19 閑話 春名のレッスン
第19話です。短めの閑話になるので、あと2話この話の続きを今日中に投稿します。
今夜タクミのシェルターには春名が寝ている。
とは言っても、まだベッドに横になったばかりで二人とも起きているのだが……
「春名、教えて欲しい事がある」
タクミが横でうっとりとした表情で彼に抱きついている春名に話しかけた。
春名は今度は『一体なんだろう』という表情で、タクミを見つめている。
「春名にしか聞けない話だから誰にも言わないで欲しい」
春名の中ではさらに謎が深まるばかり『タクミがどんな深刻な話を切り出すのか』と考えて、だんだん表情が真剣になってきている。
「実は岬のことなんだが・・・・・・」
タクミの口からもう一人のお嫁さん候補、岬の名前が出たことで春名は体を硬くした。
まさか『岬のことが嫌いだ』とかそんな事を言い出すのではと心配になったからだ。
「その・・・・・・岬の体の触れたりして構わないものなんだろうか?」
一気に春名の力が抜けた。『何をくだらない事を心配しているんだこいつは!』といった眼でタクミを見つめる。
「はあ・・・・・・タクミ君が女心をわかっていないのは知っていましたが、まさかここまで鈍感だったとは・・・・・・」
彼女の瞳には飼い主に捨てられた犬のような表情で見つめてくるタクミが映っている。
「わかりました、この際タクミ君にはしっかりと女の子の事を教えてあげましょう。思えばずっと私がタクミ君のそばにいたせいで、他の子と接する機会を奪っていたような気がします。だからその分まで今からちゃんとレッスンしますので、タクミ君もしっかりついてきてください!」
いったい何を始めるつもりか一抹の不安を抱えながら、タクミは春名の言葉に頷いた。
春名はタクミの左手を取って自分の髪に触れさせる。彼女の柔らかな髪の感触がタクミの手に伝わってくる。
「タクミ君、そっと私の髪を撫でてください」
言われた通りに彼女の髪を優しく撫でるタクミ、春名の方は彼の手の感触に包まれて目を閉じている。
「今度は頬に手を添えてチューしてください」
髪を触っていた手を春名の頬に寄せてそっと口付けをするタクミ。そのままの姿で口付けを続けていると、春名の手がタクミの手を取って自分の胸に誘っていく。
驚いて春名から離れようとするタクミだが、春名が手を離さない。
「タクミ君、そこで離れてはだめです! 優しく胸に触れてください・・・・・・その、あんまり力を入れると痛いから嫌です」
春名の言う通りに再び口付けをしながら、彼女の胸にそっと触れるタクミ。その刺激に春名は少し体をくねらせている。
子供の頃のふざけ合いで、タクミに触られた経験はあったが、思春期を過ぎてこれほど本格的に彼の手が自分に触れるのは初めてだった。
春名のまだ未成熟な感覚では、気持ちよさよりもくすぐったさの方が優っている。それでもほのかに感じる体の奥まで響くような感覚が彼女を取り込んでいた。
「タクミ君、なんだかとっても不思議な感じがします」
初めて味わうその感覚に春名も戸惑いを隠せない。しかし今のところは、体が感じる感覚よりも、精神的な満足感のほうが優っていた。
春名は後ろ髪を引かれる思いでタクミの手をまた自分の頬に戻す。
「タクミ君、すごく嬉しかったです…… 覚えておいてください、女の子は大好きな人に優しくされるととっても嬉しくなるんですよ」
今度は春名の方から口づけをする。彼女の体はすかっりバラ色に染まっていて、タクミが見たことがない一人の『女』としての春名がそこにいた。
「その・・・・・・まだ私の覚悟ができていないのでここから先はもう少し待ってください」
彼女は少し申し訳なさそうに言うがタクミとしてもそんな準備があるはずもない。
「いいんだ、春名は俺のそばにいてくれるだけで俺は満足だし、そういうことはいずれ二人の気持ちが決まったときにそうなるだろうから、無理はしなくていい」
タクミは格好をつけて言ってはいるものの、実は彼の中でもこれが一杯一杯だった。
「タクミ君、ありがとうございます。強くて優しいタクミ君が大好きです!」
そう言って春名はタクミの体に抱きつく、柑橘系の香りが優しく彼の鼻腔をくすぐった。そのままもう一回長目の口づけをしてからタクミは春名に肝心な事を聞いた。
「なあ春名、岬にも同じ事をしていいのか?」
それを聞いた春名は飽きれた眼でタクミを見つめる。
「タクミ君は一体何を言っているんですか! いいに決まってます!! きっとタレちゃんも大喜びです!」
春名は確信に満ちた目をタクミに向けている。こういう事は女同士の方が解り合えるのか、もしくはタクミがあまりに鈍感すぎるのか。
「それから、次からはちゃんとタクミ君がリードしてくださいね。今日はレッスンを兼ねて私がリードしましたが、女の子は男性にリ-ドされる方が嬉しいんですから!」
やや頬を赤らめる春名。彼女も全く経験がない中で彼女なりに頑張ったので、次からはタクミが頑張る番だと言いたいのだろう。
「わかった、今日はありがとう」
春名の髪を撫でながら、おでこに最後の口づけをして『おやすみ』と声をかける。
春名はその言葉に満足して眼を閉じた。どうやら眠気のほうも限界だったようだ。無理もない、半分にされた体力で、今日も12時間以上ダンジョンを歩き回ったのだから。
そのままタクミは、春名の寝顔をしばらく眺めてから、眼を閉じるのだった。
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