114 門前の決戦
忙しくて投稿が1日遅れました。申し訳ありませんです。GW中は投稿が不定期になるかもしれないです。
タクミたちは教会の総本山があるガルデレンと目と鼻の先の所まで来ている。ここまで各街を通るたびに教会の騎士たちを捻じ伏せてきたが、その教会の抵抗もいよいよここで最後となりそうだ。
街の門の手前には総本山を守る中央騎士団の残りの兵たち約1500人が陣を構築して待ち構えている。
馬車の中からその様子を目にした美智香は余裕の表情でつぶやいた。
「戦術的な誤りを犯している。街に百人単位で配備していた兵力を全部引いてここで待ち構えるべきだった」
彼女の言葉にタクミも頷く。ここまで通り過ぎてきた街にいた兵力は圭子のいいカモになって悉く散っていた。戦力の分散は各個撃破の対象に成り易く今回はそのいい例だった。
実は教会もその事は分かっていたが、自らの支配権力が及んでいる街から兵を引く決断が出来なかった。その上タクミたちの戦力を見誤り、少数の兵力で討ち取れると高を括っていた。この決断の遅れが約千人の兵を無駄死にさせる結果につながるという教会中枢部の誤算をもたらしていた。次々ともたらされる多くの街に配した騎士団の敗北の報を聞いて、事此処に至っては総本山の中枢部も覚悟を決めるしかなかった。総本山まで破られると教会自体の存亡に関わる。
すでに国内の東部では教会に対する反乱が多数発生しており、国王や貴族も明確に反旗を翻した。だが国民の教会に対する信頼が地に落ちたという事実を認める訳にはいかない。それを認める事は教会が進んで悪事を働いていたと言う罪を肯定するに等しいからだ。
だが彼らも今回は決死の覚悟で兵力の有りっ丈を以ってタクミたちに当たる決意を固めている。ここにいる騎士団が破られると、もう総本山を守る兵力は空っぽも同然だった。
「なんとしてもあの冒険者たちをここで討ち取るのだ。多勢で包み込んで四方から押しつぶせ!」
「おおー! 我等が敵をこの場で神への生け贄に捧げるぞ!」
司令官らしき人物が檄を飛ばしている。騎士たちもここまで散々に遣られてきた仇を取ろうと士気が高い。彼方から馬車に乗って此方に向かってくるタクミたちを警戒しながら前進を開始した。
「あちらさんから向かってくるよ!」
御者台の圭子が声を上げると、タクミは彼女の隣に移動してその様子を観察する。
「両翼が先に動き始めている。俺たちを包囲するつもりなんだろうな。馬車を止めてここで迎え撃つぞ」
馬車のドアを開けて美智香が降りてくる。
「両翼を先に攻撃する」
彼女の判断をタクミは肯定する。彼我の戦力差から判断して仮に包囲されても遣られる心配は無いが、敵に囲まれるのは心理的によろしくないためだ。
「ハリケーンカッター!」
距離200メートルまで引き付けて、騎士たちの両翼を目掛けて全てを細切れに変える死の嵐が放たれる。魔法が来た事を悟って、必死で盾をかざして防ごうと虚しい努力をする騎士たち。だがその努力を嘲笑うかのように盾ごとその体が吹き飛ばされていく。
美智香が放った風属性最上級魔法はいってみれば自然災害級の破壊力を持っている。竜巻に襲われたの如くに暴風が過ぎ去った後には無残にバラバラとなった騎士たちの体や武器の残骸が散らばるだけの様相を呈している。
「敵は強力な魔法使いを擁しているぞ! 一旦待機せよ! 魔装備を前面に出せ!」
指揮官の命令で後方に隠されていた教会の魔装備が2体出現する。2体はタクミたちを押しつぶそうとのろのろとした速度で前進を開始する。
「岬、あれも確保するのか?」
「あのような危険な物は1体あれば十分でございます。ご主人様の手で破壊してください」
岬の言葉に頷くタクミ、だが彼女の言った危険な物という認識がどうもよく分からない。タクミが見た感じでは旧式のパワードスーツに過ぎなかったためだ。
