉄はそれ自体が強力なヤスリになると同時に、空気との摩擦で渦全体が高温になっていく。


 部屋全体の空気が呻りを上げて吹きすさぶ中、美智香は自分でシールドを展開して、タクミはパワードスーツを装着して、全く何事も無いように立っている。


 やがて音速の刃と100度を超える熱波は収まって空間に静寂が訪れた。


 ヒュドラはかなりのダメージを受けて、さすがの頑丈な鱗に傷が見られる。さらに9本の首のうち2本が千切れかけているが、それでもまだ致命傷とはなっていない。


 無事な首を持ち上げその口から炎、氷、毒、闇、雷、光などその首が持つ属性の息を吐きながら、タクミ達に近づいてくる。


「ずいぶん丈夫にできているみたいだな」


 タクミは厭きれたように声をあげた。普通の生物の常識では考えられない生命力だ。


 さらに時間がたつにつれて、受けた傷が次第に再生していく。


「私にできる事はもう無さそう、あとは任せる」


 美智香は最初から切り札を切った。今の彼女にできる最強の攻撃が効かないとなると、撤退しか残された道はない。


 美智香が下がったことを見届けて、タクミはヒュドラに向かって前進を開始した。


 両者の距離はおよそ150メートル、先にヒュドラが足を止めて無事な首の一本一本が大きく息を吸い込む。


 その口がタクミに向かって大きく開かれると、5本の首が5色のブレスを吐いた。


 だがタクミが展開しているパワードスーツは、過酷な宇宙空間でも活動することを前提に作られている。


 絶対零度から恒星の至近の5000度までを想定した耐熱性と耐腐食性や放射線遮断のシールドが自動展開されている。


 したがってヒュドラが吐いたブレスは全くタクミにダメージを与えることが無かった。


「そんなものか、宇宙にはもっととんでもない化け物がいるぞ! 再生するなら再生力を上回る攻撃を与えればいいだけの事だ」


 タクミは右手のレールキャノンを始動した。


 威力を5段階のレベル3に合わせる。これは直径3センチの砲弾が音速の10倍で飛びだし、ぶつかった衝撃だけで戦車がバラバラになるレベルだ。


 その上砲弾の中の液体火薬が爆発するので、想像を絶する破壊力になる。


 彼が以前試し撃ちでオーガを消し去った時はレベル1で、その速度は音速の2倍だった。ドラゴンゾンビの時と弾速は同じだが、今回はより強力な液体火薬が詰まった砲弾だ。


 破壊力は速度の二乗に比例するので、オーガの時の25倍の威力になる上に爆発の威力まで考慮するとこの世界にある都市を丸ごと崩壊させるほどの攻撃力を持っている。


 いちいち首を狙うのは面倒なので照準は体の真ん中に合わせてタクミは引鉄を引いた。


『ブーン』


 一瞬電磁加速器が低い唸りを上げる。目にも留まらぬ速度で打ち出された砲弾は衝撃波を引き起こしながらヒュドラに迫る。


 そして、次の瞬間にはヒュドラは直撃を受けた胴体が大きく膨らんで、轟音とともに四方に飛び散った。


「生命反応なし」


 タクミの合図でシールドから女性陣が出てくる。


「本当に反則よね、そんな飛び道具に勝てるわけ無いじゃん!」(圭子)


「タクミ君、さすが私のお婿さんです!」(春名)


「今回は手柄を譲った!」(美智香)


「すごいです! 大好きです(小声)」(岬)


「早く筋肉を見せなさい!」(空)


 これでラスボスを倒したことに、一同は喜びながら口々に感想を述べる。


 ヒュドラのドロップアイテムは牙と多数の鱗で、みんなで手分けして拾い集めた。


  

 そしてヒュドラを倒したことで出現した宝箱には、紺色のビロードを張った見事な金細工を施した宝石箱に入った50カラットはある雫形のダイアモンドと大振りの剣が入っていた。


