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175 令嬢の決意

風邪を引いたせいで投稿間隔が開いてしまったことをお詫びいたします。中々しぶとい風邪でまだ咳が止まりません。集中出来ないので誤字等があるかと思いますがどうか寛大な心で見てください。

 タクミがシェルターの中に入ると春名はベッドに寝かされてその横には回復魔法をかけていた空が容態を見ている。空の表情は特に心配する様子もなかったので、どうやら春名の回復具合は心配ないらしい。


 話を聞くと岬に浴室に連れ込まれてシャワーを浴びている最中に春名は意識を取り戻したらしい。彼女はそこでまだ救い出された状況が理解出来ずにパニック状態に陥ったが、岬は慌てることなく春名をガシッと抱きかかえて彼女が落ち着くのを待ってからシャワーを再開したそうだ。


 おかげでようやく救い出されたと理解した春名はかなり落ち着いた様子でベッドに寝かされていた。


「タクミ君、手を握ってください」


 彼の姿を見かけた途端に春名は弱々しい声をあげながら自分の手を毛布から差し出す。よく見るとその手はまだ僅かに震えているのがわかる。今まで安全な場所から魔物との戦いを見るだけだった彼女にとっては、心の底から恐ろしい体験だったのだろう。


「もう安心しろ、春名の事は何があっても守ってやる」


 タクミは差し出された手をそっと握りながら春名に言葉をかける。彼女は僅かに頷きながらその手を握り返してきた。タクミの手にシャワーを浴びた直後にも拘らず冷たい感触が伝わった。それはまだ春名が怯えている証に他ならない。


「タクミ君、しばらく傍に居てください」


 タクミの手を握り締めたことでようやく安心したのか、春名は薄っすらと笑顔を浮かべて彼を迎える。タクミは空と交代してベッドの側に置いてある椅子に腰を下ろして春名の顔を見つめる。春名はそれを見て安心したのかそのまま眠りについた。ここまでの道のりで彼女を襲った試練に対してその精神がもう限界だったのだろう。何しろ戦闘力一般人並の令嬢様だからそもそもこのようなレベルの高い迷宮に入ることがその能力の限界を超えていたのだ。



「皆さん、魔物はきれいに片付きました」


 そこに完全装備の岬が入ってくる。ワンルームマンション程度の部屋に場所をとる防護服姿はかなりの圧迫感があった。美智香や紀絵は岬が防護服を脱ぐのを手伝っている。


「有害な物質は検出されていません、外はもう安全です」


 タクミが使用したヒドラジンは高い毒性を持った物質なのでその残滓がないかを彼女は測定して来たのだった。体育館ほどの場所でそのような物質を使用したので安全が確認されなければおちおち外に出られない。


「タレちゃんご苦労様」


 空は防護服を収納に戻しながら岬に声をかける。場所を取って全員が座れないので邪魔な物はさっさとしまうに限るのだ。


「それからこんな物を拾ったのですが一体何でしょうか?」


 岬が収納から取り出した青いボールを空に見せた。鮮やかな青い光を放つその物体を空が検索する。


「これはゼリーオクトパスのコア、さっきの魔物の物に違いない。水に漬けると再び増殖を開始して、その場にある水の量によって無制限に増殖が可能」


 空の検索はかなり物騒な代物だという結論をもたらした。水さえあればまたあのような刃物がまったく役に立たない魔物が出現するのだ。唯一『火』や『熱』が弱点とわかっているのが救いだ。


「まあ何かの役に立つかもしれないからとって置こうよ」


 圭子はあまり深く考えずに意見を述べた。彼女が深く考えないのは毎度のことだ。定期テストでもう少し考えればという所でいつでも放り出して、その結果が追試の嵐になるという点をまったく反省していない。


