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110 教会の秘密

「こちらの部屋へお入りください」


 案内の指し示すドアを開いて中に入っていくとそこは国王の執務室で、窓際の大きな机で執務を取る若い王の姿があった。


「ようこそ来てくれました、国王のウイルヘルンです。それにしても皆さん大変若いですね」


 先程とは打って変わって気さくな態度で一行を出迎える国王、彼の勧めで部屋にある大きなソファーに腰を降ろして話が始まる。


「我々も確かに若いが、見たところ陛下も随分若い様子。同じ年ぐらいかと考えていますがいかがですか」


 タクミは自分たちが17歳前後だと明かしている。


「ええ、私も皆さんと同じ年ですよ。父の前国王が早くに亡くなって、7歳の時に即位したんです」


 彼は自分の身の上を明かす。幼い時に即位してここまで様々な苦労に直面してきたのだろうと、同情を禁じえないタクミだった。


「皆さんは魔族すら討ち取る優秀な冒険者という事は先伺いました。そのあなた方から見てこの国はどのように映りますか?」


 どうやら話の本題の前フリだと理解したタクミは歯に絹を着せない意見を述べる事にした。


「はっきり言って異常だな。魔女狩りなど根拠の無い言い掛かりを元に皆が不幸になって、教会だけが超え太る邪悪なシステムだ」


 その異常さを切って捨てるタクミ、彼の発言はパーティーの全員が思うところだった。


「やはりそうですか。私が生まれる前から始まっていたこの悪しき習慣を断ち切るために何とか努力をしてきたのですが、王都を守るので精一杯で他の街に手を差し伸べる事が出来ない自分の力の無さを感じます」


 そう言って唇を噛み締めるウイルヘルン、彼はこの事態を収束させようとこれまで様々な努力をして来た。だがそれは全く効果が無いまま現在に至っている。


「なぜ効果が無かったんだ?」


 タクミのとって今までの努力の内容は価値が無い事だった。問題は失敗した原因の方だ。


「主な原因は教会に組する貴族たちの抵抗と教会が持つ武力です」


「武力?」


 今までタクミたちに敵意を向けてきた教会やそこに所属する騎士たちは、この世界の一般的な武器を使っていた。剣や弓でタクミたちに向かった彼らは悉く地獄に突き落とされた。


「はい、教会の中央騎士団が持っている魔装備に誰も勝てないのです。あれさえ無ければ私の騎士団が鎮圧に乗り出せるのですが・・・・・・」


「よーし! 任せなさい! 私たちがその魔装備とやらを片付けてやろうじゃないの!」


 またもや圭子だ。荒っぽい事になると急に張り切りだすいつもの悪い癖が出た。


「本当ですか! しかし相手はゴーレム兵です、普通の人間ではまず勝てない強力な敵です」


 ゴーレム兵と聞いてタクミの頭の中に引っかかるものがあった。


「そのゴーレム兵というのは一人で勝手に動くものか、それとも人が内部に乗り込むものかわかっているのか?」


「詳しくは機密事項として教会が隠しているので分かりません。騎士団の調査でも正体が分からないという報告しか明らかにされていません」


 国王の話を聞いてタクミはどうやら総本山が目的地の一端に繋がる可能性を確信する。まだ想像の段階だが地下に隠されているのはPNIシステムで、その一部を利用している形跡があると判明したのだった。そのゴーレム兵というのは警備システムに相当する物ではないかと思われる。


