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239 ダンジョン再々攻略

えーと、結論から申し上げますと、6000字もかかって新たなダンジョンを目指して出発に漕ぎ着けられませんでした。今回は3度目のラフィーヌのダンジョン攻略がメインです。どうしてこうなった?




それから宣伝です! 2月から投稿を開始しました【帝国魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強に・・・あれっ、もうなっていた!!】が現在26話まで投稿を終えています。ちょっと特別な力を持った異世界人の子孫を巡る学園物でかなりコミカルな路線の物語です。興味がある方は下記のURLにアクセスしてください。


URL    https://ncode.syosetu.com/n4271eo/


Nコード   N4271EO 


タイトル   帝国魔法学院の訳あり新入生~底辺クラスから最強に・・・あれっ、もうなっていた!!

 ダンジョンに入り込んだ混成パーティー、隊長を務める圭子が1階層の入り口で全体を停止させる。


「10階層までのアンデッド以外の魔物は全部ルノリアに任せるからしっかり倒すこと! 私たちがちゃんとフォローするから心配しないで掛かっていきなさい!」


「はい、頑張ります!」


 今回はシロとケルベロスが伯爵邸で留守番役に回っているので、下級の魔物を倒すのはルノリアの担当になった。彼女は今まで2頭の霊獣が追い込んできた魔物を魔法で倒した経験はあるものの、街を移動する時に草原や森の中で遭遇するゴブリンなどの相手をする経験がなかった。


 それというのも、馬車の目の前に出てきた魔物はケルベロスが簡単に片付けるし、少し離れた場所に居る魔物はシロが馬車から飛び出して討伐してしまうためだ。本当に役に立つ2頭だが、おかげで道中でルノリアに遭遇戦を経験させる機会がなかった。


 だが今回はその2頭が居ないので、ルノリアにお鉢が回っている。今回のダンジョン踏破の目的は何よりもルノリアのレベルアップにあるので、ランクの低い魔物を順に倒して実戦に慣れていく方針だった。


「おいおい、こんなに小さな女の子を魔物と戦わせて大丈夫なのか?」


 勇造が心配そうな目でルノリアを見ながら発言する。その気持ちは『エイリアン』以外の他のパーティーから参加しているメンバーに共通する認識だった。


「大丈夫です。こう見えても皆さんの弟子ですから」


 ルノリアはラフィーヌの街にある例のドワーフの店でタクミと一緒に購入したミスリルの短剣に右手を当てて控えめながらも自信ありげに答えた。伊達に圭子が撃ちだす衝撃波を避けたり、紀絵と実線さながらの組み手を毎日繰り返しているわけではない。まだ10歳の身で魔法学校の2年生を手玉にとる腕を持っている。


 ちなみに彼女の装備は魔法学校で能力考査を行った時と同様の格好だ。貴族が身に着けるごく普通の服に見えるが、装飾で施されている金糸の刺繍すべてが美智香の手によって組まれた精巧な魔法陣となって、防御力や攻撃力を大幅に強化している。師匠たちは厳しいことを言う割にはルノリアに対して過保護なのだ。


「それじゃあ、行くよ!」


 有無を言わさない圭子の声で一行が出発すると、通路の向こう側から早速1体のゴブリンがお出迎えに現れる。


「ルノリア、相手は1体だからまずは剣の切れ味を試してきなさい」


 美智香の指示に頷いてルノリアは腰の剣をスラリと引き抜き、鍛え上げれたスピ-ドに任せて身を躍らせていくと、そのまま一刀の元にゴブリンを切り捨てた。


「すげー! もしかしたら俺たちよりも動きが早いかもしれないぞ!」


「いや、もしかしなくても早いだろうな!」


 五十嵐良助の感想に対して勇造が突っ込みを入れている。『ストロベリージャム』の剣士2人を散々しごき回した勇造の目にもルノリアの速度は明らかに彼らを上回っている点がはっきり見て取れた。やはりファイナルジョブを得た者は根本的に何かが違っているのかもしれない。




