202 本拠地制圧2
早い物で今年もあと一月を切りました。前回の200話投稿ではたくさんのアクセスありがとうございました。さて物語の方はずいぶん長いこと海賊退治のお話しが続いています。2,3話で終わらせる軽いエピソ-ドの予定だったのに、どうしてこうなった??? そして今回も予想通りに終わりませんでした。次話でようやく終わる目処が立ったので、このずっと閉店セールが続けている店のような状態は何とか終了しそうです。
「船が近付いて来たぞ! 大砲を放て!」
海賊たちが立て篭もる無人島の切り立った断崖の上に据え付けられた大砲の導火線に手下の手で松明の炎が点火される。『ジュー』という音を立てて火は導火線に沿ってどんどん大砲の内部に入り込んでいく。
「退避ー!」
大砲の周囲から慌てて海賊たちが離れた直後・・・・・・
「ドーーン!」
断崖の上に轟音が響いた。耳を塞いで目を閉じていた海賊たちは砲弾の行方を確かめるが、それは惜しくも船の左舷に着水して水飛沫を上げるだけだった。
「次の弾を放て! 今度はもっと引き付けてから必ず当てろ!」
大砲の後部が空けられて発射の際に生じた煤を掻き出してから、次弾と炸薬の装填を行ってレバーを回して角度を調整する。照準器の類はまったく付いていないので、経験と勘で狙いを合わせるしかない。
「発射準備!」
その声で付近にいた20人以上の海賊たちが一斉に身構える。荒くれ共にしては中々統率の取れた動きだったが、彼らの大砲がもう一度火を噴くことはなかった。島に向かって緩々と進む船から何かが撃ち出されたと思った次の瞬間・・・・・・
「ドドドドドーーーン!!!」
5連発でガチホモ丸から発射されたレールキャノンの砲弾が音速の10倍で飛翔して彼らが立っている崖のやや下の辺りに着弾した結果、広い範囲で崖の崩落を引き起こして、海賊たちは大砲ごと崩落に巻き込まれ転落していった。100メートル近い海面に岩ごと叩き付けられて生きている者はいなかった。
「お頭、大変です!」
崖の崩落を別の場所から目撃した手下が修平が立て篭もっている洞窟に慌てふためいた様子で駆け込んでくる。その只ならぬ声に振り返った修平は眉をピクリと動かしながら叫んだ。
「何事だ! ギャーギャー喚くな! 洞窟の中で耳がキンキンするだろうが!」
煩そうに顔を顰めているが修平の声の方がよっぽど大きい。それが狭い洞窟内に反響してさらに耳に響く。
「へい、すいません! それがどうやらやつらも大砲を持っているらしくて、船からの攻撃で崖が崩れて大砲ごと周りにいた連中は海に落ちて行きました」
「何だと!」
またもや自分の大声が洞窟に響く。だが修平はその反響する音を気にしている場合ではなかった。
『迂闊だった! 俺が大砲を開発出来るなら、同じ学校の連中が大砲を手にするのも可能なはずだ。こうなったら水際でやつらを阻止するしかなさそうだ』
修平の判断基準はあくまでも現代の地球文明がベースになっている。それをはるかに超えるような宇宙兵器や未来科学など想像の彼方の世界だった。だからと言って彼の判断を『間違っている』と責めるわけにはいかない。間違っているのはこの世界にたまたまそのような技術を持っているタクミたちがやって来てしまったことなのだ。
「おい、桟橋に全員を集めろ! 投石器の準備もしておけ! 矢と火矢を有りっ丈集めろ!」
矢継ぎ早に配下に指示を出す修平、彼は『盗賊王』の職業によって盗賊たちからの忠誠心と戦術構築の能力を手にしていた。日本に居た頃の彼だったら精々ナイフと金属バットを持った仲間を深夜の空き地や河原に集める程度だったから、ずいぶんと成長したものだ。ただしその成長の方向が常に犯罪を犯す道を突き進むという物騒な職業を得た成果だった。
