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127 二つのパーティー

話は大きく変わって、クラスメートたちのお話になります。

 話は少し遡り、ここはダンジョンの街ラフィーヌ。タクミたちが地下都市を目指して出発した後、彼らのクラスメートの体育会系パーティーと恵たちのパーティーは合同でダンジョンの攻略を行っていた。


 勇者の救出の時に分かった事だが、この二つのパーティーは互いの欠点をフォローし合う事でかなり強力な戦力となるのだ。前衛を勇造たちが受け持ち、恵たち魔法使い3人が支援する。その後方はやや貧弱ながら恵のパーティーの男子二人が守る形で、これまで突破出来なかった30階層を超えて勇者たちが進んだ32階層まで攻略して戻ってきたところだった。


 ちなみに勇者たちは魔族に襲われた一件の後、安全のため王都に戻っている。ずいぶんと過保護な話で、これでは強い勇者が生まれる訳がない。


「今回はかなり収穫があったな」


 ようやくダンジョンから出てきて、恵たちが滞在する宿舎で久しぶりの暖かい食事を取る一行。今回も無事にここまで戻ってきた安心感から全体に笑顔が並ぶ。


「私は早くシャワーを浴びたいわ。何が不自由かって、ダンジョンの中ではお風呂に入れないのが一番堪えるわ」


 タクミたちが自前のシェルターの中で快適な生活を送っているのに対して、彼女たちは召喚者といえども不自由な生活を強いられるのは致し方ない。それでも女子二人が収納魔法を所持しているので、多くの食料や生活物資を持ち込めるだけまだましなほうだ。


「それにしてもタクミたちは、あの手強い魔物たちを相手にしてダンジョンを攻略したんだよな。とんでもないヤツらだな」


 勇造は感想を述べながらついさっきまで戦っていた敵を思い出していた。勇者たちに襲い掛かったような魔物の無限沸きといったアクシデントこそないものの、それでも下の階層に進めば進むほど魔物は強力になる。


「そうね、しかも実際に戦うのは圭子さん、美智香さん、タクミ君の3人にシロちゃんでしょう。森の階層までは実質圭子ちゃんとシロちゃんだけで進んだようなものだし。呆れて物が言えないわね。タレちゃんはメイド服を着込んで清ましているだけだし」


 恵の話は勇者の救出の際に一緒に進んだ時の事を指している。あの時は急いでいたので、10階層までをわずか5時間で踏破していた。その後別行動になって、タクミたちが戻って来た時には彼はパワードスーツを解除していたので、彼らがその姿を目撃することはなかった。ちなみに恵は岬の強力な攻撃力のことは知らない。自分たちのパーティーに居る時のイメージのままでその変化を語っていた。


「圭子から聞いたんだけど、あの子が手に付けている篭手はドラゴンゾンビを倒したときのドロップアイテムで、かなり凄い装備らしいよ」


 もうかなりお腹が一杯でデザートを注文しようか迷っていた藤山 蘭が横から口を挟む。


「装備か・・・・・・やっぱり重要だよな。俺たちは未だに城から支給された装備のままだし。かといってドラゴンゾンビなんてものはさすがに相手にしたくないが」


 勇造は自分の手を見つめる。彼は皮鎧の他にはこれといった装備を付けていなかった。『俺の体全体が凶器だ』というポリシーでここまでは何とかやってきたが、どうやら限界が見えているのはとうに自覚している。別の理由としてはまだ各自の装備を整える金が溜まっていなかった。彼らのパーティー単独で25階層まで潜ったが収納魔法が使えない悲しさで、半分以上のアイテムを持ちきれずに放棄していたのだ。その中にはもしかしたらかなり高価な品もあったかもしれないがもう後の祭りだ。


「そうね、装備に関しては今回かなりのドロップ品を手に入れたから、結構期待が持てそうよ。後で男子の部屋で鑑定をするから、使えそうなものは話し合いで仲良く配分しましょう」


 恵は自分たち乙女の部屋にこのむさ苦しい男たちを入れたくなかったので、あえて男子の部屋を使用することに決めた。もちろん彼らの承諾など得ていない。


「そうだな、残りはどうする?」


「あなたたち冒険者なんでしょう。ギルドで売り払って山分けにするわ。剣や魔法具が街中にも売っているからそれを購入するのもありだしね」


 恵たちは王宮の管理下にあって冒険者ではないので、ギルドでの買い取りは勇造たちが担当することに決定した。


「話は戻るけど、美智香ちゃんの魔法を見た? ステータス画面から呼び出したタッチパネルを操作するだけで最上級魔法も放てるのよ。私たちは上級魔法から詠唱が必要なのにあの子の魔法を生み出すシステムは画期的よ!」


