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201 本拠地制圧

本日2話目の投稿です。目次のページが新たに追加されていますのでご注意ください。

 圭子は馬車で港までタクミたちを送ってから岬とともに再び陸路で王都に向かった。二人とも海賊の拠点に乗り込みたそうだったのだが、図体が大きなケルベロスを船に乗せられないので、止む無く馬車を御して去っていった。だが確かにその判断は適切だ。まさかケルベロスを放し飼いには出来ないし、万が一『野良ケルベロス』などが現れたら街中が大騒ぎになるのは間違いなしだと断言出来る。


「いよいよ本当の海賊退治の始まりです! いっぱい画像に収めますよ!」


 春名はついにこの時がやって来たとばかりに大はしゃぎだ。何よりも陸路と違って馬車の後方を走らされることがないのだから、安心して船の上で朝からおやつを食べまくっている。口煩い圭子と最近少しずつ厳しくなってきた岬が居ないところで大いに羽を伸ばしているのだ。 


「空、やつの位置はここだ。どうやらすでに島に上陸しているようだな」


 タクミは修平の皮膚に位置情報を発信するビーコンを埋め込んでいた。アルシュバイン王国でバンジージャンプを敢行させられた伯爵に取り付けたものとまったく同じ発信機だ。その位置さえわかれば取り逃がすこともない。


 さらにこうしてゴミ共が1箇所に集まってくれれば掃除がし易い。春名が『海賊退治が見たい!』と強く主張したのに乗っかって、こうしてわざわざ修平を逃がす隙を作ってやったのだ。タクミとしても本拠地を叩き潰し圧倒的な力の差を見せ付けた上で、修平の捻じ曲がった心を完全に圧し折り、今度こそ2度と抵抗する気も起きないようにしてやるつもりだった。


「位置座標をを確認した。総員準備はよろしいか? それではガチホモ丸出航!」


 風をマストに受ける振りをしながらガチホモ丸はゆっくりと桟橋を離れていく。その優雅な姿に近くで作業をしている人々は視線を釘付けにして見入っている。この世界の木造船は航海のために必要な強度を保つにあたって、どうしても無骨な形状に為らざるを得なかった。地球で言えばガレオン船に近いだろうか。その点ガチホモ丸は木造なのはあくまでも表面だけで、チタン鋼にグラスファイバーや炭素繊維が骨格や内部にふんだんに使用されており、その流線型の美しい形状にも拘らず必要にして十分以上な強度を誇っているのだった。


「空ちゃん、いい潮が流れているからこのままゆっくり直進でお願い!」


 キャビンに紀絵が駆け込んでくる。この船の漁労長が獲物が居そうな漁場を発見したらしい。すでにタクミの収納には彼女が釣り上げた魚が大量にしまわれているのだが、漁師としてはその潮の流れを見てしまうと血が騒ぐのを抑えられないのだろう。船の艫から早速釣り糸を垂らし始める紀絵、すでにシーサーペントやクラーケンを釣り上げている彼女は今度は一体何を狙うのだろうか。ひょっとしたらリバイアサンでも釣り上げようと思っているのだろうか?


 垂らした釣り糸から早速当たりの気配を掴んだ紀絵は次々に獲物を釣り上げていく。その後方では岬が持たせた七厘にタクミが炭をくべて火を起こしていた。その隣では焼き上がったばかりの小さめの魚を春名が食べている。用意がいいことに醤油や大根おろしまで岬は準備しており、釣ったばかりの新鮮な魚を焼き立てで食べる春名はご満悦だ。


「やっぱりお魚は新鮮な物に限ります! 脂が乗っていて美味しいです! ああ、タクミ君、少し火が弱くなっていますよ!」


 日本で言えばサンマのような焼き魚には最適なサイズの魚を頬張りながら、厚かましくタクミに指示を出す令嬢の姿があった。止む無くタクミは炭を追加してうちわで扇いでいる。時折魚の脂が炭に垂れて七厘から煙とともに火が飛び出す。全てタクミにお任せでただ食べるだけの気楽な春名、本当にこの令嬢は手が掛かって仕方ない。脂が乗っているのは果たして魚だけなのかと突っ込みの一つも入れたいところだ。


「そうだ、タクミ君! 白いご飯がほしくなりました! お茶碗によそってください!」


 普通ならば『いい加減にしろ!』と怒っても構わない状況だが、付き合いの長いタクミはこんな場面に慣れ切っている。収納から岬に託された炊飯器を取り出してご飯茶碗に盛り付けて春名に差し出した。


「適当なところで止めておかないと太るぞ!」


 一言警告を添えるのを彼は忘れない。さもないと今の春名は際限なく食べ続けるのだ。


「タクミ君は失礼ですね! お魚は体に良いんですからたくさん食べても問題ありません!」


 体に良いことと太ることは別問題だろうという突っ込みをタクミは飲み込んだ。それ程春名が幸せそうな表情で食べていたからだ。『今だけは幸せなままで居させておこう』そう思う心情は彼の優しさなのか、はたまた諦めなのかは誰にもわからない。


