12 ラフィーヌのダンジョン
その後表面上は特に何事も無くラフィーヌの街に到着した一行は、宿を取ってから早速ギルドに向かう。
このラフィーヌの街は、ダンジョンから冒険者が持ち帰る様々な品で繁栄している街で、そこらじゅうに一攫千金を狙う冒険者たちで溢れている。ギラついた眼で少しでも他の冒険者を出し抜いて、自分が高額なドロップ品や宝箱の中の財宝を持ち帰ろうと狙っているのだ。
したがって街中の治安はお世辞にもいいとは言い難い。特に大金を手にした冒険者を狙ったスリや女性冒険者を狙った強盗事件が多発している。
また、ダンジョンの中でも魔物だけでなく人間が敵になることがあるそうだ。ダンジョン内では誰がどこで死んだとしても分からないし、パーティーが全滅することも珍しくは無い。
その原因は人と魔物が半々だといわれている。
これらの事をギルド職員から口が酸っぱくなる程聞かされたタクミ達は、とりあえず明日からダンジョンに入る手続きだけして宿に戻った。
「いやー・・・結構簡単に考えていたけど、ダンジョンって大変なんだね」
おそらくギルドの職員はこのパーティーに女性が多いことを見て、親切心で注意をしたのだろう。その言葉を聞いたせいなのか圭子がいつに無く及び腰になっている。
「ケイちゃんらしくないですね、いつもなら『強盗なんてぶっ飛ばしてやる』って勢いなのに・・・・・・」
春名が不思議そうな顔をして聞くが彼女は圭子が誰を心配しているのか分かっていない。
「ハルハル、私はあなたの事が一番心配なんだからね! この中で隙が多くて一番動けないのはハルハルでしょう!!」
まさか自分が心配されているとは思っていなかった春名は驚いているが、周囲はそんなお気楽な春名に逆に驚いている。
「ともかくこの街では単独行動はしないこと。出来れば常に全員で行動したほうがいい」
タクミの言う事に全員が頷く。特に春名は単独行動が禁止された。
「私はタクミ君から離れないので大丈夫です」
のんきな表情でそう答える春名だが全員の不安は拭えなかった。
この後ギルドでもらった10階層までのマップを元に計画を練る。
このダンジョンは8階層までは下のランクの冒険者に開放されており、かなりの人数が入り込んでいるらしい。
タクミ達は余り他の冒険者に見られたくない装備等があるため、出来るだけ最短距離を通って10階層まで行き、そこからは時間を掛けて攻略をしていく方針に決まった。
食料は1か月分収納にしまってあるので、最大でも1ヶ月で戻ってくる予定にする。
魔物が単独の場合は圭子が前面に出て美智香がそのフォロー、魔物が多数の場合はタクミが前に出てやはり美智香がフォローをするフォーメーションをとることなどを確認した。
この場合空いている圭子やタクミが後方の警戒に当たって、非戦闘員を守るようにするための措置だ。
こうして各自が装備の確認などを行い、この日は早めに休んで明日からに備えることにした。
翌日。
「ダンジョンに出発だー!」
「おおー!」
いつものノリで早朝宿を出る一行。
他のパーティーと違って収納に荷物をしまっているため軽装だ。
見ようによれば初心者が日帰りでダンジョンに行くようにも見える。
ここのダンジョンは全部で50階層で、ダンジョンボスはヒュドラという話だが、過去に攻略者が出たのが500年前と言われており、本当かどうかは定かではない。
仮にその話が本当にしてもダンジョンは常に犠牲者の血肉を啜って成長するので、下の階層はどうなっているかはっきりとしたことは分かっていない。
現在アタックをしているパーティーで最も下まで言っているのは32階層らしい。彼らは皆Aランクの優秀な冒険者で、500年ぶりの攻略が期待されているそうだ。
入り口は普通の洞窟のようで門が付いており、そこには門番の兵士が立っている。
彼らにギルドカードとこの街のギルドで渡された通行証を見せて中に入り込む。
もちろんシロも一緒だ。尻尾を振りながら堂々と入っていく。シロは魔物を見ても怖がったり怯んだりする事無く、ここで待っていろと言われた所で待機している。その上気配に敏感で、誰よりも早く魔物の接近を察知して咆えて教えてくれる優秀なガイドだ。
ダンジョンの中は比較的明るく視界は悪くない。入り口付近は冒険者達がたくさん居るので足早に通り過ぎる。
最短距離を突き進むタクミたちの前にゴブリンが現れたがたまたま前に居たタクミがデイザーガンで仕留めて、ドロップ品などには構わずに前に進む。
1~5階層までは階層ボスはいないそうで、そのまま行き当たった階段を降りていく。
「ここまでは順調ね」
それ程強敵が出るエリアではないので、2階層もゴブリンを2体倒しただけで階段を降りていく。
3層になって魔物が群れで出るようになってきた。ゴブリンやコボルトが3~5体出てくる。
コボルトに対してはシロが闘志を燃やして襲い掛かって、あっという間に一体倒してしまった。子犬とは思えないジャンプ力で、首に牙を付き立ててわずか3秒で噛み千切ったのだ。
「シロちゃんすごいです!」
春名に褒められて子犬の癖にドヤ顔をしている。小さくてもさすが霊獣だ。ご褒美に岬からおやつをもらって尻尾をブンブン振っていた。
