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15 ラフィーヌのダンジョン4

 準備を始める直前に春名と岬が話を始めたために、いつもよりも少し遅めの朝食をとるメンバー達。


 春名と岬は隣同士でまるで姉妹のように仲良くしているのを見て、事情を知らない美智香と空が不思議がっている。


 圭子は相変わらず不機嫌な様子で黙々と食事に集中しているが、心の中では『一体何があったのか』という思いで揺れていた。


 タクミは時折送られてくる圭子の突き刺すような視線につい目を伏せがちになってしまう。


 そしてそろそろ食事も終わろうかというときに、ついに圭子が口を開いた。


「パーティー内で隠し事とかあるとよくないし、揉め事とか起きたらいざという時の連携にも差し障りがあるわ。タクミ、何があったのか全て話しなさい!」


(やばい! こいつどこまでわかって言っているんだ?!)

 

 タクミの焦る気持ちをよそに、春名と岬は嬉しそうにしている。彼自身の口から改めて全員に昨夜のことがどのように発表されるか・・・・・・そんな期待に満ちた眼でタクミを見つめている。


 しばしの沈黙が流れて、タクミがひとつ咳払いをする。


「えー・・・・・・何というか、夕べ春名と結婚の約束をしました」


「なんだってーーーーー!!」


 一斉に声を上げる3人。中でも圭子の声が一番大きい。


 驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻した美智香が岬に向き直る。


「タクミと春名の事はいいとして、何でタレちゃんが嬉しそうにしているの?」


 それはそうだ。普通なら岬は失恋して落ち込むはずなのに、嬉しそうに春名と仲良くしているのだ。彼女達の様子とタクミの発言がつながらない。


「それは私からお話します」


 春名が岬の手を握りながら、二人で立ち上がる。


「私達の惑星では男性がすごく少ないので、女性を何人お嫁さんにしても構わないのです!」


 『なにそれ! タクミの一人勝ちじゃない!!』といった眼でジトーっとタクミを見つめる美智香と圭子だが、一人だけ違う反応をする空。


「タレちゃんもお嫁さん?」


 岬はまだタクミから何も言われていないのでどう答えようか迷っているが、春名がその横から口を挟む。


「タレちゃんはまだお嫁さん候補ですが、私はタレちゃんと家族になる事は大歓迎です!」


 嬉しそうに答える春名の横で、タクミは外堀がどんどん埋まっていく感覚を味わっていた。


「私もそうなれたら嬉しいです」


 少し恥ずかしそうにしながらも、はっきりと答える岬。周囲のタクミに対する視線は厳しさを増すばかりだ。


「ふ-ん、わかった」


 空はそれで納得したようだ。


「二人がそれでいいなら仕方ない」


 美智香もどうやらわかったらしい。


「まあいいわ」


 短く答えた圭子は何かを考えているようで、それ以上は何も言わなかった。




 準備を整えて、森を歩き出す一行。


 視界が遮られる場所が多い深い森なので、慎重に歩を進める。もっとも魔物が近づくとシロが教えてくれるので、それほど警戒をする必要もないのだが。


 一度通った所は木に目印をつけながら、美智香が端末に記録していく。こうしてマッピングしていかないと、どこを歩いているのか全くわからなくなるほど森は広大だ。


 シロが突然吼えだして、魔物の接近を知らせる。


 木の陰から現れたのはワイルドウルフだ。


 地球にいる狼よりも二回りは大きく、その顎には獰猛な牙がギッシリと生えている。


 唸り声を上げながらゆっくりと近づいてくるワイルドウルフにタクミを制して圭子が立ちはだかった。


 急に速度を上げて彼女に向かって襲い掛る魔物、だが圭子の表情には余裕がある。


 飛び掛ってくるタイミングに合わせて顎下を蹴り上げると、ワイルドウルフは2回転半して後ろの木に叩き付けられた。


「圭子、いつにも増して技の切れ味が鋭いな」


 『当然でしょう!』といった表情で残心を解く圭子。