「船全体を覆うシールドを展開した。このまま突入する!」
空の声が響いてガチホモ丸は微速で入り江を前進する。タクミは依然舳先から海賊たちが待ち構えている桟橋の両側に築かれた崖の足場を監視している。
「空、シールドの内側から攻撃は可能か?」
船に乗り込んだままならばシールドによって守られているが、上陸するとなると崖の上からの攻撃は厄介なる。それを今のうちに排除しておいた方が得策だろうと彼は判断している。
「空船長だと何度言わせる! シールドはこちらからの攻撃は通すから問題ない」
どうやら彼女は船に乗っている間は『船長』で押し通すつもりらしい。そんな空の拘りを今回もまるっと無視してタクミは攻撃の指示を出した。
「美智香、紀絵、射程に入り次第崖の上に居る連中を排除してくれ! 俺も加わるから撃ち漏らしがないように頼む」
彼の指示に右舷と左舷に陣取ってすでに攻撃準備を整えている二人が頷いた。
最初に攻撃の火蓋を切ったのは紀絵だった。彼女が手にする『ボウガンのような物』は最大射程500メートルを誇る。その距離から的中させるのは神業レベルの高い技術が要求されるが『上級弓手』の彼女であればボウガンに備わっている照準補正機能の力を借りれば十分可能だ。
スナイパーモードに切り替えて遠距離射撃に挑む紀絵、両足をしっかりと前後に開いて基本姿勢をまったく崩さずに構えている。
「距離400、風速微風、船の揺れを考慮に入れて照準修正!」
冷静に一つ一つ作業のように確認しながら船の揺れが頂点に来た瞬間に引き金を引いた。
「シュッ」
僅かな音を残してボウガンを飛び出した矢の形状をした弾丸が音速を超えて飛び出していく。スコープでその行方を見ている紀絵は崖に立っていた男の心臓に命中して血を流しながら倒れた姿を確認してから次のターゲットに向けて照準を合わせに掛かる。
船と崖の距離が200メートルを切ってからタクミのブラスターガンが火を吹いた。紀絵が精密射撃で敵を仕留めるなら、タクミは弾丸が爆発する威力で次々に賊を葬っていった。少々外れても断崖に着弾した弾が小爆発を引き起こすので、その威力で飛び散った岩の破片が次々に賊を血に塗れさせていく。
海賊たちも負けずに投石器から30センチくらいの石を撃ち出したり、火矢を放ったりしながら抵抗を続けている。だがその虚しい抵抗は空が展開したシールドに阻まれてあっさりと跳ね返された。
ガチホモ丸はその優美な船体を滑らすように自動操縦によって桟橋に接岸すると今度は美智香の出番だった。
「地獄絵図とはこのような光景を指すのだと心得るべき!」
彼女がタッチパネルに触れると船を取り囲む崖に向かって一斉に電撃と真空の刃が5発10発とまとめて放たれる。至近にその電撃を受けた賊は体を痙攣させながら息絶え、真空の刃の直撃を食らった者たちはその体をいとも簡単に切断された。だがその恐るべき魔法の威力はこれだけではすまない。
「仕上げはこれで」
美智香は風魔法の最上級魔法を発動した。ダンジョンの最下層でヒュドラの首すら捥ぎかけた『ハリケーンカッター』だ。ガチホモ丸の周囲に風が渦を巻き始めると見る見る間にその風速は時速100キロを超える。特大の竜巻の内部には無数の真空の刃が飛び交う凶悪な魔法だ。
恐ろしい暴風が止んだ入り江の奥は波の音が響くだけの静かな世界に戻っていた。当然そこでタクミたちを待ち構えていた海賊たちは切り刻まれてその残骸が崖に叩き付けられた無残な姿を晒している。
「美智香、ご苦労だった。どうやら敵は全滅したようだから、このまま上陸するぞ」
