表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
225/309

225 ルノリアの初デート 中編

相変わらず長引いているルノリア嬢のお話は今回も終わりませんでした。もっとも彼女はすでに『エイリアン』のパーティーの一員なので、今後もすっとレギュラーとして登場するわけですが・・・・・・


タクミが一体彼女とどのように接するかに毎回頭を悩ませている作者ですが、今回はちょっと彼が大胆行動に出る模様です。

 タクミの膝にちょこんと乗ったままルノリアが見つめる舞台上で演劇が始まる。


 王都で無法の限りを尽くす魔王に対して為す術がなく次々に倒れていく騎士たち、絶体絶命の危機にその場に現れたのは2人の女騎士だった。両者ともあでやかな金色の鎧姿で一人は手に光輝く剣を持ち、もう一人は背中に身長よりも大きな大剣を背負っている。


「タクミ様、何かお話が間違っていませんか? 皆さんに聞いた話では、美智香さんと岬さんが魔王討伐に加わったはずです! お二人ならば魔法使いとメイド服姿のはずなのになぜ女騎士なのでしょうか?」


 ルノリアは事実との食い違いに納得がいかない様子だが、真実に脚色を加えた演劇というものをよく理解していなかった模様だ。


「魔法使いが剣で魔王を斬ったりメイドが大剣で大暴れするなんて話は、知らない人が見たら何でそうなるのか理解できないだろう」


 タクミの解説を聞いてもまだ納得の行かないルノリアだが、二人が協力して魔王の首を刎ねるシーンには感激していた。


「タクミ様、お二人はあのように魔王を倒したのですか?」


「ちょっと違うな。美智香は剣の一振りで剣ごと魔王の首を刎ねて、復活したヤツをもう1回斬り飛ばしていたし、岬は頭から唐竹で胴体を真っ二つにしていたな」 


「おふたりとも劇よりも凄いことをしていますね! そんなに魔王って弱いものなのですか?」


「少なくとも騎士団を全滅寸前に追い込むくらいの力は持っているな。それでも俺たちから見れば大したヤツではない」


 ルノリアはタクミの言葉を聞いて遠い目をしている。普段鍛錬をしてもらっているので、彼女たちの力の一端は垣間見ているのだが、果たしてその本気の力がどこまで凄いのか見当が付かないのだった。



 舞台上では、力の限りを尽くして魔王を倒した女騎士二人が肩で息をして地面に膝を付いたままで、すでに余力を完全に失っている。女性の役者は二人とも中々いい演技だ。


 そこで再び魔王が体を再生して復活を遂げた。ハリボテの魔王の胴体に黒子がこっそりと首を載せただけのことだったが、その光景を見て満員の観客たちは思わず息を飲む。


 だがそこに颯爽と現れてのはゴーレムのような姿をした白銀の戦士だった。自力では立ち上がることもできない女騎士を救い出して魔王と対峙する。


「うーん、タクミ様の『ぱわーどすーつ』の方がもっと格好良いです!」


 ルノリアは何度か草原で紀絵とともに基礎訓練をする2体のパワードスーツを目撃してている。同じ白銀の戦士でも舞台に現れたゴーレムは、本家タクミのパワードスーツが持っている洗練された機能美にははるかに及ばない無骨な印象を受けていた。 


 魔王と肉弾戦を繰り広げる白銀の戦士は、最後に背中の大剣で魔王を切り捨てて勝負が決した。


「おのれ、我は必ずやこの地に復讐を果たしに現れるぞ!」


 魔王はそう言い残して舞台が暗転する。再び照明に照らされた舞台には、頭部だけ武装を外した白銀の戦士と両脇に並ぶ女騎士が立っていた。最終的にはこの事件がきっかけで恋仲に落ちるというストーリーだった。


「タクミ様も剣をお使いになったのですか?」


「いや、普通に魔王の頭を握り潰しただけだぞ。俺はあまり剣を使った経験がないから、ルノリアにも負けるかもしれないな」


「魔王の頭を握り潰すのは普通とは言いません! でも1度タクミ様と剣で立ち会ってみたいです。きっとタクミ様はイジワルをして私の攻撃を全てかわしてしまうのでしょうけれど」


 ルノリアはタクミに一度も訓練に付き合ってもらったことがないが、その身のこなしからいって当然圭子や岬に匹敵する強者だと悟っている。真に強いものが放つオーラがわかるくらいには、ルノリアの腕が上がっているのだ。