この調子で4階層も通り過ぎて5階層に降りた時シロが突然咆えた。
何か来ると警戒している一行、今はタクミが前でその後ろに美智香。圭子が殿でその間に3人の非戦闘員が挟まっている。ここは階層ボスがいるため、その下を目指す冒険者でないとめったに来ない場所だ。
階段を下りて少し進んだ所で前から4人、後ろから3人が一行を挟み撃ちにして襲撃を仕掛けてきた。
「悪いな、命が・・・・・・」
その続きは言わせなかった。タクミがデーザーガンで意識を刈り取ったのだ。前に居る残る3人は次々に同じ運命をたどる。
だがそれでも彼らは幸せだった。意識を失うだけで済んだのだから。
後ろから来た3人は圭子のカモになっていた。何も言わないで踏み込んだかと思うと、剣を持つ手を蹴り上げてからタクミでも捌き切れない速度で鳩尾に正拳をねじ込む。
その一撃で一人を吹き飛ばしてから、右の相手にハイキックを見舞って振り向くと、左に居た男が動きを止めている。
よく見るとシロが男の足元で盛んに牽制している。コボルトの喉を噛み切る牙を持っている犬が足元で吠え付いているのだ。
男のズボンは何箇所か血が付いており、どうやらシロに噛まれたらしい。敏捷な身のこなしで剣を避けながら隙を見ては牙を立てる、そんなシロに男は手を焼いていた。
そして男がシロに気を取られている時に一人だけ気配を消して、男の後ろに回り込む者がいた。メイド服を着て手にはお盆を持っている。
彼女は男に悟られないまま彼の背後からそのお盆を大きく振りかぶった。
『カーン』
金属製のいい音があたりに響く。男はそのまま崩れ落ちた。
「タレちゃん凄いじゃない、一撃で倒しちゃったよ!」
圭子が驚いたように岬に駆け寄る。
「よかったです、悪いやつを成敗できました」
にっこり微笑む岬、手にはお盆を持ったままだ。
「でも良くこんなお盆で気絶したね」
不思議そうに圭子が聞く。確かにそのお盆は岬が紅茶などを配膳する時に良く使っている、ごく普通の銀色のお盆だ。
「はい、これは月で産出する特殊な金属で出来ていまして、重さは20キロあります。普通のお盆では物足りなくて」
一瞬女子全員が耳を疑った。彼女はごく普通にそのお盆を片手で取り扱っているのだ。
だがタクミには心当たりがあった。この前の朝寝起きの彼女に両頬を手で挟まれて口付けをした時に、逆らえない力で体が彼女の方に持っていかれたのだ。
一体どこがそんなに重たいのかと圭子が持ってみると確かにズッシリとした手応えがある。
誰も知らなかった小柄で巨乳の怪力メイドがここに居た。この会話の意味が分かったかどうかは定かではないが、その後シロは岬に絶対服従の姿勢を崩さなかった。
男達の事はそのまま放置する。
彼らが生きようが死のうが知ったことではない。全ては自己責任で、ましてやダンジョンで強盗を働こうとした輩だ。
『命まで取らなかっただけでもありがたいと思え!』(圭子)と言う事らしい。
血はごく少量しか流れていないので臭いを嗅ぎ付けた魔物が集まってくる可能性は低いが、彼らが運良くそれまでに意識を取り戻せば生き残れるだろう。
男達を置き去りにしてタクミを先頭に前へ進む。もう彼らの事など誰の頭にも無かった。この世界はそうしないと生き残っていけない世界なのだ。
群れで襲い掛かってくるゴブリンに時々オークが混ざっているが、そんなことはお構いなしにタクミによって制圧されていく。
そして階層ボスの部屋の前に立つ。
中にはゴブリンが10体とゴブリンの上級のゴブリンソルジャーにゴブリンメイジ、さらにオークが5体という混成の一団だ。
「私に任せて」
ここまで出番がなかった美智香が前に進み出る。タクミと圭子は彼女に場所を譲った。
ステータスウィンドウを展開して美智香が部屋に一歩踏み込むと、一斉に魔物が彼女の方へ動き出す。
「さて、ポチットな!」
彼女がそのパネルの青の一番上の部分に触れた瞬間、部屋の中は暴風で埋め尽くされた。渦巻く風が魔物達を切り刻む。
彼女が発動した魔法は、風属性の上級魔法『ハリケーンカッター』だった。
風の渦が止むとそこには魔物たちが細切れになって、もはや残骸としか呼べない状態で横たわっている。
ダンジョンの魔物は放って置けば消えるので、一行はしばらく待っていた。中に入るのはさすがに気持ちが悪かったのだ。
ただ、シロだけはその部屋にノコノコと入っていく。そして出てきたと思ったら口に何かを咥えていた。盛んに尻尾を振って春名にアピールするシロ。何を咥えているのか見てみると、それはオークの肉だった。
街でも売っていて今回の食料にも持ち込んでいるポピュラーな食材だ。シロはオークのドロップ品を探して咥えてきたのだろう。
「これはシロちゃんが見つけたから、シロちゃんの物ね。ご飯の時にあげるからね」
春名がその肉を受け取りながらシロに話しかけると、シロの尻尾はブンブン振れていた。どうやら彼女の言うことが分かっているようだ。
約半日でここまで到達した一行は、近くのセーフティーエリアで食事を取ってから下に降りていくのだった。




