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168 通路の罠

 タクミと空は転送されてきた通路を歩き出す。再び空間の捻れによって感覚を狂わさせるようないやな感じがしてくるが、二人とも泣き言を言わずに前に進んでいく。


 ピラミッドから転送されて降り立った通路は特に障害となるような物は設置されておらずスムーズに前進できたのだが、今度はご丁寧に通路の各所に様々な仕掛けが満載されていた。


 タクミたちを最初に出迎えたのは通路が5×20のタイルのような床で分割されている場所だった。転移の魔法陣から歩くこと200メートルで現れたその仕掛けは、見たところは大した物のように見えなかったが実際はかなり凶悪で精神的にくる罠が張り巡らされていた。


 その床のタイルに二人一組で足を踏み入れる。だがそこを進むには定められた正しい順路で一枚ずつタイルを進んでいかなければならなかった。順路と違うタイルに足を踏み入れると、たちまち周囲が真っ暗になって気がつくと無限沸きの魔物部屋に招待される仕組みだ。


 何とか次々に湧き出す魔物を討伐して、現れた転移陣に乗るとそこは再びこの通路の始まりの場所だった。せっかく進んだ道を200メートルも戻される結果に二人は慎重にならざるを得ない。


「空、ここは右のタイルがいいような気がするがどうだ?」


「タクミ、そこはさっき間違えて飛ばされた所、正解は前に進む方」


 このように一歩ずつ正解のタイルを確認しあって、正しい順路を見つけながら前に進むしかない。タイルの位置によっては通路の端を歩かなければならなくて、そこから見える下の景色は高所恐怖症でない者にも心臓によろしくない。タクミと空は表情を引き攣らせながらも何とか前に進んでいく。


 こうして魔物部屋に飛ばされること38回目にしてようやく正しい順路でタイルを渡り切った二人はもうこの時点でクタクタになっていた。わずか20メートルほどの距離をクリアするのに時間にして6時間以上が経過していたのだ。


「ほかの皆は大丈夫だろうか?」


 思いもよらない困難な試練がこれからも襲い掛かってきそうな予感がして、タクミは離れ離れになったメンバーのことが心配になってくる。


「たぶん苦労しているはず。でもみんなきっと大丈夫!」


 空はタクミを励ますつもりで他のメンバーも頑張っていると告げる。


「そうだな、皆信頼出来るメンバーばかりだ。この程度俺たちよりも簡単にクリアーしているだろう」


 この世界にやって来てパーティーが離れ離れに活動したのは、圭子たちがラフィーヌのダンジョンに再アタックしている間にタクミたちが王都で魔王を討伐した時だけだった。あの時もそれぞれがきちんと目的を果たしたことを思い返して、たとえ同じ場所に居なくても信頼するのが大切だとタクミは自分に言い聞かせた。



 一方その頃、圭子とケルベロスは違う場所にあるタクミたちと同じ試練に挑んでいた。


「えーい、ちまちまとめんどくさい! ケル! 一気に飛び越えるわよ!」


 彼女はケルベロスの背に跨る。そこから助走をつけてケルベロスは一気にタイルの手前で踏み切って・・・・・・ 途中で落ちた。


「げー! また魔物部屋か」


 せっかくのナイスアイデアと試したが、上を飛び越えようとすると強制的に地面に落とされるような力が働いていて、また今回の挑戦も無駄に終わった。結局圭子はタクミたちの5倍の時間をかけてようやくこのエリアを脱出することになる。




 タクミと空は通路を先に進んでいく。次に彼らの前に現れたのはここだけ設けられた天井から巨大な振り子が全部で10個等間隔で不規則に揺れている場所だった。その人の身長よりもはるかに大きな振り子は、ぶつかった衝撃だけで人を通路の外に弾き飛ばしてしまう。何とかその振り子の周期をうまく捉えて僅かな時間ですり抜けなくてはならない。