 通路に出てくる魔物はルノリアに任せて一向は順調に各階層を突破していく。アンデッドが出てくると、美智香が魔王から盗み取った『黒炎焔斬刃』や『空斬烈風陣』などを試していく。いくら神聖魔法以外効果がない不死身のアンデッドでもこれらは完全にオーバーキルで、存在ごと消し去るだけでなくて、通路のはるか先の見えない所に居たゾンビたちもまとめて処分していた。




 順調に攻略は進んで、一行は6階層のセイフティーゾーンで昼食を取ろうとするが、ここでかつて無い程の大問題に直面する。


 圭子は基本的に『食事は座って待っていれば出てくるもの』と思っているし、美智香は『深遠なる術者が料理をするなど笑止!』とまったく取り合う様子が無い。紀絵は味覚オンチ、ルノリアは貴族のお嬢様で食事の準備など任せられない。紗枝は家事一切が壊滅な程女子力が低く『私が準備しましょうか?』と申し出た彼女を勇造が涙目で止めていた。


 ということで、この合同パーティーの女子全員が調理ができないという大問題が発生したのだ。食材は美智香の収納に山ほど眠っているのに、誰も手を着けられないという非常事態だった。


 返す返すも岬を置いてきてしまったのが悔やまれる。彼女は伯爵との剣の鍛錬と、次の長旅に備えて買出しやデザート作りに精を出している最中だった。その横では春名がつまみ食いの機会を虎視眈々と狙っているはずだ。




「おい、お前たちは何か作れるか?」


「カレーくらいだったら」


 勇造が良助と笹川春夫に念のため聞いてみるとそういう答えが返ってくる。


「よーし! そこの男子2人が食事当番で決定! さっさと作って! ムーちゃん、道具と材料お願い!」


 圭子が隊長権限で彼らを食事当番に任命する。美智香は炊飯器や米、カレーのルー、野菜、肉等を収納から取り出して『早くやれ!』という目で彼らを見ている。


「何で俺たちが・・・・・・」


「あ゛あ゛! どんな世界でも下っ端はこういう下積みの仕事をするのが当たり前でしょう! いいからさっさと遣りなさい!」


 結局圭子の勢いに押し切られて男子2人は食事の準備に取り掛かるのだった。




 

 

 食事を終えてから出発する前に紗枝が圭子に話し掛ける。


「圭子ちゃん、ちょっと私もこの階で試したいことがあるから、ルノリアちゃんと代わってもらえるかな?」


 ここまでルノリアが一人で剣と魔法、時には蹴り技などを繰り出して魔物を片付けてきた。他のメンバーはピンチが訪れた際の補助役に徹していたのだが、ここまでは特に危険らしい危険は無く切り抜けてきた。手持ち無沙汰だった紗枝が敢えてこの階層で試したいという気持ちもわからないではない。


「それじゃあルノリアと交代してもらって構わないわよ」


「ありがとう、ルノリアちゃん、お疲れ様!」


 紗枝はそう言ってルノリアと交代する。現在のフォーメーションは勇造が先頭を務めて、その直後に紗枝が付いている。


「そう言えば紗枝ちゃんは精霊魔法が使えるんだったわよね。ダンジョンにも精霊って居るの?」


「居ないわ、でも安心してね! 私にはもう一つの切り札があるから!」


 森の中や水辺に多くの精霊は住んでいるし、街中にも姿を隠しながらこっそりと存在している。だがさすがにダンジョンの中には精霊自体がまったく居ないのは当然だ。その内部は精霊が生きていく環境には程遠いのだった。当然精霊使いの紗枝はダンジョン内で魔法が使えない。だがそれでも彼女は自信ありげな表情だった。


