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181 2000年前の真実

 タクミが外に出るとパワードスーツ同士の戦いの惨状がまだ手付かずで残っていた。タクミの機体はレールキャノンの内部が完全に破壊されている外、メインのパワーユニットと背中の部分の装甲が大きな損傷を受けていた。よくこれで命が助かったものだと我ながら仕出かした無茶にタクミは内心青くなっている。


 敵のパワードスーツは背中から頭部にかけての上半身がグシャグシャになっていてスクラップ同然だ。上半身にあったいくつかのパーツが遠くに吹き飛ばされている。内部に乗員は搭乗していなかった模様で、その中は空っぽだった。タクミの予想通りにAI知能が直接機体を操作していたのだろう。


 それにしてもタクミたちがこの迷宮にやって来てまだ1週間ほどしか経っていない。その間にタクミたちの戦闘を解析して、それをパワードスーツにプログラムしたのは一体誰なのだろうという疑問が浮かぶ。しかも技術的に再現出来ない部分を魔力を用いてタクミの機体よりも優れた運動性能を引き出すそのテクノロジーにタクミは興味があった。


 取り敢えず2体のパワードスーツの残骸を回収して収納にしまいこんでから、すっかり準備が整った朝食の席に向かう。女子たちは揃ってタクミが席に着くのを待っていたのだ。


「タクミ君、おはようございます。回復が早くて良かったですね。一時はどうなることかと本当に心配したんですよ」


 タクミを出迎えた春名の明るい声が響く。タクミの容態が安定するまで女子全員が寝ないで様子を見守っていたそうだ。岬に聞いた話では、昨夜の春名は完全に取り乱して泣きじゃくっていたそうだ。タクミの容態が落ち着いたと聞くまで彼女はずっと泣いていたらしい。そんな春名の頭にタクミは手の平をポンと乗せる。それで二人の間ではすべてが伝わるのだ。にっこりといい表情で微笑む春名だが、その前に置かれている朝食は確実に量が増えている。昨夜はさすがに夕食が喉を通らなかったのでその分も追加されているのだ。


「春名、朝からそんなに食べて大丈夫なのか?」


「タクミ君一体何を言っているんですか? いつもとまったく同じ量ですよ」


 すっとぼけて食事の量は変わっていないと主張する春名だが、体重は正直だろうと思い直してタクミはそれ以上ツッコムのを止めた。食いしん坊のレベルが上昇した春名は一体どこに突き進むつもりなのだろうかという疑問は敢えて口にしないで飲み込むことにしたのだ。


 付きっ切りで看病してくれた空や岬だけでなく、圭子や紀絵にも心配をかけたと感じたタクミは彼女たちに頭を下げる。


「心配をかけてすまなかった。この通り元気になったからもう大丈夫だ」


 その声を聞いて圭子は『まあいいか』という表情をしている。命が助かって敵も倒したのだから圭子的にはオーケーなのだろう。美智香は特にいつもと変わらない表情で食事を開始している。だが睡眠不足のため目の下の隈が出来ているのはどういうわけだろう。彼女は誰にも気づかれていないと思っているが、他の女子たちから見ればその心情はバレバレだった。





 朝食を終えてフロアーに現れた魔法陣に乗って転移すると、そこはまったく何もないガランとしたフロアーだった。教室ほどの広さしかないそのフロアーには例のテンキーが設置してある金属製のドアがひとつあるだけだった。


「ようやくこの迷宮もこれでお終いね!」


 ラフィーヌのダンジョンと違ってこの迷宮は『最後が第何層』といった明確な目標がなくて、一体どこまで進めば終わりなのかずっと手探りで進んでいただけに、ようやく終わりが見えてメンバーの間にホッとした空気が流れる。


 だがその空気を破るように部屋の真ん中に突然強い光が集まった。またここでも敵が現れるのかと身構える一同、圭子はその目が釣り上がって完全な戦闘体勢になっている。


 やがてその光は人の形に収束して、そこには古い時代の宇宙服の下に着込む銀色の体にフィットしたスペーススーツを身に着けた老齢の男性の姿になった。


「どうやらホログラムのようだ。圭子、落ち着け!」


 タクミの声でその男性は実体の無い投影されたものだと気がついた圭子は両腕を下に降ろす。美智香も展開したタッチパネルを一先ずは元に戻した。


 無表情にその場に立っている老人は周囲を一度見渡してから穏やかな声を発する。


「ようこそ、試練を乗り越えた者たちよ! 君たちを歓迎するよ」


 ここで彼は一旦話を区切る。その姿はホログラムのはずなのにまるで周囲の人を意識して会話をしているような精巧な技術だ。


「この場にやって来た諸君はPNI装置について知っていることを前提に今から話をしたい。もし装置のことを知らないのならば聞いても無駄になるから、早々にこの場から立ち去ることをお薦めする」


 タクミの頭の中にやはりという思いが浮かぶ。どう考えてもこの迷宮はPNI装置に関する何らかの関わりをそこいら中に匂わせていたから、この展開は彼のある意味思い通りのものだった。