「こういう通路にお約束の仕掛け」


「天井を用意するんだったら横の壁も付けていてほしかったな」


 タクミの言葉通りここは天井だけがあって横の壁はきれいに取っ払われているという制作者の悪意をこれでもかと感じる場所だった。


「私は心配ないけどタクミは大丈夫?」


 空は自信ありげにタクミに尋ねる。この仕掛けを突破する彼女なりの方法があるようだ。


「心配ない、俺から行っていいか?」


 空が頷くのを見てタクミは大きく揺れる振り子の前に立つ。彼はここで端末を操作して自分に掛かる重力を半分にした。そのまま振り子に向かってジャンプして、上から巨大な振り子を吊り下げている支柱に掴まって振り子の上部に立つ。左右に揺れる振り子の上で彼の体が大きく左右に振れているがまったく気にせずに次の振り子とちょうど重なる位置で飛び移った。


 こうしてタクミは全ての振り子の上を飛び移ってその向こう側に降り立つ。重力を元に戻して空に向かって振り返ろうとした時に、彼女はすでにそこに立っていた。


「うわー! 何で空がここに居るんだ!」


 これにはタクミもさすがに驚いて声を上げる。空は自分が最後の振り子を飛び降りる瞬間までまだ最初の振り子の手前に居たはずだった。それが振り返ったら急に目の前に現れたのだから、まるで幽霊が現れたような声を彼が上げるのも無理はない。


「教えられない、秘密の方法」


 空はイタズラっぽい表情でタクミを見上げている。だがこの時実は空が用いた方法はとてもイタズラレベルですむようなものではなかった。彼女は時間を止めた。いや厳密には時間を操作して自分の時間を極限まで加速した。その結果止まっているに等しい振り子を抜けて瞬時にタクミの後ろまでやって来たのだった。


「無事に抜けられたから先に進もう」


 空はあまり時間操作について聞かれたくないので、タクミに通路を進むように促す。タクミも空が時間に干渉したのだろうと見当はついているが、敢えてそれには触れずに無言で頷いて再び歩き出した。




 一方その頃、別の場所で春名と岬のコンビがタクミたちと同じように通路にある振り子の仕掛けの前に立っている。


「タ、タレちゃん、ここをどうやって通るんですか?」


 通路を塞ぐ形で左右に揺れる振り子を前に春名は涙目でそれを見ることしか出来ない。いつものように岬に頼り切った表情で彼女に縋っている。


「お任せください、危ないから少し下がっていた方が良いです」


 余裕の表情で春名に微笑みかける岬、だがこの表情こそ最も危険であると春名はこの世界にやって来てから学習していた。あわててシロとファフニールを30メートル以上後ろに下げる。


「そこまで下がらなくても大丈夫ですよ」


 岬はいつもの春名のビビリように半分呆れながらも、安心させるような声をかけた。だが彼女の次の行動は春名でなくても怯えるのに十分なとんでもないものだった。


 収納から取り出したアスカロンを構えた岬はその大剣を次々に横薙ぎに振って振り子を両断していく。まるで豆腐を斬るように切断された振り子の下半分は『ゴーン!』と大きな音を立てて通路に落ちた。岬はその何百キロもありそうな切断された振り子をその怪力で端の方に寄せていく。


「これで姿勢を低くしていけば安全に通れます」


 その様子を後方で目撃した春名は今度は岬の所業にビビッている。まさか障害物を力技でここまで簡単に排除するとは思ってもみなかったからだ。


「タ、タレちゃん、ありがとうございます」


 心なしか彼女の声が震えている。これまで岬の非常識な力を散々見せ付けられた春名だが、これはその中でも5本の指に入るレベルの非常識っぷりだった。


 こうして障害物を無事にクリアーした二人は通路の先を急いで進んでいく。






 タクミたちはその後もいくつかの仕掛けに挑んでクリアーしながら先に進んだ。そして通路の終わりに再び転移陣が現れて、その中に入ると転送された先は何もない体育館くらいの広さの空間だった。そこで休息をとって体を休めていると、しばらくしてから別の場所に転移陣が出現する。


 光に覆われた転移陣からタクミたちの前に現れたのは春名と岬の両者だった。ようやく合流できた喜びに二人が駆け寄ろうとすると、岬がこちらを睨み付けるような表情でアスカロンを構えている。


「タクミ、二人の様子がおかしい。注意したほうがいい」


 空の言葉に頷いて慎重にその場に立っている春名と岬に近付いていく二人だった。


 

次回の投稿は土曜日の予定です。

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