13 ラフィーヌのダンジョン2
そのまま6階層に降りた一行だが、ここで一つ問題が発生した。
「予想以上にバッテリーパックの消費が激しい」
タクミが手にしているデーザーガンをはじめとする、各種の武器は全て特殊仕様のバッテリーを用いており、非常用シェルターなどに使用される汎用品とは電圧やアンペア数が異なる。
太陽さえあればいつでも専用充電器で充電ができるのだが、ダンジョンの中ではそうはいかない。手持ちの20個うちすでに2個を空にしており、この先のことを考えるとこのまま同じように使用するわけにはいかなかった。
「俺もウッカリしていたが、戦術を変更しないとまずい」
空がシールドを展開して、この場所で急遽会議が開かれた。シールド用のバッテリーも無制限ではないので、なるべく節約するようにしなければならない。
「タクミは他に武器は持っていないの?」
圭子に聞かれて彼は自分の収納を点検してみると、いくつか武器になりそうな物が出てきた。
まずは地球にはない特殊鋼でできた刃渡り30センチのナイフ。切れ味は折り紙つきで鉄ぐらいならば簡単に斬れる。
それからスコップにバール。これらもナイフと同じ金属で出来ており、切れ味はないものの武器としては十分に使用できそうだ。本来は資源のサンプル採取に用いるのだが、この際贅沢は言っていられない。
あとは設置式の大型ミサイル発射装置や、反物質ミサイルなどきわめて物騒な品があるが、これらはダンジョンでは使用出来ない。
「とりあえずはこの場所で使えるのは、このくらいだな」
タクミは最初の3点のみを収納から取り出した。ナイフを鞘から抜いてみると、いかにも切れ味がよさそうな光を帯びている。
「使いこなせるの?」
圭子の疑問はもっともだ、いざという時に役立たずでは困る。
「一応の訓練はしているから大丈夫だ」
タクミがそれらの武器に対してどの程度の練度を持っているのか定かではないので、なるべくこの階層で試してから先に進む事になった。もちろん場合に応じてデーザーガンなども使用していくが、なるべく節約しなければならない。
その分を補う意味で、敵が多いときは美智香が範囲魔法で倒していくようにする。
シールドを解いて再び進みだす一行、50メートルほど進んだところでシロガ吠え出した。どうやら魔物が接近しているらしい。
美智香はすでにウィンドウを開いて、いつでも魔法を発動できるように準備している。
「タクミ、どうする?」
敵がどの程度の規模かわからないので美智香はタクミに聞いたときに、前からオークが5体やって来た。
「あのくらいの数なら俺一人で何とか出来るから、スタンバイだけしておいてくれ。圭子、万が一打ち漏らしがあったら頼むぞ」
タクミはその言葉を残して一人で前に出る。
通路の幅は人間が5人くらいは並べるくらいあり横をすり抜けられる心配があるので、出来るだけパーティーから離れた場所で戦うことをタクミは選択した。オーク達は3体が横に並んで、真ん中の1体が剣を両脇が棍棒を持ってタクミに迫ってくる。残りの2体はその後ろに控える形だ。
タクミは右手にナイフ左手にバールを持ってオークに迫る。
真ん中の一体が真っ先に剣を振り上げて襲い掛かってきたが、タクミはその剣を左に避けてその首元をナイフで一閃した。鮮血が飛び散りオークは絶命する。そのまま右のオークの棍棒をバールで受け止めて、眉間にナイフを突き立てる。
左にいた一体の棍棒は足で蹴り落として、同じように眉間にナイフを突き立てた。残る二体は左をハイキックで頚骨をへし折ってから、最後の一体の棍棒をナイフで切り捨てて脳天にバールを叩き込んだ。
わずか7~8秒で全てを片付けたタクミが皆の元に戻る。
「なんだ、組み手をやってて結構な腕だと思ったけど予想以上ね」
圭子からのお墨付きが出たようだ。美智香はウィンドウをしまって、岬はタクミの姿を見つめてまま呆けている。
「タクミ君、格好いいです!」
春名は戻ってきたタクミに抱きついた。ふわりとした彼女の髪から漂う柑橘系の香りがタクミの鼻孔をくすぐる。
空はタクミの上腕二等筋に触れてご満悦の表情。
シロは再びオークのドロップ品を探しにいって、肉を口に咥えて戻ってきた。オークを倒すたびにシロのご馳走が増えていく。
この結果再びフォーメーションの変更を行った。タクミが先頭でその後ろに圭子。その後にシロが続いて非戦闘員の皆さん、最後尾を美智香が守る布陣になった。
そのまま6階層を最短距離で突破して7階層に進む。まだこの階層にはランクの低い冒険者が時々入り込んでいるので、彼らの視界に入る場所では大っぴらにタクミ達の装備を展開できない。そろそろシェルターを出して休みたいのだが、このまま先を急ぐことにする。
7階層からは出現する魔物ががらりと変わった。どうやらここからは爬虫類や両生類系の魔物が出てくるようだ。
真っ先にタクミ達の前に現れたのはブラックリザード、大型のトカゲで体長が2メートル近くある。大きな体に似合わず俊敏な動きでタクミに襲い掛かってきたブラックリザードだが、その突進をあっさりかわされてから側頭部をタクミに蹴られて、最後には圭子の踵落しで絶命した。
その他にポイズンフロッグやブラックパイソンなど毒を持つ魔物も出現するようになったが、これらは美智香が魔法で切り刻んで倒した。