「紗枝、前からオークが来た!」


「任せて!」


 勇造の声に懐から何かを取り出した彼女は姿を現したオークに視線を向けている。


「不動明王火炎呪!」


 その声とともに手にした護符を紗枝はオークに投げた。真言を書き記した護符は炎となってオーク目掛けて飛んでいく。


「ブモーー!!」


 たちまちその炎を浴びたオークは火達磨になって倒れた。


「今のは陰陽術?」


「いいえ、真言密教の破邪の術よ!」


 美智香が興味本位で尋ねると、紗枝からあまり聞いたことが無い答えが返ってくる。陰陽術は古代中国の陰陽五行説に神道系の呪術を加えて日本で独自に発達したものだが、紗枝の術は仏教系のものだった。弘法大師空海を開祖とする真言密教が高野山で育んできた仏敵を調伏する術だった。彼女は由緒ある寺の一人娘で真面目に修行した父親から、破邪の術の手解きを受けていたのだった。


「中々の威力、この世界の魔物にも十分通用する! 術が発動する仕組みに興味があるから、いつかその護符を見せてほしい」


「美智香ちゃん、ありがとう。ここを出たらお見せするわ」


 美智香から自らの術にお墨付きをもらった紗枝は嬉しそうに表情を崩した。それにしても美智香の知識欲には際限が無いようだ。この世界の魔法を極め尽くしただけでなく、日本の呪術にも興味を示している。




 

 こうして順調に合同パーティーは攻略を進めていくのだった。


 10階層の転移魔法陣はいつものように左側に入って一気に36階層に降りて行き、お約束のドラゴンゾンビは紀絵がボウガンのような物を連射して弱った所を勇造が殴り倒して紗枝の火炎呪が止めを刺す。


 そしてお馴染み昆虫フロアーに出るとそこまで怖い物無しだった圭子は奇声を上げて怯えだすという再現フィルムのようなまたまたお約束の光景だ。何も知らなかったルノリアの目には、虫に怯える圭子の様子が殊の外新鮮だった。



 

 そこから先のフロアーではオーガジェネラルや牛頭馬頭の巨人たちが現れるので、ルノリアは魔法による支援に回り、代わって良助や春夫が前に押し出された。


「ひーー! こんな馬鹿デカイ魔物を相手にするのかーーー!」


 大剣やハルバートを振り回しながら迫ってくる巨体を必死に剣で受け止めながら情けない声を上げる良助。


「アイスアロー!」


 だが一歩下がった場所からルノリアが放った魔法が魔物の右目に正確に突き刺さる。武器を手放して血をダラダラと流しながら苦しむ魔物の心臓目掛けて春夫が剣を突き立てる。


「ギイヤーーーー!」


 魔物は苦しみながら光の粒になって消えていった。


「ルノリア、ナイスアシスト!」


「あのー、止めを刺したのは俺なんですけど・・・・・・」


 的確な魔法で隙を作り出したルノリアを女子たちは盛んに褒めているが、男子2人は放置されたままだった。それに気が付いた圭子が優しい言葉を掛ける。


「ふん、男だったらあれくらい一人で何とかしなさいよ! まったくだらしないわね!」


 圭子にしては優しく褒めたつもりだったが、春夫と良助は頭ごなしに怒られた気分だった。


「どうしてこうなる?!」


 彼らの声は見事なユニゾンになっている。ルノリアの手を借りたとはいっても魔物を倒したのに、圭子から完全にダメ出しを食らったのだ。


「まだまだこの先あんなのが群れで出てくるからな、気を抜くんじゃないぞ!」


 勇造が彼らをフォローしてくれた。1体でも死にそうだったところに、それが群れで出てくるとは・・・・・・ 更に絶望的な表情になる2人だった。


「恵たちはよくこんな所を突破したな」


「あいつらは魔法使いだから、俺たちみたいに一番前で戦わないだろう!」


「それもそうか、でもここまで来たらもう引き返せないんだろう」


「そうだな、歯を食いしばってでも前に進むしかない」


 天才と化け物たちの中に放り込まれた凡人はこうなる宿命なのだろうか? 彼らから見れば勇造や紗枝でも立派な化け物だった。更にはるか年下のルノリアがこの手強い魔物と同等に渡り合っている姿、男の意地とプライドに懸けてこれ以上泣き言を零せない。もしかしたら今彼らが本当に一皮剥けるその時なのかもしれない。



