21 ラフィーヌのダンジョン8
本日最後の投稿です。
それぞれの思いを抱えて一夜を明かした一行は、38階層の階層ボスの部屋の前の来ている。
「今度は何が出てくるのかな?」
圭子はすでに臨戦態勢だ。戦っている間は余計な事を考えずにすむので、かえって気が楽という事もある。
「踏み込むぞ!」
タクミの言葉に合わせて全員が部屋に入ると、そこには一回り大きな牛頭と馬頭が立ちはだかっていた。
牛頭の頭の両脇からは金色に光る70センチ程の角が2本、馬頭の額からは1メートルに及ぶ角が1本猛々しく生えている。
その姿は西遊記に出てくる金角と銀角にも似ているが、ギルドで教えてもらった魔物の中にはその姿と一致するものがいない。
おそらくこのダンジョン独自の魔物なのであろう。
大きく咆哮して手に持った斧と刀を振り上げて、タクミ達に襲い掛かる金角と銀角。
タクミと圭子は目配せでそれぞれが左右に分かれて魔物に相対する。しかし彼らの攻撃よりも先に美智香の声が飛んだ。
「退避して!」
すでに魔法を放つ準備は出来ている。
彼女は二人が散開するのを見届けてから風魔法のパネルに手を触れた。
左手から放たれたのは、ウインドカッターの上級魔法『ウインドブレード』、真空の刃が魔物に襲い掛かる。
『グオオオオーーーー!』
その魔法で胴体や肩に傷を負った魔物が、今度は美智香を目掛けて襲いかかろうとする。
「私達を忘れるんじゃないわよ!」
美智香の方を向いていた金角の後ろから、その膝にキックを叩き込む圭子。
同じ様にタクミは後ろに回りこんで、銀角の両膝の腱をナイフで切断していた。
体中を自らの血で染めて動きの止まった魔物に、再び美智香の魔法が襲い掛かる。
「それ! ポチっとな!!」
のんびりとした口調だがその左手から放たれた雷属性の上級魔法『迫雷撃』が、2体の魔物に向かって飛び出していった。
『グァオオオオーーーーー!!!』
もはや絶叫にしか聞こえない叫びを上げながら2体は床に沈んでいく。
「ナイス、美智香!!」
圭子が駆け寄りハイタッチを交わす。3人の連携が見事に嵌った結果にタクミも満足している。
非戦闘員の皆さんも空が展開したシールドの中で手を叩いて喜んでいた。
ここでは金角銀角の角をドロップアイテムとして手に入れた。かなり硬い金属のような角は剣や槍に加工出来そうだ。
「さあ、次行ってみよう!」
圭子の掛け声とともに39階層に降りていく一行。
そこも鬼達が多数出現した。
今度は38階層の階層ボスだったオーガジェネラルが通路に現れ始めるが、タクミと圭子によって簡単に蹴散らされていく。
階層ボスはオーガキングで、さすがにその体が硬すぎて圭子の攻撃ではダメージを与えられなかったので、彼女が囮となっている間にタクミがパワードスーツを展開して、真っ向から無慈悲に撲殺した。
圭子は自分の攻撃が通用しなかったことに腹を立てていたが、より一層修行を積んで必ずリベンジする事を誓う。
オーガキングの部屋には宝箱があってタクミが開けてみると、中からは圭子の篭手と同じ光を帯びた胸当てが出てきた。
「オリハルコンの胸当てのよう」(空)
「魔法使いには不似合いの装備」(美智香)
「私は戦闘の場面では後ろに引っ込んでいるし」(春名)
「私にはサイズ的に無理なようです」(岬)
と言われて『ぐぬぬーー!』と言った表情で胸当てを受け取る圭子。
彼女の眼は岬の胸を睨み付けている。確かに零れ落ちるばかりの岬とほとんど平らな圭子ではそこに大きな格差があった。
喜び半分で胸当てを装着する圭子、まだ何かに納得がいっていないようだ。
「と、とりあえず下に下りよう!」
もうひとつ声に覇気がない圭子の掛け声で、40階層に降りていく。
40階層・・・・・・そこからは出現する魔物ががらりと変わった。
最初に出てきたのはキマイラだ。言わずと知れた3つの動物の複合体が彼らに襲い掛かる。
特に厄介なのはその蛇の尻尾が放つ毒の息だったので、見つけ次第タクミがブラスターガンで処分していった。
ここまでかなりバッテリーパックを節約したおかげで、もう残量を気にしないで使用できるのは大助かりだった。
この階層のボスは、キマイラよりもさらに大きく5体の動物が複合した魔物の『スペリオールキマイラ』だったが、タクミがブラスターガンの連射であっけなく倒した。
キマイラのドロップアイテムは毒液の入ったビンばかりで、ボスが落としたものはさらに大きな一抱えもある壺だった。
一体こんなもの何に使うのか分からないが、とりあえず収納にしまっておく。
41階層はキマイラに混ざってレッサードレイクが出現した。
この魔物はドラゴンの下位種で、ブレスこそ吐かないが魔法も使ってくる厄介な敵だ。
ドレイクの魔法でこちらに被害が出ないように、これも見つけ次第タクミが処理していく。
彼がブラスターガンの使用に踏み切ってからは、ほとんど戦闘が無くて圭子は暇そうにしていたが、この階層の踏破自体は順調に進んで、ついに階層ボスの部屋の前に達した。
「どうする、踏み込むか?」
タクミの言葉に圭子が首を振る。
「私は大丈夫だけど、令嬢がだいぶ疲れているようだから今日はここまでにしておきましょう」
それもそうだなと皆が納得して今日はここで野営する事にして、ボス部屋は明日アタックする事になった。
「タクミ、ボスぐらいは私にも回してよね!」
他のメンバーが野営の準備をする中、圭子だけは鼻息も荒く明日に向けて闘志を高めていた。
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次回の投稿は月曜日の予定ですが、もしかしたら土日のどちらかに臨時で投稿するかもしれません。