「私はメルカッテ=ロンダルス、ランデルク人の技術者で、PNI装置の開発者だ」


「何だって!」 


 タクミはその言葉に衝撃を受けて思わずその口から言葉が漏れた。タクミたちの世界銀河連邦では、ランデルグ人とは惑星全体が狂信的な宗教に染まって周辺にテロ攻撃を仕掛けた挙句に惑星ごと破壊された愚かな種族という言い伝えが常識となっていたからだ。そのランデルク人がPNI装置を開発していたというのが俄かには信じ難い思いだった。


「今から私が話す内容は、銀河連邦の創生期に起こった出来事を出来るだけ事実に沿って君たちに伝えるものだ。信じるか信じないかはすべて君たちに委ねるとして、一先ず話だけは聞いてほしいと思う」


 銀河連邦は今から2000年以上前に成立したというのは記録の上でも明らかで、その成立の経緯も全て記録に残っている。その歴史に隠された何かがもしかしたら今から語られるのだろうか。


「銀河連邦の成立の当初は3つの星系が覇を競っていた。技術によって平和的に銀河を統一しようとした我々ランデルク星系、武力によって銀河を治めようとしたガルバスタ星系、権謀と恫喝によって周辺の惑星を次々に傘下に治めていったロッテルタ星系だ」


 ここに出てきたガルバスタ星系とは岬の種族がかつて存在していた今は無き星系のことで、ロッテルタ星系はタクミや春名の生まれ故郷の惑星のことだ。タクミたちの前で淡々と話をするメルカッテの話が本当だとすると、はるか2000年前にはタクミたちの惑星と岬の惑星は銀河の覇を競い合って敵対していたことになる。


「我々が開発したPNIシステムは当時画期的な発明だった。開発した自分が言うのもどうかと思うが、何万光年という気の遠くなるような距離を一瞬で行き来したり、情報の遣り取りを可能にするのだ。それは銀河のあり方の根本を変革するシステムだった。それを知ったロッテルタ人は、我々に同盟を呼びかけて平和裏に銀河を統一する路線に協調してきた。だがそれこそ彼らの罠だったのだ。平和を第一としていたランデルク人はロッテルタに裏切られて、PNIシステムのメインサーバーを乗っ取られた挙句に、狂信者のレッテルを貼られて惑星ごと消された。私は多くの仲間の犠牲によって、システム全体を統括するマザーシステムを手にして辛うじて惑星を脱出したのだよ。その途中でロッテルタの戦艦に発見されて闇雲にワープした結果この惑星に辿り着いたという訳だ」


 淡々とした口調で語られるその話は、タクミだけでなく春名や美智香に大きな衝撃を与えていた。圭子や紀絵にはその話が意味することがもう一つピンと来ていない様で、口をポカンと開いてただ話を聞いている。岬は思い詰めたような表情をしており彼女しか知らない何かがあるようだ。


「つまりこの惑星に存在するPNIシステムは銀河全体に広がっているシステムを全て統括する権限を持っているわけだ。これを君たちに委ねたいと思う。出来れば平和的に活用して欲しいものだと思うが、一つだけ注意しておくとロッテルタ政府は未だにこのマザーシステムを狙っているよ。もしこの装置が彼らの手に渡ったら銀河は圧政と酷い弾圧に苦しむ運命が待ち受けているだろうね。もし私の言うことが信じられないのならば、奥に設置してある装置でこの2000年間にロッテルタ人が何をしたか調べてみるといい。すでに銀河の中に住んでいた未開拓惑星の住民が300ほど彼らの手によって絶滅しているよ。この事実を踏まえた上で、君たちは奥の部屋に進むといい。」



 それだけ言い残してメルカッテのホログラムは消え去った。その場に残された一同の間には重たい沈黙が続いている。特にメルカッテによって『侵略者』と名指しされたタクミと春名はどうしたらよいのか戸惑いの表情を浮かべたままだ。


「どうするかは別にして装置の起動はするべき」


 声を上げたのは空だった。彼女はここまで沈黙を守っていたが、意を決したような表情で提案をしたのだった。その言葉に一同は頷いて、テンキーに数字を入力して部屋の内部に入っていく。


 そこは今までタクミたちが内部に入った装置が置かれた部屋とは様相がまったく異なっていた。ここにあるシステムは完全に稼動しており、モニターや様々なランプが正常に作動しているのだった。そして先程の部屋に現れたメルカッテが立っている。


「ようこそシステムの中心部へ、私はかつてこの惑星に降り立ったメルカッテの思考を元に擬人化して作られた存在、このシステムの案内人だと思ってほしい」


 先程と同様のホログラムで作られたその人物は、システムが作り上げたかつてのメルカッテの人格を再現したもののようだった。どうやら今度は受け答えも出来るらしいので、タクミたちはその頭の中に生じた疑問を彼に次々にぶつけていくのだった。



次回の投稿は日曜日の予定です。ようやく週3話の投稿ペースに戻ることが出来ました。

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