「どうかな、ルノリアは最近一段と腕を上げているから、剣の勝負では俺は分が悪いかもしれないな。それよりも劇が終わったみたいだから外に出ようか」


 劇場内は満員の観客から盛大な拍手の嵐が出演者に送られている。一礼してスタンディングオベーションに応える出演者一同、左右の幕がゆっくりと引かれて劇の終了が告げられた。


 その時間を迎えたルノリアは残念そうな表情を浮かべている。結局タクミの膝に乗ったままで1時間以上劇の観賞をしたのだった。タクミに体を預ける幸せの時間が終わりを告げる合図を迎えてしまったルノリアは仕方なくタクミの膝から降りていく。


「ルノリア、ちょっと動かないでくれ。やっぱりスカートがシワになっているし、後ろ側がぺしゃんこになっているからな。今直すからそのまま立っていてくれ」


 ルノリアのお気に入りのピンクのスカートは薄い布を何枚も重ねたペチコートを下に穿いて、ふんわりとしたシルエットを作り出している。それが現在は長い時間タクミにもたれ掛かっていたせいで、後ろ半分が潰れてしまっているのだった。普段はメイドが気を利かせて素早く直してくれるのだが、今日はタクミと2人っきりなので彼に任せるしかなかった。


「そ、その・・・・・・ タクミ様、こんなことまでさせて申し訳ありません」


「気にするな、今日はルノリアのために何でもする約束だろう」


 気軽に応じたタクミだったが、当然ペチコートを直した経験などあるわけがない。何しろ敵はスカートの内部に身を潜めているのだ。むしろどのような仕組みになっているのかすら理解していなかった。タクミはどうしたらよいのかしばし考える。


「ルノリア、すまないがスカートの前の方がどうなっているのか見せてくれ」


 彼は一先ず正常な状態がどのようになっているのかを確認して、それを元に直していく方針を固めた。だが、タクミの思わぬ提案にルノリアは真っ赤になって恥ずかしがっている。いくらなんでも伯爵令嬢がスカートの中を男性に覗かれるのは抵抗があるようだ。


「そ、その・・・・・・ 申し訳ないのでこのままで構いません」


 シルエットがすっかり崩れて後ろ半分がぺしゃんこのままで構わないと、申し出を断ろうとしたルノリアだったが、人前にお姫様の不恰好な姿を晒す訳にはいかない。タクミはそっと彼女のスカートを膝の少し上まで捲り上げる。


「恥ずかしいです!」


 ルノリアは両手で顔を覆ってその光景を見ないようにしている。ペチコートとはいえ彼女の意識では大好きなタクミに下着を見られているという羞恥に悶えているのだった。


「少しの間だから我慢してくれ。なるほど、薄い布を何枚も重ねて膨らませているのか。潰れた部分をこんな感じに戻せばいいんだな」


 独り言のように納得しているタクミの声はルノリアに丸聞こえだった。ますます恥ずかしい思いをして、顔だけではなくて全身が真っ赤になっている。彼女にあまり長い時間恥ずかしい思いをさせるのは忍びないので、後ろ側に回り込んだタクミは思い切って彼女のスカートの中に両腕を突っ込んで、薄い布を1枚1枚剥がすようにしながら、外側に膨らませていく。


 時折彼の手がルノリアのほっそりとしたフトモモや小さくて可愛らしいお尻に触れる。そのたびのルノリアの体が大きくピクンと反応するが、いちいち気にしていたらいつまでも終わらないのでこの際無視だ。悪戦苦闘の末に何とか元の姿の8割程度に復元したシルエットにタクミは何故だか途轍もない達成感を感じている。


「ルノリア、何とか元に戻ったぞ」


「タクミ様のイジワル!」


 ルノリアはそのままタクミに抱きついて声を上げて泣き出してしまった。あまりの恥ずかしさに彼女自身が感情を抑えきれなくなった結果だ。


「こんなに恥ずかしいことをするなんて、タクミ様はイジワルです!」


 なおもタクミにすがり付いて涙を流すルノリア、子供が流す涙ほどタクミにとって破壊力のあるものはないうえに、ここまでルノリアが大泣きするのは完全に想定外だった。彼は『どうしたものか?』と思いながらルノリアの体を受け止めている。だがいつまでもこの場所に留まる訳には行かないので、タクミとしては何らかの手段に打って出る必要に迫られていた。


「ルノリア、約束を破るぞ」


 タクミは床に片膝を着いて彼女と視線を合わせる。目の前には泣いてクシャクシャの顔になっているルノリアが居る。その頬を優しく両手で挟んで、まだ嗚咽が漏れている可愛らしい唇にキスをした。


(えっ!)


