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207 圭子落ち込む

「さて、この機体に関する変更点については説明したが、実はそれだけではないんだよ」


 ジョンはタクミが搭乗するパワードスーツに関して更に何か仕出かしていたようだった。悪戯っぽい笑みを浮かべる彼の表情はAI知能によって作成されたプログラムとは思えない出来栄えだ。それに対して『ジョンがどのような手を加えたのかこの時点でもうすでに聞くのが怖い』という思いを抱きながら、タクミたちはどのような内容が語られるのかを待っている。


「実は魔力というのは電気に変換する効率が非常に良くてね、今までよりも多くの電力エネルギーを供給することが可能になっているんだよ。つまりパワーが向上しているというわけだね。当然各パーツに向上したパワーに対応する改良も済ませてあるから、問題はないと思うよ」


 その説明になるほどと頷くタクミ、パワーの向上は彼にとって望ましい結果だ。


「それでどのくらい向上したんだ?」


 軽い気持ちでタクミはジョンに尋ねた。ジョンの人格の元になっているメルカッテが優秀な開発者だということをすっかり忘れていた彼は油断していた。パーセント単位で出力が向上したのだろうと思い込んでいたのだ。


「そうだね、ざっと8倍くらいかな。これでもパーツの強度に対する安全マージンのために抑えた方だよ」


 ケロリと言い放ったジョンの発言にタクミは口をポカンと開き放しにしている。車で言えば量産車に徹底的なチューンナップを行ってサーキット仕様に変更になっていた。100馬力の車を800馬力にして足回りや車体の各部分を補強して、外観以外はまるっきり別物のマシンが出来上がるようなものだ。


「今8倍と言ったような気がしたが俺の空耳ではないよな?」


「私に嘘をつく機能は搭載されていないよ。この機体の弱点は電力の供給だった。バッテリーに蓄えられた限りある電力をどのように有効に使用するかというコンセプトがその設計思想だったのだよ。その電力の供給が無限に行われる条件下で、新たに作成したまったく別物の機体に生まれ変わったわけだね」


 プログラムのくせにドヤ顔をしてジョンが答える。彼の言葉通りに100時間の連続使用を可能にするためにある程度パワーを抑える方向に元の機体は性能を設定していたのは事実だった。それにしてもいきなり出力が8倍になるとはとんでもない出来事だった。


「そ、そうなのか。それだけの高出力に慣れないといけないな」


 今度こそタクミはドン引きしている。以前の機体でもこの世界ではオーバーキル気味だったのに、一気に8倍に引き上げられた出力では一体どのような惨劇を引き起こすかと今から思い遣られる。


「その心配はないよ。常用領域の出力は今までと大して変化がないようにしてある。最高出力が8倍というだけで、普通に使用する分には今まで通りに近い感覚で可能だろう。それからレールキャノンは砲全体を新しいものと取り替えておいた。こちらも最高出力を従来の3倍に引き上げてある」


 悪意の無い純粋な開発者が戦争を引き起こす理由がタクミにはなんとなく理解出来た。ジョンは開発者の本能が赴くままにとんでもない化け物を作り上げてしまったのだった。


「それから左手には魔力を圧縮して放つ魔法弾発射用の副砲を取り付けておいた。破壊力はレールキャノンの6割程度だよ。あとシールドはアルファからデルタまでの5層構造だ。従来より2倍の強度を持ち、仮にアルファ層が破れてもデルタ層の下に再び再構築されていくようになっている。それから左肘には・・・・・・」


 それから延々と武装の説明が30分以上に渡って行われた。最後までその話しを聞き終えたタクミは『空を飛ぶ以外は何でもありだな』という感想を持った。下手をすると宇宙艦隊とすら互角に渡り合えるその装備群、さすがに彼も全ての武装を覚え切れなかったのだ。


「私も久しぶりの玩具を手に入れた楽しさで、つい大人気おとなげなく張り切ってしまったよ」


「大人気なさ過ぎるわ!」


 さすがにタクミは呆れ果ててジョンに対して盛大に突っ込んだ。AI知能に突っ込むのは人間として負けのような気がしている。


「その突込みを待っていたよ! 私に対する最大の賛辞と受け取っておこう」


(こいつは突っ込み待ちまで出来るのか。AI知能恐るべし)