「そうですね、水がなければ心配はないようですから私が持っておきます」


 岬は収納の奥に絶対に水がかからないようにしてそのコアをしまいこんだ。整理整頓が得意な彼女にかかればこの程度はお手の物だ。


 その後は昏々と眠る春名が目を覚ますまでこの場で待機が決まった。




 翌日、朝食の準備をしている岬の所に春名の傍に付いていたタクミがやって来る。


「春名の様子がおかしい、ちょっと見てくれ」


 春名は目を覚ましたものの中々起き上がろうとしないらしい。タクミはその姿に異変を感じて外に居た岬に声をかけたのだった。


「ご主人様は空ちゃんを呼んできてください。私が春名ちゃんの様子を見ます」


 岬は朝食を準備する手を止めて慌てて春名が寝ているシェルターに駆け込んでいく。普段から冷静沈着を心掛けているメイドが珍しく慌てているのだった。


「春名ちゃん、大丈夫ですか?」


 心配顔で駆け寄る岬の姿を見て春名は彼女の顔を見た。そして力ない声をあげる。


「タ、タレちゃん、お腹が空いて動けません」


 岬の体中から一気に力が抜けた。確かに春名は昨夜の夕食を食べずに昏々と寝入っていたが、一食抜いた程度で動けなくなるほど衰弱するとも思えない。


「取り敢えずもうすぐ朝ごはんの準備が整いますから、春名ちゃんも着替えましょう」


「はい」


 岬に抱えられて春名は体を起こして着替えを始める。昨日はシャワーを浴びてそのままベッドに運ばれたので、彼女は服を全く身に着けていなかった。岬が下着から何から用意して彼女に着せていく。春名は相変わらず力なくされるがままで全身を脱力させている。


「春名、大丈夫か!」


 ちょうどそこにタクミが心配そうな表情のメンバーを引き連れてやって来た。空が体調を見ようと近づくが、岬がそれを押し止める。


「皆さん、ご安心ください。春名ちゃんはどうやらお腹が空いているようです」


 岬の言葉で心配をしていたメンバーは一斉に残念なものを見る表情になった。これまでも色々と手を焼かせる令嬢ではあったが、まさかここまでやらかしてくれるとは・・・・・・ 付き合いの長いメンバーたちですら最早呆れるしかない春名渾身のやらかしだった。


「はい、解散解散」


 圭子の力の抜けた声で心配して駆けつけた全員は無表情のまま朝食の準備がまだ途中の食卓に向かう。それに遅れて岬に抱きかかえられた春名も何とか席に着いた。


「いただきまーす!」


 食事を目の前にして途端に元気が出てきた春名は凄い勢いで目の前の料理を食べ尽くしていく。それはまるで食べ物がブラックホールに吸い込まれていくような錯覚を引き起こす。普段はデザートには目はないがここまでの食欲を見せることはなかった春名が一体どうしてしまったのだろう?


 3人前の朝食を食べ終えてお腹を擦りながら春名が口を開く。


「生き返ったような心地です」


 そりゃそうだろうと周囲はその様子を呆れて見るしかない。そのあまりの急変振りに美智香などはドン引きしている。岬だけは美味しそうに食事を口にする春名の姿を見て『作った甲斐がある』といい笑顔をしている。


「春名の様子がどうもおかしい。ステータスを見せてほしい」


 空が気になることがあるらしくて、春名のステータスを開かせた。ウインドウが開いて各種の数値が並んだそこには・・・・・・




 十六夜春名


 職業     試練を乗り越えた令嬢  ローカルアイドル  食いしん坊レベル1


 ステータス


          体力   320

         攻撃力   90

         魔力   128 

         魔法量  128

         防御力  112

         敏捷性   90

         知力   128


 ペット     シロ  ファフニール(ファーちゃん) ケルちゃん



「レベルが上がっているみたいだが、この職業欄の『食いしん坊』っていうのは一体何だ?」


 タクミが声をあげた。彼だけではなくてその場の全員が同じような考えを持っているのは言うまでもない。それにしても令嬢のランクが上がったので、各種の数値がまた2倍になっている。この恐ろしい上昇具合は『令嬢』という職業だけが持つ特権に他ならない。


「わかった。『職業、食いしん坊』は食欲が昂進する効果が発生する。太り過ぎに注意とある。おそらくゼリーオクトパスの消化液に体が触れたせい」


「ええーーー!!」


 春名の口から悲鳴が上がった。食べれば食べた分だけ太るのは当たり前だが、その自然の摂理を見てみない振りをしていたところに現実を突きつけられたのだ。朝から3人前の食事を取って太らないと思っている方がどうかしている。


「こ、こんなにご飯が美味しいのにいっぱい食べるとやっぱり太っちゃうんですか・・・・・・」


 春名は絶望の表情になった。まさかあの忌まわしい触手に捕らえられた挙句にこのような置き土産まで残されるとは思ってもみなかった。彼女にとっては恐ろしい呪いにかかったも同然だ。それも食欲という人間の本欧に根ざす欲求に関わる問題だけにより深刻な事態を突きつけられている。


「ハルハル、心配しなくて大丈夫よ! 私が太らないようにキッチリ鍛えてあげるから」


 圭子はドンと胸を叩いた。彼女の鍛錬に付き合っていればかなりのカロリーを消費するのは間違いない。問題は春名が付いてこられるかどうかだが、『太る!』という現実を突きつけられた以上はこの際どうこう言っていられなかった。


「わかりました。女の子の最大の敵『脂肪』と戦うために圭子ちゃんについていきます!」


 その前に目の前に立ちはだかる魔物と戦えよという視線を無視して強く手を握り締めて自らを奮い立たせる春名だった。


 


 

次回の投稿は水曜日の予定です。

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