 まさか再びタクミから大人の口付けをされるとは全く思っていなかったルノリア、つい今まで感じていた恥ずかしさなど一気に吹き飛んで頭の中が真っ白になっている。


「ルノリア、恥ずかしい思いをさせてすまなかったな。お詫びの印だ、もう一度受け取ってくれ」


 一回口を離したタクミが再びルノリアの唇に優しく口付けると、ルノリアはタクミを素直に受け入れた。


(タクミ様が私に・・・・・・)


 恥ずかしさなど押し退けてルノリアはいつの間にか幸せいっぱいの感情に浸っている。つい今まで流れていた涙はどこに行ってしまったのかというくらいの勢いで、彼女の体全体が新たな感情に染め上げられていった。


(優しいタクミ様、大好きです)


 伯爵令嬢ルノリア10歳、甘いキスひとつで完全に撃沈した。いつの間にか彼女の両手はタクミの首に回されて、束の間の大人のひと時を心行くまで味わうかのようだ。




「さあ、涙を拭いて! 今日は楽しい日にするんだろう?」


「はい、タクミ様!」


 タクミのハンカチでルノリアの涙は拭い去られて、再び笑顔を取り戻した彼女は元気な返事を返してくる。この素直さがタクミを含めたパーティーのメンバーから可愛がられる理由だ。毎日の厳しい鍛錬でも、どこまでも素直に女子たちの技や魔法技術を吸収していく。時折空あたりから余計な知識を教え込まれてタクミを困らせるが、ルノリアの輝くような笑顔がタクミたちの元気の源になっていた。


 劇場を出るタクミとルノリア、まだ泣き腫らしていた目が赤い彼女だが、劇を見た観客の半分くらいが感動のあまりに涙を流しているらしくて、そこ彼処でまだその余韻に浸る姿がある。おかげでルノリアも『劇に感動して泣いたのだろう』程度にしか見られなかったのはありがたい話だった。


「さて、この後は食事でもしようか」


「はい、まだ胸がいっぱいですが、美味しそうな物を見ればお腹が空くと思います」


 ルノリアは最後のタクミからのキスの印象があまりに鮮烈で、すでに劇の内容すら記憶に微かに残る程度にしか感じていなかった。すっかりメロメロな状態でタクミの左手に相変わらず両手でしがみ付いている。


 ふたりは昼下がりで少し客足が落ち着いた中央広場を抜けて、飲食店が立ち並ぶ界隈の目指しながら歩いていく。


「そうでした! まだスカートを直してもらったお礼を言っていませんでした。ちょっと恥ずかしかったけど、タクミ様ありがとうございました。それから、私の足やお尻に手が何回か触れましたが、特別にタクミ様だけにはどこを触られても許しちゃいます!」


 キスで色々と吹っ切れたルノリアが思いっ切りぶっちゃけた。もっとも彼女はまだ男女のどうこうといった知識が全くないので、決してイヤラシイ意味で発言しているわけではない。貴族の令嬢として『男性に軽々しく触れられてはいけない』と教育されていたので、それをタクミに限っては例外扱いするという宣言だった。


「そうか、ありがたく受け取っておく。とはいってもルノリアはまだ子供だから、もう少し大人になってからその権利は行使させてもらうよ」


 冗談で頭をポンポンするタクミだが、せっかく甘いキスで大人気分に浸っているルノリアはまたまた子ども扱いされたのが大いにご不満な様子だった。頬を膨らませてさらにタクミに食い下がる。


「ル、ルノリアだってすぐに大人になります! 岬さんみたいなスタイルになったら、簡単には触らせませんよ!」


「そうか、その時を楽しみにしているよ」


 相変わらず頭をポンポンしながらタクミは笑っている。彼がこのような何も裏がない笑顔を見せるのは女子たちとルノリアの前だけだ。


「もう、タクミ様は相変わらずです! ルノリアも早く大人になりたいです!」


 滅多に見せない心からの笑顔をルノリアに向けながら、タクミは彼女をエスコートして一軒のレストランに入っていくのだった。


 


  

 



投稿間隔が開いて申し訳ありません。逆に以前よりもたくさんのアクセスをいただいて皆さんに感謝しています。次回の投稿は水曜日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