 どうやらジョンは突っ込んでほしくてタクミの要望を最大限に拡大解釈をした上に、思いっ切り風船のように膨らませてパワードスーツの修復を行っていた。その人間っぽさに戦慄するタクミであった。


「それからこちらの元々メルカッテが使用していた機体は何しろ設計が古くてね、色々施したんだが君の機体の半分程度の性能しか引き出せ無かったよ。ああ、シールドだけはまったく同じ仕様だけどね」


「半分もあるんかい!!」


 今度こそタクミの全力での突込みが炸裂した。2000年も前に作られたパワードスーツを現行機のチューンナップ版の半分までその能力を高めたことに対する驚きだ。つまりタクミの元々の機体の4倍程度の最高出力を出せるのだ。この機体の所有権はジョンの許可を得て現在タクミに移っている。『予備の機体として利用するか』くらいの気持ちで修復を依頼した結果だった。


「さて次にお嬢さんから依頼されたガルバスタ人が残したパワードスーツの解析だったね。結果から先に言うとこの機体は元々が魔力で変形する構造だったよ。ガルバスタ人は魔法の使用こそ出来なかったが、魔素を科学的にエネルギー変換してパワードスーツを動かすエネルギーにしていたとともに、魔力を展開することで機体が変形する構造だったよ。これは開発技術者の私としても非常に興味深いことだった」


 岬の表情が驚きに包まれた。まさか自分たちの祖先が魔力を用いていたとはまったく知らなかったらしい。


「この技術はガルバスタ星系が滅びた時に失われたロストテクノロジーだね。私もこの機体を事細かに解析してようやくその全貌を理解出来た高度なものだよ。こちらの解析を先に行ったおかげで、2機のパワードスーツの修復に当たって魔力の全面使用に踏み切れたのだから、私にとっても技術に限界がないと知る良い機会だったよ」


 どうやらジョンは先に岬のパワードスーツの解析に手をつけたらしい。その結果をタクミの機体の修復に全面的に生かしたようだ。


「機体が搭乗者に融合するというのは魔力的に機体とのシンクロ率を高めようという術式が組み込まれていた結果によるものと判明したよ。より強くなりたいという種族の願望だったのかもしれないが、特に影響がない部分だったので削除した。それから搭乗者識別は遺伝子情報ではなくて人物認証方式に改めてある。登録された人物しかこの機体を動かせない」


 ジョンの説明は岬の要望を完全に満足させるものだった。元々の設計が魔力の使用を前提にしてあるので、更に効率良く魔力を取り込みながらエネルギーとして使用する方式に改められて、その最高出力はタクミの機体に迫るレベルにまで高められている。武装は特にないが岬の攻撃力ならば十分にタクミの機体と渡り合える能力がある。


「ということで説明はお終いだよ。あの扉の先に性能試験のためのスペースがある。そこで動きを確かめて、もし些細な点でも気になる箇所があったら教えてほしい」


 ジョンが指差す先には金属製の扉があった。パワードスーツはタクミと岬が収納してその先の性能試験室に全員で向かう。


「ねえ、せっかく5機あるんだからタクミとタレちゃんだけじゃなくて他の人も搭乗したらいいんじゃないの?」


 性能試験を開始する前に圭子が口を開いた。翻訳すると『興味があるから自分も乗ってみたい!』という意味だ。


「ああ、こっちの予備機だったら別に構わないぞ」


「もうこれは私たちの種族が残した物とは別物ですから構いませんよ」


 タクミと岬はあっさりと同意した。こうなると誰がどれに搭乗するかという話になるが、空と美智香は自分から申し出て辞退した。


「私は生命に対する攻撃はしない方針」


「私は自分の機体があるから必要ない」


 空は相変わらず歴史の改変に繋がる行為なので極力生命に対する干渉をしない方針だった。彼女はこの世界で何度も人の命を救うという方向で生命に対する干渉をしているが、彼女の中ではどうやらそれはセーフらしい。自分で勝手に決めたルールなので実はそこまで厳密に適用してはいなかったのだった。