 その一撃で絶命して魔物の姿が消えると、そこには狼の毛皮がドロップアイテムとして残されていた。


 この階層は森の中なので、当然森にいる魔物の出現する。特にワイルドウルフは群れで襲い掛かってくることがあり、冒険者達にとっては厄介な敵だ。


 それでもある意味切れ掛かっている圭子の体術と、タクミのナイフとバールで大半は倒されていく。時折討ち漏らしが出るが、美智香の的確な魔法とシロの活躍で難なく倒す。


 シロは自分の5倍以上ある大きな相手に怯む事無く、持ち前の俊敏性を生かして喉元に食いついて牙を突き立ててワイルドウルフを倒していった。


 どうやら霊獣の称号によって魔法による身体強化が使えるようで、小さな体で狼を引きずり倒すくらいは軽く出来るらしい。




 この森は丸二日かけて隅々まで回ったが、下の階層に降りていく階段が見当たらない。だが、中心部の少し開けた場所ににストーンサークルのように丸く石で囲った箇所があった。


「どうやらここしか目印になる物はないようだが、どう思う?」


 皆で首を捻ってもどうすればよいのかわからない。


 シロは周辺を嗅ぎ回っていたが、そのうち中心にある石の前で『キャンキャン』吼えだした。


「この石をどうにかするんじゃない?」


 圭子が石を叩いてみるが何も起きない。


「回せばいいのではないでしょうか?」


 春名が思いついたように提案する。何しろ幸運値が最高の令嬢の言葉だけに試してみる価値がありそうだ。


 タクミが両腕に力を込めて右に回してみるがビクともしない。ならばと、反対に回してみるとあっけなく石は一回転して『ゴゴゴゴーーー』と少し離れた場所から音が鳴り出した。


 そこは行ってみるとぽっかり空いた穴の下に階段がある。


 2メートルくらいの穴にまずタクミが降りて、様子を確認するとどうやら階段はこの先に繋がっているようだ。


「ここから行けるみたいだから、順番に降りてきてくれ」


 タクミの声でまずは空が穴に飛び込んだ。彼女の軽い体をタクミが受け止める。


「ありがとう」


 短いお礼の言葉を残して空は脇に控えた。


 その後次々に女性陣が飛び込んではタクミに受け止められて、最後は圭子の番だ。


「圭子は一人で降りられるだろう」


 確かに彼女の身体能力を考えるとこの高さから飛び降りることなど造作もない。だが、複雑な胸の内はそういうものではないことをタクミはわかっていない。


「どうしてよ! 何かあったら困るからちゃんと受け止めてよ!!」


 そういって勢いよく穴に飛び込む圭子。


『ガシッ』


 彼女に言われてその体を受け止めたまではよかったのだが・・・・・・


 圭子の体を真正面で受け止めたタクミは、彼女が勢いをつけて飛び降りた分、受け止めきれずにそのまま後ろに倒れこんでしまった。


 もちろん圭子の体を抱えたままで。


 二人とも怪我が無かったのはよかったが、倒れこんで上に圧し掛かった圭子の口とタクミの口が偶然にも触れていた・・・・・・というよりも、思いっきりキスをしていた。


 何が起きたか理解できずに固まる二人。周囲もその様子を見て固まっている。


 全員がものすごく長い時間が過ぎたように感じたが、実際はほんの僅かだった。


 最初に口を開いたのは春名だ。


「ふ、二人目のお嫁さん候補ですか?」


 突然の出来事にとんでもない事を口走っている。


 それを聞いた圭子の耳が真っ赤に染まっているが、なぜかタクミから体を離そうとはしなかった。


 ようやく体を起こした圭子は耳だけでなく体中が真っ赤になっている。何しろファーストキスを全員の前でやらかしてしまったのだ。


 無言でタクミに手を伸ばして、彼を引き起こしながら誰にも聞こえないようにつぶやく。


「こんなのノーカウントなんだから・・・・・・」


 こうして全員が無事に下に降りることが出来たが、一人だけ大きな精神的ダメージを負っている圭子だった。



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