8階層も似たような魔物ばかりでここも突破すると、9階層以降はぐっと冒険者に出会うことが少なくなる。なぜかというとここと10階層はアンデッドが出るのだ。
アンデッドは倒す手段が限られており、それがランクが低い冒険者が入り込む事を制限されている理由だ。
「ここは私の出番!」
空が胸を張った。何しろ聖女様だ、アンデッド退治にはもってこいの人材である。
実は空がここまで魔物や盗賊相手に何もしてこなかったのは理由がある。
彼女は未来から来た存在で、過去世界の生物を手にかけて殺す事は禁止されているのだ。それは歴史の改変に繋がる恐れのある重大な禁則事項であった。
したがって今まで回復魔法をたまに使用する以外に特に何もしていなかったのだが、相手がすでに死んでいる存在となると禁則事故に触れる心配はない。思いっきり自らの能力を発揮できる数少ない機会だ。
彼女は美智香とは違う方法で聖女が使用できる魔法を手に入れていた。時空を超えてこの世界の記録を検索して、彼女が使える魔法を端末に記録していたのだ。
彼女のMCS端末は完全思考型で、脳内のニューロンの働きを完全に解析して作動する。
したがって美智香のようにタッチパネルを操作する必要はないのだが、そこは厨二病の重症患者でもある空としては雰囲気を大事にしたい。
前方に現れたゾンビに向かって彼女は自分で考えた呪文を詠唱し始めた。
「迷える死者よ、我は汝の迷える魂をその休まる場所へいざなわんとする者なり。その魂の安らかなることを祈りて願わん、その後に汝は天に帰るべし」
両手を組んで祈る空がやけに神々しく映る。普段の言動はかなり問題があるが、聖女の力は本物のようだ。彼女の両手から真っ白な光が飛び出たと思った時にはゾンビは消滅していた。
「空ちゃんすごいです!」
春名をはじめとして全員が感心している。まるで別人のような空の姿にタクミもつい見とれていた。
「私もやれば出来る! ここからしばらくは私に任せなさい!!」
お世辞にも大きいとは言えない胸を張る空。だが次の一言で全ては台無しになった。
「ご褒美はタクミの筋肉鑑賞で!」
今度は全員の目が残念なものを見る目になった事は言うまでもない。
空を中心に9階層を突破して10階層に降りていく。ここには階層ボスがいるフロアーだ。最短距離でボス部屋を目指していくと、待ち受けていたのは大量のゾンビと5体のスケルトンだった。
ここも空の魔法で難なく浄化して、いよいよ11階層に降りていく。
11階層はいきなり森になっていた。フィールドダンジョンというやつだ。地下にどういう仕組みで森があるのかわからないが、日差しもあって本物の森のようだ。試しにタクミがバッテリーパックの充電をしてみたが、さすがにそれは無理だった。どうやら魔法的な仕組みで擬似太陽を作り出しているのだろう。
ここまで来る間にすでに16時間が経過している。さすがに疲労の色が見え始めているメンバーが多いので、森の人目につかない所にシェルターを出して休むことにした。
夕食をとってからそれぞれ割り当てられたシェルターに入っていく。
今日はタクミの所には春名が一緒だ。
タクミ、春名の順にシャワーを浴びて、当然のようにタクミが寝ている横に春名がもぐりこんでくる。
タクミにとっては一番安心できる相手だ。いや、この前の岬のときに比べてまるで実家にいるような安心感を感じている。
いつものように春名が抱きついてくるが、その胸の柔らかな部分が当たってもタクミにとっては特に何も感じない。
「タクミ君、お話があります」
いつもホワンとした話方をする春名の口調にやや真剣さが感じられる。一体何事かと思ってタクミは話の続きを待った。
「タレちゃんから聞きましたよ! タクミ君、タレちゃんと一緒にお風呂に入ってそのあとチューをしたそうですね」
ホワンとした口調ではあるが、どうやら怒っているらしい。
実は岬の異変を感じた女子一同は、タクミがいない所で彼女を問い詰めて全て白状させていた。と言うよりも岬が積極的に全て話してしまった。
そのことを聞いたタクミは、内心『アチャー!・・・・・・』となっている。何しろ全員に知られているのだ、今後はもっと慎まなければ一体何を言われるかわかったものではない。
「だから今度は私と一緒にお風呂に入るって約束してください!」
春名は岬と同じように扱ってほしいようだ。
タクミとしては春名とは12歳まで一緒に風呂に入っていたので、久しぶりとはいえ別に問題はないかと考えた。
「わかった、ここから出てからな」
それを聞いてニッコリと微笑む春名だが、それだけで要求が終わるはずがない。
「あとは私にもチューをしてください」
少し口を突き出しておねだりする仕草を見てタクミは『相変わらず子供だな』と思ったが、そのまま素直に従うのも癪なので彼女のおでこに軽く口付けた。
「そこではありません! いやそこも嬉しいのですが・・・・・・ここです!」
春名は自分の唇に指を当てて指し示す。
「してもいいけど、ペラペラしゃべるなよ!」
どうせ嬉しさのあまり自分から喋りまくるだろうと予想しつつ、彼女の唇に自分の唇を重ね合わせる。
春名は目を閉じてタクミの頭を抱きかかえた。
このあと一体二人はどうなってしまうのでしょう?! 続きは次回の投稿のお楽しみです。
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次の投稿は木曜日の夜の予定です。