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11 一夜のあと

 翌朝、タクミが目を覚ますと隣で岬はまだ可愛らしい寝息を立てて眠っている。


 その寝顔はまだあどけない子供のようでもあり、ほのかに色気を漂わせる少女のようでもある。


 ついその姿に見入ってしまったタクミは無意識に彼女の髪を撫でていた。


 薄いタオルケットをかけていてもはっきりとわかるほど、大きな彼女の胸のふくらみが規則正しく上下している。


 昨夜何度も交わした口付けを彼女の柔らかな頬に軽く一度して起き出そうとした時に、岬が目を覚ました。


「うーん・・・・・・あっ、ご主人様、おはようございます」


 まだ覚めかけの意識が目の前にあるタクミの姿に気づいて急にはっきりとしてくる。


「ゴメン、起こしてしまったか」


 タクミに優しく声を掛けられて少し恥ずかしさが混ざった幸せそうな表情で岬は微笑む。


 彼女はその両手をタクミの頬に伸ばして、自分の方に引き寄せるとそのまま唇を重ねた。このままずっとこうしていたいと感じた岬だったが、タクミがゆっくりと離れていく。


 「ご主人様、昨夜はとても幸せでした。またご一緒してくださいね」


 岬は昨夜のことを思い返して小さな声でタクミにささやく。頬を少し赤らめているところから見ると、まだ恥ずかしさが残っているようだ。


 彼女に頷いて、体を起こしてタクミはベッドを出た。




 昨夜、シャワーから出てタクミが寝ている横に体を滑り込ませた岬だが、彼女にはそこまでが限界だった。


 一大決心をして臨んだ一夜だったが、羞恥心や好奇心、ためらいやタクミを好きな気持ちなど、様々な感情が彼女の中で渦巻いて、一見積極的だった岬も実は一杯一杯だったのだ。


 男性と付き合ったことがなくて、何の経験もない彼女の精神がそれ以上は持たなかった。その上昼間20キロ近く移動した疲れもあって、何度か口付けを交わしたあとで彼女は意識を失うように寝入った。


 そんな岬をタクミは優しく抱きかかえたまま一晩を過ごしたのだ。ちょっとだけ彼女の胸に触れたりしたが、それ以上のことはしていない。その事が却って岬の気持ちをよりタクミに傾けることになり、彼女は昨夜の自分の不甲斐なさを後悔するとともに『次はもっと頑張ろう』と心に誓うのだった。そして無意識に自分の唇に指を当ててタクミの唇の感触を思い出す。胸が熱くなると同時にキュッと締め付けられるような思いで彼女の動悸が急に早くなった。


(ご主人様、お慕いしております・・・・・・大好きです、ご主人様!)


 今まで胸に秘めて誰にも打ち明けなかったその気持ちが、ますます大きくなっていることを今岬は自覚している。




「おはよーー!」


 タクミが外に出ると圭子が準備体操をしている。これからいつもの習慣通りに朝の稽古を開始するのだろう。


「今日も早いな、少し組み手でもやるか」


 タクミも柔軟運動を織り混ぜながら準備を開始する。


「よーし、準備完了! タクミ、軽く走ってからやるよ。シロ、行くよ!」


 そばで待っていたシロが圭子の後を追いかけて走り出す。まだ子犬だがしっかりとした足取りで彼女に付いていくから大したものだ。


 タクミも少し遅れてその後を追いかける。毎朝2人と一匹でランニングするのが習慣になった。ちなみにシロの飼い主の令嬢様はまだ夢の中だ。


 ランニングが終わるとシロは岬の元に走っていく。目的はもちろん朝ごはんだ。尻尾を振りながら岬にまとわり付く。


 タクミと圭子は組み手を開始している。圭子が中級拳闘士になったことで、そのスピードやパワーが増して、タクミといえども気が抜けない。


 10発に1発は彼の目で追えない程の強烈な攻撃が飛んでくるので、タクミにとってもよい訓練になっている。


 シロに餌を与えながら朝食の準備をしている岬は、その様子を食い入るように見ていた。とにかく二人が怪我をしないように祈るしかない。


 そのくらい白熱した、ただの組み手とは思えないレベルの二人の立ち回りが繰り広げられていた。




 彼らの組み手が終わるころには、空と美智香が起き出してくる。二人とも夕べはよく眠れたらしい。『おはよー』と岬に挨拶をして二人掛りでシロを構っている。


 間もなく食事の準備が出来る頃に組み手を終えたタクミと圭子が春名を抱えて席に座らせる。それでもまだ目を覚まさずにヨダレの跡が残っている顔を、岬が洗面器のお湯で洗う。


 春名はようやくここで目を覚ました。周囲がこれだけ甘やかすからますますダメになっていくような気がするが、『手を出さずにはいられない』と思わせる力こそ『令嬢』という職業の不思議なところだ。


 いつものように朝食をとるが。ちょっと違う点はタクミと岬の目が何回も合っていることか。どちらかというと岬が常にタクミを見ていることが多いので、彼が岬のほうを向くたびに目が合う。


 岬はそのたびに嬉しさと恥ずかしさで顔を赤らめてしまうのだが、そんな変化を春名以外の女性陣は見逃さなかった。みな声には出さないが心の中で『昨夜二人の間に何かあった!』と確信している。


 特に圭子と空はそのことで大きく感情が揺さぶられているようだ。


 圭子は『タクミのやつ、岬に手を出したな!』と不機嫌になっている。彼女は自分がなぜ機嫌が悪くなるのかその理由がわかっていないだけに、余計に苛立った。


 空の頭の中では、『二人があんな事やこんな事をしている』という妄想が一杯に広がって、すでに収拾が付かない。


 彼女はムキムキのガチなやつがメインだが、ノーマルもいける口だ。妄想の中で二人はとんでもない事になっているのは言うまでもない。


 そんな微妙な空気が流れる中で朝食を終えて、一行は準備を整えて出発した。




 

 



  

次回からダンジョン編に入ります。

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