 恵たちのパーティーの魔法使い3人組は詠唱短縮のスキルを持っている。中級魔法までは魔法名だけで放てるが、上級以上となると呪文の詠唱が必要だった。


「俺たちは魔法に関しては素人も同然だからよく分からないが、そうなるとタクミもおそらく凄い装備を持っているんだろうな」


 彼の推測は当たっていたが、本当の意味で正解かというと違っていた。それは勇造の推測のはるか彼方にあって、ついこの間も3000人にも及ぶ教会騎士団をあっという間に全滅に追い込んだ地球のレベルでも考え付かないようなとんでも装備だった。


「そうね、きっととんでもない隠し玉があるんでしょうね。でないとドラゴンゾンビやヒュドラを倒すなんて無理よ! まだ私たちが目にしていない聖剣とかね」


 恵の推測はギリギリアウトコース低めに外れていた。聖剣『アスカロン』はタクミの装備ではなくて岬の武器だ。ただどちらにしろ、この場に居合わせる全員の想像力のはるか先にタクミの装備と彼を取り巻くパーティーメンバーたちの正体があった。








「あなたたち臭いわね」


 一旦部屋に戻ってシャワーを浴びてさっぱりしてから部屋着に着替えた恵は男子の部屋に入るなり残酷な言葉を放った。彼らのうち同じパーティーの男子2名は『シャワーは女子優先!』という宣言でこの場で待たされており、勇造たちは別の宿屋に宿泊しているためにそこまで戻らないとお湯を使えなかったのだ。


「しょうがないから、蘭、お願い」


 彼女がクリーンの魔法をかけると薄汚れていた彼らの姿が一変する。生活魔法だが、これだけの人数を一度にきれいにするためにはかなりの魔力を消費する。そのため2日に一度と決めてダンジョン内では使用していた。


「助かったぜ」


 勇造をはじめとして男子一同はきれいになって表情も明るい。だがシャワーを浴びる爽快感には及ばないのは事実だ。風呂好きの日本人ならばそれは仕方がない。


「じゃあドロップアイテムの鑑定を始めましょう。マミ、お願い」


 鑑定のスキルを持った池園 マミが数百点にも及ぶドロップアイテムを収納から取り出して並べていく。テーブルだけではとても足りないので、床に毛布を敷いて全員が山積みになったアイテムを並べる。その中で魔物の肉や骨、牙などは鑑定の必要がないので、蘭が自分の収納にしまっていく。


 一通り整理が終わったところで鑑定が必要な品は百点ほどになった。それを一点ずつマミが鑑定をかけていく。これは彼女だけが持っているかなりレアなスキルで、このスキルがあればそれだけで商人や貴族に高給で雇われるのは間違いなしだ。



 すべての鑑定が終わったところで目ぼしい物は7点に絞られた。


「魔法系のアクセサリーは私たちの物でいいかしら?」


 恵の前に置かれている品はどれも魔力や魔法の威力を10~20パーセント上昇させる効果があるマジックアイテムだ。市場で売り払えば金貨500枚~1000枚くらいの価値がある。勇造たちのパーティーにも一人だけ魔法使いが居るのだが、彼の意向は無視された。


「構わない。こちらの防具と素材はもらっておく」


 勇造の前にはスケルトンナイトが持っていた盾とブルーオーガの皮が置かれている。盾はかなりの歴史があり装飾も見事なものが施されていた。アンデットが持っていたものは呪いが掛かっている品が多いが、幸いなことにこの盾はその類の心配はなかった。ブルーオーガはオーガの特殊個体で、その皮が防御力がずば抜けており皮鎧には最適の素材だ。


「じゃあ話はまとまったわね。明日一緒にギルドに行って、残った品を売り払いましょう」


「そうだな、こうして少しずつ装備を良くしていけば、下の階層に降りてもっといい物が手に入るし、レベルも上がり易くなる。いい事尽くめだな」


 タクミたちに対しては現在劣勢であることは否めないが、最強を目指す男の魂が大きく燃え立つ瞬間であった。








次の投稿は金曜日の予定です。

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