 こうして一歩ずつ合同パーティーは前に進んでいった。圭子や美智香、紀江すらも本当に危険な時以外は殆ど手を出そうとしない。攻略の主体はルノリアと紗枝、あとはおまけの男子2人なのだ。


「ほらほら、ドレークだよ! 頑張れ!」


 圭子の一見無責任な声が飛ぶが、彼女もしっかりと拳を構えていつでも飛び出す準備をしている。ルノリアは初めて目にする小型のドラゴンの迫力に驚いた表情だ。もっとも毎日小さなドラゴンのファフニールを抱きかかえているが・・・・・・


「ルノリア、電撃系は鱗に邪魔されて効果が無い。あれを使うといい!」


 美智香からのアドバイスに彼女は一つ頷いた。硬い物すら楽々切り刻む威力を持つ美智香直伝の魔法を準備する。


「ウオーターカッターー!」


 彼女の手から飛び出したごく細く圧縮された流水がドレークの首の根元に到達する。


「シューーー!」


 鉄板さえも瞬時に切り裂く流水が豆腐のようにドレークの首を切り取っていった。


「ドウーーン!」


 一瞬で首チョンパされたドレークの5メートル近い巨体が横倒しになると、光の粒となって消えていく。


「難しい魔法でしたが、何とかできました!」


「まあまあ合格! より精密に制御すれば、もっと硬い物も切れる」


 美智香師匠の意見は中々厳しい。簡単に褒めるのではなくてアドバイスを交えながら更なる精度の向上を促している。




 こうして約1週間掛けて、彼女たちはついに最下層の例のヒュドラが待ち受けるフロアーに降り立った。


「全員手出しは無用! 私が一撃で仕留める!」


 美智香は自信たっぷりに提案する。


 ここまで当初の目的通りにルノリアをはじめとして紗枝やおまけの男子2人のレベルアップが完了していた。良助と春夫は圭子から『拳王の軍勢に退却は無い!』という勢いで脅されたので、本当に命懸けでキマイラやグリフィンに挑んでいった。おかげでついに彼らも職業レベルが『上級剣士』に上がっていた。


 ちなみにルノリアは『マルチタレント・レベル12』に上昇している。ダンジョンに入る前の体力値で比べるとほぼ倍増の勢いだった。紗枝は『精霊王』に加えて『呪術王』の新たな職業を得ている。男子2人が死ぬ気で頑張ってようやく剣士のレベルが中級から上級になったのに比べて、破格の上昇振りだった。やはりファイナルジョブを持っていると違うのだ。


「それじゃあムーちゃんに任せるから、チャチャと片付けて!」


 圭子が美智香に一任すると全員が同意する。後はこのラスボスを討伐すればお終いなので、誰からも異論は出なかった。


「それじゃあ、行きますか!」


 圭子の声でフロアーに踏み込むと、こちらを見ているヤツが居た。例の8つの頭を持つヘビと言うよりもキングキド○の更に凄いアレだ。 


「えーと、『暴触無葬撃ぼうしょくむそうげき』はこのボタン! それ、ポチッとな!」


 美智香がタッチパネルに触れると、魔王から掻っ攫った魔法が発動する。それは『全てを侵食し尽くして無に返す』分解魔法の極致だった。


 黒い粒子のような物がヒュドラに襲い掛かると、それに触れた体が分解されて無に帰っていく。僅か10秒でヒュドラの巨体は消え去っていった。


「シャレにならない魔法だな!」


「美智香さん、凄いです!」


 勇造とルノリアの声が上がる。勇造は前回の攻略ではヒュドラを倒すために3時間以上戦い続けた。それが魔法1発の僅か10秒で終わった威力は『シャレにならない!』と表現する以外に無かった。


「よーし、あとはお宝を回収して地上に戻るよ!」


 圭子の元気のよい声がフロアーに響くのだった。



 


 



次回の投稿は土曜日か日曜日の予定です。

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