タクミを先頭に紀絵が続き非戦闘員の春名と空を挟んで殿を美智香が務める隊形で桟橋から続く道を歩き始める一行、ここまではシールドに守られて一方的な戦いが出来たのだが、地形が全くわからない場所で待ち伏せや罠の危険を警戒しながら進んでいく。圭子が居れば彼女の人並み外れた気配察知能力で索敵が楽なのだが、今回彼女が同行していないのはタクミにとってやや痛い状況だった。
しばらく崖を登っていく道が続いて、そこはすっかり美智香の魔法によって掃除が済んでいるらしくて、特に賊が待ち構えている様子はなかった。もうすぐその坂を登り切ろうかという所でタクミが振り返って一行をその場に停止させる。
「この先に気配がある。4人はシールドに入ってこの場に待機してくれ。空、遮蔽と遮音を厳重にしてくれ」
タクミは収納から取り出したヘルメットを被りながら空に指示を出す。どうやらタクミが何らかの意図を持っていると察した空は黙って頷いて光と音を遮断するシールドを展開した。
それを確認したタクミはヘルメットのバイザーを降ろして慎重に前進を開始する。入り江から島の上部に上がるための上り坂は切通しの一本道でここを抜けないと外に出られない地形になっていた。つまり待ち伏せには最適な場所なのだ。タクミが警戒しながら音を立てずにその切通しの出口に向かって歩を進めると、その先から僅かに人の声が聞こえてくる。タクミはヘルメットの集音量を調整してその声を拾った。
「本当に敵がここからやって来るのか? 100人以上で待ち伏せしているんだぞ。そんな罠を突破出来るとしたら化け物だ!」
「確かにその通りだぜ。今頃は火矢で船ごと燃やされているか、乗り込んだ連中に切り刻まれているかのどちらかだろうな。全く乗り込んで来ていきなり殺されたんじゃ、ざまーねーぜ!」
船を崖の上から攻撃するのは味方にとって圧倒的に有利な状況で、どうやら後方に待機していた海賊たちは簡単に侵入者を打ち負かせると信じているようだった。
「残念だったな、切り刻まれたのはお前たちの味方だったぞ。お前たちも遅かれ早かれどうせ後に続くことになるんだけどな」
外に聞こえないような声でタクミはつぶやくと、収納から楕円形の物体を取り出した。そしてそのピンを抜くと無造作に切通しの外に向けて放り投げる。それと同時にヘルメットの集音機能をゼロにした。
「ドカーン!!」
眩いばかりの閃光と耳を劈くような大音響が辺りを埋め尽くす。タクミが放り投げたのは『スタングレネード』閃光手榴弾などとも呼ばれて、強力な光と音で敵の視覚と聴覚を奪い無力化する装備だった。だが、タクミが所持しているのは太陽光の1万倍の閃光で網膜を焼き切り、その爆発音は鼓膜を破壊するという決して人道的な装備には程遠い物だった。
タクミが切通しを抜けるとその場に15人の男が目や耳を押さえて転がり回っている。もしかしたら回復魔法で治癒が可能かもしれないが、別にこの男たちの負傷をわざわざ治してやる義理はないので、タクミは彼らを苦しみから救ってやるために頭や腹を蹴飛ばして意識を刈り取った。命が助かるだけでも感謝してもらいたいくらいに寛大な処置だ。
「空、敵は征圧した。シールドを解いて合流してくれ」
通信で女子たちを呼び寄せながら、タクミは周囲の様子を伺う。
「どうやらあの洞窟が怪しいな」
彼の視界には50メートル先にある岩の裂け目のような洞窟が飛び込んでくる。建物が見当たらないこの島で雨露を凌ぐアジトはどうやら他には無さそうだった。あとどれだけ賊が残っているかはわからないが、これで袋のネズミだと口角を吊り上げるタクミだった。
次回の投稿は日曜日の予定です。