 空が検索してみるとダイアモンドは『天使の涙』金貨2万枚相当、剣は『聖剣アスカロン、オリハルコン製』という表示が出た。


「さすがダンジョン攻略のご褒美ね」


 圭子もその価値に息を呑んでいる。他のメンバーの反応も大体同じだ。


 女性陣達がダイアモンドを手にとってはしゃいでいる時に、宝箱のふたの裏側の隅に張り付くようにして挟みこまれている物がタクミの目にとまった。


 『なんだろう』と手に取ると折りたたまれた紙のようで、広げてみると20桁の数字の羅列が書き込まれている。


「これは何だと思う?」


 はしゃいでいる女性達にタクミがその紙を見せる。彼女達も一旦ダイアモンドを宝石箱にしまってから、その紙を覗き込んだ。


「何かの暗号か、パスワードみたいな気がする」


 美智香はタクミが考えていたのと同じ意見を口にした。


「やはりそう見えるか。俺も美智香と同じように感じたが、いったいどんな意味が隠されているのか見当が付かない」


 タクミだけでなく全員が同じように考えていた。空が一応検索してみたが該当するものは無かったので、これは一旦保留として外に出ることにした。


「こういう所って外に出るための転送装置とかあるはずよね」


 確かに圭子の言う通りで、どこかにそのような装置がないと来た道をまた引き返さなければならない。


「手分けして探しましょう」


 いつものように圭子の掛け声で広いフロアーの壁や床を探し回る。


 少しでも出っ張っていたり引っ込んでいる所があれば、全員で集まって推したり引いたりしてみたものの、その全てが徒労に終わった。


「まさか、このまま引き返せということ?」


 さすがにそれはあまり気が進まない。何とか手掛りが無いかと探し回っているうちに、春名が少しだけ色が違う壁の石を発見した。


「皆さん、これはどうでしょうか?」


 春名の声に全員がその石の前に集まる。戦闘には役に立たないが、幸運値が最高の令嬢の真価が試される。


「よしやってみるか!」


 タクミが力を込めてその石を奥に押し込むと、意外なほど簡単にその石は動いて近くで『ゴゴゴーー』という音が響いた。


 そこの壁にはポッカリと通路が開いて奥に続いている。


「ここしかないようだし、行ってみるか」


 タクミの言葉に一同が頷いて、彼を先頭に通路に入る。


 その通路はおよそ20メートル先で右に折れ曲がって、その先には金属で出来た扉があった。


 その扉はタクミ達がこの世界に来てから初めて目にする物だった。


 この世界でこれまで見てきた物とは全く異質な存在感を漂わすその扉は、どこにも取っ手が無くてその横に数字が書かれたテンキーがあったのだ。


「一体これは何だ?」


 まさかダンジョンの奥にこれほど人工的な物があるとは思ってもみなかった一同は顔を見合わせる。


「やっぱりさっきの数字ってこれかな?」


 圭子が口にした言葉は全員が考えていたことだ。


 試しにタクミが読み上げた数字を美智香が打ち込んでいく。


 全て入力し終えると予想通りに扉が横にスライドして、その中の様子が伺えた。


 内部は宇宙船のコックピットのようになっており、様々な装置とモニターと思しき物で壁一面が埋め尽くされている。


 だが、天井の明かり以外はそこにある全ての機械類が動きを停止していた。


「これを再起動できるのか?」


 タクミはもしかしたらPNIシステムの解明に繋がるかもしれないとの考えを持っていた。


「ここに何か書いてある」


 空が指を指した所には、この世界では見たことがない文字で文章の様なものが書かれていた。


「解読してみる」


 空がその文字を自分の端末に読み込んでいく。完全思考型なので、文字を目で追うだけで読み取りを終えた。


「理解した、これはPNIシステムそのもの。今は停止しているが、手順通りにやれば再起動できる」


 彼女は解読した手順に従ってシステムの再起動を開始する。


 流れるように全ての手順を終えて、最後のボタンを押してよいか確認する。


 タクミをはじめとして一同は空に向かって頷いたことで、彼女は最後にタッチパネルの『スタート』にあたる部分に触れた。


 その瞬間に全ての機械とモニターが一斉に起動を開始する。


 無事に再起動をした装置を前にして『一体誰がこのような物をここに設置したのか』という疑問が当然のように湧き上がってくる。


 だがその疑問に対する答えは得られなかった。その代わりに空がモニターのある部分を指し示す。


 その画面は6分割されており、そのうちの一箇所だけが『稼働中』という表示らしきものが出ていた。


「どうやらこの6箇所全てを起動させないと、この星のPNIシステムは稼動を開始しないみたい」


 彼女の言葉に一同は頷く。


 モニターの文字を読み取った空が言うには残りの箇所は次の通り。


・アルデナントの森


・マルコルヌスの火山


・サランドラの地下都市


・ロズワースの迷宮


・魔王城


 彼らにとっては聞き覚えの無い所ばかりだが、全員がここまで来たら行くしかないという気になっていた。


「よーし、ここを出たら情報を集めて次の所に向かうわよ!」


「おおー!」


 女子全員が盛り上がる中で、またしてもこのノリについていけないタクミだった。


 


 

 

読んでいただきありがとうございました。感想、評価、ブックマークお待ちしています。


次の投稿は、月曜日の予定です。

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