「そうか、ではそのゴーレム兵とやらは俺たちが何とかする。貴族の方は陛下が何とかしてくれ」


「貴族たちは教会の兵力が無くなれば勝手にこちら側につくと思います。ですが、本当に可能なんですか? 相手は剣も矢も簡単に跳ね返すらしいですよ」


 ウイルヘルンはタクミたちを只者とは思っていないが、何しろ相手が悪いと考えている。国王の親衛騎士団が束になっても全く歯が立たない相手なのだ。


「大丈夫だ、心配するな。それで、そいつらは総本山に居るのか?」


「いえ、報告によると東部の住民たちの反乱を討伐するために既に王都に向けて出発したという話です」


 タクミたちの予想を超えて事態は切迫していた。だが逆に考えると獲物の方からこちらに来てくれるという事も言える。


「よーし! そいつらを迎え撃つわよ! タクミ、何処がいいかしっかり計算しておいて」


 美味しい所だけは持っていくが、面倒な事は常に丸投げの圭子の本領発揮だ。他のメンバーも同様だが、タクミとともに戦略を担う美智香だけは頭を抱えている。


「その前に陛下の覚悟を聞きたい。このまま教会の圧力に屈していれば何れ地方の民衆は手が付けられないほどの反乱を起こす。かと言って今回の戦いにもし敗れた時は王家は滅びる事になるがそれでもいいか?」


 タクミの言っている事を国王は理解していた。というよりもこれは王家にとっては最大の懸念事項だった。座して衰弱する国を見ているだけか、それとも乾坤一擲の戦いを挑むかが問われている。


「たとえ王家が無くなったとしても、国民のために戦ったのですから皆は納得してくれるでしょう。このまま民を見殺しにするのは王として重大な裏切り行為です。私は戦う事を選びます」


 しばしの逡巡の後にウイルヘルンはキッパリと言い切った。彼の瞳にはただ国民の幸せを願う良君の資質が伺える。


「よい心掛けだ。だが負ける心配は無いから安心しろ」


 タクミはそう言い切って彼を安心させようとした。一応彼なりの気遣いだ。


「そう言ってもらえるのは嬉しい限りです。部屋を用意しますので、それまでは城内に留まってください」


 教会騎士団を迎え撃つ細かい打ち合わせなどは親衛騎士団の幹部と明日行う事となり、タクミたちは用意された部屋に通される。そこは最上級の賓客をもてなす部屋で3間続きの豪勢な客室だった。






 夕食も終わって一行がやれやれと寛いでいる時に慌しくドアをノックする音が聞こえる。岬が対応に出ると国王付きの騎士が取り乱した様子で部屋に入ってくる。


「陛下が急に倒れました。聖女様、どうか陛下をお救いください」


 空の前に跪いて何とか救いを求める騎士に空はすぐに案内するように伝える。彼女の護衛にタクミも同行した。


「昼間元気だっただけに、急に倒れるのはおかしい。毒殺を図られた可能性もある」


 空は移動しながらタクミの見解を求める。確かに彼女が言う通りで、教会との戦争を決意した矢先に病に倒れるなど話が出来過ぎている。


「恐らくその線だろうな。俺たちを狙った暗殺団がこの宮廷内に入り込んでいても不思議ではない。俺たちに歯が立たないから国王を狙ってきたと考えるのが妥当だな」


 タクミも空の意見に同意するが、今重要なのは国王の命を救う事で犯人探しではない。


「こちらです」


 騎士が案内した部屋は王の寝室で、そこには彼よりもさらに年下の王妃が真っ青な顔で付き添っている。空は自分よりもさらに幼い印象の王妃を見てなぜかニヤリとタクミの方を見たがすぐに診察に取り掛かる。タクミにはその意味が理解出来てなぜか背筋が寒くなった。


「瞳孔の拡大、呼吸と心拍数の増大、やはり毒を盛られている。すぐに助かるから安心するといい」


 空は王妃に告げると収納から解毒アンプルを取り出して腕の静脈に注射する。


 一体どうなるのかと心配そうに見つめる王妃の前で解毒剤がすぐに効果を表して、見る見る国王の顔色が元に戻った。呼吸の様子や心拍数などを確認した空は危機が去った事を告げる。


「もう大丈夫、明日には起きて元気になっている」


「聖女様、ありがとうございます」


 幼い王妃に対して心から慈悲深い目を向ける空だった。


  

 

次回はタクミたちがいよいよ教会の本隊と激突する予定です。次第に暴かれていく教会の正体、一体何が隠されているのかどうぞお楽しみに。次回の投稿は火曜日の予定です。

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