 美智香はメンテナンス中で母星に送ってある機体以外は乗る気になれないらしい。それに攻撃の主体が魔法なので敢えてパワードスーツに乗る理由も無かった。


 そして残ったのは圭子と紀絵と春名だった。


「私は武装は必要ないからタレちゃんと同じのでいいわ」


 圭子にはそれが合っているだろう。様々な武器を状況によって使いこなすよりも、拳を叩き込んだ方が手っ取り早い。


「私はどちらでもいいです」


 紀絵は『どうせ体験試乗だろう』という気楽な気持ちだった。どんなものか経験してみようという気楽な立場で春名の選択を待っている。


「うーん、ロボットモノもいいですが魔法少女も捨てがたいですよね」


 春名はどちらにするか迷っているようだ。だが圭子にせっつかれて岬タイプを選んだ。その結果、紀絵がタクミの予備の機体に乗ることとなった。


「まずは圭子ちゃんが先に搭乗してください。中に入ると音声が指示しますので、その通りに従ってくださいね」


 無骨な形の岬の種族が残した機体に乗り込む圭子、その表情はやや緊張気味だった。その原因は彼女の機械オンチにあった。未だに通話とメール以外はスマホも使いこなせないのだ。それだったらお年寄りが使用するラクラクな感じの携帯電話でもいいと思うが、女子高生としての見栄でスマホを所持しているのだ。


 背中の部分からパワードスーツの内部に乗り込む圭子、搭乗口が閉まると内部のパネルに光が点って同時に音声が流れる。


「アラタナ トウジョウシャトシテ トウロクシマスカ?」


「わっ! タレちゃんの話通りに機械がしゃべった!」


 圭子が驚くのも無理はない。彼女は祖父が異星人とはいえ生まれも育ちも日本だ。地球の科学技術以上のことはまったくわからない上に、機械オンチでおそらく地球技術の理解すら危ぶまれる水準だった。


「ヨケイナコトハ ハナサナイヨウニ シテクダサイ」


「機械に怒られたよ」


 無機質な音声で注意を受けた圭子はかなりへこんでいる。いつもの勢いは一体何処に消え去ったのだろうか?


「アラタナ トウジョウシャトシテ トウロクシマスカ?」


「はい、登録します」


 一瞬の沈黙が流れる。機体が圭子の認証作業を行っているのだろう。


「トウジョウシャトシテ ニンシキシマシタ キドウレベルヲ シンコクシテクダサイ」


「最終段階でお願いします」


 機械に注意を受けた圭子はなぜか言葉遣いまでが丁寧になっている。そこまでパワードスーツに対して下手に出ないとならない理由でもあるのだろうか?


「サイシュウダンカイヲ ショウニンシマシタ スタートスイッチヲ オシテクダサイ」 


「ああこのボタンか。そうだ! その前に自分がなりたい格好を思い浮かべるんだよね。私の場合はやっぱり世紀末救世主かな」


 圭子はケンシ○ウの姿を思い浮かべてスタートスイッチを押した。光に包まれた圭子は一瞬でその姿が変化する・・・・・・




「さすが圭子ちゃんです! まさかその格好で出てくるとは思いませんでした!」


「この姿は記念に画像に納めるべき!」


 春名と美智香に褒められた圭子は満更でもない様子でポーズなどを決めている。その場はパワードスーツを使用したコスプレ会場といった雰囲気に包まれた。


「圭子ちゃん、次は右手の人差し指を天に突き刺すようにしてください!」


 カメラマンの春名がポーズの注文を出した。素直にそれに従う圭子だが、ようやく彼女はここで違和感を感じる。


「ねえ、これってもしかして世紀末覇者のポーズじゃないの?」


 ご存知の通りあの長兄が天に召される名場面の姿だ。


「はい、だからこのポーズがいいんですよ!」


 春名の言葉に嫌な予感がした圭子は岬から鏡を借りて自分の姿を映し出す。年頃の女子だったら鏡くらい自分で持っていて然るべきだろう。


 そしてその鏡に映し出された自分の姿は・・・・・・ 頑丈そうな兜とその両側から突き出た角、豪勢なマントと肩の防具からトゲトゲが突き出た姿・・・・・・ 世紀末覇者そのものだった。


「違----う!!」

  

 なぜかラ○ウの姿をした自分に圭子が愕然としている。


「圭子ちゃん、一体何が違うんですか? いやー、凄いですね! 世紀末覇者に成り切っていますよ! そのままケルチャンに跨ったらますます雰囲気が出そうです」


 春名の天然の慰めにもならない発言は圭子の心を鋭く抉った。そしてそのまま彼女は部屋の隅の壁に凭れ掛かって膝を抱えるのだった。

 

 


次回の投稿は土曜日の予定です。

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