タクミはパワードスーツを展開して迫ってこようとする2体を迎え撃つ。その他の騎士たちの対処は美智香に任せて突進していく。
突進した勢いそのままにタクミは向かって左側の相手に体当たりを食らわした。まさかという速度で突っ込んできたタクミに対して動きの鈍い相手は咄嗟に反応出来ずに吹き飛ばされる。30メートル後方にガシャーンと大きな音を立てて頭から着地した敵は内部の乗員が衝撃で意識を失って動きを止めた。
「あれだけの衝撃でも壊れていないところを見ると強度は高そうだな」
タクミのパワードスーツの体当たりは重力を操作してあるため時速100キロで走行するダンプカーの運動エネルギーに相当していた。それを正面から受けて、機体自体が表面上無傷なのはそれだけ丈夫に作ってある証拠だ。旧式といっても侮れない。
その様子を見ていたもう1体が剣を振りかざしてタクミに襲い掛かってくる。だがその動きはタクミにとっては相変わらずスローモーションのようだ。余裕を持ってその剣を持つ腕を跳ね上げてから、胴体の真ん中へ右の拳を叩き込む。体当たりのように吹き飛ばしはしなかったが、勢いに負けて2,3歩下がろうとした結果バランスを失い地面に仰向けに倒れむ。
何とか立ち上がろうともがく相手の胴体を踏みつけて動きを止めてから馬乗りになってその頭部に左右の拳の連打を食らわしていく。10発を過ぎたあたりから頭部のパーツがグシャリとひしゃげていき、相手はまったく動かなくなった。内部の乗員は頭部を押しつぶされて命は無いだろう。
その間に接近を図ろうとしていた騎士たちは美智香の魔法の餌食になって次々に命を落としていった。おまけに魔装備があっけなくタクミによって撃破されて普通なら逃げ出すはずだが、彼らは繰り返し無謀な突進を図ろうとしている。
これが教会騎士たちの姿だった。彼らは神のためにその命を投げ出すことを厭わない。これが宗教によって洗脳された者の恐ろしくもあり愚かな点でもある。神の名を口にしながら美智香の魔法に切り刻まれていく彼らの姿は地球の宗教テロを起こす組織の連中と共通している。
さすがに美智香もそんな彼らを切り刻むのは嫌気がさしてきたようなので、タクミがその代わりを努める。左手のレールキャノンを起動して榴弾を立て続けに10発打ち込んだ時点で彼の前に動く者は見当たらなくなった。
「あーあ、私の出番はなかった」
圭子は不満そうだが、このような戦場では彼女のようなタイプには戦闘は不向きだ。何千人もいる敵を体術で一々倒すのは効率が悪すぎるし、乱戦で思わぬ方向の敵の攻撃を受ける可能性がある。だが街中やダンジョンは彼女のフィールドだ。そのような場所では無類の強さを発揮するのだ。
戦闘が終わった事を確認して岬がパワードスーツに近付く。ヨイショと言ってかなりの重さを物ともせずに引っ繰り返して、背中の装置を操作して乗員を引き出してポイッと投げ捨てる。すでに彼らは絶命しておりただの死体だった。
破損が無いかを確認すると体当たりを食らった方は無傷でまだ正常に作動するが、もう一体は頭部のセンサーが完全に機能を停止して使えなくなっていた。彼女は両方とも自分の収納にしまってタクミの前に歩み出る。
「ご主人様、おかげさまで私の種族の遺物が誤った使い方をされる危険がなくなりました。ありがとうございました」
丁寧に頭を下げる彼女はいつも通りの岬と一見すると違いは無いように見える。だが彼女の瞳の奥にはタクミにさえも言えない秘密を抱えたままで、外見は何事も無い様に振舞っている。そんな彼女の微妙な変化をタクミは全て分からないまでもどうもおかしいとは感じている。
だが岬が自分からそれを口に出す機会を待つことしか出来ないだろうと思い直して、彼女に頷き掛けてそっと頭を撫でるタクミだった。
次回の投稿は木曜日の予定です。