 春名のお腹がいっぱいになったちょうどその時、これから海賊の本拠地に向かっているとは思えないような長閑な光景は空の音声で終了の時間を迎えた。


「あと20分で目的の島が視認出来る範囲に到着する。各自準備を開始してほしい」


ガチホモ丸は13ノットを保ったままで優雅に穏やかな海面に航跡を描きながら進んでいった。







「全員よく聞け! これから一戦構えるぞ! ここにやってくるやつらは返り討ちにしてやれ!」


「オー!」


 配下の海賊を集めた修平はこの島に立て籠もって彼を捕縛しにやって来るであろうタクミたちを迎え撃つ決心を固めていた。


 『もし自分の身に万一の事態があったら手筈通りに動け』と命じてあった部下たちはその計画通りに修平の身柄をギルドの地下牢から救い出して、潜伏している全員が集結して船に乗り込んで本拠地のこの島につい先程上陸したばかりだった。元々この島に潜んでいた配下たちも合わせて、総勢200人近い荒くれたちが腕を突き上げて雄たけびを上げる。



 彼はギルドの牢に放り込まれた時に美智香の手によって『隷属の指輪』が外されて、本来の悪党らしい人格を取り戻していた。救い出された当初はタンネの街から逃げ出したように再び逃走を図るつもりだったのだが、本拠地に戻って配下の精鋭と予てから準備してきた装備を見てこの場で迎え撃つと気が変わっていた。


 何しろここには半年分の食料や水と大量の武器、何よりも海賊稼業で手に入れた財宝の山が保管されているのだ。今更それを放棄して逃げ出すのは盗賊王としての修平のプライドが許さなかった。


「見張りは近づく船を絶対に見逃すな! 射程に入ったら容赦なく大砲を撃ち込め!」


 修平は自らが開発したこの世界にあるはずがない大砲に自信を深めている。彼にも一応は現代日本の知識くらいはあった。その知識を生かして爆裂の術式を込めた鉄球を撃ち出す大砲を作り上げていたのだった。時間と素材の制限があって今この場で稼動するのは僅か1門しかないが、1発当たれば船が木っ端微塵になるほどの威力を秘めていた。


「ものども配置に付け! 一人も生きてこの島から逃すなよ」


 『タクミたちは必ずここにやって来る!』それは修平の確信に近い予感だった。それは盗賊王に備わっている第6感とでも言えばよいのだろうか、修平は今まで何度もその予感に命を助けられてきたのだ。彼の命令に従って剣や弓を手にした配下が散っていく。その様子を見てニヤリと口を歪める修平だった。





 


「島が視界に入ってきたぞ!」


 ガチホモ丸の舳先へさきで見張りをするタクミの声が響く。島が近づくにつれて浅瀬や暗礁が現れてくるので、操船する空船長はソナーによって集められた情報を元に描かれる3Dの海底地形図を見ながら速度を7ノットに落として慎重に接近を試みる。 


 修平が立て籠もる島は周辺が全て高さ100メートル近い断崖絶壁で囲まれた元々は無人島で、ガチホモ丸程度の大きさの船が接岸出来る箇所は見る限り全く見当たらないようだった。


「あそこの入り江が怪しい」


 空はレーダーと視覚で得た情報を分析して、切れ込んだ崖が島の内部に大きく食い込んでいる箇所に船の進路を向ける。そのまましばらく進み、水深がますます浅くなってより慎重な操船を要求されるようになって来た。そこへ突然島から何かか撃ち出され、ガチホモ丸の左舷の海上に着弾して大きな水飛沫を上げる。


「空、どうやらやつらは大砲を所持しているらしいぞ! これから反撃を開始する!」


 舳先で見張りをしているタクミから注意を喚起する声が飛ぶ。彼はすでに舳先の大砲型レールキャノンを起動させて照準を合わせに掛かっている。


「レーダーから得た敵の大砲が置かれている地点の位置情報を入力した。いつでも発砲可能」


「了解した、どうせなら派手に見舞ってやろう!」


 タクミは5発の砲弾を撃ち出すようにレールキャノンをセットする。すでに着弾位置が設定されているので、あとは発射ボタンを押すだけだ。


「発射する」


 タクミの声とともに『ブーン』という電磁加速器が内部で砲弾を音速をはるかに超える速度まで加速して『キーン』という衝撃波を撒き散らしながら目標地点に破壊を撒き散らす砲弾が飛翔していく。


「ドーーン!」


 崖の上に立つ火柱にやや遅れて爆発音がタクミの耳に届いた。目標を破壊したかこの位置から正確に確認は出来ないが、反撃してくる様子が無いところを見ると目標を達成したと考えてよさそうだ。


「空、念のため着岸するまでシールドを展開してくれ」


「空船長と呼んでほしい! 仕方が無い、シールド展開!」


 空の小さなコダワリはさらっと無視してタクミは引き続き前方の警戒をする。ガチホモ丸はその間にもゆっくりと島に接近しつつあった。


「空、発見したぞ! 入り江の奥に桟橋がある。その奥と左右の崖に敵が50人近く武器を構えて待ち伏せをしている」


「だから空船長と呼んでほしいと何回言えばわかる! 水深は問題ないからこのまま真っ直ぐに突っ込む!」


 海賊たちの待ち伏せもなんのその、入り江の奥の桟橋目指して直進するガチホモ丸だった。


 

次回の投稿は金曜日の予定です。

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